シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.20) バイデンも「中国ウイルス」、反中国を大宣伝
武漢調査団は研究所漏洩を否定、コロナ起源調査の継続を求める

 世界保健機構WHOと中国の合同調査団が1月から2月に中国・武漢で行った「新型コロナウィルスの起源調査」の報告を3月30日に公表しました。調査団は昨年5月のWHO総会で新型コロナウイルスの起源と人への感染を明らかにする科学的調査を行うとの決定に基づき組織されました。どの動物が宿主、あるいは中間宿主で、そこからヒトへの感染がどう始まったかを明らかにすることは今後の新規発生の防止に、あるいは類似の人獣共通感染症の防止に重要な意義を持っています。ただしSARSウイルスの調査に10年を要したように、根気強い緻密な研究が必要な調査です。米国政府はすでにWHOから脱退していて直接干渉できませんでしたが、調査団は中国を悪者にしたい米国の政治的圧力とメディアの偏向した報道を受け続けました。中国への入国が少し遅れただけで、やっぱり中国は情報を隠匿するつもりだ、WHOに調査させろとの大合唱。WHOの調査が進み、まとめが自分たちの気に入らない結果になるや、今度は不満の大合唱です。今回も正式の発表と同時に米政府もメディアも一斉に騒ぎ立て始めました。
SARS-CoV-2の起源に関するWHOが招集したグローバル研究(及び付属書)
例えば、「日米、WHO報告書に懸念 「データへのアクセス欠如」―新型コロナ」(時事3月31日)
対照的にGlobal Timesの社説はWHOの報告に偏った報道しかしないメディアを批判。Scientific spirit of US media outlets is dead(Global Times editorial)

WHO・中国合同調査団が報告を公表
 この調査団は新型コロナウイルスの起源と人への感染経路の解明を目的に組織されました。WHO調査団はWHOの科学者7人と各国・各分野の独立した科学者10人の17人から、中国側の科学者も17人で組織され、両者が研究調査の対象、方法、方針などについて合意しながら進めてきました。報告も全体の合意で作られました。本文120頁、付属書198頁。報告の要旨は、以下の通りです。

(1)新型コロナウィルスの起源について
 [1]宿主動物からの直接感染、宿主動物はまだ確定されていないがキクガシラコウモリなどから直接人間に感染した。[2]中間宿主を経た間接感染、宿主動物からセンザンコウなどの生物(中間宿主)に感染し、それが更に人間に感染した。中間宿主も確定していない。[3]コールドチェーンを経た感染、どこかで発生した新型コロナ感染症のウイルスが冷凍食品のパッケージなどに付着して、更に人間に感染した。[4]研究機関(武漢ウイルス研究所や武漢CDC等)からの漏洩の4つの経路の可能性を調査・検討した。調査団報告は[1]から[3]は引き続き研究を進める、「非常に可能性の高い」仮説は[2]で、[1]は「可能性が高い」、[3]は「可能な」経路と評価した。[4]の研究所漏洩説は「極めてありそうもない経路」と断定し、今後のフォローアップ研究も提起されなかった。

(2)12月8日以前の臨床検査について
 2019年後半に武漢とその周辺の呼吸器疾患による罹患率の変化、解熱薬、風邪や咳の薬販売データ、武漢等の病院で保存されたサンプル等の研究から、COVID-19の発生前の数ヶ月間にCOVID-19が発生している証拠はなかった。武漢で最初の感染患者が出た12月8日以前に新型コロナとインフルエンザに共通する症状を見せた7万6千人を調べ、臨床的に精査し新型コロナ感染症と共通する症状と考えられる92名についての抗体検査は全員陰性だった。米が騒ぐ「中国は12月以前の感染者を隠している」という証拠は全くなかった。また「不潔な生鮮市場で感染症が発生した」という言説も、当初言われた華安生鮮市場はいくつかの市場を含む初期のクラスターの1つに過ぎず、これらの市場とまったく関係ない初期の感染者存在した。感染症の発生は別の場所と考えられた。

(3)最初の感染経路について
 [1]遺伝子配列の研究から、武漢での初期に遺伝子配列にはすでに複数のものがあり、直近の祖先の発生時期の推定は11月下旬から12月上旬とするものが一番多かった。[2]他の国の研究データで12月8日を数週間さかのぼって感染流行が始まっていたことが示唆されている。それがコールドチェーンによって伝搬した可能性も否定できない。[3]従って発生場所、初めの感染経路は依然不明のままで、中国国内だけでなく、他の国でも継続した研究が必要、感染源の動物調査も各国で必要というものだった。

