シリーズ 「新冷戦」に反対する 〜中国バッシングに抗して
(No.36) 「一帯一路」は覇権主義なのか(その5)
植民地支配・収奪からの脱却を目指す世界史的事業

米国主導の「世界秩序」からの脱却を目指して2013年に提唱
 一帯一路構想は、中国の習近平国家主席が2013年に提唱しました。中国を起点としたアジア・中東・アフリカ東岸・ヨーロッパのルートを、「一帯」と呼ばれる陸路と「一路」と呼ばれる海路によって結ぶことで、エリア全体における経済的協力関係を構築するという構想です。中国は官民連携で、地域の参加国に協力して、高速鉄道・道路・港湾といった交通網のインフラを整備し、効率的な物流システムを築こうとしています。後背地に工業団地や観光施設など産業集積地を設け、現地の産業を育成し地域の経済発展に寄与していこうとしています。
 この一帯一路構想を資金面で支える機関として、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」や「シルクロード基金」「中国・ユーラシア経済協力基金」などを創設しています。インフラ施設を建設するための資金が不足する開発途上国を支えるためのものです。
 中国が一帯一路を打ち出す大きなきっかけになった一つが、2007/08年のサブプライム危機とリーマンショックでした。中国はすでに「多極化」を掲げてより積極的な外交を展開し、「世界最大の発展途上国」である中国と周辺国および途上国との関係を形成・強化していこうという戦略を打ち出していましたが、改めて途上国がグローバル金融危機の影響を受けて翻弄される米国主導の「世界秩序」からの脱却を目指したのです。
What does the Belt and Road Initiative mean to China and the world?(CGTN)
「シルクロード経済ベルト」は下記の3つのルートがある
 (1) 中国西北、東北から中央アジア、ロシアを経てヨーロッパ、バルト海に至るルート
 (2) 中国西北から中央アジア、西アジアを経て、ペルシア湾、地中海に至るルート
 (3) 中国西南からインドシナ半島を経て、インド洋に至るルート
 さらに「21世紀海上シルクロード」にも2つのルートが存在する
 (1) 中国の沿海港から南シナ海を通り、マラッカ海峡を経て、インド洋に到達し、さらにヨーロッパへ伸びていくルート
 (2) 中国の沿海港から南シナ海を通り、さらに太平洋へ伸びていくルート
 さらにそれら5つのルートに基づいた「六廊六路多国多港」という枠組みが発表されている。
 「六廊」──六大国際経済協力回廊「新ユーラシア・ランドブリッジ」「中国・モンゴル・ロシア」「中国・中央アジア・西アジア」「中国・インドシナ半島」「中国・パキスタン」「バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー」の6つの回廊
 「六路」──鉄道・道路・海運・航空・パイプライン・情報網の6 つ
 「多国」──一帯一路構想に協力する国々
 「多港」──海上輸送の主要ルートの協力港


平等互恵=WIN・WIN戦略を原則とした投資と援助政策
 かつて帝国主義列強が戦争で領土分割を繰り返していた時代、アジア・アフリカ・中南米諸国は、帝国主義諸国によって分割され侵略戦争と植民地支配によって蹂躙されてきました。その最大の被害国の一つが中国でした。第二次大戦後、旧植民地体制が崩壊して以降も、経済進出を軸とした新植民地主義という形で、途上国諸国は西側先進国に搾取され収奪されてきました。一帯一路はそのような世界に対抗し、米と西側諸国による国家主権の蹂躙と植民地主義支配、金融収奪、不等価交換による貿易収奪など、戦後長期にわたり維持してきた「帝国主義勢力圏」から解放されるという戦略なのです。旧ソ連圏諸国との経済協力を進める「上海協力機構」も同様の趣旨です。
 一帯一路は、貿易や投資、金融などで平等互恵=WIN・WIN戦略に基づいており、米国、IMF・世銀やWTO、国際金融資本が戦後長期にわたり進めてきた新植民地主義的な金融収奪に挑戦するものとなっています。新興諸国・途上諸国は、自国の経済発展の原資を借り入れに頼らざるをえないことから低利融資を求めています。AIIBなどは、その資金を長期低利で融資しています。発展途上国の経済発展への支援です。そして「人民元の国際化」と結合することで、基軸通貨ドルからの離脱も目指しています。今日において決済通貨としてのドルは現代のグローバル金融資本最大の武器です。米国の意にそぐわないことをすれば、経済制裁や金融制裁を発動され口座を凍結・閉鎖されるという恐れがあります。そこから解放しようというのです。
China's Belt and Road Initiative: Incorporating public health measures toward global economic growth and shared prosperity(Science Direct)

