シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.48) 国連ウイグル人権報告書を批判する(中)
「ジェノサイド」も「強制労働」も証明できず

なんともお粗末な衛星写真――宗教弾圧は認定せず

 報告書にある「衛星写真」
2012年の3月(上)に建っていた宗教施設が
2020年6月(下)には無くなったとする。
しかし「宗教施設の破壊と確固たる結論を
出すことはできない」
 報告書はニセ証言、デマ情報を本当らしくみせるために、衛星写真や統計操作などさまざまな手段を用いています。しかし、それらはすべて破綻しています。
 人権侵害の裏付けとされる衛星写真はたった2組です。一組は「収容所の拡大」、もう一組は「宗教施設の消失」。衛星写真は、オーストラリア戦略研究所が得意とする証拠ねつ造の手法です。しかし報告書は「収容施設の増加を示唆していると推測できる」「宗教施設の破壊の程度について確固たる結論に達することはできない」などとします。衛星写真を証拠として載せながら「示唆と推測」「確固たる結論はない」と、自ら証拠能力を否定する結果となっているのです。
 すでにオーストラリア戦略研究所が証拠とした衛星写真は、「収容所」ではなく中学校や高校などの教育施設であることが明らかになっています。同じく「宗教弾圧」の証拠とした宗教施設の破壊は、老朽化や過激派のアジトの閉鎖、カフェへの改装などの理由で施設が改修・廃止されたことを中国政府は認めており、宗教破壊、宗教弾圧ではないことが明らかになっています。この報告書でも、同様の事実が指摘されています。また、葬儀や埋葬の仕方、長いあごひげなどの容姿、ラマダン中のレストランの閉鎖など、独特の文化や伝統があり、宗教的過激主義の取り締まりと通常の宗教活動の保護との間での線引きの難しさなどが指摘されていますが、宗教弾圧とは認定できないというのが結論になっています。
※本シリーズ(No.7) 新疆ウイグル──貧困対策、テロ活動防止のための教育施設(リブ・イン・ピース☆9+25)

自主的に選んだわけではない仕事に就くのは強制労働か
 報告書は強制労働に言及していますが、それならば、米国が呼びかけて輸入ボイコットにまで発展している「新疆綿」の農地での強制重労働・奴隷労働を検証すべきです。ところが新疆綿への言及は一切ありません。
 職業教育訓練センター(VETC)における教育プログラムは、「過激主義の影響を受けた人々を教育しリハビリすることである」とされ、「標準的な中国語の会話と書き言葉、法律の理解、職業技能、脱過激化を含むカリキュラムを提供すること」が目的であり、各人に応じて入所期間や更生のためのステップも異なるのは当然です。
 「雇用・労働問題」の項目は難解ですが、「VETCで学習を終えた訓練生の多くは工場や企業での就職先を見つけている」としながら、しかし「一定期間VETCで働くことになっている」「とくに、新疆南部や西部での過激派の影響が強い地域では、雇用問題は貧困緩和の側面が強いが、そこに労働の自主性がなければ、宗教的民族的差別となる可能性がある」等々の記述があります。
 これらの記述から、「テロ活動」から抜け出すために手に職を付ける場合、「勝手に仕事に就かされた」「自分から望んだ仕事ではない」「一定期間VETCで働いた」ことが「職業選択の自由」の権利侵害であり、「強制労働」の「一因となる可能性がある」とされているようです。
 しかし日本でも、望んだ仕事で生計をたてることは容易ではなく、ましてや元テロリスト、元過激主義者が職に就くことは困難が予想されます。「労働の自主性がない」ことをもって「強制労働」「民族差別」というのはかなり無理があります。苦し紛れにこのような根拠を出してきたとしか言いようがありません。
中国の新疆ウイグル問題「ジェノサイド認定を撤回すべき」経済学者ジェフリー・サックス氏、米政府批判の真意(ビジネスインサイダー)
 強制労働認定、新疆綿のボイコットについては著名な経済学者らからも批判があがっており、国連としては、あまりにも根拠薄弱のため、言及さえできなかったと思われる。

根拠として苦しい「性・生殖についての自己決定権」侵害
 新疆におけるウイグル人の出生率低下をゼンツは「人口の減少」にすり替え、「民族抹殺」を喧伝しました。報告書はさすがにそれはせずに、同じ統計を利用して出生率低下を「避妊具使用の強制」と結びつけようとしています。しかし、ウイグル族の間でもともと避妊具の使用率が高いことは学術研究で示されており、「避妊を強制された」という証人は人物まで特定されウソであることが中国政府によって明らかになっています。
報告書は「インタビューした何人かの女性は、強制的な不妊手術の可能性について申し立てた」「家族計画に違反した場合の厳しい罰則に言及し、中絶やIDU挿入を強要された何人かの女性にインタビューした」という不可解な記述があります。インタビューした女性自身の経験なのか伝聞なのか、事実なのか「可能性」なのかも不明です。しかもインタビュー対象者40人のうち、なぜ人数を特定せず「何人か」なのでしょう。街頭アンケートや世論調査の感覚で「人権侵害の証言」とされているのです。
 結局報告書はウイグル族に対する人口抑制政策も避妊の強制も証明できていません。むしろ一人っ子政策での少数民族優遇を認めた上で、「性・生殖についての自己決定権」を持ち出して中国の産児制限政策一般を批判するにとどまっているのです。これはウイグル問題とは全く次元の違う問題です。
※本シリーズ(No.17) 「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(中)「大量虐殺」したはずのウイグル族人口がなぜ漢族より増えているのか?――統計と証言のねつ造(リブ・イン・ピース☆9+25)

