シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.47) 国連ウイグル人権報告書を批判する(上)
ニセ情報に基づく政治的報告書は撤回すべき

「人権侵害」認定の政治的報告書を糾弾する
 国連高等弁務官事務所(OHCHR)は、8月31日「新疆ウイグル自治区における人権問題の評価」なる報告書を発表しました。同自治区における「人権侵害」を国連として初めて公式に認定した報告書です。これまで「ウイグル・ジェノサイド」宣伝は米政府が主導する西側の政府・メディアが好き勝手に騒いできたものですが、今回初めて国連の名で報告書が出されたのです。
 しかし、中身はこれまでと全く同様、デマと虚偽証言にまみれたものです。中国政府の報道官は「予断と偏見に基づく」「偽情報の寄せ集め」などと即座に抗議しました。米の圧力に屈した、ニセ証言、デマ情報に基づく報告書発表は、OHCHRの活動そのものを傷付けるものだと言わざるを得ません。しかし同時に中国報道官は、米政府と西側メディアによって誇大宣伝されていた「ジェノサイド」「強制労働」「強制不妊手術」などを認定できておらず、「米国と一部の西側勢力によってデッチ上げられた世紀の嘘が破綻した」と語っています。以下、報告書本文に基づきながら、詳しく分析していきます。
OHCHR Assessment of human rights concerns in the Xinjiang Uyghur Autonomous Region, People’s Republic of China(OHCHR 報告書全文)
China denounces OHCHR report on Xinjiang –‘a patchwork of disinformation, political tool for US, some Western forces’(Global Times)
中国、OHCHRの新疆に関する違法で無効な虚偽報告の公表に断固反対(CRI)


 バチェレ高等弁務官は、5月の末に中国新疆ウイグル自治区を訪問しました。訪問後に声明を出し、広大な国での人権状況の複雑な中で、貧困撲滅の闘い、健康医療制度や失業保険制度の整備、平和のための多国間主義、ジェンダー平等などの中国の取り組みを評価しました。そしてウイグル問題に関しては、「収容所」と非難されている「職業教育訓練センター」(VETC)制度について、元入居者などとも対話した結果、中国政府の進める対テロ・過激派政策の重要性を確認した上で、「テロ対策の方法に改善の余地がある」「国際人権基準に適応させる必要がある」等を指摘しました。
Statement by UN High Commissioner for Human Rights Michelle Bachelet after official visit to China(OHCHR)

 このバチェレ声明に対して米政府が激しい非難と介入を行い、ウイグル人権抑圧を認める報告書を出すよう圧力をかけました。一方、これに対して、人権を口実に中国への内政干渉をやめるよう求める声明もキューバ主導で69カ国によって署名されました。
 結局米国の圧力によってバチェレ高等弁務官が退官する8月31日ギリギリに報告書が出されましたが、一部の報道によれば、「OHCHR上層部」が報告書を出すことに抵抗し、退官期限の12分前に押し切られたとされています。つまりこの報告書自体、本来の国連高等弁務官の作業を踏みにじる形での、「人権」を口実にした米政府による対中攻撃の道具に成り果てたことを示しています。
バチェレ氏、ウイグル報告書公表に抵抗か 中国配慮(日本経済新聞)

 しかし決して米国の思惑通りにはなっていません。10月6日に行われた国連人権理事会(47理事国)で、米国はウイグル人権侵害をめぐる討論の開催を提案しましたが、賛成はわずか17カ国で葬られました。国際政治の舞台で今後もこの問題は政治的対立点となっていくのは間違いありません。
国連人権理事会 ウイグル人権侵害の討論会開催否決(産経新聞)

 私たちは、「人権」を振りかざした米国の内政干渉、国連への介入を糾弾します。米国こそ人権侵害大国です。アジア・アフリカ系市民への差別と排除、ムスリム系住民の敵視、警察による暴力的弾圧、刑務所における囚人の虐待、カラードの移民労働者への迫害、新型コロナ放置による膨大な死者等々。自国で人権抑圧・人種差別を拡大している米政府が「ウイグル人の人権」を考えているはずがありません。「人権」は中国の威信を傷つけるための道具に他なりません。
Full text: The Report on Human Rights Violations in the United States in 2021(新華社)
The US is a serial human rights abuser(Socialist China)

中国政府の対「テロ・過激派対策」は国連も認めた重要な事業
 まず前提として確認しておかなければならないのは、中国政府が行っている「対テロ・過激派対策」は国連も推奨する重要な国際的事業であるということです。中国政府は、テロ対策法や新疆テロ対策法を策定し、その一環として「職業教育訓練センター」を作っており、それは国連も認めています。
 西側メディアでは、中国政府が民族差別に基づいて、ウイグル人を片っ端から捕まえて拘束し、虐待や拷問を加えているようなイメージが拡散され、「100万人拘束」「ウイグル人を根絶やし」などがまるで真実であるかのように語られていますが、それは全くのデマです。問題になっているのは、中国の「対テロ対策」の過程で、国際的人権規約や法律に反する「人権侵害」が行われたかどうかです。今回のOHCHRの報告もそのような中身になっています。
 地図にもあるように、新疆ウイグル自治区は、「テロ・武装組織」の拠点とされるタジキスタンやパキスタンの東部に国境を接し、アフガニスタンとも短い国境線を通じて移動が容易で、ウイグル人の若者などが宗教的過激主義による感化や貧しさ、失業などを理由に「テロ」や暴力活動に走る事例が指摘されてきました。特に新疆南部は貧困地域で、貧困対策、雇用対策、産業育成とセットで「テロ」を根絶する取り組みが進められてきたのです。
中国の反テロリズム法(国立国会図書館 岡村志嘉子)

