シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.26) バイデン「武漢ウイルス研漏洩説」のウソ・デタラメを暴露する(下)

権力に迎合する「科学者」
 今回のバイデン大統領の「研究所漏洩説」再強調の動き、特にメディアの中国攻撃の動きの背景にはいくつかの応援団が存在しています。一つは科学者の動きで「18人の著名な科学者」が科学雑誌「サイエンス」に書簡(※1)の形で動物起源説と並んで「研究所漏洩説」も調べるべきだと意見表明しています。これらの科学者たちはWHO報告書の動物起源説がまだ証明されていないのだから、「研究所漏洩説」もまだ検討すべきだというのです。非科学的なトランプと同列に見られる可能性があったので今まで黙っていたが、いまや同列に見られる危険がなくなったので声を上げたと伝えられています。まことに科学者らしからぬ姿勢です。科学者の中にも権力に迎合する人たち「政治屋」は存在します。そういう人たちなのでしょう。
 しかし、これまでたくさんの実例がある動物起源説(SARS、MERSなど人獣共通感染症のほとんどは動物起源です)と、何の証拠もない空っぽの研究室漏洩仮説を同等に扱うことそのものが間違っています。次元の違う知見を同列視することで、一見して「科学的」な姿勢を装っているだけです。また、彼らの要請先が3月のWHO報告書に対して懸念と異論を表明した米欧日などの政府だけであることは、この科学者たちが公平な立場などではなく、初めから米日欧政府と並んで中国批判の立場に立って声を上げていることを示しています。その後、科学雑誌「ネーチャー」には彼らの動きが科学界を分断させるもので、差別やいじめを誘起するものだという批判(※2)が寄せられています。
※1 Investigate the origins of COVID-19(雑誌science)
※2 Divisive COVID ‘lab leak’debate prompts dire warnings from researchers(雑誌nature)

怪しげなでっち上げ屋「コロナのゼンツ」たち
 もう一つの応援団はもっと露骨に反中国を前に出したエセ科学者です。メディアは何かあれば彼らの説を情報発信源として頻繁に引用します。まるで新疆ウイグルのジェノサイド問題での「エイドリアン・ゼンツ」のような人物が新型コロナ起源問題でも存在します。
 一人は、米のメディアが何度も取り上げてきた(NHKスペシャルも紹介した)ヤン・リーメン氏です。彼女は中国でウイルス研究者だったと自称し、「中国はもっと早くから感染症の発生を知っていたのに隠していた」と何度も証言しました。「SARS-Cov-2の特徴は自然起源論と強く矛盾する」「実験室での創成が便利であることを実証する」という新型コロナウイルス人工説の論文を査読を経ずに広範にばら撒きました。そしてメディアがそれを何度も取り上げたのです。しかし、それはまったくでたらめでした。「新型コロナウィルスは中国が実験室で作ったものだ」という彼女の論文は科学雑誌ではまったく相手にされず、掲載されませんでした。ただ一つ、極右でトランプ政権の主席戦略官だったスティーブン・バノンらが主宰する「法の支配協会」のウェブサイト(ウイルスや感染症とは何の関係もありません)に掲載されているだけです。彼女が査読前のオープンサイトにも投稿したこの論文に対しては、さまざまな批判が出され、論点はことごとく反論されています(※3)。今では中国で居たときにコロナウイルスの研究に携わっていなかったことも暴かれています(※4)。反中国の虚偽の有名な情報発信源です。
※3 例えば、ヤンの論文に対する査読者のコメントは以下にある。
 Reviews of "Unusual Features of the SARS-CoV-2 Genome Suggesting Sophisticated Laboratory Modification Rather Than Natural Evolution and Delineation of Its Probable Synthetic Route"(RR:C19)
 ジョンズ・ホプキンス保健安全保障センターのヤン論文に対する批判
※4 「コロナは武漢の研究所で作られた」中国人学者が論文発表→専門家は「荒唐無稽」と指摘(huffpost2020年9月17日)
※5 Li-Meng Yan(Wikipedia)  
彼女が在籍したとされる香港大学が当時彼女は新型コロナウイルスに携わっていなかったと声明している。

