[リーフレット] 憲法って、とっても大事!
Q3 「公共の福祉に反しない」とは何に反しないこと?
A3 「他人の人権を侵害しない」ということです

 憲法で言う「公共の福祉」とは、それぞれの個人がもつ人権のことで、「公共の福祉に反しない限り」というのは、「他人の人権を侵害しないがぎり」という意味です。平たく言うと「他人に迷惑をかけるような自分勝手なことをしてはならない」というくらいの意味です。それ以外の意味はありません。国策や公益などとは全く関係がありません。

 憲法論的には、「公共の福祉」は、人権と人権との衝突の調整です。個人の人権は他者の人権と衝突した場合にのみ制約を受けます。つまり人権を制限できるのは人権だけであるという考え方、他人の人権の侵害の上にではなく、他人の尊重の上に成り立つという考え方です。

 「公共の福祉」を「全体の利益」「公益」などと混同し、個人を犠牲にしてでも国策などに従うべきだという意味とする誤解も散見されますが、それは個人の尊重と矛盾しており間違っています。現行の日本国憲法では、人権を踏みにじって国策を押しつけることは決して許されていません。
 「公共の福祉」という概念には「個人の尊重」がセットになっています。だから、権力者はこれを変えようとしているのです。

「出る杭は打たれる」?
 自らの思想信条から「日の丸・君が代」起立・斉唱を拒否する教職員に対する批判として「卒業式の秩序を乱す」があります。
 日常のあらゆるものが「秩序」を基準にされると、「出る杭は打たれる」とばかりに、自由な思想も表現も萎縮してしまいます。

自民党草案では
 自民党草案では、 現在の憲法の「公共の福祉」という言葉がすべて「公益及び公の秩序」という言葉に変えられています。「公益及び公の秩序に反しない限り」では、まさに政府の政策が個人の人権を制約することが一般的な原則となってしまいます。
 大日本帝国憲法にも「臣民権利義務」という項目があり、一定の権利が認められていました。しかし、それらにはすべて「安寧秩序を妨げず及び臣民たるの義務に背かざるにおいて」「天皇大権の施行を妨ぐることなし」という制限が付いていました。まさに自民党草案の「公益及び公の秩序」とは「安寧秩序」なのです。
 人権の制約は人権相互の衝突の場合にのみ限られ、「公共の福祉」とはそのことを示すものだというのが憲法学会の定説です。
 ところが自民党草案のQ&Aでは、この定説に異を唱え、「公共の福祉」という言葉をすべて「公益及び公の秩序」にすることで「曖昧」さをなくしたと述べています。つまり、国益・公益こそが基本的人権を制約できるのだときっぱりと述べているのです。

  自民党草案で新たに設けられた条項として、こんなのもあります。
第21条 (表現の自由)
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
 これでは、「秩序を乱す」という理由で自由にものを言えなくなる恐れがあります。例えば、政府の政策と対立する脱原発のデモや市民団体の結成・活動が禁止される危険さえあります。


はじめに
Q1 憲法と法律とはどう違うか?
Q2 日本国憲法の根本にあるものは?
Q3 「公共の福祉に反しない」とは何に反しないこと?
Q4 権利と義務とはワンセット?
Q5 人権が認められるのは「国民」だけ?
Q6 国民主権と象徴天皇制は矛盾では?
Q7 憲法第9条が放棄したのは?
Q8 日本国憲法は押しつけ?
日本の自由民権運動と世界的な人権思想の流れの中で生み出された日本国憲法
日本国憲法と自民党改憲草案の比較

[参考]
自民党日本国憲法改正草案 Q&A(pdf)
大日本国憲法・日本国憲法・自民党憲法改正草案比較表(pdf)
自民党憲法草案の批判のために(リブ・イン・ピース☆9+25)