エイドリアン・ゼンツ、ASPIなどのデマ宣伝の焼き直し
 強調しなければならないのは、「職業教育訓練センター」の入居者・研修生の多くは、何年にもわたり新疆ウイグル自治区で一般市民を無差別に殺害してきた無差別テロの犯罪者、東トルキスタンイスラム運動(ETIM)のメンバー・協力者だということです。米政府は、タリバンが典型的ですが、ある時は無差別テロ組織を利用し、ある時は切り捨てるのですが、今回、中国への内政干渉のために、このETIMと関連団体を利用しているのです。
米政府がアフガニスタンの親ソ政権転覆のためにタリバンを育成し、のちに9.11事件が起こるや打倒の対象にした経緯は以下を参照。
 アフガニスタンからの米軍の撤退にあたって~米欧日諸国の侵略と戦争犯罪の20年を暴く~(リブ・イン・ピース☆9+25)

 中国政府が今回の報告書を「偽情報の寄せ集め」と厳しく批判しているのは、OHCHRが新たに独自に調べた情報はほとんどなく、これまで中国政府が幾度となく反論してきた西側諜報機関やデマゴギストらが垂れ流している情報をそのまま掲載しているからです。すなわち、46ページからなる報告書の中身の大半は、これまでエイドリアン・ゼンツやウイグル協会など無差別テロを繰り返してきた東トルキスタンイスラム運動の関係者、オーストラリア戦略研究所(ASPI)など西側の謀略・諜報機関がねつ造してきたものです。ゼンツは反中・反共情報をねつ造・流布を専門にしている有名なデマゴギストで、主宰する「福音派共産主義犠牲者記念財団」は米CIAの隠れ蓑である「全米民主主義基金」(NED)からの資金援助で運営されています。報告書が「注」において参考として上げているサイトは、新疆ウイグル自治区被害者データベース、ウイグル人権プロジェクト、新疆データプロジェクト、Uyghurs for saleなどです。あたかも「中国の秘密ファイル」「政府機関から流出」のように報じられていますが、すべてゼンツやASPIによるものです。
新疆ウイグル自治区被害者データベース
ウイグル人権プロジェクト
新疆データプロジェクト
Uyghurs for sale

 報告書の内容は、米国のポンペオ国務長官(当時)の声明、カナダ、オランダ、イタリアなどの議会での「ウイグルジェノサイド認定」決議、英ウイグル独立法廷の「ウイグルジェノサイド」についての習近平の責任認定などの内容と酷似していますが、それは偶然ではありません。それらは全てゼンツやASPIなどの情報をもとに作られているからです。しかし今回の国連報告書が「ジェノサイド」という結論を出していないところは確認しておく必要があります。
米国務長官、中国のウイグル族弾圧を「ジェノサイド」と認定(CNN)
ウイグル抑圧継続と中国非難 年次報告「AIで市民監視」―米長官(時事通信)
中国のウイグル族弾圧を「ジェノサイド」と認定=英民衆法廷(BBC)
カナダ下院 中国のウイグル弾圧は「ジェノサイド」 動議採択(産経新聞)

リモートインタビューに基づくニセ証言、デマ情報
 あまりにもいい加減で、ずさんな報告書です。人権侵害を認定するほとんど唯一の根拠は、全面リモートで行われたという「40人の証言」です。これを軸に、衛星写真や政府の公式声明、白書、統計の恣意的な引用などによってあたかも人権侵害が本当に存在するかのように粉飾されているのです。報告書はわざわざ「証言だけに依拠しているわけではない」と但し書きをつけています。およそ科学的報告書には似つかわしくない「示唆」「兆候」「可能性」「推測」「何人か」などの用語が多様されています。
 リモ-トでインタビュ-した証人とされる40人は、女性24人、男性16人、うちウイグル人23人、カザフ人16人、キルギス人1人ということ以外それぞれの名前も素性も証言した経緯も全く明かされていません。
※そもそもSNS時代、リモート時代の怖さは、たとえば相手が顔写真付きで「米国人の若い男性」と名乗っていても、本当に男性なのか女性なのか、若者なのか年配者なのか、米国人なのかなどが分からないということです。それを国連報告書の根拠にするというのは考えられないことです。

 報告書では、証言者が「収容所」での不当拘束、行方不明、虐待、性的暴力、拷問、強制労働等を証言しているとしていますが、大雑把に書かれているだけで、具体的に誰が何を証言したのかも書かれていません。わずか数十分のリモートインタビューで、証言が得られというのは、あまりにもいい加減すぎます。この時点で、証言者の信憑性がないと言わざるをえません。また、2/3はこれまでゼンツや「人権団体」などが「証人」としてきた人たちです。多くがニセ証言者として明らかになり、中国政府がすでに反論しています。また元収容者という26人のうち2/3が人権侵害を証言したといっていますが、人権侵害を告発しなかったはずの残り1/3の証言は記されていません。
中国、性被害証言は「うそ」 ウイグル女性の写真を手に非難(産経新聞)
米国務省が再び新疆のイメージを毀損 外交部「虚偽情報の出所はほぼ同じ」(人民網)

2022年10月27日
リブ・イン・ピース☆9+25

シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して 「はじめに」と記事一覧

関連記事
(No.49)国連ウイグル人権報告書を批判する(下)
(No.48)国連ウイグル人権報告書を批判する(中)
(No.19)「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(まとめ)
(No.18)「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(下) 「強制収容所」も「強制労働」も根拠なし

(No.17)「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(中) 「大量虐殺」したはずのウイグル族人口がなぜ漢族より増えているのか?――統計と証言のねつ造

(No.16)「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(上) 狙いは対中封じ込め――制裁発動、新疆綿使用企業ボイコット、北京五輪ボイコット
(No.7)新疆ウイグル──貧困対策、テロ活動防止のための教育施設