「家族は、互いに助け合わなければならない」――自民党が憲法に追加しようとしているこの条文は、一見よいことのように見える。しかし、この条文は問題だらけだ。 憲法にふさわしくない 道徳のような内容を盛り込むこと自体が、「憲法とは権力を縛るもの」という「立憲主義」に、真っ向から反する。すなわち、憲法にふさわしい条文ではない。 ※「1. 「自民党憲法改正草案」は憲法ではない」参照 社会保障の制度を縮小し「家族に助けてもらえ」 憲法にこのような規定が入ると、国民は「家族が十分に助け合っているか」を問われることになる。そして「助け合いが不十分」とされれば、憲法上、法律上の諸権利が制限されることになりかねない。 こうした事態は、現行憲法の下でも、既に発生している。代表的な例が、2013年の生活保護法改悪だ。三親等以内の親族による扶養義務の強化が盛り込まれた。親子兄弟姉妹はもちろん、おじ、おば、おい、めいらの親族までもが、扶養義務を果たすよう求められる。もし十分に扶養していないと認められれば、年金・銀行・信託会社などの他、勤務先の雇主にまで書面調査が行われ、「扶養しろ」という圧力がかけられる。 逆に、生活保護申請者の立場からすると、疎遠な人も含めて、自分の親族に申請したことが伝わる。嫌な思いをしたその親族に「おまえが生活保護なんか申請するから迷惑した」と非難されるかもしれない。それが、申請をあきらめさせる大きな圧力となる。 憲法で「家族の助け合い」を義務化すると、医療など社会保障の様々な制度が縮小され、「まず家族に助けてもらえ」ということになるだろう。 「公」の最小単位である家族が相互監視 自民党の「憲法改正草案」は、「個人」よりも「公益」「公の秩序」を優先する姿勢で貫かれており、「家族」は「公」の最小単位として位置づけられている。家族に連帯責任を負わせることによって相互監視を強要し、個人の自由を制限しようというのだ。 「のみ」の削除で「家制度」復活へ また、現行憲法の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」の「のみ」を削除することについて、自民党案を支持する百地章・国士舘大学大学院客員教授は、「『のみ』は、結婚に対する戸主の同意を排除した規定」と認めている。「のみ」の削除が「戸主の同意」の復活を意図していることは明らかだ。影響は婚姻の問題に限らない。「家制度」を復活させ、男女平等、子どもの権利など、様々な権利の否定につながるものだ。 本文13 2016年11月2日 発行に当たって 1. 「自民党憲法改正草案」は憲法ではない 2. 憲法は古いから変えなければならないか 3. 「押しつけ憲法」でなぜ悪い? 4. 押しつけだから無効だとすればどうなる? 5. 憲法は私たちの生活とどうかかわっているの? 6. 憲法があれば足りるか 7. 自民党改憲草案の4つのポイント 8. 人権の根幹──天賦人権説を覆すことはできない 9. 「公共の福祉」から「公益と公の秩序」へ 10. 国民は国のやることに反対してはいけないのか 11.「憲法は国家権力を縛る規範」とは 12.「新しい人権」条文化の危険 13. 家族は助け合わなければならないか 14.「天皇の元首化」はどう問題か? 15. 攻められたら防衛しなければならないので国防軍は必要? 16. 憲法9条を変え「自衛隊」を規定すべきか 17. 沖縄米軍基地は日本を守るためにあるのか 18.「緊急事態条項」は必要か 19. 戒厳令になるとどんなことが起こるか 20.「護憲」運動は保守か、改憲は「改革」か (補)改憲を目指す人たち |
Tweet |