中国の投融資の目的はインフラ整備や技術協力 西側諸国の一帯一路批判の最大のものが、「途上国を債務の罠に陥れようとしている」「借金のカタに港やインフラを奪っている」というものです。しかし先にも紹介したように対アフリカ債務に占める中国の割合は20%程度であり、残りの80%の国・民間企業・国際機関が高利での借金漬けにしているのです。中国が借金苦の国々にいわば助け船を出したのですが、それがあたかも中国が債務危機に陥れたかのように宣伝されています。そもそも中国の投融資の目的は物流拠点等のインフラ整備や技術協力であり金利所得や資源の略奪ではありません。 アフリカ諸国はすでに西側先進諸国(旧宗主国)からの「債務の罠」にはまり壊滅状態にありました。1980年代から1990年代にかけて、新自由主義の構造調整計画が猛威を振るいました。すでに貧しかった国々が緊縮財政を押し付けられ、返済不可能な金利の融資を受け、借金漬けにされていたのです。欧米のメディアはこのことを省き、隠して中国の融資だけを標的にしているのです。 中国の融資は、投機的なものではなく、IMF・世銀や西側の金融資本や多国籍企業の略奪につながる「民営化プロジェクト」や「構造調整」にも結び付けられていません。中国の関与の多くは、アフリカ諸国が「付加価値産業」を構築し、国際市場で商品を売買し、人々の暮らしを豊かにすることです。現地の人々の企業の発展を促進することを目的としています。中国のローンはゼロまたは低金利であり、時には数十年にわたる返済計画との組み合わせになっています。譲歩的な再交渉も可能で、債務の償却、延期、借り換えと債務期間の変更も行っています。債務再交渉では、完全な債務免除が一般的であり、中国は債務持続性の確保および財政リスクの回避に真剣に取り組んでいます。当事国での運用が困難になった港湾施設などを中国が代わって運用しているという事例などが、「資産の差し押さえ」「借金のカタに港湾を取った」などと非難されているのです。実際スリランカやザンビア、ガーナなどの当事国が「債務の罠」などと中国を非難したことはなく、「債務の罠」を宣伝しているのは米をはじめとする西側諸国政府とそのメディアなのてす。 ※『一帯一路は何をもたらしたのか: 中国問題と投資のジレンマ』(廣野美和編 勁草書房) 中国が債務の罠に陥れたかを実証的に研究している。西側諸国やIMF世銀を含めた民間金融機関は、債務焦げ付きや債務不履行をおそれて、途上国への融資を絞り、返済をもとめるようになった。それに代わって融資を拡大したのが中国であったことを明らかにしている。一帯一路自体が、2007/8のリーマンショックを境に構想されたが、それはまた西側の融資から中国の融資にとりかわる機会でもあった。これについて、途上国の債務危機に中国が「つけ込んだ」という悪意ある見方も可能だが、「低利での融資の助け船を出した」という方が実態に近いのではないか。現在途上国を苦しめている債務は、中国の融資分ではなく残存する西側諸国や民間分、ユーロ債などである。西側諸国は自分たちが途上国を債務危機に陥れながら、中国が融資を拡大するのを目の当たりにし、中国が債務の罠におとしいれたかのような宣伝をしているのである。 ※“債務の罠”ではない?「中国の途上国融資=悪」に異論(NewSphere) ※アフリカの中国との「債務問題」に関する真実(YahooFinance) ※「中国の債務の罠」は嘘で、中国アフリカ離間の試み 外交部がコメント(人民網) ※「一帯一路」、アフリカに「債務の罠」をもたらさず=ガーナメディア(Japanese.China) ※Is China creating a debt trap to rule the world?(CGTN) ※「債務の罠」のパラドックス 唱 新(福井県立大学 教授)2019.02.04 この論文では、「債務の罠」のパラドックスとして以下を述べる。インフラ整備と企業創設のため必要な機械設備、資材などを中国からの輸入に依存するため短期的には貿易収支の赤字は拡大する。インフラ整備の経済効果が出るには時間がかかるが、長期的に見れば工業製品の輸出拡大や国際観光収入増加により、物品貿易収支とサービス貿易収支が黒字化していくことが可能だ。直近の収支関係だけを見て「債務の罠」と見るのは間違っている。 以下、具体的な事例として、アフリカのザンビアと東南アジアのスリランカの実情を見ていきます。 ザンビアを債務不履行に陥れたのは民間融資とユーロ債 (1)日本のメディアもザンビア=中国の債務の罠を煽る アフリカでは、ザンビアが債務の罠キャンペーンの標的になっています。6月27日一面の毎日新聞の記事では、「草原に中国製空港」「「債務の罠」術中」」「ザンビア 中国の借金漬け」などとセンセーショナルに反中・嫌中をあおっています。しかし記事の中身を読めば、一部に決して「中国による債務の罠」と言えない事実が書かれています。 ※ザンビア 中国製空港、草原に威容 資源国「債務のわな」(毎日新聞) まず中国は、海外との輸出入・物流条件を整備するために、空港や鉄道建設などのインフラ目的で融資しています。記事では「市民生活には関係のない巨大な空港が建設されている」ように書かれていますが、中国の役割は、現地政府の責任である民政への関与ではなく、あくまでインフラ整備への資金供与であり、中国の空港建設支援と内政とは相対的に無関係です。地図をみれば明らかなように、ザンビアは海との接点がない完全な内陸国で、空港は外国との人の行き来や物流のために不可欠です。