「民族言語教育禁止」「民族文化抹殺」論の破綻
 報告書は、「インタビューした人々」が、ウイグル語を教える学校が閉鎖され、教師がバイリンガル教育から外された等の証言をしたことに言及していますが、またしても「人々」とは何名なのか、教師なり保護者なりの自身の経験なのか単なる伝聞なのかもはっきりしません。
 他方で小中学校での少数民族言語教育のカリキュラム化や、大学・大学院での民族言語を学ぶ学生の増加などを指摘しています。少数言語を尊重しながら標準語教育を進める政府の政策を肯定的に評価する記述となっています。これまで西側政府・メディアは標準語教育の拡大を「民族言語教育禁止」「民族文化抹殺」などと煽ってきましたが、この論理が破綻したことを自ら認めたようなものです。
※本シリーズ(No.6) モンゴル語禁止はウソ 社会経済活動に不可欠な「公用語」教育(リブ・イン・ピース☆9+25)

「世紀のウソ」が破綻 対中制裁をいますぐ中止すべき
 米国は新疆ウイグル自治区をターゲットに「100万人の拘束」「ジェノサイド」「奴隷労働」「民族文化抹殺」等々と非難してきました。メディアも垂れ流してきました。米国は「ウイグル人権法」「ウイグル強制労働防止法」などを次々と成立させ、中国政府当局者の資産凍結、特定部品や企業についての輸出入の禁止、そして新疆綿の不買運動などで対中制裁を加え、欧州諸国にも追随させてきました。しかし報告書はそのような結論を出していません。「100万人の拘束」「ジェノサイド」は証明できていません。新疆綿の強制労働、奴隷労働についても一切言及がありません。強制収容所ではなくあくまで「職業教育訓練センタ-」とそのシステムの問題として記述しています。「宗教施設の破壊」も「現段階では確定できない」とし、「民族文化抹殺」もはじめから報告書の検討対象になっていません。
 「世紀のウソが破綻」したのです。対中制裁の根拠となった事実が存在しないことが明らかになったのです。欧米諸国は、ウイグル問題を根拠とした対中制裁をいますぐ中止すべきです。
ウイグル自治区製品輸入原則禁止 米で法律成立 日本企業影響も(NHK)
米財務省、人権侵害理由に中国政府幹部を制裁対象に、米中高官会談直後に発動(JETRO)
米国、ウイグル産の輸入を全面禁止へ…中国への制裁拡大、人権重視で厳しさ増す (東京新聞)

米国は中国への内政干渉をやめよ
 新疆ウイグル自治区における政策は中国の内政問題であり、貧困対策、民族差別解消、北部と南部との格差解消、産業育成、義務教育の保障と高等教育の拡充など様々な問題が含まれ、中国政府と自治政府は日々格闘しています。米国が「ウイグル人権法」「ウイグル強制労働防止法」などを勝手に作って介入し制裁を加えるなどもってのほかです。ウイグルだけではありません。米国は、「チベット人権法」「チベット支援法」「台湾外交支援法」「香港自治法」「香港人権法」などを勝手に作って、中国の地方都市、自治区の内政問題に干渉しています。中国の人々の人権を思ってのことではないことは言うまでもありません。中国に対立を持ち込み、あわよくば政治的混乱を生み出し、国家分裂策動や反革命策動を支援しようという魂胆です。米国は、香港独立策動に失敗しましたが、ウイグル人権問題で反中意識を宣伝し、目下のところ台湾問題で台湾の分離独立に加担し、軍事的緊張を煽り戦争の危機を高めている危険な状況です。
※本シリーズ(No.12) 香港国家安全法(リブ・イン・ピース☆9+25)
※本シリーズ(No.28) 「台湾有事」プロパガンダと日本軍国主義の新段階(リブ・イン・ピース☆9+25)

 冒頭にも書いたように、米国に他国の人権を語る資格はありません。テロ対策そのもので言えば、米政府のやり方は国際法違反の、それこそ人権侵害そのものです。9・11事件、アフガニスタン侵略、イラク侵略を口実に米国内や中東地域のイスラム系住民を好き勝手に誘拐・拘束・逮捕し、キューバから強奪したグアンタナモ基地に抑留・拘禁・留置・収容し、殺害・拷問の限りを尽くしたのです。ところがこの恐ろしい人権侵害は全く不問に付されています。それだけではありません。最近だけでも米国が侵略し住民を大量虐殺し、国土を破壊した国は、アフガニスタン、イラク、リビア、シリアなど数えきれません。キューバや朝鮮民主主義人民共和国、ベネズエラやイランなどに対して経済制裁・経済封鎖を乱発し、多くの人々を困窮させ飢餓に追いやっています。米国内だけをとっても、黒人差別、アジア系・ムスリム系住民の敵視、警察による暴力的弾圧、刑務所における囚人の虐待、移民労働者への迫害、女性差別と性暴力、貧困と失業、医療からの排除など米国こそ人権侵害大国なのです。まず自国の人権状況を直視し、その解決に臨むべきです。
米占領下アブグレイブ“強制収容所”における第一級の国家犯罪・戦争犯罪(署名事務局)

2022年10月27日
リブ・イン・ピース☆9+25

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