シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.25) バイデン「武漢ウイルス研漏洩説」のウソ・デタラメを暴露する(上)

 バイデン大統領は、対中「新冷戦」政策の一環として、新型コロナ起源問題に関して、「武漢ウイルス研漏洩説」(ラボリーク説)でトランプに続いて3回目の対中攻撃を始めました。バイデン大統領は対中政策に関しては丸ごとトランプ政権を引き継いでいます。目下は「台湾有事」と南シナ海、その前は「ウイグル・ジェノサイド」、関税・貿易戦争、ハイテク戦争など。トランプは単独でやりましたが、バイデンは、それを西側諸国全体を束ねて攻撃を加える点で、いっそう危険です。今回も米政府・メディアだけでなく英情報機関・メディアも連携しています。
 日本のメディアは、バイデン政権が何か新しい知見や研究に基づいて発言しているかのように報道していますが、全くウソ・デタラメです。バイデン発言とその元になった情報源は、ほとんど古い報道を焼き直したり、反中宣伝家や反中科学者達の発言をオウム返しにしているだけです。世界保健機関WHOは新型コロナの起源に関する科学的調査を新たな段階に進めようとしています。今回のバイデン発言は、この科学的調査を妨害するものでしかありません。
 メディアの劣化は極限に達しています。メディアの仕事は、真実の追求ではないのでしょうか。米国政府や米国メディアの大本営発表をただ右から左へ垂れ流すだけではないはずです。調査報道はどこへいったのでしょうか。猛省を促します。
 以下、バイデン発言以降のラボリーク説がどれほどデタラメかを報告します。

なぜバイデンはスパイ・諜報機関に調査依頼するのか!
 5月26目に、バイデン大統領は国内の情報機関に対して新.型コロナウイルスの起源と武漢ウイル紙研究所からの漏洩について見直しを行い、90日以内に報告するよう命じました。ウイルス起源に関する解明を科学者にではなく情報機関に命じるなどばかげているとしか言えません。さらに、トランプ政権のベセラ厚生長官は開会中の世界保健会議WHAに対して「ウイルス起源に対する新たな調査」を要求し、それは「透明性があり、科学的根拠に基づき、国際的な専門家がウイルス発生源と初期段階の状況を完全に評価できるような独立性」を備えるべきだと述べました。名指しこそしなかったもののWHOの起源調査報告と中国に対する批判の思惑に満ちた発言です。世界保健機関WHOに復帰した米政府は、WHOの報告書が「きわめて可能性が低い」とした「研究所漏洩説」を復活させるためにWHA会議にねじ込もうとしたのです。
 バイデン大統領の動きと連動して米のメディアが「研究所漏洩」と中国批判のプロパガンダの大キャンペーンを開始しました。新疆ウイグルでの中国批判のための「ジェノサイド宣伝」等と同じやり口です。ウォール・ストリート・ジャーナルは5月23日に米情報機関の報告書を引用し、外国の情報源から得た情報によれば「武漢ウイルス研究所WIVの3人の無名のスタッフが2019年11月にコロナだったかもしれない症状で病院での治療が必要になるほどの体調不良を訴えていた」と報じました(※1)。さらに同紙は6月7日には米ローレンス・リバモア国立研究所の生物テロ防護部門の情報機関が昨年5月(!)に「武漢の研究所流出説は『あり得る』」という報告したことを報じました。CNNやBBC等もバイデン大統領が「コロナ起源について追加調査を指示した」とあたかも流出疑惑が高まったかのように報じました。ロイターだけが「コロナ起源めぐり、米情報機関の見解分かれる」と報じました。
※1 Intelligence on Sick Staff at Wuhan Lab Fuels Debate on Covid-19 Origin(WSJ)

バイデンには何ひとつ新しい証拠や発見はない
 バイデン大統領が何を根拠にどんな判断をしたのでしょうか。何か新しい証拠や発見があったのでしょうか。実はバイデン大統領の5月26日の声明(COVID-19の起源に関する調査に関する大統領声明※2)を見れば非常によくわかります。バイデン大統領は3月に国内情報機関にCOVID-19の起源が動物起源か、実験室事故か最新の分析の報告書を求めました。5月初めに受け取った報告書は、①国内の情報機関は2つのシナリオに集中しているが決定的な結論に達していない、②2つの情報機関は動物起源説に傾き、1つは実験室事故に傾いている、③それぞれが低い、あるいは中程度の信頼性を持つが、大部分の情報機関は一方が他方よりも可能性が高いとする十分な情報があると考えていない、という内容でした。だからバイデン大統領は、情報機関に私たちが決定的な結論に近づける可能性のある情報を収集して、90日後に報告するよう求めたのです。
※2 COVID-19の起源に関する調査に関するジョー・バイデン大統領の声明(5月26日)

