シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.15) WHO武漢調査団と執拗な反中国キャンペーン

WHO調査団の中国・武漢調査のまとめ
 1月からWHOの調査団が中国・武漢に入り「新型コロナウィルスの起源調査」を中国側と共同で行っていました。2月9日に、WHOと中国の調査団が共同で記者会見を開き、一ヶ月に及ぶ調査結果のまとめを口頭で行いました。まとめは、
(1)新型コロナウィルスの起源について4つの仮説を想定し、調査した。[1]宿主動物からの直接感染、[2]中間宿主を経た間接感染、[3]コールドチェーンを経た感染、[4]研究機関からの漏洩。WHOは[1]から[3]について引き続き研究を進める。有力な仮説は[2]だが、確証はない。[4]は可能性が限りなく低く、今後研究対象から外す。
(2)武漢で最初の感染患者が出た12月8日以前に感染者がいたという証拠は見つけられなかった。
(3)12月に174人の入院患者がおり、13種類の変異がすでに発生していた。
という内容でした。

WHO調査団への不満と非難の声
 2月9日のまとめの記者会見に対して米国政府及び多くのメディアから失望と不満、非難の声が上げられました。それは、当初2月中旬に調査報告の要約を公表する予定だったWHO調査団が、要約だけだとかえって誹謗中傷の余地を作るので3月中旬に予定された本報告まで延期せざるをえないほど、悪意に満ちた敵対的態度でした。
 そもそもWHO調査団は初めから政治的な非難の道具として利用されてきました。中国への入国が少し遅れただけで、やっぱり中国は情報を隠匿するつもりだ、WHOに調査させろとの大合唱でした。
 しかし、WHOの調査が進み、まとめが自分たちの気に入らない結果になるや、今度は不満の大合唱。情報を出していないとか見せないとか、形式的な訪問に過ぎない、最初から限界が明らか、そもそも1年後で遅すぎる等々。はては中国国内では言いたいことも言えない、現に国外に出てから本音が出ている等々。調査団に調べさせろと言いながら、調査団の調査対象と結果が気に入らなければ、不満と非難のオンパレードです。しかもそれは、デマとすり替えに基づくものです。
 まず第1に、調査団の目的が異なります。米国務省や西側メディアはまるで目的が中国が新型コロナの発生源であり、世界的感染に責任がある事を明らかにすることにあるかのように扱います。しかし、WHOと中国共同調査団の目的は、新型コロナウィルスがどこからどのように発生したか(起源)を科学的に明らかにし、今後の新型コロナや人獣共通感染症の防止に役立てようというものです。中国を犯罪人のように取り調べるものではありません。(※1)
※1 WHO-convened Global Study of the Origins of SARS-CoV-2:Terms of References for the China Part

 第2に、起源調査は中国側の協力の下WHOの希望通りに行われました。何の隠蔽も妨害もありませんでした。調査団の一員であるピーター・ダザック氏は「要求した全ての場所を訪れ、全ての人と会えた」と述べました。逆に、NYタイムズが後日ダザック氏ら調査団メンバーの発言をねじ曲げて、中国が調査を制限したと書いたことに「それは私の意見ではない」と複数のメンバーが反論し抗議しました。(※2)調査団の記者会見の後(12日)で、WHOのテドロス事務局長は米の反応に配慮し[4]研究所漏洩を除いたことに対して「全ての仮説はテーブルの上にある」と発言し、これをメディアは鬼の首を取ったかのように報じましたが、テドロス事務局長の記者会見に同席したエンバレク団長は「確かに仮説は全てテーブルの上にあるが、可能性は極めて低いし、今後研究する必要はない」と繰り返しました(※3)。
※2 WHO experts slam NYT for twisting, misquoting their words on virus origins probe(Global Times 2/14)
※3 ‘Politics was always in the room.’ WHO mission chief reflects on China trip seeking  COVID-19’s origin(雑誌サイエンス)

