G7サミットで「一帯一路」への露骨な敵視 7月11日〜13日に開かれた主要7ヶ国首脳会議G7サミットは対中対決を前面に打ち出し、とりわけ「台湾海峡」「人権」「一帯一路」を標的にして、政治、軍事、経済、メディア・キャンペーン等あらゆる分野で対抗していくことを表明しました。 その一つ一帯一路との対決で焦点化したのが、対コロナワクチンとインフラ投資です。バイデン氏は、“一帯一路によって中国は発展途上国を債務漬けにしている、政権を言いなりにしている”とし、実際は中国が医療支援や経済支援を通じて世界に、とりわけ途上国に対して行っている援助を非難しています。中国のワクチン外交に対して、西側諸国が途上国に大量のワクチン(10億回分)を供給すること、一帯一路に対抗するために低中所得国へ多額の資金供与をすること等が内容となっています。G7首脳コミュニケでは、“アフリカとのパートナーシップの強化のために、IMFなどを通して1,000億ドルを支援増強を目指す”などとしています。しかし今のところ口先だけです。途上国のそれぞれの国の実情や必要を無視して数値目標を掲げただけで、単に中国に対抗する政治的パフォーマンスにすぎません。IMFなどの融資を強化するというG7の方針は、これまでの西側諸国が行ってきた高利貸しと債務奴隷化、植民地支配と収奪、政治的従属関係を強化するものです。 中国の援助を非難するなら、西側諸国が無償・超低利の、紐付きでない援助をすれば済むことです。自分たちと真逆のことを中国がやるからといって、ウソ・デタラメを垂れ流す権利などありません。 しかし、米を盟主とした帝国主義同盟に、一帯一路に対抗する具体的提案をすることは無理との見方は少なくありません。なぜなら一帯一路は、インフラ整備やそこを拠点とした輸出入システム・技術支援など系統的で長期的な計画に基づいて行われ、それぞれに必要な資金が投入されていることから、それに対抗するためには、それ相応の資金とプロジェクトを対案として出さなければならないからです。また米国以外の西側諸国には中国を敵視する事への躊躇があり、むしろ協力関係にある方が有利な経済状況にあることなども理由の一つです。 ※Can The West Devise An Alternative To China's Belt And Road?(RFE/RL) ※G7、途上国へのインフラ支援で新構想 中国の一帯一路に対抗(BBC) ※G7各国 ワクチン 世界への提供で合意へ 中国への対抗色鮮明に(NHK) ※G7「一帯一路」対抗策は中国に痛手か_その1(中国問題グローバル研究所) ※G7「一帯一路」対抗策は中国に痛手か_その2:対アフリカ中国債務はわずか20%(中国問題グローバル研究所) 遠藤誉氏(中国問題グローバル研究所所長)はこの記事でG7の今回のコミュニケに対して違和感を表明しています。氏は厳しい中国批判で有名ですが、その氏でさえデタラメな一帯一路批判に根拠を示して批判しています。世界全体の対アフリカ債務に占める中国の割合は20%程度、アフリカ諸国が中国に返済した利息は総額の17%であることから、むしろ残りの80%の国・機関が高利貸しをしていると言えること、返済リスクの最も高いアフリカ15ヶ国への中国の投資割合は少ないことから、債務漬けで破綻に追い込んでいるのは中国ではないことなどをジュビリー統計などをもとに明らかにしています。 一帯一路の関係を土台に実現した即座のマスク・ワクチン支援 G7が一帯一路を敵視するのは、中国が、米国を頂点とする西側諸国がこれまでやってきた略奪的な新植民地主義支配とは全く別の関係、すなわち「平等互恵」の関係で影響力を拡大しているからに他なりません。しかし中国のそのような平等互恵の姿勢はほとんど全く報道されていません。日本のメディアは、これまで事あるごとに“中国は一帯一路で覇権主義を追求している。スリランカでは債務の罠で港が奪われた。中国に気をつけろ”などと報じてきました。登場するコメンテーター(解説者)も中国嫌悪感を丸出しにして中国の言うこと為すことを問題だらけと一方的に決めつけることに終始しています。「マスク・ワクチン外交で途上国を取り込もうとしている」「借金漬けにして言うことを聞かす国」の類を言いふらしているのです。 しかしマスクやワクチンを即座に入手する必要がありながら入手することができない国々に届けることがいけないことなのでしょうか。命と生活を守ること、困っている国に手を差し伸べることは最優先にすべき大事なことではないでしょうか。中国は、自国で感染を抑え込むや否や、感染対策に当たる医療チームを世界各地に派遣し、マスクや人工呼吸器をはじめ医療資材を提供しました。中国は初期対応で国際的な責任を果たしたのです。批判を受ける筋合いではありません。 ※中国での徹底した新型コロナ対策については本シリーズの(No.8) を参照のこと。 (No.8) 中国の「ゼロコロナ」政策に学ぶべき(上)−河北省石家荘市でのコロナ感染に対する徹底した検疫政策− では、なぜ中国は途上諸国に対してマスクやワクチンの支援が即座にできたのでしょうか。中国には新型コロナ感染パンデミックを克服する意欲があり力もあります。感染症対策の医療水準は支援体制も含めて世界トップクラスにあります。