リーフレット [憲法座談会]みんなで考える自民党改憲草案の危険
3.「押しつけ憲法」でなぜ悪い?

司会:もう一つ持ち出される根拠として「押しつけ憲法論」があります。

二児の母:私は「押しつけ」であろうとなんだろうと、みんなが納得しているならいいじゃないかと思うんです。

会社員:僕もそう思います。世論調査でも半数以上が「変えなくてもいい」といっているし、9条だとたしか7割以上が改憲に反対です。国民の中から「押しつけだからイヤ、古いからイヤ」なんて声は上がっていません

憲法学者:そうですよね。ただこれもしつこく改憲派の人が煽っていて、そうこうするうちに世論が「押しつけなら変えた方がいいかな」となってくる危険があるので、基本的なところを反論しておく必要があります。
 「押しつけ憲法論」とは憲法はGHQに押しつけられたので、日本人の手で作ってとり戻さなければならないというものです。これについては確かにGHQが原案を作って、幣原内閣に押しつけたというのは、そこまでは正しいと思います。当時の日本政府に「民主憲法」をつくる能力も気概もありませんでした。1946年2月1日の「毎日新聞」ですっぱ抜かれた政府の松本烝治案は大日本帝国の維持と天皇制の統治権の総攬権の擁護でした。GHQは驚いて急遽、米国の法律・経済・社会学の優秀なエキスパートを集めてわずか9日間で憲法原案を作ったのです。日本の女性の無権利状態に心を痛め24条を起草したベアテ・シロタさんは当時の起草委員会の雰囲気を次のように伝えています「法学部の大学院で選りすぐったプロフェッサーを集めて、憲法に関して討議をしているといった感じだ」。

二児の母:それと鈴木安蔵の民間草案や五日市憲法など先進的な憲法が自由民権運動の流れを受けて日本人の中からも出てきたというのも無視してはいけないと思います。『日本の青い空』という映画で見ました。

社会科教員:さらに1946年の夏の国会で憲法案が集中議論され、多くの点で修正・追加され承認されています。余談ですが、明治憲法こそ天皇が国民に押し付けた憲法です。自由民権運動に迫られて作成されたものの、議会で審議されたこともありません。またマッカーサーは極東委員会の指示を受けて、憲法公布の翌年に「憲法改正」の可能性を提案しましたが、吉田内閣は拒否しました。昭和天皇もマッカーサーとの会見(第3回)において、憲法制定に感謝の意を表しています。憲法によって天皇の地位が確定し、天皇が東京裁判に訴追される可能性が全くなくなったからです。

  手引き3

2016年9月1日
リブ・イン・ピース☆9+25


発行に当たって
1. 「自民党憲法改正草案」は憲法ではない
2. 憲法は古いから変えなければならないか
3. 「押しつけ憲法」でなぜ悪い?
4. 押しつけだから無効だとすればどうなる?
5. 憲法は私たちの生活とどうかかわっているの?
6. 憲法があれば足りるか
7. 自民党改憲草案の4つのポイント
8. 人権の根幹──天賦人権説を覆すことはできない
9. 「公共の福祉」から「公益と公の秩序」へ
10. 国民は国のやることに反対してはいけないのか
11.「憲法は国家権力を縛る規範」とは
12.「新しい人権」条文化の危険
13. 家族は助け合わなければならないか
14.「天皇の元首化」はどう問題か?
15. 攻められたら防衛しなければならないので国防軍は必要?
16. 憲法9条を変え「自衛隊」を規定すべきか
17. 沖縄米軍基地は日本を守るためにあるのか
18.「緊急事態条項」は必要か
19. 戒厳令になるとどんなことが起こるか
20.「護憲」運動は保守か、改憲は「改革」か
(補)改憲を目指す人たち