シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.4) 「尖閣諸島への中国の脅威」は本当か?(上)

 「中国の公船が111日間連続で日本の『領海』に侵入」「公船は大型化・武装化している」「力による現状変更を狙う中国」など、中国が尖閣諸島を武力で奪いに来るかのような宣伝がなされています。日本では、尖閣諸島は「日本固有の領土」とされ、教科書にもそのように書かれています。そして、これをそのまま信じている人も多いでしょう。「尖閣問題」は、中国への反感をあおる格好の材料になっています。
 日本政府は、「日本固有の領土」である尖閣には「領土問題は存在しない」との立場を取っています。しかし、尖閣に関して日中両政府の立場が異なるのは明白です。これを「問題は存在しない」と強弁し、自国の一方的な立場を主張し続ければ、その先には、何が待っているのでしょうか? 他国に対する領土要求の行き着く先は「武力で領土を取り戻せ」、すなわち戦争そのものです。こんなことを続けていていいのでしょうか?
 領土を巡る争いは、話し合いによって解決するしかないのです。そのために、日中両政府は、尖閣問題は「棚上げする」ということで事実上合意していました。その合意を破ったのは日本側です。日本政府がこれを改め、「棚上げ合意」に復帰することが、まず必要だと考えます。
アムール川に浮かぶ大ウスリー島を巡る、中国とロシアの領有権争いなど、21世紀に入ってからも話し合いで解決した実例がある

 11月24日の日中外相会談でも、中国の王毅外相は、双方が事態を複雑にする行動を避けることや対話を通じた解決を呼びかけ、「双方の努力で東シナ海を平和、協力の海にしていきたい。両国の利益に合致するものだ」と語りました。

「棚上げ合意」を破ったのは日本側
 尖閣について日中両政府の立場が異なるのは、以前からです。それでは、尖閣を巡る日中の対立も、以前から激しかったのでしょうか?
 そんなことはありません。しかし、その中国公船が尖閣近海に頻繁に姿を現すようになったのは、2012年後半からです(下図)。


(海上保安庁ウェブサイト https://www.kaiho.mlit.go.jp/mission/senkaku/senkaku.html より)

 この時何があったのでしょうか? それは、当時の野田政権による尖閣諸島の「国有化」です。この時、中国政府は激しく抗議し、それ以降、尖閣周辺に公船を送って、日本政府を牽制するようになったのです。
尖閣衝突10年、せめぎ合う日中 中国、航行急増/日本、警備を強化(朝日新聞)。「急増」とあるが、実際には急増とは言えないことが、上の図から分かる

 この経緯からいっても、尖閣の「棚上げ合意」を破り、緊張をもたらしているのは、日本の側だということが分かります。したがって、「棚上げ合意」を復活させる責任は日本側にあります。
 にもかかわらず、自民党国防議員連盟が「尖閣を含む南西諸島で、自衛隊と米軍による日米共同訓練を行う」など対応の強化を政府に求める提言を出したり、菅政権が年内にも尖閣にすむ動植物の生態調査をする意向を示すなど、日本側は中国の神経を逆なでするような行動を続けています。
尖閣対応の強化を提言(朝日新聞)
環境省、尖閣の生態調査検討(朝日新聞)

「棚上げ合意」とは?
 1972年の日中国交回復や78年の日中平和友好条約締結の交渉の過程で、尖閣の問題は「棚上げ」にすることが、両国首脳の間で合意されています。このことを示す両国首脳の発言は、広く知られています。
日中国交回復交渉での発言(1972年9月)
 田中角栄首相 尖閣諸島についてどう思うか? 私のところに、いろいろ言ってくる人がいる。
 周恩来首相 尖閣諸島問題については、今回は話したくない。今、これを話すのはよくない。

日中平和友好条約締結に際しての中国の鄧小平副総理の記者会見(1978年10月)
 尖閣諸島を中国では釣魚島と呼ぶ。名前からして違う。確かに尖閣諸島の領有問題については中日間双方に食い違いがある。国交正常化の際、両国はこれに触れないと約束した。今回、平和友好条約交渉でも同じように触れないことで一致した。中国人の知恵からしてこういう方法しか考えられない、というのは、この問題に触れるとはっきり言えなくなる。こういう問題は一時棚上げしても構わない、次の世代は我々より、もっと知恵があるだろう。皆が受け入れられるいい解決方法を見出せるだろう。


 この「棚上げ合意」という明白な事実を、日本政府は公には認めていません。それでも以前は、事実上合意に沿った対応をしてきました。中国漁船が尖閣諸島周辺に現れても追い払うだけでそれ以上の実力行使はしませんでした。1997年11月に署名され、2000年6月に発効した日中漁業協定には、「尖閣周辺海域で中国国民に対して日本の法令を適用しない」旨の、小渕外相(署名当時)から中国にあてた書簡が添付されました。中国人が尖閣諸島の魚釣島に上陸した場合も、国外退去処分ですませました。逆に日本人の立ち入りも禁じてきました。
 にもかかわらず、00年代半ば以降、日本政府は「棚上げ合意」の存在を踏みにじるような対応をするようになり、2010年には、前原外相が「棚上げ合意」の存在を全面否定するに至りました。問題は、この日本側の対応の変化にあるのです。その先に2012年の尖閣国有化があり、現在に至ります。

2020年12月4日
リブ・イン・ピース☆9+25

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