それに加えて、一帯一路構想の実現に向けた取り組みにより、沿線各国との信頼関係を築いてきたことに解く鍵があるのではないでしょうか。つまり、他国を支配するためにマスク・ワクチン供与に乗り出したのではなく、これまでに築いてきた支援関係・信頼関係が土台にあったからこそ、即座の対応が可能だったのです。それだけでなく、領有権問題などで対立関係にある国にすら積極的にマスク・ワクチンを提供し、両者間の問題を棚上げして平和と友好の構築に努めています。 ※中国ワクチン援助80カ国に(福井新聞) ※中国:マスク・ワクチン外交と一帯一路(国際貿易投資研究所) ※ワクチンは水利・領有権問題と引き替え 中国は外交の切り札に(東京新聞) この記事は、悪意ある表題が付いていますが、意味するところは、水利・領有権問題を棚上げにして、人道支援を優先したということです。 加えて言うならば、これまで中国は2,000億枚余のマスク、20億着の防護服、8億個の検査キットを、途上国を含む一帯一路関係国に供与していますが、実は輸出先としてはそれ以上に米国、ドイツ、日本など当のG7諸国が圧倒的に上位にきています。G7諸国は中国から膨大な量のマスクや人工呼吸器の供給を受けながら、それを途上国へ供与したら「マスク外交」などと批判しているのです。 コロナ下で農業・食糧生産や公衆衛生を支えた一帯一路 2020年からの新型コロナパンデミックの影響で、中国の対外投資は概ね、縮小を余儀なくされました。2020年1〜10月の非金融対外直接投資額は、前年同期に比べ-4.5%の864億ドルとなっています。しかし57国に及ぶ一帯一路沿線国に対する投資は逆に増加しています。ただし、従来進めてきた対外農業協力は人とモノとのセットが主流のため、停滞を余儀なくされています。継続中の案件は現状維持ですが、新規投資事業はストップしています。増加したのは人の移動を伴わない農場建設や事業継続のための物資(各種生産資材・農機・運搬機械等)の輸送によるものと考えられます。一帯一路のインフラ整備・工場建設・資源開発・農場建設・灌漑等も人の帯同が伴います。事業の縮小もしくは休止に追い込まれたケースは多いと思われます。 しかし、収束の見通しがつかないコロナ禍の中で、2020年6月の「一帯一路国際協力ハイクラスオンライン会議」で修正がなされ、「健康シルクロード」、「新型コロナ対症医薬品・食品・農産物の相互供給」、「デジタル経済シルクロード」にとりくむ合意がなされました。その後、中国が開発したワクチンの供給体制の構築に繋がり、「中国−ASEAN商業貿易デジタル化プラットホーム」等の構築に結実していきました。農業面では、農業対象投資国や援助先に医療専門家の派遣やマスクの供給、新型コロナ防疫指導を行いました。たとえば東ティモールへのコメや食用油の提供、アンゴラへの60万人分の飲用水の確保のための安全な水源確保、水道管、浄水場などの建設が報告されています。 中国でも一時期マスク不足が起きましたが、全国の大規模農場の倉庫や農業用のハウスの一部を急遽マスク製造ラインに変えて解消しました。それが、コロナ禍で苦しんでいる他国への援助に使われていったのです。世界的なコロナ禍は、収束するには程遠い状況ですが、中国はできる限りの協力を行おうとしています。一例をあげると、農業面では、自ら経験した農場の一部を利用したマスク等医療関係物資の製造や、農産物物流ルートを使ったそれらの内外への輸送を投資対象国にも構築する協力を行おうとしています。食品安全の指導や協力、生態系農業の協力、電商システムの移転や構築協力、さらに、デジタルプラットフォームを利用した食品の発注・保管システムの構築もなされる可能性があります。これらからわかるように、中国はヒューマニズムに基づいて協力関係を築いていこうとしているのです。 ※コロナ禍に直面する中国の一帯一路政策と対外農業直接投資の変容―(その3)(科学技術振興機構) ※一帯一路パートナー国に対する新型コロナウイルス関連支援・協力策を発表(ジェトロ) ※「一帯一路」国際協力ハイレベルビデオ会議 の共同声明】(日中投資促進機構) ※Seeking Relief: China’s Overseas Debt After COVID-19(Rhodium Group) 2021年8月10日 関連記事 (No.55)中国の「債務の罠」プロパガンダのデタラメ (No.44)米の経済的・政治的支配からの脱却を目指すGDIフレンズグループ(下) (No.43)米の経済的・政治的支配からの脱却を目指すGDIフレンズグループ(上) (No.36)「一帯一路」は覇権主義なのか(その5) 植民地支配・収奪からの脱却を目指す世界史的事業 (No.35)「一帯一路」は覇権主義なのか(その4) 執拗な「一帯一路」敵視キャンペーンに反論する (No.34)「一帯一路」は覇権主義なのか(その3) 「債務の罠」は米国とメディアが作り出した虚像(2)――スリランカの例 (No.33)「一帯一路」は覇権主義なのか(その2) 「中国による債務の罠」は米国とメディアが作り出した虚像(1)――ザンビアの例 |
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