 調査団の一人であるオーストラリアのドミニク・ドワイヤー教授が中国が初期の症例の要約だけで生データを提供しなかったと発言したことを、そらみろとばかりメディアが報じました(※4)。エンバレク団長によれば、中国側は12月8日以前の感染が疑わしい患者9万人について調査し、その中で最も感染が疑われる96人に絞って抗体検査を行った結果、全員陰性でした。また、彼らの間に感染症を示すクラスター的な発生はありませんでした。この科学を巡る議論の中で、ドワイヤー氏は生データへのアクセスを要求し、対照的にエンバレク団長はもう少し検査対象を増やした方がいい、12月8日以降の感染者についても抗体検査をして1年以上抗体が残っていることを確かめた方がいいと研究上の助言をしています。情報隠蔽などと言えるものではありません。WHOと中国側の研究者らは専門家の立場から激しい議論をするほど親密な協力関係を築いていきました。ところが、日本では中国で最初の患者発生以前にさかのぼるために9万人にも上る調査が行われていることさえほとんど報じられていません。
※4 WHO武漢調査チーム 豪研究者「中国から詳細データ提供されず」(NHKニュース2/15)

 日本のメディアが「武漢、2019年12⽉に1000⼈超感染か」(2月15日日経)とセンセーショナルな見出しで報じた内容も中国の情報隠しを演出する印象操作に過ぎません。12月段階での事例(重症者と思われる)が174人という今回の調査結果から逆算した想定ですが、すでに昨年2月段階でWHO・中国合同の報告には120人以上の入院患者が報告され、7月末段階のWHO調査団の文献調査でも確認されていました(※1)。今回の調査により詳しい結果が提供されただけです。重要なことは12月段階で13種の変異型が確認されてたことで、エンバレク団長はこれから11月中頃のどこかで発生したのではないかと語りました。その発生場所や経路はまだ分かっていません。だから[1]から[3]のどのケースか、武漢での発生か、世界の他の場所で発生し伝搬したのか(12月以前に感染が報告されたケースが各国にあります)が、今後の研究課題なのです。

発生源が武漢ウイルス研究所WIVでないのは確実
 調査団は「研究所からウイルスが漏洩(ラボリーク)した」ことについては「可能性は限りなく低い」と明確に結論づけました。武漢ウイルス研究所の石研究員が雲南で2013年に採取したRaTG13というキクガシラコウモリのコロナウイルスが研究所内で感染事故を起こし、武漢市内に漏洩したというのが米国務省が煽った憶測と当てこすりです。しかし、トランプも含めて米政府は昨年3月から大声で主張していますが、いまだに何の証拠も出せません。逆に、今回の調査で武漢ウイルス研究所では関係者全員が抗体検査を行い、誰一人新型コロナに感染していなかったことが再確認されました(昨年7月にサイエンスに対する回答※5で石研究員が明かにしています)。
 RaTG13がそのまま新型コロナウイルスになり得ないことは学術誌では初めから自明でした。96.2%の共通性と言いますが、3万個の遺伝子配列の塩基のうち4%、1200カ所が変異で異なっており、それは40~70年前に分岐したことを意味します(※6)。また、RaTG13のコロナ部分(細胞と接続する部分)が新型コロナウイルスと大きく違っています。この最重要部分についてセンザンコウのコロナウイルスが新型コロナウイルスと似ていることが知られ、キクガシラコウモリ→センザンコウ→ヒトと変異を経ながら伝わって新型コロナに変化した可能性があると見られています。いずれにしても、米国務省がいうように雲南省で採取したコウモリのコロナウイルスが研究所から漏れたのではありません。
 付言すれば、武漢ウイルス研究所で石研究員らが生きたまま扱っていたウイルスはSARS関係の3種類だけであり、RaTG13を含む約300種のサンプルはコウモリの糞などから復元して構成した遺伝子配列しか存在していないウイルスです。だから、現実に存在しないウイルスから感染事故が起こるはずがないのです。今回の調査団はそのことも確認しています。
※5 サイエンス誌への回答(石正麗研究員)
※6 ウイルス学:コウモリのウイルスからSARS-CoV-2が分岐した時期(Nature Microbiology)

