シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.18) 「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(下)
「強制収容所」も「強制労働」も根拠なし

「強制収容所」の虚構――どうやって100~200万人を強制隔離できるのか
 「ジェノサイド」論と併せて「強制労働」「強制収容所」論があります。一昨年米下院でウイグル人権法案が可決された際に、極右共和党議員が騒ぎ立てたのが「現代の強制収容所」「ホロコースト以来見られない規模での大量収用」のデマです。この情報源の一つは、中国人権擁護者ネットワーク(CHRD)です。彼らも米政府の支援を受け、ワシントンに拠点があります。資金源は世界ウイグル会議と同様、CIAの隠れ蓑「全米民主主義基金」(NED)です。彼らのレポートは一方的に国連に提出されただけですが、それが国連が報告したかのようにすり替えてメディアに垂れ流されました。
強制収容施設のウソについては、本シリーズNO.7 新疆ウイグル──貧困対策、テロ活動防止のための教育施設を参照(リブ・イン・ピース☆9+25)

 しかし、その根拠は、彼らが「証言者」として集めた、わずか8人のウイグル人とのインタビューで、そこから「推計」しただけです。8人からどうやって1000万人の動向を「推計」できるのでしょうか。こうして「村人の10%、100万人が再教育拘禁キャンプ」、「村人の20%、200万人が再教育プログラム」なる荒唐無稽な「ホロコースト」がでっち上げられたのです。
 そもそも100万人、200万人をどうやって強制隔離できるのでしょう。いったいどれほど広大な場所を要するのか。何人の監視職員が必要になるのか。膨大な食事や排泄物の処分はいったいどうするのか。病人はどうするのか。虐殺したとして遺体をどう処理しているのか等々、少し考えればデマだと分かります。

豪軍・諜報機関系シンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所」(ASPI)のプロパガンダ
 この中国人権擁護者ネットワーク(CHRD)以上に頻繁に登場するのが「オーストラリア戦略政策研究所」(Australian Strategic Policy Institute、ASPI)です。軍事政策のシンクタンクですが、オーストラリア政府によって設立され、オーストラリア国防省からも資金が出ているオーストラリアの軍・諜報機関のシンクタンクなのです。オーストラリアは、米英が主導する諜報・謀略機関のネットワーク「ファイブアイズ」のメンバーです。資金提供している団体の中には米国務省などの外国政府や民間軍事会社などがあり、なんと日本政府も名を連ねています。こんなところの「報告書」や人物の証言に客観性があると考えるのが大間違いです。この研究所の名前を覚えておいてください。最近、日本の大手メディアにもよく出てきます。朝日新聞、毎日新聞などにも、単に「オーストラリアの研究機関」と称して、公平中立のシンクタンクの顔をして出てきます。
 現在のモリソン首相は対中強硬政策を打ち出し、米軍や日本の自衛隊と共に対中軍事包囲網「クアッド」を形成しているのです。当然、このモリソン政府の軍事外交政策に都合の良い情報を発信しているのです。こんなシンクタンクの作り話を大手メディアが、何の検証もせずに垂れ流しているのです。

 ASPIは新疆ウイグルの「強制労働」「強制収容所」問題で最前面に出ています。このASPIの作り話の手法は、衛星写真をもとに「強制収容所」の証拠としていくつかの建物を指摘するものです。しかし、中国の環球時報(英語版Grobal Times)がチェックしたところ、すべて別の建物でした。下図は、左縦(赤色)がASPIの「強制収容所」と言う建物、右縦(緑色)はそれの実際の建物を示したものです。「フェイク」と「ファクト」を対比しています。☑印を縦に、上から老人医療施設、物流センター、初等学校、中等学校と、いずれも事実は別の建物であることを論証しています。
Xinjiang offers real-site photos to debunk satellite images ‘evidence’ of ‘detention centers’(Global Times)


 昨年2020年5月17日、BS1スペシャル「デジタルハンター~謎のネット調査集団を追う~」が放送されました。まさに「オーストラリアの戦略政策研究所」(ASPI)がまるで独立系の公平中立の研究機関のように紹介されていました。
 この番組そのものは、最近大手メディア(BBC、NYT)や研究機関(ASPI)が次々とネットオタクを採用し、彼らが新時代の調査報道手法を編み出したと賞賛するものです。従来は、情報を得るのに膨大な人員、お金、時間をかけてきたが、SNSの普及でコンピューター画面を見ながら、情報を得られる新時代がやってきた、と。「オープンソース・インベスティゲーション」というようです。
 言うまでもなく、SNSにはウソやデマや誹謗中傷が溢れています。都合に合わせてどんなデマも「オープンソース・インベスティゲーション」の名の下に偽造されるのです。私たちもこんな手法でデマを偽造していたとは、この番組で初めて知りました。BBCやNYTの「調査報道」が劣化し、信用できなくなるのも当然です。そして、こんな偏った番組が「ドキュメンタリー」として放送されるなんて、ジャーナリズムとは一体何なのか問い質す必要がありそうです。
 番組では、カメラがキャンベラのASPI研究所に入り、ネイサン・ルーサーという人物を紹介します。彼はコンピュータ画面を見ながら、衛生画像を指し、建物からバスが出て、近くの工場に送られたと述べ、これが強制収容所の実態であるかのように語ります。しかし、米粒のような何かが動いているだけです。こんな衛星映像など証拠になどなり得ません。次の場面でヴィッキー・シューという人物を登場させ、幾つかの省から沿岸部の省の工場へ労働者が送られた中国の新聞情報とワシントンポストの「現地取材」を併せて、「強制労働」と断言するのです。しかし、中国政府は即座に反論しています。彼女こそ、ゼンツと並ぶもう一人の時の人です。中国の人権侵害を告発する「専門家」としてASPIに採用されたのです。
※BS1スペシャル「デジタルハンター~謎のネット調査集団を追う~」
'Bewitched' Vicky Xu who fabricates Xinjiang story stokes anti-China sentiment in Australia(Grobal Times 2021/04/12)
NHK世界のドキュメンタリーにウイグル問題の際にASPIがよく出てきます。
 ――「超監視社会 70億の容疑者たち」
 ――中国デジタル統治の内側で~潜入新疆ウイグル自治区
西側の支援を受けた「新疆犠牲者データベース」が非難される(Grobal Times 2021/04/11)
 