お定まりの中国非難。14カ国声明とメディアの一斉攻撃
 WHO・中国合同調査団の報告に対して米国政府及び主要メディアは待ち構えていたかのように不満と非難の声をあげました。米国の「中国は悪者」という非科学的な反中プロパガンダに調査団が従わなかったからで、不満や非難には何の根拠もありません。報告翌日に米と日本を含む14カ国は「WHO新型コロナウイルス起源調査に関する共同声明」を発表しましたが、それは「WHOが中国で実施した調査について、共通の懸念を表明する」「国際専門家による調査の実施が大幅に遅れ、完全なオリジナルのデータ及び検体へのアクセスが欠如していた」とあたかも中国が調査を遅らせ、データを隠蔽したかのような批判です。米欧の多くのメディアも調査団の成果の報道ではなく、声をそろえて隠蔽を非難しました。
 不可解だったのはWHOテドロス事務局長が調査団報告の席上でわざわざ報告の内容を一面化したり内容に反する発言を行ったことです。テドロスは「生データへのアクセスが困難な場合があった」と聞いたと述べました。また研究所からの漏洩について調査団が「極めてありそうにない」と結論づけたことについて「評価が十分広範だったと思わない」「全ての仮説がテーブルに残っている」「さらなる調査が必要だ」と反対しました。米国政府やメディアはこのテドロスの発言を取り出して、そら見たことかと騒ぎました。テドロスはWHOに復帰し、資金を提供する米政府におもねったとしか思えません。しかし、政治的圧力に屈すれば科学は信用を喪失します。
 そもそも生データ問題は、調査団のオーストラリアのドミニク・ドワイヤー教授の「(中国は)初期の症例の要約だけで生データを提供しなかった」との発言を、そらみろとメディアが報じたことに始まります。しかし、後に「ドワイヤーは当局者が『開放的だった』と反対する」。「研究チームは最終的に生のデータを与えられた」と語った(ニュージーランドのnews1、3月7日)ことは全く報じませんでした。一部の生データは個人情報保護など中国の法律の関係で国外に持ち出すことはできませんでしたが、WHOと中国の専門家は一緒に生データを検討しました。今回も調査団のエンバレク団長が「データの制約は他の国でもある事だ」というのを無視してメディアは意図的に一部分を切り出し、全く違う話にでっち上げています。
世界保健機関(WHO)新型コロナウイルス起源調査に関する共同声明(14カ国声明)
報告発表の際のWHOテドロス事務局長の発言
ロイターのインタビュー「Data withheld from WHO team probing COVID-19 origins in China - Tedros」の中で調査団の責任者ベン・エンバレク博士は以下のように述べ、テドロスが取り上げた問題が中国の隠蔽ではないと述べている。
 WHOチームのリーダー、ピーター・ベン・エンバレクは記者会見で、ウイルスが2019年11月または10月に武漢周辺で流通していた可能性は「完全に可能」であり、これまでに文書化されたよりも早く海外に広がる可能性があると語った。
 「私たちは多くの異なる分野でかなり多くのデータにアクセスしたが、もちろん生データに取り込むのが難しい分野があり、それには多くの正当な理由がある」と、彼はプライバシー法やその他の制限を引用して言った。


発生源は武漢ウイルス研究所ではない
 調査団は「研究所からウイルスが漏洩した」ことについては「極めてありそうにない」と明確に結論づけました。武漢ウイルス研究所の石研究員が雲南で2013年に採取したRaTG13というキクガシラコウモリのコロナウイルスが研究所内で感染事故を起こし、武漢市内に漏洩したというのが米国務省が煽った作り話です。米政府はいまだに何の証拠も出せません。
 逆に、第1に、今回の調査では武漢ウイルス研究所が関係者全員の抗体検査を行い、誰一人新型コロナに感染していなかったことが確認されています。研究員から市民への感染など存在しません。
 第2に、RaTG13がそのまま新型コロナウイルスになり得ないことは学術誌では初めから明らかでした。96.2%の共通性と言いますが、3万個の遺伝子配列の塩基のうち4%、1200カ所が変異で異なっており、それは40~70年前に分岐したことを意味します。直接の祖先ではないのです。
 第3に、武漢ウイルス研究所で石研究員らが生きたまま扱っていたウイルスはSARS関係の3種類だけ(SARS対策として研究)であり、RaTG13を含む約300種のサンプルはコウモリの糞などから復元して構成した遺伝子配列しか存在していないウイルスです。現実に存在しないウイルスから感染事故が起こるはずがありません。
 加えて、研究所が厳格に安全基準に従って研究活動を行っていることを調査団は研究所で確認しています。4つの仮説の検討の中で反対(漏洩の可能性がある)の意見がでなかったのはこの研究所漏洩だけで、科学者にとってそれだけ明白だったのです。
Reply to Science Magazine サイエンス誌への石正麗研究員の回答

