シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.17) 「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(中)
「大量虐殺」したはずのウイグル族人口がなぜ漢族より増えているのか?――統計と証言のねつ造

根拠がないゼンツの「ウイグル・ジェノサイド」論
 エイドリアン・ゼンツの素性を暴き、彼とイスラム原理主義テロ組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)との関係、米CIAやファイブアイズ諜報機関との関係を暴いたのが進歩系調査メディア「グレイゾーン」(The Grayzone)です。このサイトが今年2月18日に、ガレス・ポーターとマックス・ブルメンタールの論説「中国の『ジェノサイド』についての米国務省の非難は、極右イデオローグによるデータ乱用と根拠のない主張に基づいていた」を掲載し、詳しくゼンツの「ジェノサイド」論を批判しました。
浅井基文氏もグレイゾーンに注目されています。「米欧諸国の対中ヒステリー-新疆ウイグル族「ジェノサイド」非難-(21世紀の日本と国際社会)」
US State Department accusation of China ‘genocide’ relied on data abuse and baseless claims by far-right ideologue(The Grayzone)

 ゼンツの「ウイグル・ジェノサイド」の論拠は二点です。同論説から紹介しましょう。
(1)「中国統計局の調査で新疆ウイグル地区の二大都市で人口増加率が84%減少している」、(2)「ウイグル族で避妊手術が増えている」。これを国連のジェノサイド規定(特定の民族に対する出生制限・避妊強制)に無理矢理結び付けているのです。中国政府はあまりにも詐欺的なこじつけを「世紀のウソ」と切り捨てています。
 まず、(1)について――そもそもゼンツは、2005年から15年にかけての新疆ウイグル地区のウイグル族の人口増加が漢族の人口増加の2.6倍であったと言っていました(下図は彼が示した図です)。


 また、下図の中国の公式統計を見て下さい。ウイグル族人口(青線、単位万人)は、一貫して漢族人口(赤線、単位万人)を上回り、とりわけ2015年頃から2018年にかけて漢族が急減したので差が拡大しているほどです。つなぎ合わせれば、2005年から18年まで漢族よりウイグル族の人口の方が増加していたことが分かります。


 別の公式統計では、2010~2018年、新疆の常住人口は2181万5800人から2486万7600人に、305万1800人増加しました。増加率は13.99%です。そのうちウイグル族の増加数は254万6900人で、増加率は25.04%。この増加率は漢族の増加率2%をはるかに上回ります。これのどこが「ジェノサイド」なのでしょうか。
「少数民族の人口は増えている 新疆の幹部、住民がデマを否定」(AFP通信、2021年2月25日)

 ゼンツ自身を含む様々な角度からの前記の統計的事実を見れば、新疆ウイグル自治区のウイグル族人口は漢族より増えています。もし、これが「ジェノサイド」なら、なぜ漢族よりウイグル族の方が増加しているのかを説明すべきでしょう。民族絶滅など真っ赤なウソなのです。
 「ジェノサイド」とは、「国民的、人種的、民族的、宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われる行為のこと」(ジェノサイド条約第2条)、「民族を滅ぼすほどの大量殺害。集団殺戮」です。「ウイグル・ジェノサイド」が全くのデマであることは明らかです。

 人口増加の背景には公衆衛生の根本的な改善があります。2019年に権威ある医学雑誌「ランセット」は中国の母親の健康と乳児の死亡率低下の改善は「驚くべき成功事例」と表現しました。中でも新疆は、貧困撲滅計画の一環としての重点的な医療投資・医療ンフラ整備強化地区でした。自治区の妊産婦死亡率は2010年から18年にかけてほぼ半減し、乳児死亡率も26.58人から14.02人に下がりました。平均寿命は上昇しました。医療隊を派遣し無料の診察、血圧・心電図・血糖値等の健康診断、常備薬の配布などが行われています。また無料のメンタルヘルスサービス、ポリオ予防接種、エイズ予防治療等の取り組みが行われています。
 ゼンツやそれを鵜呑みにするメディアや「人権団体」は、中国は一方で「ジェノサイド」をやりながら、他方で医療を充実させているというのでしょうか。それとも医療充実はウソだというのでしょうか。もし、そうならその根拠を示すべきでしょう。このように中国政府・自治区当局による様々な医療サービスの充実を行っているのに、しかも顕著な成果が出ているのに、「ジェノサイド」とは一体どういうことでしょうか。
新疆のウイグル族人口、増加率25%に 他民族上回る(AFP通信)
新疆の人口の真の状況をはっきりと示した学術報告(人民網)


 ゼンツは、これら医療サービスの改善自体を全て「避妊強要」に結び付けるのです。例えば、「押しつけがましい避妊活動の取り組み」として下記の写真を掲載しました。しかし、これは診療所で老人達が無料の医療相談を受けている様子です。彼はこれを強制不妊活動(!!)の現場としてねつ造しているのです。すぐにウソだと分かります。


