野田政権による尖閣諸島国有化に抗議する
  
 野田政権は9月10日、関係閣僚会合で、尖閣諸島の魚釣島、南小島、北小島の3島を国有化する方針を正式に決め、11日午前閣議決定し、その日のうちに地権者と20億5千万円で売買契約を結びました。尖閣諸島の国有化は、「領土紛争」を日中間の外交関係の中心課題に押し上げるだけでなく、沖縄へのオスプレイ配備など南方方面への実際の侵略的兵器増強とも相まって、軍事的緊張を新たな段階に引き上げるものです。私たちは、国有化に強く抗議します。
尖閣購入を閣議決定=地権者と売買契約を締結(時事通信)

 これに対し、中国、台湾から厳しい抗議の声が上がっています。中国外務省は声明を出し、「断固たる反対と強烈な抗議」、「掛け値なしに双方が達した共通認識と了解に立ち戻り、交渉による紛争解決のレールに戻るよう強烈に懇請する」と表明しました。また、温家宝首相自らが「主権と領土問題で政府と人民は絶対に半歩も譲らない」との強い反発を表明しました。中国で、外務省や国営メディアでなく政府首脳が外国の行為をあからさまに批判するのは、異例のことだとされます。野田首相は「何ら問題を惹起するものではない」などとうそぶいていますが、深刻な外交悪化と軍事緊張を高めることになります。
【尖閣国有化】「違法かつ無効」中国外務省の声明全文(産経ニュース)
温首相、「半歩も譲らぬ」 中国側、報復措置も示唆(朝日新聞)
台湾 尖閣諸島国有化に抗議(NHK)

 日本と中国の間には、1972年の国交回復時から、尖閣諸島の領有権については「棚上げ」にするという合意が存在していました。日本政府による国有化はこれに真っ向から反する挑発行為です。中国が反発するのは当然です。「棚上げ」合意を守るべきです。
なぜ「尖閣諸島問題」が起きたのか(リブ・イン・ピース☆9+25)

「尖閣は日本固有の領土」ではない
 「尖閣は日本固有の領土」という日本政府の主張は、全く事実に反します。
 まず第一に、そもそも「固有の領土」なる国際法上の概念はありません。したがって、国際的に全く通用しない、一方的な主張でしかありません。それでも「固有の領土」論を主張することは、軍事紛争に結びつく危険な領土拡張要求です。
 第二に、日本政府の主張の論拠は、「1895年閣議決定で日本領に編入した。所有者のいない土地は、最初に占有した国に取得及び実行支配が認められる(「無主地先占」)」というものです。しかしながら、その約10年前に、当時の中国(清)が尖閣諸島を自国領土と見なしている可能性があること、つまり、「無主地」とは言えないことを、日本政府が認識していたことを示す文書が残っています。その後1894年に日清戦争を開始し、日本の勝利が確定的となった1895年1月14日になって、編入の閣議決定をしました。清が弱体化したこの時を狙い、周辺諸国にその旨を公示もせず、閣議決定の内容を官報にすら掲載せず、こっそりと一方的に日本領土としたのです。日本の中国(清)侵略に乗じてかすめ取ったというのが真実です。
日本政府による「尖閣諸島は日本固有の領土」という主張は真実か(リブ・イン・ピース☆9+25)

 第三に、敗戦に際し日本が受諾したポツダム宣言(1945年9月2日調印)と、同宣言で履行が義務づけられているカイロ宣言(1943年11月)によって、「満州、台湾及び澎湖島のような日本国が中国から武力又は貪欲で盗取した一切の地域」を放棄することを、日本は義務づけられました。第二に上げた歴史的経緯からしても、日本はこの時尖閣諸島を放棄したことになります。
日本は、敗戦で尖閣諸島を放棄しなかったのか(リブ・イン・ピース☆9+25)

「領土問題」は戦争責任の問題
 韓国との間で問題となっている竹島(独島)も、1910年韓国併合に向かう植民地支配の中で、1905年に日本に編入したものです。中国も韓国も、尖閣と竹島の領有権問題を日本の侵略の問題ととらえています。日本政府がこれらを「日本の固有の領土」と主張し「領土紛争」に突き進むことは、日本が引き起こしたアジア太平洋戦争を全く反省せず、戦争責任を放棄し、侵略戦争を正当化し開き直ることに他なりません。
 日本は両国と、侵略戦争の賠償を拒否したまま、戦後の国交を結びました。その過程で日本の当局者は、侵略の責任を否定するばかりか、両国の国民、被害者を侮辱するような態度も平気で取りました。現在でも、日本軍「慰安婦」被害者をはじめ、日本の謝罪と補償を求める声が被害者から上がっていますが、日本は「解決済み」として拒否し続けています。
 尖閣の領有権を「棚上げ」するという合意の上に、日中は国交を回復しましたが、それ自体、中国側にとっては、日本の戦争責任追及を譲歩した結果なのです。その「棚上げ」すらも覆そうとする日本政府の姿勢は、中国政府と民衆の目に、どのように映るでしょうか。
「棚上げ」合意のもう一つの重大な意味(リブ・イン・ピース☆9+25)

領土ナショナリズムの行き着く先は直接的軍事衝突と戦争
 今回の尖閣国有化は、4月16日に石原東京都知事が、「尖閣諸島を都が購入する」と発表したことに端を発しています。石原知事をはじめ、自民党などの野党や在野の右翼的勢力が、政府の「領土問題」への対応を「弱腰」と批判し日本政府がそれに突き上げられる形で事態が進んでいます。
 しかし、そもそも尖閣諸島問題で「固有の領土」論を繰り返し、領土ナショナリズムをあおってきたのは日本政府です。日本政府は尖閣問題を利用し、「動的防衛力」なる概念のもと「南西諸島防衛」強化を打ち出し、与那国島への陸上自衛隊・沿岸監視部隊配置や日米共同演習などで、対中国軍事対抗をエスカレートさせてきました。
 野田首相は、8月24日に「領土問題」についての記者会見を行い、「不正上陸事件を繰り返さないために、政府の総力を挙げて情報収集を強化するとともに、周辺海域での監視、警戒に万全を期す」と発言しました。8月27日には国会で、米軍の新型輸送機オスプレイについて「南西方面の防衛に有用」と答弁しました。尖閣を巡って、中国と軍事衝突することもいとわないというのでしょうか。
平成24年8月24日 野田内閣総理大臣記者会見(首相官邸)
オスプレイ「南西諸島防衛に有用」 首相、衆院予算委で(朝日新聞)

 私たちは、尖閣諸島国有化方針の閣議決定を撤回するよう要求します。「固有の領土」論による不当な領土要求をやめ、侵略戦争と植民地支配の反省に立ち、平和と善隣友好、相互利益の原則に基づく外交交渉を行うよう要求します。

2012年9月12日
リブ・イン・ピース☆9+25