メディアにも何一つ新しいものはない
 要するに、国内に18ある情報機関のほとんどは判断できるほど情報を持たず、1つだけが「研究所漏洩」に傾いている、2つは反対に「動物起源」に傾いているということです。トランプ大統領が昨年「私は(証拠を)見た」と叫んだ時、確たる証拠など何もなかったとこうことです。ウォール・ストリート・ジャーナルWSJが報じた内容も今年1月に国務省が公表した「ファクトシート:武漢ウイルス研究所での活動」(※3)で「武漢研究所で複数の研究者が2019年秋にインフル、コロナ両様にとれる症状になった」と述べた内容と寸分違いません。違いは3人という数字が出ているかどうかだけ。要するにトランプ発言から1年以上にわたって「疑惑がある」と中国を非難しながら、具体的な証拠を何一つ出せません。「疑惑」と大騒ぎしてもこの程度の信ぴょう性にすぎなということです。
※3 2021年1月15日の米国務省fact Sheet

 そもそもバイデン大統領は、自身がトランプ政権下で「研究所漏洩」を追跡してきた国務省の組織が、事実に基づいて調査するのではなく、中国が犯人という主張に基づいた事実だけを集めていて信用できないからと、その組織の調査活動を廃止したばかりです。
 自分たち自身が証拠も根拠も確信も持っていない。そんな状態で「中国は透明性がない」、「隠蔽している」、「信頼できない」と中国非難を繰り返しています。恥ずかしげもなく事実無根のプロパガンダをばらまいているという他ありません。
※4 Biden tasks intelligence community to report on Covid origins in 90 days

バイデンの狙い――中間選挙に向け反中攻撃で共和党と競い合う
 バイデンが「研究所漏洩説」で再び中国攻撃を開始したのは、世界保健会議WHAの総会で今後のWHOのウイルス起源調査の方向性が議論されるから、それに「漏洩説」を押し付け、中国の情報隠ぺいを印象付けるためです。つまり国際的な中国非難のツールとして持ち出したのです。
 しかしもう一つは、来年の中間選挙の前哨戦が始まったことが大きい。「研究所漏洩」を巡る立場が米国内の政治争点になっているのです。バイデンがトランプの調査を停止させながら、なぜ根拠薄弱な状態で「研究所漏洩」を振りかざし中国を批判するのでしょうか。それは共和党の議員たちが議会やメディアで「漏洩説」を振り回し、中国を制裁して責任を取らせろと騒いでいるからです。共和党下院のキャッシー・マクリモス・ロジャース議員らはブリンケン国務長官に1月15日付けの国務省ファクトシートに記載された内容について機密指定の解除を求めました。5月26日には共和党のジョシュ・ホーリーとマイク・ブラウン議員が提出した武漢ウイルス研究所とCovid-19 の起源に関する情報の機密解除を求める「2021年新型コロナ起源法」(※5)が全会一致で上院を通過しました。ベイラー大学のピーター・ホッテズ学長は「中国が協力しないなら経済制裁を含む可能な全ての手段の動員」すべきと声高に要求しました。
 共和党支持者の一番の攻撃の矛先は科学を盾にトランプに「逆らい続け」、バイデン政権でも主席医療顧問にあるアンソニー・ファウチ氏に向けられています。彼らの攻撃は、ファウチ氏が所長を務める国立アレルギー・感染症研究所(NIAID;国立衛生研究所の下部組織)が米政府の助成金をピーター・ダザック氏のエコヘルス・アライアンスを通じて武漢ウイルス研究所の研究に提供(研究依頼)しており、ファウチ氏はその研究がウイルスの機能獲得実験を含む実験を行っているのを知っていたという非難です(※6)。つまりファウチ氏がダザック氏と組んで武漢ウイルス研究所が人工のウイルスを作るのを助けたという当てこすりです。ファウチ氏は「政府助成金で機能獲得実験を行っていないことは公表された成果報告書で明らかだ」と反論していますが、共和党議員は「どうして彼らがあなたを騙さないと知っているのか」等と次々と議会で難癖をつけてきています。ファウチ氏は「武漢ウイルス研とグル」という根拠のないでたらめな非難に発言が動揺しています。これまで「研究所漏洩は考えられない」と明言してきたのに、(動物起源が証明されないので)「起源について確証を持てない」ようになったと発言したり、また反対に上院公聴会では「武漢ウイルス研究所の科学者を信頼している、彼らが『ウイルスに対して伝染性を備えるように改造した』とは思わない」と述べたりしています。このような動きに輪をかけているのがトランプの「中国は10兆ドルの賠償をすべきだ」という発言です。
 来年秋の中間選挙を控えて、バイデン政権はトランプの共和党に対中弱腰と攻撃されないために、トランプと張り合って弱みを見せないために、この問題で何よりも対中強硬姿勢を強調する必要があったのです。言い換えると、新型コロナ起源に関して、理屈が通らないトランプと張り合うために強硬姿勢をとることを選んだのです。そのために新しい証拠や根拠がまったくないのに情報機関に「研究所漏洩説」も再度調査しろと動いたのです。
※5 米バイデン政権がここにきて「武漢研究所流出説」に注目し始めた“本当のワケ”

2021年6月13日
リブ・イン・ピース☆9+25

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