更に対象の国、動物の範囲を広げた研究が必要
 今回の調査で、新型ウイルスがいつ、どんな形で出現したかは依然不明です。それは当初から予想されたことです。12月8日に武漢で新型コロナ感染症が発生したことは分かっていました。今回の調査はそれ以前に感染者がいたかを調べ、それ以前の感染者が証拠がないとしました。動物からの感染についても初期のクラスター発生地のいくつかの市場を調査し、そこで扱われていた野生生物を調べましたが、直接原因となるウイルスを発見できず、感染症の発生、起源となった生物も明らかになりませんでした。
 起源調査は今回の武漢調査の第1フェーズに続いてより長期の広範囲な第2フェーズに進むことになります。それは今回明らかにならなかった元のウイルスとそれを保持する宿主動物、仲介動物、新型コロナウイルス患者の最初の発現場所と感染経路をより広範囲で研究することです。武漢だけでなく、中国各地、さらには東南アジア各地のコウモリなどの動物調査、そして世界各地で武漢に先行する感染の調査などです。
 米などの共同声明は「迅速で独立した、専門家主導の、干渉を受けない起源の評価」を要求しますが、今回の調査団こそWHOだけでなく各国・各分野の科学者が、現地中国の科学者と協力する独立の調査団でした。だから米の圧力にも屈さず、科学的な結果だけに基づいて報告書を出したのです。米政府の要求する調査団は「中国有罪」を決めつけるためだけのもので、感染症の解明と防止のための起源調査には何の役にも立たないでしょう。

「中国の情報隠蔽と怠慢」はあったのか
 最後に、「中国の隠蔽・怠慢がパンデミックを引き起こした」という宣伝に反論しておきます。BS1スペシャル「謎の感染拡大」(2月7日)は米テキサス大学のローレン・マイヤース教授の「12月中に武漢封鎖に踏み切ることが可能だったのにしなかった」との主張を何の検証もなく取り上げました。しかし、それがあり得ないことは今回の調査でも明らかです。最初の患者は発生は12月8日で、それ以前の患者の痕跡はありませんでした。12月26日に入院した患者で原因不明の肺炎に気がつき、病院は27日に武漢CDCに通報しました。12月30日当時把握されていた入院患者は44人。その規模で、しかも原因も分からない状態で武漢封鎖を決断するなど不可能です。現実を無視した無責任な中国非難です。

 中国政府は1月23日に各地への感染拡大を防ぐために武漢封鎖に踏み切りましたが、その段階で国際的な感染の広がりは各国数人に過ぎず、23日のWHOの「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言発令を巡る議論でも意見が分かれ、30日に発令されました。米国政府は「WHOは中国政府を忖度して遅らせた」と非難するが事実と異なります。逆にWHOは1月初めから各国に情報を流しており、新型感染症に対応する時間的余裕が作り出されました。トランプ元大統領は3月になっても経済優先でまともな対応を取りませんでした。コントロールできないほどの感染爆発と多数の死者の発生への責任追及をかわすために、中国を悪者に仕立て上げようとしました。
 そもそも新型コロナは自然発生の自然災害で発生国責任などありはしません。新型コロナのような人獣共通の感染症は、動物が保有している(そして症状がない)ウイルスがいつ突然変異でヒトへの感染能力を獲得し、さらに突然変異でヒトからヒトへの感染能力を持つか予想することができません。そして、われわれは資本主義のグローバリゼーションと自然破壊の中で、いつこれらの感染症が発生しても不思議でなく、しかも歴史上かつてない速度でヒトが移動する現状でとてつもない速度で感染爆発する事態に直面しています。それはいつどこで発生するか分からず、猛威を振るう自然災害そのものです。「中国ウイルス」と呼び、パンデミックを中国のせいだとする厚かましい主張は全く成り立たちません。取り組まなければならないことは、各国の力を合わせ現状のパンデミックを押さえ込むこと、起源についての科学的調査を進め、宿主や中間宿主の生物を明らかにし、それからの感染経路を明らかにすることで発生の可能性をさげること。また今後の同種の人獣共通感染症防止への知見を深めることです。

補足 ウォールストリート・ジャーナル及びグローバル・タイムズによれば、WHOに復帰したバイデン政権は5月のWHO総会に性懲りもなく「研究所漏洩説」の再調査や「コールドチェーン」による伝搬を否定したり、中国にデータの公表を要求する勧告を持ち出してWHO総会を中国批判の場に利用しようとしています。政治的思惑とプロパガンダを科学的研究に置き換えさせてはなりません。新型コロナウイルス起源調査を政治的にゆがめ科学をねじ曲げようとする米国政府の企みを厳しく批判します。
WHOのコロナ起源調査第2弾、米が勧告へ 中国の仮説に対抗
US 'recommendations' to WHO pushing back on frozen food hypothesis a political farce: Chinese FM(冷凍食品仮説を押し戻そうとする米国のWHOへの勧告は政治的茶番だ)

2021年4月29日
リブ・イン・ピース☆9+25

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