シリーズ 「新冷戦」に反対する 〜中国バッシングに抗して
(No.34) 「一帯一路」は覇権主義なのか(その3)
「中国による債務の罠」は米国とメディアが作り出した虚像(2)――スリランカの例

スリランカ:ハンバントタ港運営権剥奪、軍港化のウソ
 「スリランカのハンバントタ港の運営権が中国に譲渡された」ことから「中国はスリランカ政府に負担返済能力を超える資金を供与し、99年間の権利を強要した。中国による債務の罠だ」「中国はハンバントタ港を軍事的に利用するために取得した。中国は覇権を狙っている」等とメディアで報じられました。しかしスリランカ政府は一言もこの件で中国政府を非難したり抗議したりしていません。実はこれらの批判は、当事国から起こったのではなく、ペンス副大統領(当時)が煽り、それに応じる形でワシントンポストをはじめとする西側メディアやこれに追随する日本メディア、ハーバード大学をはじめとする米国の研究機関等が一斉に中国の一帯一路政策を非難する焦点として炎上させたのです。(1)中国側はスリランカへの融資を利用して、ハンバントタ港の譲渡を迫った、(2)一帯一路は債務漬けにして、事実上の植民地に変える膨張主義戦略である、(3)中国は将来ハンバントタ港を軍事的に利用する恐れがある、と。
 しかしハンバントタ港は商業用に設計され、軍事利用には適しません。軍港には向かない地形だということも明らかになっています。しかも2017年のスリランカと中国の譲渡契約では、ハンバントタ港を軍事目的には使用しないという特約条項を取り交わし約束しているのです。そしてスリランカの軍が常駐の任務についています。メディアは事実を捻じ曲げて報じています。根も葉もないニュースを広めているのです。
中国と新たな合意 スリランカ「軍事利用させない」 港権益貸与(産経新聞)
スリランカ海軍、中国企業にリースの港に司令部移転へ(AFP)
(アジアに浸透する中国)99年租借地となっても中国を頼るスリランカ(IDE JETRO)
一帯一路の続く謎(The Diplomat)
 ダニエル・ラッセルやブレイク・ベルガーのような元米国外交官や学者でさえ、一帯一路構想で造られた港湾は商業的に設計されており、軍事的に利用することはほとんど不可能であることを認めている。スリランカのハンバントタ港の運営権が中国企業に渡った後も、ハンバントタやその周辺で中国が軍事作戦を行ったという記録はない。
Belt and Road Cooperation:For A Better World(Belt and Road Portal)

 ハンバントタ港を航空写真で見ると、軍港として使い物にならないことがわかる。港はインド洋の大きなうねりを避けるために海岸に切り込まれている。その狭い水路では、通常はタグボートを使用して、一度に1隻の船しか出入りできない。軍事紛争が発生した場合、そこに駐屯していれば、海軍艦艇は、まるで樽の中に閉じ込められている魚だ。

債務危機に陥ったハンバントタ港に助け船を出した中国
 スリランカは長期にわたり内戦状態にありました。貿易赤字の累積とインド洋津波の被害のため経済は疲弊していました。2005年にラージャパクサ大統領がインフラ整備に乗り出し、ハンバントタ港の建設に取りかかろうとしました。しかし、コロンボから遠く、道路も整備されていず、採算性が低いという理由でインドや国際銀行に資金提供を断られました。結局、中国側が第一期工事に商業融資(金利6.3%)3億ドル、第二期工事に開発援助融資(金利2%)9億ドルを提供し、2008年着工、2011年11月に完成、開業しました。もちろん港湾運営権はスリランカ側にありました。
 ハンバントタ港は開業してから、稼働率が低くて経営不振に陥りました。2016年末までに累積経営赤字が3.04億ドルに上りました。一方、2016年当時、スリランカは外国政府や国際金融機関(IMF、世界銀行、アジア開発銀行)からの借款や国際金融市場での借り入れで対外債務が急速に膨らんでいました。スリランカ政府は、IMFの救済条件を満たすために、2017年にBOT(Build Operate Transfer=建設・運営・移転)やPPP(官民連携)方式で、中国招商局港湾持株会社に99年の特許経営権を譲渡したのです。スリランカは11.26億ドルを手に入れました。IMFもこの譲渡をスリランカの債務返済に寄与すると評価しています。
 「6%もの高い金利を貸し付けてスリランカを債務破綻に追い込んだ」と問題視する論者もいます。しかし、これも事実とは異なっています。当初は6.3%でしたが、これは市場金利に準じる商業融資でした。二期工事からは 2%に切り替わっています。中国の対外援助融資で工事は進められたのです。
 中国の対外援助は、三種類あります。一つは無償援助で、主に人道的援助及び病院、学校、給水施設などの社会福祉施設の建設を行います。もう一つは無金利貸し出しで、インフラ整備と民生施設の建設を中心に行います。そしてもう一つは優遇貸出(2〜3%)で、主に開発途上国のインフラ整備と石油、鉱山の開発を中心に行います。これらの援助資金の提供により、多くの開発途上国への経済支援を行ってきたのです。スリランカのハンバントタ港の建設には、優遇貸出(金利2%)で行ったのです。ちなみに、パキスタンのグワダル港の開発は無金利貸出で行われました。

一帯一路の重要な物流拠点 やがてはスリランカ政府に返還の約束 
 譲渡条件には(スリランカ港務局傘下の)「ハンバントタ国際港湾集団」(HIPG)は段階的に招商局港湾の持株を買い戻し、招商局港湾は80年後、一株1ドルで、40%の持ち株を、99年後、1ドルですべての持株をスリランカ政府とスリランカ港務局に譲渡するという項目が盛り込まれています。
 要するに、中国側は、返済不可能の債務に対し、インフラ施設の経営権・株の所有に振り替える方式で、融資を提供しただけです。しかも、事業はがうまくいかない場合は、中国側が責任を負うようになり、逃げられないものになっているのです。中国側は運営・管理している間に、投資分を回収しなければなりません。スリランカ側は新規借り入れをしないでプロジェクトを進め,技術移転が期待できるというメリットがあるのです。「債務の罠」の最たるものとして挙げているハンバントタ港の例とはこういうことなのです。
 では中国側がハンバントタ港を開発する理由は何なのでしょうか。インド洋における重要な中継地と燃料補給港(ハブ港)にすることにほかなりません。それとともに、ハブ港周辺に50平方キロメートルの工場団地と観光施設の開発を行うことにより、輸出産業と観光産業を育成し、長期的にスリランカの対外債務の軽減や返済に寄与しようとしているだけです。2018年1月に中国側が運営事業を引き継いでから、港湾の稼働率と現地の雇用拡大が順調に進んでいます。
 今回の案件は、スリランカが西欧の融資をデフォルトにせずに新たなIMF融資を受けるためのもので、中国からすれば、PPP方式の民間企業の資本参加による港湾経営の立て直しにすぎません。「港湾運営権の強要」とか、「植民地化する」とか、中国の「債務の罠」という非難は当てはまりません。
ハンバントタ港の真相と中国の教訓  唱 新(福井県立大学 教授)2018.11.26
大西洋:中国の「債務トラップ」は神話(CGTN)

 以下の地図を見ると、スリランカはヨーロッパの地中海から中東、アフリカを経由してアジア、中国に向かう「21世紀海上シルクロード」の重要な物流拠点であることがわかります。

2021年8月11日
リブ・イン・ピース☆9+25

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