司会:天皇の元首化はそれほど問題ですか。 憲法学者:昭和天皇の戦争責任をうやむやにして、象徴天皇制が憲法9条との取引で残ったこと自体問題でしたが、天皇の元首化はさらに問題です。 本来、天皇制=君主制は国民主権と原理的に真っ向から対立するものですが、日本統治の円滑化のため、政治的権限はなく国事行為のみを行う世界に類例を見ない「象徴天皇制」を生み出したのです。 しかし象徴天皇制が政治的行為を禁止されているにも拘わらず、昭和天皇は、米国の沖縄統治を自ら提案し、かつては靖国神社参拝を行い、平成天皇の下でも、国務大臣は臣下の形式に基づく上奏をおこなってきました。 二児の母:今回の「生前退位」問題でも世論調査で賛成80%などとメディアが流すのも違和感がありました。「平成の玉音放送」とされる天皇の「お言葉」は、象徴天皇制を強化・浸透させようとする危険を感じました。天皇は象徴=政治的実権のないただの飾りですから、意志を持ったり考えたりすることは許されないはずです。ところが私たち国民を超越した特別の存在で、国民の不可侵の領域としての存在するように思います。 憲法学者:国民主権の原理とは相いれないものであることを改めて指摘しなければならないと思います。政府や政治家たちは、自らの見解を押し通し国民を黙らせるためには天皇の権威を持ち出すことが最も有利なのです。天皇をを持ち出せば、メディアが萎縮し、極右勢力は天皇の権威を借りて自らの宣伝をし、天皇制批判をしばしば暴力的に押しつぶします。 社会科教員:天皇が元首になったら政治の前面に出ることになります。国旗・国歌尊重の義務化も含まれます。「日の丸」「君が代」は天皇制軍国主義による侵略戦争の象徴です。日の丸を掲げて中国や南方に出征して行きました。現在は、国旗・国歌の尊重は、教育の分野で教員と子どもたちの基本的人権を抑圧し、教育委員会の絶対的支配下に置く手段となっています。教員には起立斉唱が強制され、不起立の教員は過酷な処分が科せられます。 会社員:気にしすぎかもしれませんが、オリンピックでテレビカメラが表彰台の日本選手の口元を写し、君が代を歌っているのが異様でした。国旗・国歌の尊重が憲法事項になると、例えば、国民祝日に国旗を掲げない者やスポーツ大会で国歌を斉唱しない者は非国民としてつるし上げられるのは明白です。教育は国家のための、天皇のための教育になります。 手引き14(工事中) 2016年9月1日 発行に当たって 1. 「自民党憲法改正草案」は憲法ではない 2. 憲法は古いから変えなければならないか 3. 「押しつけ憲法」でなぜ悪い? 4. 押しつけだから無効だとすればどうなる? 5. 憲法は私たちの生活とどうかかわっているの? 6. 憲法があれば足りるか 7. 自民党改憲草案の4つのポイント 8. 人権の根幹──天賦人権説を覆すことはできない 9. 「公共の福祉」から「公益と公の秩序」へ 10. 国民は国のやることに反対してはいけないのか 11.「憲法は国家権力を縛る規範」とは 12.「新しい人権」条文化の危険 13. 家族は助け合わなければならないか 14.「天皇の元首化」はどう問題か? 15. 攻められたら防衛しなければならないので国防軍は必要? 16. 憲法9条を変え「自衛隊」を規定すべきか 17. 沖縄米軍基地は日本を守るためにあるのか 18.「緊急事態条項」は必要か 19. 戒厳令になるとどんなことが起こるか 20.「護憲」運動は保守か、改憲は「改革」か (補)改憲を目指す人たち |
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