デタラメな統計操作。証言もねつ造
 次に(2)、「避妊手術の増加」はどうでしょうか。ゼンツの報告で、避妊手術が激増している根拠として、2019年中国健康統計年鑑から「中国全体でのIUD(子宮内避妊用具)の純挿入のうち80%が、人口の1.8%しかない新疆で行われた」というのがあります。
 同年鑑によれば、中国全体の新規挿入は3,774,318件、新疆は328,475件で、新疆での新規IUD挿入数は、中国全体の8・7%に過ぎません。これが現実を反映した数字です。
 ところが、ゼンツは、「純挿入数」を比較するというトリックを使います。中国全体のIUDの新規挿入件数3,774,318から摘出数3,474,467件を引いた299,851件を中国全体の「純挿入数」とします。一方、新疆も同様に新規挿入件数328,475から摘出数89,018を引いた「純挿入数」239,457件を算出。中国全体の「純挿入数」299,851件と比較し、239,457件/299,851件≑80%、つまり「中国全体の80%が新疆に集中している」と言うのす。これが新疆ウイグル「二大都市で人口増加率84%減少」(「増加率」の減少である)というゼンツのデマの唯一の根拠なのです。これだけで「ジェノサイド」と断定しているのです。
 しかし、これは人を煙に巻くような数字の詐術です。この「純挿入数」の比較には何の意味もありません。新規挿入が摘出を上回っているのは新疆だけではありません。河南省は206,281件の純挿入、河北省は184,259件の純挿入となり、ゼンツのやり方を借りればそれぞれ中国全体の69%、61%が集中していることになります。三行政区だけで中国全体の210%の純挿入となります。逆に新規挿入数より摘出数の方が多い江蘇省(マイナス60%)や雲南省(マイナス54%)は、中国全体の「純挿入数」299,851件とどう比較するのでしょうか。言うまでもなく百分率とは、全体を100としたときの 割合のこと。全く次元の異なる数字の対比は百分率ではないのです。月とスッポンは百分率にならないように。単に「強制避妊80」という数字が欲しかっただけなのです。
中国・新疆におけるウイグル族のリプロダクティブ・ヘルスに関する研究(奈良女子大学 Reyila Maimaiti)
 ウイグル族の間で避妊方法としてIUDが使用されるケースが圧倒的に多いことは以前から知られていた。この調査報告では、その理由として「避妊は女性の責任」という考えが特に根強いことなどが挙げられ、家族計画に関する男女の意識向上の必要などが求められている。これがまじめな学問的究明の姿勢というものである。それを、反中キャンペーンのネタを探していたドクター・ゼンツが飛びつき、突然“IUD増加はジェノサイドの証拠だ”と騒ぎ始めたのである。

 中国の人民生活が相対的に豊かになるにしたがって他国と同様、人口増加率が減少しているのは確かです。その少子化が生産活動や社会保障制度に影響を及ぼしかねず、中国政府は2016年に一人っ子政策から転換しました。新疆ウイグルでの直近の人口増加率の減少には、この2016年の転換が作用しています。この時、漢族・少数民族問わず同一適用(都市部2人、農村部3人)されることになったのです。新疆ウイグル自治区のウイグル族は、中国全体が一人っ子政策の時も優遇されていました(2003年に施行された条例よって、現行の制限と同じ都市部2人まで、農村部3人までとされていた。ただ実際は3人以上も黙認され、事実上制約はなかった)。だから、同一適用によって、新疆ウイグル避妊が増える傾向にあったのは間違いありません。しかし、それは中国の「家族計画政策」の政策問題であって、「ジェノサイド」とは何の関係もありません。
中国政府、新疆ウイグル自治区での少数民族優遇の一人っ子政策中止へ―米華字メディア(レコードチャイナ)
中国少数民族の人口研究序説(若林敬子 国立社会保障・人口問題研究所)

 いずれにしても、中国の「家族計画政策」は、元々は、人口の爆発的増加への危機感や食料受給安定等を目的に1979年に全国的に制度として開始されましたが、労働力確保の必要がある農村部や少数民族などはいくつかの例外規定が設けられてきました。食糧供給不足や貧困を防ぐための「家族計画政策」はその国の内政問題です。
 そもそも「ホロコースト」と言うなら、その現実の証拠を示すべきです。デタラメな「人口増加率の減少」をもってジェノサイドと断じるのであれば、少子化で人口自体が減少している国々は全て、その筆頭の日本はジェノサイドの現場となります。

 これにデマ証言がプラスされます。例えば、ある女性は強制収容所で警備員に集団でレイプされ身体的拷問や強制避妊手術を受けさせられたと証言したとされていますが、実際には彼女は「新疆では精神的に追い詰められて亡命した」と話していただけです。「精神的虐待」が「身体的拷問」や「集団レイプ」に膨らまされたのです。また母親から子どもを強制的に引き離されたと証言したとされる女性は「無料保育を提供する政府のプログラムによって、子どもの世話をしてくれるお陰で安心して仕事に行くことができる」という後に続く発言部分が省略されました。「子どもと別れる」部分が「子どもの引き離し」「強制収容」へとねつ造されているのです。
 中国政府もまた公式な記者会見を開き、強制収容や強制不妊治療、組織的レイプなどの「証言」を否定しています。「証言者のツムラート・ダウトは、職業訓練センターに入ったことはない。2013年3月に産婦人科病院で第3子を出産した際、帝王切開と卵管結紮手術を行ったが、不妊手術はしていない」等と、証言者を特定する形で明確に否定しています。
中国の王外相、ウイグル族を集団虐殺との批判は「ばかげている」(BCC)
「性的暴行や虐待など存在しない」 中国、新疆ウイグルでの人権侵害批判に反発(毎日新聞)
英・カナダのウイグル対策に反発 強制労働、存在せず―中国(時事通信)
Familiar names frequent behind lies of 'Xinjiang women being raped'(Global Times)

2021年4月17日
リブ・イン・ピース☆9+25

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