最近、「グローバル・タイムズ」は、ASPIや他の西側の支援を受けた機関によって作成されたいわゆる「#新疆被害者データベース」のファクトチェック動画を公開しました。その結果、11%の人々が存在しない。58%は犠牲者ではなく、通常の生活を持つ正常な人々だといいます。

中国経済研究者の検証論説も「確固たる根拠はない」
 中国経済研究者の丸川知雄氏は最近、「ウイグル強制労働」に関する論説を日本版ニューズウィークのサイトにアップされました。「新疆の綿花畑では本当に『強制労働』が行われているのか?」です。非常に優れた検証です。メディアや人権団体は、デマを鵜呑みにする前に、なぜこのような研究者に取材しなかったのでしょうか。
 氏の結論は「H&Mなどの大企業が「新疆綿」の取り扱い中止を発表したことで、ウイグル族に対する人権抑圧の新たなシンボルとして浮上した綿花畑での「強制労働」には、今のところ確固たる根拠はない」です。
 その他興味深い検証が満載です。「ゼンツはさすがに自分の議論に無理があると自覚しているのか、『強制と同意との境はあいまいである』としている」。「新疆の再教育施設に入っていた人たちにインタビューをしており、そのうちの一人が『工場で働くか、さもなくば再教育施設に入るかだと言われた』と証言したという…これがこのレポートで示されている新疆での強制労働の存在を示す唯一のエビデンスであるが、これは明らかに綿花農業とは関係がない」。
 「以上で、新疆の綿花農業における強制労働の存在を主張するアメリカとイギリスの4本のレポートを検討したが、このうち自ら証拠を捕えようとしているのはゼンツだけで、他の3本は他のレポートの受け売りである。となるとゼンツのレポートが強制労働説の大元ということになるが、中国の報道を曲解しただけのレポートが騒ぎの元なのだとすれば驚きである」。
「新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?」(ニューズウィークジャパン)

西側政府の全面的な中国叩きが扇動する、「中国ならやりかねない」という偏見と蔑視
 新疆ウイグルについては、その他無数のウソやデマがまき散らされています。中国のテレビネットワーク(CGTN)は、「ファクト・チェック:新疆に関する問題のウソと真実」で、24項目にわたりデマやウソを事細かに検証し、反論しています。「不妊手術の強制」「薬物の強制投与」「信仰の自由、民族言語の弾圧など同化政策」「連絡遮断」「新型コロナをわざと感染」「他の省に強制労働」「墓地の破壊」「子どもを強制的に寄宿舎に閉じ込める」「モスクの破壊」等々。
「ファクト・チェック:新疆に関する問題のウソと真実」(CGTN)

 なぜこのようなウソがあたかも真実のようにまかり通るのでしょう。根底には、西側政府が人為的に作り出した対中対決を軸とする今日の異常な国際情勢があります。何よりもトランプ政権が新型コロナ対策で大失敗し、世界最大の感染者数、犠牲者を出した責任を免れるために「チャイナ・ウイルス」叩きを始め、世論を反中・嫌中で誘導しました。それ以前からトランプは、軍事的に封じ込め、対中貿易・関税戦争をしかけ、社会主義中国の台頭を抑え込もうとしていました。バイデン政権はこれら全てを引き継ぎました。これに西側政府・メディアも同調しました。
 こうした情勢を反映し、「中国ならやりかねない」という強い偏見と蔑視をすり込まれているからではないでしょうか。