 もう一つの応援団には執拗に「ウイルス人工説」を唱える何人かの科学者がいます。そのうちの一つのグループにはバイデン政権に共鳴する英国情報機関が深く結びついています。ここにも「コロナのゼンツ」がいるのです。英のアンガス・ダルグリッシュ教授(腫瘍学)とノルウェーのバーガー・ソレンセン博士だ。彼らは昨年5月から「新型コロナの遺伝子配列に自然ではありえない人工の加工の跡があり、武漢ウイルス研で作られたものだ」と主張し続けています。武漢ウイルス研の石正麗研究員らが「中国の洞窟のコウモリのコロナウイルスをバックボーンに、新しいスパイクを付け加えて致命的なコロナウイルスを作った」と主張しています(※6)。他の科学者たちが自然に存在するコロナウイルスの中にダルグリッシュらが「自然ではありえない」と表現し、人工説の根拠にしてきた「特徴的な構造」を持つものをつぎつぎ発見し、科学界から反論される中で、彼らの主張は全く信ぴょう性を失いました(※7)。彼らの論文はいくつもの科学雑誌に掲載を拒否されどこにも掲載されませんでした。しかし、英国の情報機関MI6の元局長リチャード・ディアラブが昨年この主張を発見し、称賛してさまざまな情報機関やメディアに売り込んだのです。今回もイギリスのデイリー・メール紙(※6)やサンデー・タイムズ紙が「研究所漏洩説」を大々的に報じてバイデンにエールを送っていますが、その情報源はダルグリッシュらの論文です。これらなのメディアは近日中にオンラインの科学雑誌QBRN(ケンブリッジ)が近日中に掲載される予定の論文を見て記事を書いたといいます。しかし、まだ掲載されていません。果たして科学的根拠もなしに「武漢ウイルス研が犯人」という論文が掲載されるのでしょうか。
※6 デイリーメールオンラインの記事
※7 The proximal origin of SARS-CoV-2(SARS-CoV-2の近位起源 Nature Medicin 20203.17) 
この論文でアンダーセンらは新型コロナウイルスが自然発生である事を証明する。その後次々とそれまで新型コロナに「特異」とされてきた構造(人工論者の根拠)をもつ自然のウイルスが発見された。

 「新型コロナ人工説」を執拗に主張し、自然起源説(動物起源説)に敵意をむき出しにしているもう一つのグループがユーリ・デイキン(カナダ・長寿バイオテクノロジー起業家)とロッサナ・セグルド(インスブルッグ大テクニカルアシスタント)です。彼らは2020年5月には新型コロナウイルスの受容体結合ドメインRBD--細胞に結合する部分--の構造の特異性を主張してきました(この点ではダルグリシュらと同様です)。上記のように、そのような構造を持つものが自然界に他にもあることが報告され、主張が崩壊してからも、確かに自然に発生したかもしれないけれども、「遺伝子操作が行われた可能性もある」、だから「人工説=研究所漏洩説」を検証し続けるべきだと言い続けています。oreの空想の産物を検証しろと叫んでいるのです。彼らは雲南で採取されたコウモリのコロナウイルスRaTG13をテンプレートにパンゴリンのコロナウイルスのRBDを遺伝子操作で組み替えて作ったのが新型コロナウイルスだと主張しますが、RaTG13は新型コロナと96%の近似性を持つけれど、それでもテンプレートに使えるほどは近くないことを無視しています。RaTG13をテンプレートに使っても新型コロナウイルスはできないのです。すると今度は武漢ウイルス研が公表しているRaGT13の遺伝子配列データそのものが信用できないと言い出しています。
 米国内のメディアにもてはやされているデイキンらのもう一つの特徴は、もっぱら「研究所漏洩説」の確証のためにツイッター上で情報収集を続ける情報グループD.R.S.T.I.Cとつながっていることです。このグループはインターネット上のさまざまな情報の断片をつなぎ合わせて自分に都合のいい結論をこじつけていますが、いくら情報の断片をつなぎ合わせても新型コロナの起源を解き明かすことはできません。それは客観的で、正確さをもつ科学だけができることで、しかも多くの時間を必要とする仕事です。