一帯一路は「覇権主義」ではない
 覇権主義とは、強大な力を持った国が軍事、経済、政治等の力を行使して他国に介入し、主権を侵害し、世界を支配することです。「平等互恵」=WINWINの関係を原則とする一帯一路は覇権主義ではあり得ません。一帯一路への加盟も自主性が尊重されています。
 2013年から2020年11月までに、中国は138か国・31国際組織と一帯一路共同建設協力協定に調印し、「六廊六路多国多港」という協力の枠組みをほぼ形成しています。すでに一帯一路共同構築に関与する国は、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、ラテンアメリカ、南太平洋地域にも広がっています。EU諸国で一帯一路覚書を締結しているのは16ヵ国で、G7のメンバーであるイタリアも署名しています。ギリシャ、ポルトガル、マルタなども一帯一路構想のコミュニティに加わっています。一帯一路は欧米日の反中政策にくさびを打ち込むものでもあります。
 一方AIIBは開業から5年で、加盟国は創立当初の57から、欧州、アフリカ、南米など100ヵ国・地域を越えています。(日米主導のアジア開発銀行ADBは67)。中国国内、パキスタン、インドネシア、アゼルバイジャン、オマーンなどへの投融資は、一帯一路によるインフラ建設を進める原動力となっています。
 2019年には、中国と一帯一路共同建設諸国との貿易総額はすでに6兆ドルを超え、投資総額は800億ドルを超えています。中国と沿線諸国が共同建設する82カ所の協力パークは現地に30万人近くの雇用を創出し、各国に発展のチャンスをもたらしています。
「一帯一路」への支持が広がり続ける理由(人民網) 
中国は138か国・31国際組織と計201件の「一帯一路」協力文書に調印(人民網)
「一帯一路」の最新状況(Digima)
一帯一路国際協力サミット(新華網)

 広大なユーラシア地域は、山岳や砂漠、海洋や河川で分断されていたため、発展を阻害され、低開発と貧困に追いやられてきました。しかし、一帯一路のインフラ投資と最先端の建設土木技術を使った開発により、これまで分断されていた地域は相互に結び付き広域市場を産み出しました。鉄道・道路・パイプラインなどの各種インフラ整備は、内陸国境貿易の活性化を促していったのです。一帯一路建設の主要プロジェクトの大部分は、中央アジアの5か国、東南アジアのラオス、アフリカのエチオピア、中央および東ヨーロッパの国々などの「内陸国」です。海に接続できず、グローバル化の恩恵を享受できない国なのです。中国・ラオス鉄道、アディスアベバ・ジブチ鉄道、中欧班列(トランス=ユーラシア・ロジスティクス 国際貨物列車)などによって、これらの「内陸国」が海に接続して世界につながり、経済的に発展する可能性を強めているのです。


ユーラシア大陸をつなぐ国際貨物列車「中欧班列」

 世界銀行でさえ、『「一帯一路」の経済学:交通回廊発展のチャンスとリスク』報告で、一帯一路イニシアティブの全面的実施は1日3.2ドル以下で生活する3200万人の貧困脱却の助けとなり、世界全体の貿易額を6.2%、収入を2.9%増加させると指摘しています。一帯一路構想の可能性をうかがい知ることができると思います。
Implications for Africa from China’s One Belt One Road Strategy(Africa Center)
中国「一帯一路」、途上国の発展支援 透明性確保必要=世銀(朝日新聞)

米国が戦争で破壊した国々の安定と復興のための支援
 また中国は、これまでの政治的な立場表明や国連を通じた関与から大きく一歩踏み出し、米国が戦争で破壊した国々の安定と復興のための直接支援や協力関係の構築に進んでいます。シリアについては、テロ封じ込めでのアサド政権の貢献を評価し、シリアの主権と領土の統一、シリアの復興と人民の生活の保障のために、米国らによる一方的な制裁と経済封鎖の解除を要求しています。さらにシリアの一帯一路構想への参加を歓迎し、陸・海の両方でシリアの役割を高く評価しました。既に中国はシリアの主権の尊重とシリア政府との協議に基づき積極投資に動き始め、ファーウェイによる通信インフラ復興への協力、中国企業によるレバノンからシリア国境までの鉄道建設事業などを進めています。
 米国が撤退を開始しているアフガニスタンについても、米国が20年間の戦争によってアフガニスタンの人々にもたらしたものが平和であったのか、苦難であったのかを深く反省することを求めると共に、アフガニスタンが独立、平和、安定の国家建設をすることを積極的に支援していくことを表明しました。そのためタリバンとの対話を積極的に進めています。「上海協力機構」の一員としてアフガニスタンとの関係を発展させて地域の安定を強固にするためにも、一帯一路が重要な役割を果たそうとしています。
中国の中東政策のすごさ シリアにまで伸びる一帯一路(FNN)
王毅中東歴訪の狙いは「エネルギー安全保障」と「ドル基軸崩し」(中国問題グローバル研究所)

