数世紀にわたってアフリカを略奪してきたのは西側諸国の植民地支配 米国が一帯一路への敵視を露わにしたのは、トランプ政権下でペンス副大統領(当時)が2018年10月のハドソン研究所での演説で、「中国はいわゆる『借金漬け外交』を利用してその影響を拡大している」と語ってからです。西側メディア、日本メディアも、これに飛びつき、一大プロパガンダが始まりました。 トランプ政権はこれに先立つ8月、国防権限法を成立させ、(1)ファーウェイ、ZTEなど中国企業5社の製通信機器の政府機関による調達禁止、同製品を使う企業との取引打ち切り、(2)輸出管理・投資規制強化、(3)サーバー防衛の支援強化等々で中強硬策を打ち出し、対中貿易戦争を仕掛けていました。発展著しい中国に対し恐れを抱き、「新冷戦」とも言える敵視政策の一環として一帯一路憎悪キャンペーンを繰り広げたのです。それは、一帯一路が米国の既得権益を脅かし、収奪されていた国々が米国や西側諸国のくびきから解放されていくことへの恐怖からなのです。何世紀にもわたってアフリカ大陸を奴隷化し、略奪し、植民地にしたのは当の西側諸国だということを彼らは覆い隠しています。 1885年、アフリカ大陸全体をヨーロッパの大国間で分割して以来、1960年代まで、西側はアフリカの人々の主権を取り上げてきました。アフリカ諸国が独立する前に、すでに経済的権益は奪いつくされていました。独立後も、大企業のための何の制約もないやりたい放題の略奪が行われました。西側諸国は、ひも付き援助で途上国に鉱石の掘削だけをやらせて、加工処理、新技術開発、販売など肝心なところは全てを支配し、収奪した富を吸い上げました。いわゆる「モノカルチャー型開発モデル」しか許しませんでした。新植民地主義と呼ばれる所以です。結果、発展から取り残され、債務だけが膨らみ、先進国西欧諸国と途上国との格差、不平等は拡大を極めました。 一帯一路は、国際的な貧困撲滅の闘いという側面をもつています。上下水道、電気、通信、道路と交通手段等の公衆衛生に関わるインフラを整備することこそが貧困克服と経済発展の基礎を作り出し、その上で遅れた地域や家庭、個人にまで目を配り残らず貧困からの脱却をめざすというものです。中国は、改革開放以降主として東部での経済発展で得られた原資を、自国の貧困対策に投じてきましたが、さらにアジアアフリカの途上国に投資することで、世界的な貧困や格差の克服に貢献しようと考えたのです。 中国がアフリカで果たす役割と欧米と日本のメディアの嘘 日本を含む西側政府やメディアは、既に問題にした「債務の罠」をはじめ「中国企業は中国人労働者のみを雇用している」「アフリカで大規模な土地を取得している」等様々な根拠をでっち上げ、一帯一路を非難しています。以下、『アフリカにおける中国の役割に関する5つの帝国主義による神話』(ニノ・ブラウン)等をもとに、それらを検証していきます。 ※Five imperialist myths about China’s role in Africa(Liberation School) (1)「中国はアフリカを収奪・略奪している」? 中国がアフリカとの関係を強めたのは2000年代に入ってからで、アフリカとの主要な貿易相手国になったのは2010年ごろです。先述したように、アフリカからの中国との関係を強めるきっかけとなったのは、2007/08年の金融経済危機にあります。アフリカはIMF・世銀や米ドル、西側の金融資本や多国籍企業に依存していたため、欧米の貸し手が一斉に資金を引き揚げると、アフリカ諸国は資金難から多くの資産を売却せざるを得なくなりました。西側は残忍な緊縮財政を課しました。アフリカ諸国は、対抗策として中国との関係を強めていったのです。 中国は、一帯一路政策によって途上国支援を行っています。IMF・世銀や西側金融資本や多国籍企業が途上国から法外の超過利潤を収奪する新植民地主義支配の枠組みでしか発展が許されなかった途上諸国に、別の選択肢を提供しているのです。自国の産業構造を主体的に決めることができるアフリカの技術革新とインフラ整備にかなりの投資をしています。 代表的なものとして、ケニアのナイロビとモンバサの最大の港を結ぶ標準軌鉄道、エチオピアの首都アディスアベバとジブチの国の港を結ぶ鉄道プロジェクトがあります。これにより、輸送がより簡単に、より速く、より安くなり、仕事と収入が生まれ、関連する経済プロジェクトも生まれました。また、10か国以上で電気ダムの建設に関わり慢性的な停電の解決に貢献したり、大陸の航空接続のための空港に資金を提供したりしています。