──食卓のイスに母が座って今晩のおかずを考えているところへ、小学5年生の息子が帰ってくる 子:おかあさんただいま。腹減った。なんか食べさせて。今日給食抜きやった。 母:おかえり。なんやいきなり。何で給食食べへんだんや。 子:給食のときの食事作法がなってへんていうて、給食食べさせてもらえへんかった。 母:なんで食事作法ができてへんだら、給食食たべさせてもらえへんのん。 子:“ユーケーリョクのコーシ”ていうんや。ようわからんけど。家庭教育ができてないとかいうて、グランド走らされたり、別の教室で反省文書かされたりするんや。 先生だけ違うで。クラスの中でもはやってるねん。ちょっと人と違うことしたら「社会常識に反する」ていうて“ユーケーリョクのコーシ”するねん。※注1 こないだなんか、山田が、今中学校行ってるお姉ちゃんのお下がりの体操服袋もってて、みんなが“ユーケーリョクのコーシ”や言うて、体操服を袋から放り出して踏みつけたんや。 母:あんたの友だちの山田君な。あの子んとこ、母子家庭で家計苦しいやろうしな。お姉ちゃんのお下がり持つなんて偉いやんか。なんでそんなことするんや。 子:オレはしてへんで。せやけど、みんな、持つとこがピンクになってて、男がそんなもん持つんは「社会常識」に反するいうて。 母:いじめたらあかんやんか。 子:“いじめ”て言わへんねん、“ユーケーリョクのコーシ”や。“ユーケーリョクのコーシ”で、遊ぶ仲間に入れたらへんていうのもあるんや。最近、ちょっとだれかが変わったことしたら、「社会常識」に反するいうて“ユーケーリョクのコーシ”するのがはやってるんや。せやからみんなびくびくして、みんなと同じことしかせえへん。 母:さっきから言うてる“ユーケーリョクのコーシ”てなんや。 子:せや、先生からお母さんに渡すようにってプリントもろてきたわ。 母:なんやて? 「保護者の方へなんやこれは 「社会常識及び基本的生活習慣逸脱の内容:食事作法違反ちゃんとひな形がつくってあるんやな。 あんた、食事作法違反て何したんや、ヒジでもついてご飯食べたんか。 子:そんなことするわけないやろ。ヒジついてご飯食べたら食事作法違反で“ユーケーリョクのコーシ”されることくらい知ってるで。知事が言うたんは有名や。※注2 母:ほんなら、何したんや。 子:箸の使い方違反や。お母さん何でオレに箸の使いかた教えてくれへんだんや。 母:箸の使い方て、あんた、親指と人差し指と中指で持って上手に箸使えるやろ。 子:それは箸の持ち方や。オレが言うてるのは箸の使い方。給食で“迷い箸”してしもたんや。 母:迷い箸てなんや 子:魚食べよとおもて、やっぱり気が変わってほうれん草のおひたし食べてしもたんや、それを先生に見られた。 母:それ、あかんことなんか。 子:嫌い箸ていうんや。箸の禁じ手いろいろあるで。探り箸とか掻き箸とか。 母:なんでそんな厳しいんや。 子:先生もほんまはやりたないらしい。せやけど、今度来た校長先生がそう決めたんや。校長先生が決めたことに先生が反対したら条例違反なんやて。※注3 母:それにしても何で箸の使い方なんやろな。 子:「愛国心を持て」て言われてるやろ。そのためにまずは日本の伝統やということで箸の使い方をマスターせなあかんねん。※注4 母:そんな箸の使い方なんてお母さんでも知らんで。それで給食抜きはひどいな。おかあさんが明日文句言いに行ったるわ。 子:あかんで。家の人が学校に要求出来へんようになったんや。 母:ほんまや、プリントに書いたるわ。 「教育基本条例に従い、生活のために必要な社会常識及び基本的生活習慣を身に付けさせるため家庭教育の義務を果たして下さい。」※注5 「なお、学校に「社会通念上不当な態様で要求」するのは条例違反となります。」※注5 先生に会うて話するだけやねんけどな。 子:先生は、家の人がなんか言いに来ただけで評価が下がるて言うてるで。せやから、受け付けてくれへん。「モンスターペアレンツ」て言うねん。 田中先生て、いてはったやろ。 母:あんたの3年の時の担任の先生やな。いろいろ話聞いてくれるええ先生やったな。 子:結構人気があってん。山田も好きやったそうや、家のことも気にかけてくれてはったんやて。