シリーズ:「教育基本条例」の危険(その十三)
学校協議会が、校長・教員の評価、学校評価、教科書選定の
権限をもつ強大な権力機関に
  

学校運営のすべてに口出しできる特別な機関=学校協議会
 条例では「学校協議会」なるものが保護者と教育関係者によって作られることになっています。これについては、朝日新聞連載の「大阪府教育基本条例案とは(下)」でも取り上げられました。
教育基本条例ができた近未来の大阪の学校の姿(朝日新聞より)(リブインピースブログ)

 この学校協議会は、学校について、権力機関といってもいいほどの強大な権限をもっています。 学校協議会が持つ権限は、
○学校運営に関し意見交換や提言
○部活動等の運営に対する助言
○校長の評価
○教科書の推薦に関する協議
○学校評価、
○教員評価

 つまり、部活動を含む学校運営の全てに口出しし、事実上の人事権まで持つという機関なのです。事実上の人事権まで持つというのは、第一九条で「教員の評価に当たっては、学校協議会による教員評価の結果も参照しなければならない」とあり、その評価如何によって教員の処分などが決定されてしまうからです。

 学校協議会のメンバーの人数も、人選の基準も規定されていません。「校長が委嘱した委員で構成される」とのみ書かれているだけです。現在も「学校運営協議会」(地教行法による)が存在しますが、これは保護者や地域住民とのつながりのため“学校や保護者などの意向を踏まえて、学校を設置する自治体の教育委員会が決定する”ことになっています。一方、教育基本条例で規定される「学校協議会」は設置が義務づけられ、校長が委員を選定する権限を持ちます。
 公募で赴任した校長が、自らの意向に沿ったメンバーを選んで学校協議会をつくり、それを基盤にして、学校を強権的に支配するというようなことが現実味を帯びてきます。
 学校協議会は、校長の学校支配を徹底するための、補助権力機関なのです。

地域のボスや右翼に学校支配の道を開く
 朝日新聞では、協議会のメンバーをやらされた保護者が、教員の名前と顔が一致しないのに教員評価や教科書選定をしなければならないと悩み、協議会のメンバーの中の有力者に従ってしまう保護者の姿を描いています。右翼議員や地域のボスといわれるような人物が学校協議会の中核メンバーとなり、その人物が学校協議会を私物化して合法的に権力を行使し始めることにもなる危険が高まります。夫婦共働きや介護といった事情で授業参観や運動会にいくのがやっとという家庭も少なくありません。そのような中で日常的に学校運営に口出しすることのできる人と言えば限られてきます。ただでさえ教職員は校長の方針に服する義務があります。さらに校長の息のかかった学校協議会のメンバーである保護者の顔色を伺わなければならなくなります。協議会は教員評価の権限を持っているからです。
大阪府教育基本条例案とは(下) 保護者も学校運営担う PTAなどには戸惑いも(朝日新聞10月28日朝刊)より抜粋
 A  そうなんだ。目を引くのは「学校協議会」という組織だね。校長の選んだ保護者がメンバーで、今のPTAのように学校運営に ついて意見交換するだけじゃなくて、校長や教員を評価する権限や、どの教科書を使うべきか校長と協議する権限まであるんだ。
 ホー先生 自分の子供が通っている学校のことにそこまで口を出せるとは、すごいのう。
 A  でも保護者の家庭の事情は様々。仕事が忙しい人も、親の介護で手が離せない人もいる。教員評価や教科書選定ができるほど学 校にかかわる時間を作れない人も多いよね。結局、地域のボスが先生の人事や教科書採択を牛耳るのではと心配する人もいるよ。

 学校協議会は学校に設置される訳ですから、メンバーが日常的に校長室に入り込み、児童・生徒たちの現状や意欲を無視して「クラブ活動はサッカーに力を入れろ」とか、「○○先生はうっとうしいからD評価をつけろ」とか「つくる会の教科書にしろ」とか「愛国心教育に力をいれろ」とか様々な提言をすることも可能になります。
 さらに学校協議会は、学校への権力行使を通じて、家庭教育義務の徹底を根拠に、校区・地域の圧力団体となる危険もあります。学校協議会が、家庭での道徳教育やしつけを提言し介入するようになってきたら大変です。

 教科書について言えば、下記第八条にあるように、校長は学校協議会との協議を経て教科書を推薦しなければならず、府教育委員会は校長の推薦した教科書を採択しない場合は議会に理由を付して報告をしなければなりません。ですから事実上学校協議会が教科書を決定する排他的権限をもつといっても過言ではありません。そしてその学校協議会には、その教科書を使う当該学校の教員は排除されています。