中国は、この空港建設だけでなく、内陸部のザンビアと沿海部のタンザニアを結ぶ巨大な鉄道(タンザン鉄道)建設を支援したことでも知られています。 ※China Helped Us When Help Was Most Needed" ? The Tanzania-Zambia Railway: A Testament to China-Africa Friendship(Globaltimes) また記事では“中国企業の建設現場に勤めていたがコロナの影響で仕事がない”等の労働者の証言がでてきますが、むしろ進出した中国企業が積極的に現地の人々を雇いながら、コロナで休業を余儀なくされていることがわかります。 「ザンビア 中国の借金漬け」についても、対外債務の127億ドル中、中国は30億ドルと1/4でしかないことがわかります。そして文中でも、債務の軽減や返済期間の変更に応じないのは、中国政府ではなく民間金融機関であるとしています。中国が借金漬けにして債務不履行に陥れているというのは全く事実に反しているのです。 (2)IMFを使ってトランプ政権がザンビアを債務不履行国に 2018年12月、トランプ政権のボルトン大統領補佐官は、中国がザンビア政府を債務不履行に陥れ、国営電力会社ゼスコなど一部の国有企業を掌握する計画だと非難しました。ザンビアの対外債務はGDPの35%にも登り、2018年には100億ドル近くに達しました。ところがザンビアのボウマン・ルサンボ大臣は、追加融資要求をIMFが拒否したことについて、米国が国際機関を使ってザンビアを陥れていると非難したのです。中国はザンビアの対外債務の30%を占めていますが、残りのほとんどは多国間または商業債権者、または国際債券市場の手に渡っています。つまり、ザンビアを窮地に追い込んでいるのは米国が主導するIMFと西側金融資本なのです。それをあたかも中国の責任であるかのように煽っているのです。 国営電力会社ゼスコの問題に戻ると、ゼスコは2000年代初頭にIMFが推奨した民営化に含まれていました。鹿風峡谷ダムを建設するシノザム・パワー・コーポレーションが30%の株式を保有しており、中国のエンジニアリング会社シノハイドロと中国・アフリカ開発基金は50%と20%を保有しています。そもそも中国の強い後ろ盾の元で経営された国営会社であり、中国が債務の罠によって奪うかのような非難はあたりません。現在もゼスコは国営電力会社として存続し、再生可能エネルギー開発会社パワーチャイナの協力のもと、3つの太陽光発電所建設に着手し、水力に頼る不安定な電力供給体制の改善に取り組んでいます。 ※China steps in as Zambia runs out of loan options(The Guardian) (3)超高金利のユーロ債がザンビアを締め付け 2002年から2008年の間に、ザンビアの鉱物輸出額は500%増加し、40億ドルに達しました。しかし税収増にはつながりませんでした。欧米の多国籍企業は、IMFの勧告に基づいて課税を免除されたからです。財政難に陥ったザンビアは、40年もの取引のある中国にインフラの資金調達への協力を求めるとともに、ユーロ債での資金調達に乗り出しました。2012年、他のアフリカ諸国同様、IMFの勧告に従い、国際金融市場で最初のユーロ債7.5億ドルを10年の期間で5.65%の利回りで発行しました。さらに2014年、ザンビアはIMFの勧告のもと、ドイツ銀行とバークレイズが管理する10億ドルで別のユーロ債を発行しました。2015年に発行された別のユーロ債(1.25億ドル、11年)の利回りは9.375%で、他のアフリカ諸国と比べても最も高い利率でした。 ザンビア経済協会のルビンダ・ハーバゾカ会長は、「中国の融資ではなく、問題なのは30億ドル相当のユーロ債だ。私たちの借金を処理すると、今年は8億ドルの費用がかかり、その3億ドルはユーロ債のためだ。ユーロ債では、支払い期限に猶予はない。中国の債務は簡単に再交渉、再編、または借り換えが可能だ」と語っています。 中国のザンビア支援はインフラ建設にとどまらず技術支援、人材育成等多岐にわたります。例えば中国はザンビアの留学生を4000人も受け入れ、学費や生活費を援助し、医師や技術者として本国へ戻していますが、このような事実はほとんど知られていません。 私たちは、中国が援助したインフラや産業施設、技術支援を通じて、ザンビアが経済の自立を実現できるよう願います。 ※China’s Digital Silk Road and the Global Digital Order(The Diplomat) ※中国がアフリカで成功する理由〜遣唐使の時代から続く人材育成〜(医療ガバナンス学会) 2021年8月10日 関連記事 (No.55)中国の「債務の罠」プロパガンダのデタラメ (No.44)米の経済的・政治的支配からの脱却を目指すGDIフレンズグループ(下) (No.43)米の経済的・政治的支配からの脱却を目指すGDIフレンズグループ(上) (No.36)「一帯一路」は覇権主義なのか(その5) 植民地支配・収奪からの脱却を目指す世界史的事業 (No.35)「一帯一路」は覇権主義なのか(その4) 執拗な「一帯一路」敵視キャンペーンに反論する (No.34)「一帯一路」は覇権主義なのか(その3) 「債務の罠」は米国とメディアが作り出した虚像(2)――スリランカの例 (No.32)「一帯一路」は覇権主義なのか(その1) コロナのもとで真価を発揮した「一帯一路」 |
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