せやけど、保護者の話をきいて、校長先生にもいろいろ伝えたんが悪かったらしいて、学校辞めさせられたんや。D評価2回とか言うてはったわ。※注6 母:メチャメチャやな。 最後にまだなんか書いてあるわ。 ※今度の運動会では、当該児童の保護者の役目が白線引きに決まりましたので朝6時にお越しください。この決定は、条例第10条“保護者の「学校の運営に主体的に参画」する義務”に基づくものです。※注5(幕) ※注1 大阪府教育基本条例(児童生徒に対する懲戒) 第四十七条 校長、副校長及び教員は、教育上必要があるときは、必要最小限の有形力を行使して、児童生徒に学校教育法第十一条に定める懲戒を加えることができる。但し、体罰を加えることはできない。 ※注2 2011年6月12日 橋下徹氏ツイッターより「ご飯を食べるときには肘を付く。今の世の中のルールって、全て人間の本能ではできないことばかり。だから教えるしかないんです。場合によっては、子どもを脅してでも」 ※注3 大阪府教育基本条例(教員及び職員) 第九条 教員は、自己の崇高な使命を深く自覚するとともに、組織の一員という自覚を持ち、教育委員会の決定、校長の職務命令に従うとともに、校長の運営方針にも服さなければならない。 ※注4 大阪府教育基本条例(基本理念) 第二条 五 我が国及び郷土の伝統と文化を深く理解し、愛国心及び郷土愛に溢れるとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する人材を育てること ※注5 大阪府教育基本条例(保護者) 第十条 保護者は、学校の運営に主体的に参画し、より良い教育の実現に貢献するよう努めなければならない。 2 保護者は、教育委員会、学校、校長、副校長、教員及び職員に対し、社会通念上不当な態様で要求等をしてはならない。 3 保護者は、学校教育の前提として、家庭において、児童生徒に対し、生活のために必要な社会常識及び基本的生活習慣を身に付けさせる教育を行わなければならない。 ※注6 大阪府教育基本条例(人事評価) 第十九条 校長は、授業、生活指導及び学校運営等への貢献を基準に、教員及び職員の人事評価を行う。人事評価はSを最上位とする五段階評価で行い、概ね次に掲げる分布となるよう評価を行わなければならない。 一 S 五パーセント 二 A 二十パーセント 三 B 六十パーセント 四 C 十パーセント 五 D 五パーセント 4 府教育委員会は、前項の人事評価の結果を教員及び職員の直近の給与及び任免に適切に反映しなければならない。 (別表第三)「人事評価の結果が二回連続してDであった教員等」 2011年11月4日 シリーズ:「教育基本条例」の危険 (その一)はじめに――大阪の学校教育を破壊する「教育基本条例」 (その二)「教育行政への政治の関与」「民意の反映」とは、“大阪の教育はオレの好きなようにやらせろ”ということ (その三)府立学校長からも批判噴出――10月3日維新の会と府立学校長との意見交換会議事録より (その四)教育をすべて競争にしてしまう (その五)グローバル社会を批判する人々は矯正が必要? (その六)教職員間の信頼関係を根底から崩し、教員をつぶしてしまう (その七)教育基本条例は、"集団的営みとしての教育"を破壊する (その八)教育基本条例が依拠するのは、すでに破綻したサッチャー「教育改革」 (その九)保護者に、学校への協力や家庭教育の義務が課せられる (その十)児童・生徒への「懲戒」条項 (その十一)寸劇「ユーケーリョクのコーシ」(家庭教育義務違反の悲劇) (その十二)橋下語録に見る教育基本条例の危険性 (その十三)学校協議会が、校長・教員の評価、学校評価、教科書選定の権限をもつ強大な権力機関に (その十四)重要なのは教育の質より生徒の頭数??――理不尽な競争に駆り立てられる公立・私立高校 (その十五)たとえ「民意を反映した」政権でも、教育への政治介入は許されない (その十六)軍国主義教育(上)──教職員と教育の統制・支配から「教育の死」へ (その十七)軍国主義教育(下)──教科も行事もあらゆるものが天皇賛美・戦争遂行の道具に |
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