「戒厳令」とは 基本的人権を保証した憲法・法律を停止し、軍部が行政・司法権を握る軍事法規。韓国(1961,1980)やチリ(1973)など軍事クーデターで施行され、反対者を圧殺した。 大日本帝国憲法下の「戒厳令」 日本では1882年に「戒厳令」が定められ、大日本帝国憲法第14条において、「天皇は戒厳を宣告す」とされた。ただ、「戒厳令」は戦時に戦場となる地域を想定したものであって、日比谷焼打事件(1905)、関東大震災(1923)、二・二六事件(1936)については、緊急勅令(天皇の命令)による「行政戒厳」であった。しかし、「治安」の名の下に軍隊・警察が基本的人権を無視して弾圧をおこなう点は同じである。 「非常事態宣言」など 「戒厳令」が要件に合わない場合、内乱、暴動、大災害などの“緊急事態”のために「非常事態宣言」(国によって名称は異なる)が使われることがある。警察・軍隊などの動員、公共財の徴発、令状によらない逮捕・家宅捜索などが可能となり、報道や集会の自由などが著しく制限される。 戦後の日本で唯一発令された「非常事態宣言」──1948年阪神教育闘争 日本では戦後「戒厳令」に関する規定は廃止された。しかし、1948年4月24日、朝鮮学校閉鎖令に反対する人々にに対し、兵庫県軍政部は「非常事態宣言」を発令した。これにより全警察官はアメリカ軍憲兵司令官の指揮の下、抗議する人々数千人を検挙した。主立った人々は軍事裁判にかけられ、有罪判決を受けた。 9・11後の「米国愛国者法」 2001年9月11日、米国で同時多発テロ事件が起きた後、10月26日に制定。個人に対する国家の干渉が異様なまでに強められた。──Eメールに加えてボイスメールも傍受(209条)、令状の執行の通知せずに家宅捜索(213条)、個人の図書館の貸出記録や書店の購入履歴を調査(215条)、テロリストと認定した外国人を7日間(延長可)までは無条件に拘束(412条)、FBIは金融機関や通信機関に対して顧客の個人情報を簡単に入手(505条)など──。イラク戦争の後批判が強まり、2015年5月に失効したが、その内容の一部は同年6月に成立した「米国自由法」に引き継がれている。 「非常事態宣言」が延長され続けている今日のフランス フランスでは2015年11月のパリ同時多発テロ後に「非常事態宣言」が発令された。その後、議会での圧倒的多数の賛成のもと2017年1月まで延長された。パリの街中では武装した警察・憲兵・特殊部隊が練り歩き、令状なしの昼夜を問わない家宅捜索、突然の外出禁止命令、デモ・集会に対する恣意的な禁止命令などが出されている。 本文19 2016年10月31日 発行に当たって 1. 「自民党憲法改正草案」は憲法ではない 2. 憲法は古いから変えなければならないか 3. 「押しつけ憲法」でなぜ悪い? 4. 押しつけだから無効だとすればどうなる? 5. 憲法は私たちの生活とどうかかわっているの? 6. 憲法があれば足りるか 7. 自民党改憲草案の4つのポイント 8. 人権の根幹──天賦人権説を覆すことはできない 9. 「公共の福祉」から「公益と公の秩序」へ 10. 国民は国のやることに反対してはいけないのか 11.「憲法は国家権力を縛る規範」とは 12.「新しい人権」条文化の危険 13. 家族は助け合わなければならないか 14.「天皇の元首化」はどう問題か? 15. 攻められたら防衛しなければならないので国防軍は必要? 16. 憲法9条を変え「自衛隊」を規定すべきか 17. 沖縄米軍基地は日本を守るためにあるのか 18.「緊急事態条項」は必要か 19. 戒厳令になるとどんなことが起こるか 20.「護憲」運動は保守か、改憲は「改革」か (補)改憲を目指す人たち |
Tweet |