シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.49) 国連ウイグル人権報告書を批判する(下)
メディアの報道をうのみにせず真実を探ろう

テロ封じ込め作戦「ストライク・ハード・キャンペーン」
 報告書には、中国と国連が協力して進めてきたテロ封じ込め作戦「ストライク・ハード・キャンペーン」についての言及があります。このことをメディアは全く報道していません。職業教育訓練センタ-(VETC)を「対テロ・対過激主義」の非常に困難な取り組みの脈絡でとらえる必要があります。
 発端は2009年のウルムチでの暴動事件です。国連人権高等弁務官は原因の調査を求め、中国政府はそれに応じて「テロリスト、過激派勢力によるテロ攻撃である」という報告書を出しました。同時にアフガニスタン、シリアを含む武装集団の戦闘員としてウイグル人が関与していることが報告され、国連は中国だけでなく「国際社会」全体にかかわる問題として対応する必要性を確認しました。
 2014年に中国は「ストライク・ハード・キャンペーン」を開始し、中国テロ対策法や新疆テロ対策法を策定し、その一環としてVETCが作られました。国連は、中国も批准している女性、児童、宗教、人種、障がい者などに関する人権条約を尊重し、「対テロ対策」と人権保護を両立させるよう助言しました。正当な抗議や反対意見の表明、人権活動や言論活動が「テロ活動」と混同されるおそれ、合法な宗教活動が過激思想として排斥されるおそれ、容疑者に対する監視や行動制限が過度に人権侵害になるおそれなどが指摘されています。中国政府もこれに応じて慎重な対応をとってきました。中国政府は2019年の白書では、テログループの破壊やテロリストの逮捕、違法な宗教活動の処罰などを通じて、2016年以降テロ事件が発生しないまでに抑え込んだことを報告しています。
 中国と国連は、目的を共有し、政策を立案し、助言するなどの信頼関係が築かれていたことが読み取れます。
※本シリーズ(No.46) 本の紹介「撫順戦犯管理所長の回想」(下)「撫順の奇蹟」から学ぶ――報復と憎しみではなく寛容と友好を(リブ・イン・ピース☆9+25)

 天皇を妄信して残虐行為を繰り返した旧日本兵と、宗教的過激主義に感化された元テロリストでは、置かれた状況も性格も違うが、中国政府が報復や暴力的強制ではなく、説得と教育、そして自分たち自身の反省や自覚を粘り強く促して社会復帰を目指したという点では大いに共通点がある。あたらめて私たちは今日における重要な教訓として「撫順の奇蹟」を思い起こしたい。

国連報告書の「人権侵害」認定の論理――悪意あるすり替え、トリックに惑わされてはならない
 今回の国連報告書の「人権侵害」の論理は、幾つもの論理のすり替えや飛躍によって中国政府を人権侵害国家に仕立てるというものです。つまり、こうです。まずVETCにおける個々の職員の脱法行為、逸脱行為、権力乱用を問題視します。もともとは非常に困難で柔軟な対応が必要となる「対テロ対策」における人権への配慮の必要という問題です。報告書に挙げられた事例がどこまで本当かどうかも分かりません。これ自体が、前述したように無差別テロを行った犯罪者の証言をそのテロ組織関連団体や米や豪の西側謀略・諜報機関が騒ぎ立てたものだからです。しかし、仮にこれが本当だとしても、本稿ですでに書いたように、テロ対策で中国と国連は協力しているのです。今年5月のバチェレ高等弁務官が訪中し、中国政府と面談した場を使って、個々の職員の権力乱用について個別具体的に対応すべきことであり、これまでも国連と中国はそのようにしてきました。「職員による権力乱用」に関する刑事罰を規定した法令も存在するのです。
 ところが、東トルキスタンイスラム運動(ETIM)やその関連団体、オーストラリア戦略研究所や米政府やCIAなどが一体となった中国への攻撃、内政干渉の道具として利用したため、問題をすり替えたわけです。個々の職員の権力乱用を、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人全体への弾圧・人権侵害の問題にすり替え、さらには「強制収容所」へと話が大きくなり、ついには中国政府が国家政策として「民族抹殺」「ジェノサイド」を行っているかのような宣伝へとエスカレートしているのです。
 劉暁明駐英大使は、人権侵害に関して「西側の諜報機関が確認した」という入手先不明の映像を見せられ、動じることなく「これが何かわからない。どこで入手したのか。一般論としてどの国にもあるように単発の事例の可能性は排除できないが、それは政府方針でない。中国のすべての民族を平等に扱うのがわれわれの基本方針だ。中国は一切の拷問や迫害や差別に反対する」と毅然と語っています。
駐英中国大使、BBC番組でウイグル人の強制収容否定 ビデオを見せられ(BBC)
White paper highlights anti-corruption efforts in China's poverty alleviation campaign(CGTN)
 これは、貧困対策に関する記事だが、中国では、絶対的貧困からの脱却を進める中で、目標達成実績のごまかしや貧困対策予算の横領などの事案が存在し厳しく罰せられている。ところがこのような事案が報告されると日本を含めた西側メディアは鬼の首を取ったように「貧困脱却達成はウソ」「貧困を食い物にしている」などと騒ぎ立てる。ウイグル問題は格好の標的になっているため、中国政府が人権侵害事案の公表を慎重にしている可能性がある。

 結局報告書は“虐待についての個々の証言は信用できると考えるが、それらがどの程度広範か確固たる結論がない”としており、40人のリモートインタビューを根拠に「強制収容所」「ジェノサイド」と規定することはできませんでした。