それ以外でも、サハラ以南で1万の村にデジタルテレビを普及させる衛星テレビプロジェクトの支援も行っています。2020年7月末までに、19カ国の8100余りの村で設置工事が完了し、アフリカの農村部の発展を促し、情報格差を縮小させる役割を果たしています。当然、設置と展開の管理をするエンジニアの育成にも協力し、衛星の打ち上げにも協力しています。 中国の投資、融資、助成金は、「新植民地主義」の在り方に対抗することをめざしています。アフリカ諸国が自国の経済能力を高め、西側との交渉の立場を高める機会を客観的には提供しているのです。決して略奪などと言われる筋合いのものではありません。 ※Development funding is not debt trap diplomacy(CGTN) ※Is there really a debt crisis in Africa?(CGTN) (2)「中国企業は中国人労働者のみを雇用している」? マッキンゼーのコンサルティング会社は、アフリカの1000社の中国企業を調査した後、アフリカのすべての10000社の中国企業だとすでに数百万人のアフリカ人を雇用しているだろうと述べています。中国アフリカ研究イニシアチブの調査では、40を超えるアフリカ諸国の400の中国企業及びプロジェクトの従業員のうち、地元の人々は五分の四以上を占めていることが報告されています。ほかの調査でも、労働者の4分の3以上が現地の人であることが明らかにされています。たしかに他のすべての国の企業同様、職場の不正やパワハラなどが報告されており、中国企業も例外ではありません。しかし、中国の労働者がアフリカ人の仕事を奪っているというのは真実ではありません。 ※中国系企業の労働条件(現代アフリカ地域研究センター) ※[FT]「アフリカで搾取する中国」は大きな間違い(日本経済新聞) ※Chinese companies using majority of African workers in Africa(Focac) ※「アフリカにおける中国企業と雇用動向:比較分析」2019年7月ロンドンのSOAS大学の報告[PDF] アンゴラとエチオピアでの4年間のフィールドワークと労働者調査に基づいて、中国企業が地元の人々を雇用しておらず、労働条件が搾取的であり、スキル開発に貢献していないという非難が間違いであることを明らかにしている。たとえば、エチオピアでは、製造業と建設業で中国人労働者とほぼ同数の現地人労働者を雇用している。 (3)「中国はアフリカで大規模な土地を取得している」? 西側の報道機関は中国は1500万エーカー(607万ha)の土地を所有しているとリポートしています。しかし、ジョンズ・ホプキンス大学のデボラ・ブラウティガムの研究チームが12か国以上で3年間のフィールドワークを行った結果、「70万エーカー(28.3万ha)未満」の土地の所有または借地しか見つけられませんでした。そもそも中国は土地取得自体に執着していません。中国はアフリカやアジアの多くの国で農地投資をしていますが、大部分の国は外国法人等の所有権を認めていないため、中国が借地などで農地権利行使できる対象を「契約面積」として表しています。それによればアフリカの19カ国で39件、56万haとなっています。いずれも西側メディアの宣伝する土地取得のイメージからはほど遠いものです。 中国の対アフリカ農業直接投資の中身は、そこから直接得られる利益より農業技術協力重点が置かれています。中国の農業協力は、政府援助の重要な柱であり、農業及び農村開発と貧困削減の促進のために行っています。農場の建設、農業技術モデルセンター、農業技術ステーション、灌漑プロジェクト、農業機械、農産物加工設備等の提供、農業技術専門家の派遣、農業開発コンサルティング、農業人材育成等から成り立っています。ギニアビザウの「水稲生産モデルセンター」無償協力事業、ブルキナファソの「粟穀物種子共同研究センター」協力事業、ナイジェリア農業技術実証センタープロジェクト、さらに、ザンビア、タンザニア、ケニア、アンゴラ、ウガンダ、エチオピア、モーリタニアなど、支援は27か国に及んでいます。 これらは、主要農産物の収量向上の実証実験やその普及事業を行い、現地農業企業の成長に寄与していこうとするものです。さらに一帯一路政策により、農業基盤整備、輸送網整備、農産物市場整備など多方面にわたってアフリカ諸国の発展に寄与しています。中国自身の農業を改善するととともに国内の進んだ農業技術や優れた人材を海外協力に開放する"双招双引"と言われています。 ※コロナ禍に直面する中国の一帯一路政策と対外農業直接投資の変容―援助外交と経済合理性のはざまで―(その2)(科学技術振興機構) ※Opinion: U.S. politicians get China in Africa all wrong(Washingtonpost) ※中国が広大な砂漠広がるモーリタニアで起こした奇跡( 「一帯一路」ニュースネットワーク) (4)「中国は豊富な天然資源を持つアフリカ諸国を標的にしている」? 中国の投資を受けている上位10か国のうち、5か国(エジプト、モーリシャス、タンザニア、エチオピア、マダガスカル)は資源が豊富な国ではありません。OECDは中国のアフリカへの直接投資は国際比較において天然資源セクターに特に隔たってはいないと報告しています。 「中国はアフリカの資源を略奪している」。とんでもないすり替えです。確かに、中国企業はアフリカ諸国と商業ベースで取引しています。鉱物資源を輸入し、原材料を加工して西側市場に輸出しています。しかし、この取引全体を世界的に支配するのは西側の資本主義的貿易構造なのです。西欧の多国籍企業がコバルトを採掘し、中国のドイツ企業で商品に製造され、西洋に販売されるのです。中国企業が鉱物を採掘する場合でも、中国国内のヨーロッパ企業やアメリカ企業で製造され西洋で販売されるのです。この過程でグローバル独占企業は莫大な利潤を吸い上げているのです。中国企業もこの枠組みの中に組み込まれています。問題はグローバル資本主義の不等価交換の世界貿易システムにあるのです。いかに既存システムを変革していくかが問われています。 ※China’s Investments in Africa: What’s the Real Story?(Wharton) (5)「ジブチ基地は中国のアフリカ軍事進出拠点」? 中国の軍事覇権としてやり玉に挙げられるのがジブチの基地問題です。ジブチは一帯一路の重要な補給・物流拠点ですが、確かに中国のPKO部隊が駐留する港でもあります。これは、中国のPKO政策の変遷の中で位置づけなければなりません。米ソ冷戦後、ソ連崩壊後、米NATOによるユーゴ介入をきっかけに、「人道主義的介入」をどう阻止していくかを検討し、それまでPKOを批判してきた立場を一転し、慎重に国連PKOへの参加を拡大してきました。参加することで、傍若無人な米欧諸国の途上国介入を牽制しようとしたのです。あくまでも「内政不干渉」「人道主義的介入反対」を掲げ、国連PKOに任せよという論を展開しました。ジブチはこの「物流拠点」です。その証拠が巨大なコンテナ・ターミナルです。圧倒的な軍事力を持つ米国と同盟国日本の拠点のすぐ横での「軍事基地」などどんな意味があるのでしょうか。 現在PKOが派遣されている国は、スーダン、南スーダン、コンゴ、マリ、ソマリア、コソボ、レバノンなどです。いずれも米をはじめとする西側諸国が介入し内戦を引き起こし手を付けられないほど政情が悪化し、PKOによってなんとか治安が保たれている国々です。一方PKO要員を派遣している上位国は、エチオピア(8321人)、インド(7606人)、パキスタン(7128人)、バングラデシュ(6900人)、ルワンダ(6137人)、ネパール(5212人)、ブルキナファソ(2993人)、インドネシア(2871人)、セネガル(2837人)、ガーナ(2794人)、中国(2567人)等となっています。政情悪化させられた途上国にたいして、同じく途上国が危険を伴うPKO要員を派遣して尻ぬぐいしているという構図があるのです。なお、米国のPKO派遣要員はわずか68人にすぎません。めちゃくちゃにするだけして手を付けられなくなったら、他国のPKOに任せて無責任に撤退というのが米国なのです。
2021年8月11日 関連記事 (No.55)中国の「債務の罠」プロパガンダのデタラメ (No.44)米の経済的・政治的支配からの脱却を目指すGDIフレンズグループ(下) (No.43)米の経済的・政治的支配からの脱却を目指すGDIフレンズグループ(上) (No.36)「一帯一路」は覇権主義なのか(その5) 植民地支配・収奪からの脱却を目指す世界史的事業 (No.34)「一帯一路」は覇権主義なのか(その3) 「債務の罠」は米国とメディアが作り出した虚像(2)――スリランカの例 (No.33)「一帯一路」は覇権主義なのか(その2) 「中国による債務の罠」は米国とメディアが作り出した虚像(1)――ザンビアの例 (No.32)「一帯一路」は覇権主義なのか(その1) コロナのもとで真価を発揮した「一帯一路」 |
|