司会:婚姻と男女平等を規定した24条は、改憲勢力にとって最大のターゲットになっています。どう変えたいんでしょう。 憲法学者:現行では「個人の尊厳と両性の本質的平等」を規定する条項であるのが、「家族の助け合いの義務」が付け加わっています。 この条項の改定は、単に男女の平等や結婚の規定どころではない、国家の福祉政策、社会保障政策の根幹にかかわる重大な問題を含んでいるのです。「家族は、互いに助け合わなければならない」となっていますが本当は「国は助けなくてよい」といいたいのです。 会社員:つまり、国がやらなければならないこと──教育、医療、介護、保育、年金と老後保障――などをすべて個人と家族の責任にしようとしている。「自助・自立」「自己責任」とかを憲法に規定しようというものです。 最近子どもが40代、50代になって親を介護しながら親の年金で何とか食いつないでいるという人が少なからずいます。ところが親が亡くなったら生活する術が突然なくなる。遺体を隠して年金を「不正受給」していたというニュースが流れます。僕は今30代で働いていますが人ごとと思えない。誰も遺体なんか隠したくない。そんな境遇に追いやった国の問題だ。 二児の母:「親子共倒れ」「老老介護」、さらに悲惨な「介護殺人」や「児童虐待」などさまざまな事件が起きて心を痛めています。でも家族愛や家族の絆が失われたとか言われると違和感があります。私はむしろ「家族だから何とかしなければ」と限界を超えるまでがんばった結果不幸な事件が起きていると思うのです。問題は心の持ちようではありません。お金や時間の余裕があって行政の支援があれば防げた事件がたくさんあると思います。家族のあり方に国が口出しして「自助・自立」を押しつけるのではなく、公的扶助によって家族の負担を減らすことが大事ではないでしょうか。 憲法学者:自民党改憲草案は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」という規定から「のみ」を削除していますが、これは「個人の尊厳」を事実上否定し、「日本の伝統」「家柄」「格式」「親族」などと絡み結婚差別・女性差別を助長させるような改定として極めて問題です。 二児の母:古いしがらみや偏見にとらわれた結婚差別はいまもあります。「介護」も女性にのしかかることが多い。女性や子どもの権利が一切無きに等しかった明治憲法下の家父長制へ逆戻りするかのようです。 手引き13 2016年9月1日 発行に当たって 1. 「自民党憲法改正草案」は憲法ではない 2. 憲法は古いから変えなければならないか 3. 「押しつけ憲法」でなぜ悪い? 4. 押しつけだから無効だとすればどうなる? 5. 憲法は私たちの生活とどうかかわっているの? 6. 憲法があれば足りるか 7. 自民党改憲草案の4つのポイント 8. 人権の根幹──天賦人権説を覆すことはできない 9. 「公共の福祉」から「公益と公の秩序」へ 10. 国民は国のやることに反対してはいけないのか 11.「憲法は国家権力を縛る規範」とは 12.「新しい人権」条文化の危険 13. 家族は助け合わなければならないか 14.「天皇の元首化」はどう問題か? 15. 攻められたら防衛しなければならないので国防軍は必要? 16. 憲法9条を変え「自衛隊」を規定すべきか 17. 沖縄米軍基地は日本を守るためにあるのか 18.「緊急事態条項」は必要か 19. 戒厳令になるとどんなことが起こるか 20.「護憲」運動は保守か、改憲は「改革」か (補)改憲を目指す人たち |
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