WHOの新たな起源調査「先行感染」調査を妨害するな
 新型コロナの起源解明は次のステージに進む段階に来ています。WHOの起源調査団は調査の第1ステップを終えて3月30日に報告書(※8)を提出しました。報告書は
(1)新型コロナウィルスの起源について4つの仮説を想定し、調査しました。[1]宿主動物からの直接感染、[2]中間宿主を経た間接感染、[3]コールドチェーンを経た感染、[4]研究機関からの漏洩。WHOは[1]から[3]について引き続き研究を進めます。有力な仮説は[2]ですが、確証はありません。[4]は可能性が限りなく低く、今後研究対象から外します。
(2)武漢で最初の感染患者が出た12月8日以前に感染者がいたという証拠は見つけられませんでした。
(3)12月に174人の入院患者がおり、13種類の変異がすでに発生していました。
等の内容を含んでいました。
 普通に考えれば最も自然な動物起源ではなく、非常に特殊な場合しかあり得ない「研究所漏洩起源」にこだわるなら、バイデン政権は次のことを自ら立証する必要があります。彼らの「研究所漏洩説」は2つの段階の証明を必要とします。(a)コウモリのコロナウイルスを人工に改変してSARS-CoV-2ウイルスを作ったこと。(b)そのウイルスが研究所から漏洩したこと。前回のSARSの時には確かに北京の研究所からウイルスが漏洩し、感染が広がりました。しかし、その時はもともとSARSウイルスがあったのです。今回はもともとないものを人工的に作らないと「漏洩」は起こりません。だからこの二つを立証しないかぎり、根拠のない申し立てで誹謗中傷をしているだけの結果になるし、現に米政府がしているのはそれです。(b)の漏洩そのものについても研究所関係者の「誰もコロナにかかっていない」(抗体検査の結果)という事実さえ覆せません。
 新型コロナウイルスの起源に関する科学的調査は次のステップに進み始めています。動物起源説の追跡は武漢で調べるべきことを調べ、次の課題を明らかにしています。12月8日以前の患者は見つからなかった、8万種類以上の動物サンプルからもウイルスは見つからなかった。その結果、もっと範囲を広げて調べることが次の科学的調査の課題です。一つは武漢と同じ時期ないしはそれ以前にウイルス感染の痕跡が見つかっている場所の調査です。すでにイタリアでは調査が始められました。米を含めヨーロッパ各地に先行感染の疑いが記録されています。さらに宿主動物と中間宿主についても一層広い地域と種類での地道なコロナウイルスの調査が必要です。SARSの時は石正麗氏が宿主のコウモリを確定するまで10年以上を要しました。
 起源調査は今の感染の収束後に次のパンデミックが発生するのを防止する上で、また同種のパンデミックを防止するうえで非常に重要です。現在WHOは次のステップの調査の内容を検討しています。この科学的調査こそが起源解明の道です。そしてバイデン政権がやっているように、政治的非難の道具としてこの問題を利用すればするほど、解明への道は困難になります。はっきり言ってWHOの活動の妨害です。確たる証拠もないのに相手の国の重要研究施設、研究内容などありとあらゆるものを自由に見せろ、等という要求を受け入れる国があるはずはありません。米国はウイルス起源問題を中国非難と攻撃の道具として使うことをやめて、科学の手に任せるべきです。
※8 WHO-中国の合同起源調査団報告書(2021年3月30日)

2021年6月15日
リブ・イン・ピース☆9+25

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