植民地支配体制崩壊への西側諸国の恐怖
 なぜバイデン政権は、トランプ時代の対中「新冷戦」政策(貿易戦争・ハイテク戦争、香港や新疆ウイグルなど国家分裂策動、南シナ海・東シナ海での戦争挑発など)を丸ごと引き継ぎ、先鋭化させているのでしょうか。今春からは「台湾有事」をテコに戦争政策をエスカレートさせ始めました。それだけではありません。日本の菅政権はその「台湾有事」で先兵役を買って出ようとしています。さらには米国に追随して1万キロも離れたヨーロッパのイギリス、フランス、ドイツなどの大国が続々と中国封じ込めに空母や軍隊を派兵しています。まるでアヘン戦争や義和団事件の時の米欧日帝国主義列強による植民地略奪のようです。
 いったいなぜなのでしょうか? なぜ西側諸国が連合軍を編成してまで中国を封じ込めにやってくるのでしょうか?――その背景には、一つには西側諸国に従わない社会主義国としての中国の急速な台頭がありますが、もう一つは、本稿で詳しく述べてきたように、中国の一帯一路政策が進めば、これまで西側の金融資本や多国籍企業がやりたい放題に石油・鉱物資源を安価で買いたたき、労働者を極低賃金で搾取してきた新植民地主義支配、つまり超過利潤の収奪の制度を掘り崩しかねないと恐怖を抱き始めたからなのです。西側諸国が何世紀にもわたり築き上げてきた植民地支配が崩壊するという恐れです。それだけに一帯一路は歴史的な一大事業なのです。
しかし、私たちが同時に見なければならないのは、旧植民地時代からの植民地主義はそう簡単には崩れないということです。1885年アフリカ大陸分割、さらには15世紀の奴隷貿易、三角貿易以来の500年に及ぶ米欧日帝国主主義諸国による植民地支配、収奪と搾取の構造をわずか数十年で覆すことは不可能です。
 西側諸国の「新冷戦」政策による妨害は容赦ないものです。G7やEUなど政治覇権、米軍事力とNATO、日米同盟などで世界に張り巡らされた軍事覇権、ドル決済システムとIMF・世銀や国際金融資本などによるドル・金融覇権、WTO、TPPなどによってルール化された貿易覇権、GAFAに代表される通信システムと半導体を掌握するハイテク覇権、そして西側に有利な宣伝を垂れ流すメディア覇権などで牛耳られています。一帯一路参加諸国への内政干渉やテロ活動の支援なども頻繁になってくるでしょう。

一帯一路が直面する困難と克服のための闘い
 一帯一路はまだまだ発展途上であり、さまざまな困難にぶつかり苦闘しています。確かに、中国企業の中には、中国政府や党の方針に反して、様々な問題や紛争を引き起こしている事例があるでしょう。それとは別に、中国企業が西側諸国や金融資本・多国籍企業と一緒に資本主義制度の枠組みの中で途上国支援事業やインフラ構築をしなければならず、森林伐採や河川汚染などの環境破壊、低賃金労働、立ち退き強制などで地域住民とのトラブルを引き起こしています。そうした問題や紛争は、中国側と現地の政府あるいは住民との対話や相互理解で解決することを期待します。
 困難は不可能とは違います。一帯一路と上海協力機構、AIIB、非ドル決済、ファーウェイやなどのハイテク企業、平等互恵の貿易関係、西側メディアのウソ・デマへの批判の積極的発言等々を通じて、帝国主義的植民地支配からの脱却の国難な道を歩んでいこうとしています。
 中国の一帯一路政策の影響はすでに出始めました。アフリカで植民地大国として侵略と略奪の限りを尽くしてきたフランスのマクロン大統領が、英語圏ルワンダや南アを重視する姿勢を打ち出し、アフリカの軍事拠点に駐留させてきたフランス軍の撤退や歴史の清算に初めて言及したのです。いずれも来年の大統領選挙に向けたリップサービスに過ぎませんが、植民地大国の足元を揺さぶり始めたのは確かなようです。
マクロン氏、アフリカ諸国との関係再構築に努力 来年のフランス大統領選へアピール(東京新聞)

 最後に一言述べておきたいことがあります。本稿の分析は全て西側の政府やメディアのウソ・デタラメへの反論でした。しかし、残念なことに、左翼やリベラル派の中には、一帯一路政策を「中国帝国主義」「中国覇権主義」の表れだと指弾する向きがあります。こうした人々には、まずは西側政府やメディアを鵜呑みにするのではなく、自分で調べ真実と向き合うことを強く要望します。同時に、そのような主張は西側の植民地主義支配の永続化を望むことと同じだということを知ってほしいと思います。

(参考映像)
「我ら道の上をゆく」第二十二話:運命を共に(CRI)
【一帯一路】第1集「共同運命」(CCTV)
【一帯一路】第2集「互通之路」(CCTV)
【一帯一路】第3集「光明紐帯」(CCTV)
【一帯一路】第4集「財富通途」(CCTV)
【一帯一路】第5集「金融互聯」(CCTV)
【一帯一路】第6集「築夢絲路」(CCTV)

(この項完)
2021年8月12日
リブ・イン・ピース☆9+25

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