報告書はなぜバチェレ訪中の結果や中国政府の発表を黙殺するのか 
 「対テロ」対策における国連と中国の関係は、2017年後半から一変していきます。新疆ウイグル自治区の人権侵害についての報告が国連に寄せられ、OHCHRが対応せざるをえなくなるのです。それはちょうど、トランプ政権が誕生し、米中貿易不均衡を使って対中対決を前面に押し出す時期と重なります。
米国の対中貿易緊張が最高潮に(SEMI)

 
バチェレ高等弁務官は訪中後の5月28日に記者会見を開き声明を発表したが、
報告書にはその中身は一切出てこない。(OHCHRホームページより)
 中国は突如起こった人権侵害批判の高まりの中、新疆ウイグル自治区の本当の姿を見てもらおうと、18年8月に国連人権高等弁務官に招待状を送りました。結局新型コロナの拡大などで訪問がかなわず、今年5月にようやく実現します。それがバチェレ高等弁務官の訪中です。ところがこの訪問の内容が報告書に一切ありません。バチェレ高等弁務官は職業教育訓練センターの元研修生と話をし、市民社会組織のリーダーや学者、宗教指導者などと交流したと声明で述べています。これらが一切証拠・証言として出てきません。本来まず第一に「証拠」として示されるべき内容です。
 新疆ウイグル自治区については、送電線網・通信網の整備や貧困からの脱却の実現、教育施設・職業教育訓練センターを出ての自立、標準語教育による就業、「新疆綿」の収穫への出稼ぎによる生活安定化などの積極的な政策が報じられているし、具体的な証言もあります。人物まで特定されています。報告書はこのような事例や証言を一切書いていません。この報告書は、信憑性に疑問がつく、極めてあいまいな、リモートで行われた人権侵害の証言の個々の事例を集めただけの政治的文書なのです。
※本シリーズ(No.24) 貧困撲滅の闘い(下)──産業育成、移住、生態保障、教育、社会保障を組み合わせた総合政策(リブ・イン・ピース☆9+25)

多民族の広大な国土での、貧困対策、「テロ対策」の困難性と重要性
 中国は漢民族(92%)と55の少数民族で構成される多民族国家です。そして中国の貧困地域の多くが、少数民族の居住地と重なっており、それぞれの民族性や伝統・文化、気候や自然環境に即した対応が必要です。新疆ウイグル自治区は、貴州省、雲南省などと共に、最後に絶対的貧困から脱却した地域となりました。テロや暴力があるところでまともな社会・経済活動はありえず、また貧困や失業が日常的になればテロや暴力がはびこります。雇用、教育、医療サービスの促進に予算を投入し、インフラ整備、標準語の普及、教育と雇用の促進、都市整備を行いました。職業訓練や教育活動を通じて、テロ活動に勧誘される危険を取り除き、安定した市民生活を送る土台を作り出したのです。
 国連報告書は新疆ウイグル自治区は2014年から2018年にかけて230万人が貧困から抜け出し、うち190万人は新疆南部出身であること、新疆は2021年GDP7%増を達成したこと、1人当たりの可処分所得の平均年間成長率は9.1%と地元の人々の生活水準は大幅に改善しているなどの政府統計を記述し、「対テロ対策」が貧困対策とセットであることを認めています。
※本シリーズ(No.22) 貧困撲滅の闘い(上)──広大な国土と多民族の国での困難な課題の遂行 (リブ・イン・ピース☆9+25)

中国の真実を伝え、バッシングに対抗しよう
 改めて確認すると、報告書は、重大な権利侵害や民族差別の「可能性」「兆候」「示唆」を指摘しているものの、「100万人の拘束」「ジェノサイド」「新疆綿奴隷労働」「民族文化抹殺」などは一切言及されていません。
 しかし、人権侵害を認めた報告書を国連が公式に発表した意味は決して小さくありません。信憑性のない人権侵害の証言部分だけがひとり歩きし、人々に「やっぱり中国は重大な人権侵害をやっていた」という印象を植え付けます。新疆ウイグル問題が今後も中国バッシングの主要な矛先であり続けるのは間違いありません。デマ発信の中心の一つ「世界ウイグル会議」のエイサ総裁は、国連報告を受けて「約300万人のウイグル人らが強制的に収容されている」と語っています。いつのまにか「100万人」が「300万人」に増えており「ジェノサイド論」が膨張しています。もしこれが本当ならウイグル人の成人人口の約1/3が収容されていることになります。このようなデマが公然と記者会見で垂れ流されており、メディアはそのまま報道しています。人権問題を扱う国連総会第3委員会で10月21日、日米欧など43カ国がウイグル問題で中国を非難する共同声明を発表しましたが、それを上回る62ヶ国が「ウイグルは安定と発展を享受している」と中国を擁護し内政干渉に反対する声明を出しています。ところがほとんどのメディアが中国非難声明だけを報じています。
「新疆の綿、使い続けるのか」 東京で迫った世界ウイグル会議総裁(朝日新聞)
ウイグル問題、国連で火花 日米欧など43ヶ国が中国に非難声明(東京新聞)

 西側メディアの報道をうのみにするのではなく、米の介入による国連報告書の偏向、偽情報による人権侵害のウソを暴露・批判し、新疆ウイグル自治区における貧困撲滅の闘いなど真の姿を伝えていましょう。

2022年10月27日
リブ・イン・ピース☆9+25

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