「中国の情報隠蔽と怠慢」はあったのか
 前述のように今回の調査団の目的には「中国政府の情報隠蔽」「感染拡大の責任」の検証は含まれません。しかし、今回の調査からも新型コロナウイルスが自然発生であり、自然災害と言うほかなく、「発生責任」などありはしないこと、さらに中国政府の対応の遅れや怠慢が新型コロナ感染症が世界的なパンデミックを引き起こしたのではないことは明白です。米政府や日本を含むメディアは中国側の対応の遅れや情報隠蔽があったかのようにいいます。例えばBS1スペシャル「謎の感染拡大」(2月7日)は米テキサス大学のローレン・マイヤース教授の「12月中に武漢封鎖に踏み切ることが可能だったのにしなかった」との主張を何の検証もなく取り上げています。しかし、そんなことがあり得ないことは今回の調査でも明らかです。
 調査団は現在最初の感染発生とみられている12月8日以前に新型コロナ感染症が流行しているいかなる証拠も見つけることができませんでした。そして12月26日に入院した患者で原因不明の肺炎に気がつき、27日に武漢CDCに通報しました。石研究員が上海で出席中の学会から呼び戻されたのは12月30日でした。12月30日当時把握されていた入院患者は44人。発症してから重症化し入院するまで1週間から10日を要したとすると31日までに把握できたのは12月20日までの感染者で入院を要したものにすぎません。その規模で、しかも原因も分からない状態で武漢封鎖を決断するなどあり得ないことで、現実を無視した無責任な中国非難です。
 新型コロナウイルスによる感染症と判定されたのが1月9日、遺伝子配列の発表は12日、ヒトーヒト感染する重大性の確認が14日です。その間に検査薬開発、診断法や治療法開発などの作業が必死で行われました。23日に武漢での大規模感染を押さえ込み、中国各地への感染拡大を防ぐために武漢封鎖に踏み切りましたが、その段階で国際的な感染の広がりは各国数人に過ぎませんでした。23日にはWHOの中でも「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言発令で意見が分かれ、30日に発令されました。これでも米国政府は「WHOは中国政府を忖度して遅らせた」と非難しますが、逆にWHOは1月初めから各国に情報を流しており、武漢での感染爆発は周知され、新型感染症に対応する時間的余裕が作り出されました。
 トランプ元大統領は2月どころか3月になっても中国政府の対応を賞賛し、感染症を全く甘く見てまともな対応を取りませんでした。3月中頃以降の中国批判(「武漢ウイルス」との呼び方やWHO批判)は、米国内でコントロールできないほどに感染爆発を引き起こした責任追及をかわすために、中国を悪者に仕立て上げようとしただけです。各国に広がってはいましたが、同時に対策を取る時間はありました。パンデミックを中国のせいだとする厚かましい主張は成り立ちません。

 今日の米中対立の状況の下では、新型コロナ感染症、WHO調査団など全ての問題が事実に関係なく中国を非難するプロパガンダに使われます。科学者らの発言も歪曲され、わざと政治化されます。上で取り上げたドワイヤー教授について3月7日のニュージーランドのnews1(※7)はより詳しく述べています。「中国が発生源に関する適切な調査を行うことを望まないという世界的な懸念にもかかわらず、ドワイヤーは当局者が『開放的だった』と反対する」「当局はニュージーランドで予想される患者ごとのデータではなく、発生初期に起こったことの要約のみを提供した」「研究チームは最終的に生のデータを与えられた」「この生データの一部をさらに探求する作業が進行中であり、物事が意図的に隠されていたと思う人々の不安を満たしたいと思う」。日本ではこの発言は紹介されず、一方的な中国非難を行っているかのように報道されます。
 あらゆるニュースは、米中対立と「新冷戦」の下では、相手を悪魔化するために歪んだフィルターを通じて元の姿とは似ても似つかないものに加工されている可能性があります。疑ってかかる、根拠を確認する、事実に肉薄し真実を明らかにすることがますます重要になっています。
※7 Australian scientist defends China in wake of WHO probe into Covid-19's origins

2021年3月15日
リブ・イン・ピース☆9+25