シリーズ:「教育基本条例」の危険(その五)
グローバル社会を批判する人々は矯正が必要?
  

 米国で「ウォールストリートを占拠せよ」を合い言葉に始まった反格差、反貧困、反銀行、反資本主義の動きが全世界に拡大しています。

 “We Are the 99%”−−グローバル社会で成功し富を手中にするのは世界の1%の人々で、残りの99%の人々は切り捨てられ、貧困や飢え、侵略、戦争、環境破壊といった災厄にたたき落とされるというのが日増しに多くの人々の認識に登り、もうガマンできないと行動に駆り立てているのです。
 「銀行は救済され、私たちは売られる」という言葉で表されています。

 米国で言えば、2009年は総所得の50%以上を富裕層20%が独占しました。貧困率は2009年の14.3%から2010年には15.1%と4年連続の上昇となっています(米国勢調査局)。2008年のリーマンショック以来、米政府は不良資産救済プログラム(TARP)に4130億ドル(約31兆8500億円)を投入しましたがそのうち、3140億ドルは税金で賄われました。
 まさしく、貧困層は救済されず、マネーゲームで巨万の富を稼いだ富裕層が破綻すれば湯水のごとく税金が使われているのです。 

 ところで橋下知事・大阪維新の会の教育基本条例では、前文で「グローバル社会に十分に対応できる人材育成」が掲げられ、第二条で6つの基本理念が掲げられています。

教育基本条例
(基本理念)
第二条 府における教育行政は、教育基本法第二条に掲げる目標のほか、次の各号に掲げる具体的な教育理念に従ったものでなければならない。
 一 個人の自由とともに規範意識を重んじる人材を育てること
 二 個人の権利とともに義務を重んじる人材を育てること
 三 他人への依存や責任転嫁をせず、互いに競い合い自己の判断と責任で道を切り開く人材を育てること
 四 不正を許さず、弱者を助ける勇気と思いやりを持ち、自らが社会から受けた恩恵を社会に還元できる人材を育てること
 五 我が国及び郷土の伝統と文化を深く理解し、愛国心及び郷土愛に溢れるとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する人材を育てること
 六 グローバル化が進む中、常に世界の動向を注視しつつ、激化する国際競争に迅速的確に対応できる、世界標準で競争力の高い人材を育てること

 教育基本条例によれば、1%の富裕層が巨万の富を勝ち取ったのは、彼らがグローバル競争に勝ち残ったからであり、かれらは裕福な暮らしをして当然の人材だということになります。

 さらに「基本理念」で掲げられているのは、規範意識を重んじる人材、自らが社会から受けた恩恵を社会に還元できる人材、義務を重んじる人材、他人への依存や責任転嫁をしない人材、愛国心をもった人材、競争力の高い人材です。

 このような基準に照らした場合、貧困や格差をもたらすグローバル社会に反対して全世界で抗議をしている若者たちは、ゆがんだ考えをもっていることになります。社会の恩恵への感謝もないし、貧困を社会の責任に、自分に仕事がないのを銀行や金融資本のせいにしています。彼らに仕事がないのは彼らが能力のない人材だからなのです。政府や国に異議を申し立てるのは規範意識に欠けています。低所得者層の税金を下げるように要求していることも納税の義務を軽んじています。愛国心にも欠け、自分の生活のことばかり考え国際社会に寄与しません。
 このような連中は「2万%強制」の教育によって矯正し、社会への抵抗や抗議をしないよう根性をたたき直さなければなりません。

 教育基本条例は、決して学校教育の場面の問題だけではありません。まさにいま問題になっている経済金融危機・財政危機をもたらした張本人である政府や企業や銀行や金融資本やグローバル資本に都合の良い人材を育成するためのものです。それは格差社会を賛美し不満や反対を押さえつけるイデオロギーを流布するものでしかありません。

2011年10月17日
リブ・イン・ピース☆9+25

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We Are the 99 Percent
Occupy USAのページ


シリーズ:「教育基本条例」の危険
(その一)はじめに――大阪の学校教育を破壊する「教育基本条例」
(その二)「教育行政への政治の関与」「民意の反映」とは、“大阪の教育はオレの好きなようにやらせろ”ということ
(その三)府立学校長からも批判噴出――10月3日維新の会と府立学校長との意見交換会議事録より
(その四)教育をすべて競争にしてしまう
(その五)グローバル社会を批判する人々は矯正が必要?
(その六)教職員間の信頼関係を根底から崩し、教員をつぶしてしまう
(その七)教育基本条例は、"集団的営みとしての教育"を破壊する
(その八)教育基本条例が依拠するのは、すでに破綻したサッチャー「教育改革」
(その九)保護者に、学校への協力や家庭教育の義務が課せられる
(その十)児童・生徒への「懲戒」条項
(その十一)寸劇「ユーケーリョクのコーシ」(家庭教育義務違反の悲劇)
(その十二)橋下語録に見る教育基本条例の危険性
(その十三)学校協議会が、校長・教員の評価、学校評価、教科書選定の権限をもつ強大な権力機関に
(その十四)重要なのは教育の質より生徒の頭数??――理不尽な競争に駆り立てられる公立・私立高校
(その十五)たとえ「民意を反映した」政権でも、教育への政治介入は許されない
(その十六)軍国主義教育(上)──教職員と教育の統制・支配から「教育の死」へ
(その十七)軍国主義教育(下)──教科も行事もあらゆるものが天皇賛美・戦争遂行の道具に