リーフレット [憲法座談会]みんなで考える自民党改憲草案の危険
19.戒厳令になるとどんなことが起こるか

憲法学者:ナチスの例は決して極端ではありません。緊急事態条項のほんとの狙いは、「戒厳令」の施行にあります。戒厳令とは、一時的に憲法・法律の施行を停止し、戒厳指令官にすべての権限を与える法律です。夜間外出禁止とか集会やデモの禁止、検閲などあらゆることが起こります。日本では、代表的な戒厳令として、日比谷焼き討ち事件、関東大震災、2.26事件に施行された「戒厳令」などがあります。関東大震災では、朝鮮人数千人が軍隊や警察、流言飛語に煽られた民衆によって殺されました。

社会科教員:それだけではありません。中国人活動家・王希天ら数百人が不法に虐殺され、河合義虎、平澤計七ら革命家10人が亀戸警察所内で軍隊によって斬首され、甘粕正彦憲兵大尉は大杉栄と伊藤野枝および甥の7歳を絞殺し遺体を古井戸に投げ込みました。これら事件で甘粕が軽罪に問われたほかは、軍隊・警察関係者は一切、罪に問われませんでした。つまり、戒厳令下では、日頃から官憲に狙われていた社会主義者や反政府主義者が、どさくさに紛れて逮捕されたり、虐殺される、ということです。
会社員:それじゃあ、ユダヤ人や共産主義者を虐殺したナチスと同じことが日本でもおこったということですね。

社会科教員:しかも決して過去のことではありません。先ほどから問題になっている沖縄県・高江の住民の抵抗闘争への弾圧ですが、現地の新聞は政府の対応を「まるで戒厳令だ」と批判しています。警察や防衛省が違法行為を繰り替えして車の撤去やフェンスの設置をしたり、殴る蹴るの暴行を加えて住民を排除したり。沖縄に部分的に戒厳令が敷かれ、権利が停止、警察・機動隊がやりたい放題をしているという状況です。緊急事態条項は今の沖縄・高江の状況を日本全体で実施するものなのです。

会社員:安倍政権は現憲法下で米軍のためにこんな違法行為をするのですから、憲法を変えたら何をするかわかりません

二児の母:「沖縄差別」という言葉がありますが、「本土」の私たちに沖縄を見下すような風潮があるのは否定できません。朝鮮人や中国人を恐ろしく侮蔑するような内容がネットで飛び交っています。ヘイトスピーチも深刻です。そういう土壌が権力や警察・軍の暴走を許してしまったという側面はあると思います。日頃から差別したり異質な者を排除したりする風潮をうけつけないことがとても大切だと思います。

  解説19

2016年9月1日
リブ・イン・ピース☆9+25


発行に当たって
1. 「自民党憲法改正草案」は憲法ではない
2. 憲法は古いから変えなければならないか
3. 「押しつけ憲法」でなぜ悪い?
4. 押しつけだから無効だとすればどうなる?
5. 憲法は私たちの生活とどうかかわっているの?
6. 憲法があれば足りるか
7. 自民党改憲草案の4つのポイント
8. 人権の根幹──天賦人権説を覆すことはできない
9. 「公共の福祉」から「公益と公の秩序」へ
10. 国民は国のやることに反対してはいけないのか
11.「憲法は国家権力を縛る規範」とは
12.「新しい人権」条文化の危険
13. 家族は助け合わなければならないか
14.「天皇の元首化」はどう問題か?
15. 攻められたら防衛しなければならないので国防軍は必要?
16. 憲法9条を変え「自衛隊」を規定すべきか
17. 沖縄米軍基地は日本を守るためにあるのか
18.「緊急事態条項」は必要か
19. 戒厳令になるとどんなことが起こるか
20.「護憲」運動は保守か、改憲は「改革」か
(補)改憲を目指す人たち