中国政府は西側メディアにも職業訓練所と教育施設を公開
 中国政府は、職業訓練所に西側メディアの記者を入れ撮影やインタビューを許可しています。映像からはウイグルの民族衣装の踊りや民族楽器の演奏があり、施設内では料理講習やマッサージの施術訓練、ミシン掛けの技能講習、パソコンを使った授業などが行われていることがわかります。素直にみれば、職業訓練や教育が行われています。「教育を受けて良かった」という若い女性の発言もあります。ところが西側メディアはそのような映像をバックに「国際人権団体は、虐待などの人権侵害を指摘」「強制収容施設」「米国務省は『80~200万人が収容され民族アイデンティティが消される』と主張」「家族と連絡とれなくなったと話す中国国外のウイグル族も」などの字幕を入れ、あたかも技能講習や教育活動は宣伝であり実態は収容施設であるというイメージを与えようとしています。中国政府がいくら映像や統計を公開しようとも「ウソだ」「真実を隠している」と言い、相変わらずゼンツらのねつ造情報を報道し続けているのです。
【ザ・解説】ウイグル問題の最前線 謎の「再教育施設」、監視下の取材で見た(朝日新聞)
中国、ウイグル族「教育」 新疆の収容施設公開(共同通信)

 確かに新疆ウイグル自治区は、監視カメラ、警察官、職務質問などが多いのは事実のようです。そして職務質問で行き先が答えられない、パスポートの携行を忘れる、禁じられた軍事施設にカメラを向けるなど、旅行者の通常の行動から逸脱した行為をすれば、他の地域なら多めに見てもらえてもウイグル地区では許されないという事例があるようです。しかしこれは、米欧の諜報機関やイスラム武装テロ組織によって仕掛けられたテロ活動に対して、中国政府が懸命に対抗し、封じ込めようとしている結果に他なりません。
 ウイグル・ジェノサイドを垂れ流すBBCやロイターなどの報道にまじって、新疆ウイグル自治区の魅力や旅行の注意点を示した動画や記事などが少ないながらもアップされています。
新疆ウイグル自治区を旅行する際に知っておくべき12のコト(ミドルキングダムの冒険)
【中国鉄道】新疆ウイグル自治区のピカピカ地下鉄新線(1号線)

新疆ウイグル自治区で進む、少数民族尊重と絶対的貧困撲滅の闘い
 中国共産党は2012年第18回党大会で「2020年絶対的貧困の克服」の目標を掲げ、民族の文化や慣習を尊重しながら貧困撲滅の闘いを主導してきました。新疆ウイグル自治区も最後の絶対的貧困地区の一つでしたが、2014年~19年、年間平均GDP成長率7.2%、一人当たり可処分所得の年間成長率9.1%を達成し、2020年に絶対的貧困から脱却しました。しかし問題は数字ではありません。首府ウルムチのある北疆にくらべ南疆は特に自然環境も厳しく闘いは困難を極めました。たとえば南疆の平均標高4000メートルのパミール高原のタシュクルガン・タジク自治県は重度の貧困県で、インフラが立ち遅れていました。いくつも山を越えて送電線を引き、ソーラーパネルを導入し、通信の中継地をつくり、電化や他地域との通信を実現しました。農家・遊牧民の生業に対処するため、住民との粘り強い対話や相談を重ねた結果、住居移転や家畜の飼育場整備、国境地帯の防衛への参加、特色産業発展による雇用などで対応しました。
China's Xinjiang shakes off absolute poverty(Global Times)
Solar power helps Xinjiang alleviate poverty(Global Times)
China's Xinjiang secures prominent achievements in poverty alleviation(Alwihda)

偏見や蔑視を捨て、少数民族尊重と貧困撲滅の取り組みに目を向けよう
 ウイグル民族を尊重し貧困克服のために予算や人員を投じ困難な闘いを進めてきた中国政府にしてみれば「ウイグル・ジェノサイド」は妄言でしかありません。私たちも、これに反論するという受け身の対応にとどまらず、中国の貧困撲滅、民族尊重、公衆衛生の向上、教育と社会保障、民主主義の発展等々人民の命と生活を最優先した社会主義建設の姿を具体的に研究することで攻勢的に中国バッシングと闘う必要があります。
 中国外交部の華春瑩報道官は、ジェノサイドを「世紀のウソ」と一喝した上で、貧困克服の闘いを成功させ新型コロナを封じ込めた自信の上に次のように述べました。「新疆ウイグル自治区は年間2億人が訪れる観光名所だ。衛星写真ではなく、実際にきて見てほしい。大歓迎だ。しかし悪意のあるデマを流すために来るのならお断りだ。少数民族に対してジェノサイドをしたのは、米国やオーストラリアではなかったか。いかなる時、いかなる国家、いかなる社会においても、まず保障すべき人権は個人の生命権と健康権だ。中国の『人権』をあれこれ言う前に、自国内の問題の解決に力を集中させるべきではないか」と。

2021年4月17日
リブ・イン・ピース☆9+25

シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して 「はじめに」と記事一覧

関連記事
(No.19)「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(まとめ)
(No.17)「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(中) 「大量虐殺」したはずのウイグル族人口がなぜ漢族より増えているのか?――統計と証言のねつ造

(No.16)「ウイグル・ジェノサイド」のデマ・ねつ造を批判する(上) 狙いは対中封じ込め――制裁発動、新疆綿使用企業ボイコット、北京五輪ボイコット
(No.7)新疆ウイグル──貧困対策、テロ活動防止のための教育施設