教職員は、校長と学校協議会の支配におびえる毎日
 11月9日朝日新聞朝刊に「教育基本条例案「公募」というけれど◇ 校長なり手ない」という記事が掲載されました。以前から、子どもたちに関わっていたいという理由から教頭・校長になるのを固辞する例がありましたが、校長が激務であるという理由でなりたくないという例が増えているというのです。文科省・教育委員会によって、校長は教職員に対して管理職として対峙させられます。真剣に子どもの教育や学校、教職員との関係などを考えれば考えるほど、校長にはなれない状況が生み出されているようです。

 こんな中で、ある特定の意図をもって校長の公募に応じることがますます容易になります。茨木市のある小学校に対して、地域住民をかたる右翼が「音楽授業でちゃんと「君が代」を教えているか授業参観させろと」要求し、当然のことながら学校の自主性を守るために校長がこの介入を拒否するという出来事がありました。ところが、産経新聞などの右翼的な新聞がこの校長を誹謗する記事を書き立てました。右翼は組織的にこのような圧力をかけてきています。
 校長の公募と学校協議会ができれば、こんな回りくどいことをせずに、右翼メンバーが校長になって、あるいは学校協議会の中心メンバーに右翼を選び、学校支配すればよくなります。
教員:希望降任、5年ぶり減 管理職避ける傾向続く−−文科省調査(毎日新聞)
茨木市教委・校長は、右翼・右翼マスコミによる授業への介入拒否の継続を!!(「日の丸・君が代にる人権侵害」市民オンブズパーソン)

 学校協議会の設置によって、教職員は、教育への熱意、自主性、自発性、子どもへの真剣な取り組みなどを奪われ、校長や学校協議会の支配に震え上がる毎日を送らされるということになってしまいます。

(学校協議会)
第十一条 府立高等学校及び府立特別支援学校に、保護者及び教育関係者(当該学校の教員及び職員を除く。)の中から校長が委嘱した委員で構成される学校協議会を設置しなければならない。
2 学校協議会は、校長の求める事項について協議し、学校運営に関し意見交換や提言を行うほか、次に掲げる権限を有する。 
一 第五条第二項及び第四十六条に定める部活動等の運営に対する助言 
二 第八条第三項に定める校長の評価 
三 第八条第四項に定める教科書の推薦に関する協議 
四 第十五条第三項に定める学校評価 
五 第十九条第二項に定める教員評価

(校長及び副校長)
第八条
4 校長は、第十一条に定める学校協議会との協議を経て、採択すべき教科書を推薦することができる。
5 府教育委員会は、前項の校長の推薦を尊重して、教科書を採択しなければならない。
6 府教育委員会が、前項の規定にかかわらず、校長の推薦する教科書を採択しないときには、府教育委員会はその理由を付して議会に報告しなければならない。

(人事評価)
第十九条
2 教員の評価に当たっては、学校協議会による教員評価の結果も参照しなければならない。

2011年11月10日
リブ・イン・ピース☆9+25



シリーズ:「教育基本条例」の危険
(その一)はじめに――大阪の学校教育を破壊する「教育基本条例」
(その二)「教育行政への政治の関与」「民意の反映」とは、“大阪の教育はオレの好きなようにやらせろ”ということ
(その三)府立学校長からも批判噴出――10月3日維新の会と府立学校長との意見交換会議事録より
(その四)教育をすべて競争にしてしまう
(その五)グローバル社会を批判する人々は矯正が必要?
(その六)教職員間の信頼関係を根底から崩し、教員をつぶしてしまう
(その七)教育基本条例は、"集団的営みとしての教育"を破壊する
(その八)教育基本条例が依拠するのは、すでに破綻したサッチャー「教育改革」
(その九)保護者に、学校への協力や家庭教育の義務が課せられる
(その十)児童・生徒への「懲戒」条項
(その十一)寸劇「ユーケーリョクのコーシ」(家庭教育義務違反の悲劇)
(その十二)橋下語録に見る教育基本条例の危険性

(その十三)学校協議会が、校長・教員の評価、学校評価、教科書選定の権限をもつ強大な権力機関に
(その十四)重要なのは教育の質より生徒の頭数??――理不尽な競争に駆り立てられる公立・私立高校
(その十五)たとえ「民意を反映した」政権でも、教育への政治介入は許されない

(その十六)軍国主義教育(上)──教職員と教育の統制・支配から「教育の死」へ
(その十七)軍国主義教育(下)──教科も行事もあらゆるものが天皇賛美・戦争遂行の道具に