シリーズ 「新冷戦」に反対する 〜中国バッシングに抗して
(No.1) 南シナ海で軍事挑発を繰り返しているのは米国(上)

(1)今回は、主要メディアが垂れ流している「南シナ海などでの中国軍の脅威」の問題を取り上げます。米政府や主要メディアは南シナ海で中国が領土や資源への野心から軍事力で威嚇し、「力による現状変更」(※1)をしようとしているといいます。中国軍の軍事的脅威に対抗するために米軍が空母・打撃部隊を投入し、「航行の自由作戦」を行っている、と宣伝します。
 例えば、「中国、米の間隙突き軍事行動加速 コロナ抑え覇権拡大」(※2)によると、こうなります。「新型コロナウイルスの流行を抑え込んだ中国が感染多発にあえぐ米国の間隙を突き、覇権主義的な動きを強めている。各地に医療物資を送るマスク・ワクチン外交を展開しながら軍事行動も加速化させ、南シナ海では弾道ミサイル発射実験を強行し、28日にも軍事演習を予定」と。マスクや医療支援も覇権主義のためであり、軍事演習も中国の側から仕掛けているというわけです。
※1 菅外交スタート 「中国への遠慮」は禁物だ(産経新聞主張9/27)
※2 中国、米の間隙突き軍事行動加速 コロナ抑え覇権拡大(共同通信9/27)

 本当でしょうか。下の図を見てください。これは米空母の位置を追跡するサイトや報道から再現した空母「レーガン」(母港横須賀)の行動図です。これから米軍が7月から8月中旬までの1ヶ月半の間に二つの空母・打撃部隊(レーガンとニミッツ)を3回南シナ海に投入して共同訓練(実際には対中国を念頭に置いた軍事演習)を行わせたことがわかります。彼らの部隊の行動の詳細は一番下にまとめましたが、太丸で囲んだ場所で演習・訓練を行っています。南シナ海に2週間間隔で空母・打撃部隊を送り込んだだけでなく、周辺のフィリピン海、東シナ海、太平洋でも至る所で演習や訓練などの軍事行動をしていることがよく分かります。


http://www.gonavy.jp/CVLocation.html、防衛省報道発表、メディアより作成)

 この米空母・打撃部隊の行動はメディアが言うような中国海軍(本当は人民解放軍)の軍事行動に対抗するためのものなのでしょうか。南シナ海や東シナ海、黄海など中国周辺の海域では、艦船と空軍機などによる中国軍の演習が7月初めや8月末に行われています。しかし、米空母・打撃部隊の行動は中国軍の活動をはるかに上回る大規模で頻繁なものです。一部のメディアしか報じませんでしたが、南シナ海で2隻の空母が行動したのは2014年以降ではじめて、2001年以来でも2回目という極めて異常な行動だったのです(※3)。それだけ相手に対する軍事的緊張と圧力を急激に高めているのです。
※3 緊張高まる南シナ海 米軍が空母2隻を派遣(CNN7/7)

 日本政府もメディアも南シナ海での中国の中型空母遼寧の活動を大きく取り上げますが、遼寧とその護衛艦隊が南シナ海で活動したのは4月11日に宮古海峡を通過し、バシー海峡を通って南シナ海に入り、そこで訓練などを行って、4月30日に青島に帰還した期間だけです(※4)。それは例年と変わりない行動で、別段活発化しているわけではありません。繰り返すまでもないことですが、7-8月の米軍空母部隊の南シナ海での活動は、遼寧の活動に対応するものではありません。
※4 中国海軍の空母「遼寧」、定期訓練を終え青島に帰港(flyteam5/3)

 つまり、米空母の行動が中国軍の活動に対応するためのものだというのは全くの作り話で、米国の側から中国に対して軍事的挑発活動として訓練や演習を仕掛けていることがわかります。

(2)米軍は南シナ海にとどまらず中国の周辺の海洋全域で演習や訓練などの軍事行動を急速に強化しています。とりわけ4月以降その傾向は強まっています。南シナ海に加えて台湾を巡る高官派遣や付近での軍事活動を強めています。中国はこれらに対応するために軍事活動を強化しているのです。
 前述のように、2隻の空母とその打撃部隊は7月のはじめ、7月の中頃の2回も南シナ海に入り訓練を行いました。さらに「レーガン」はその後8月の中頃にも南シナ海で演習を行っています。米軍の空母はこれまで年に2〜3回南シナ海に入って訓練を行う程度だったのですが、この時は2隻が2週間間隔で南シナ海に入り、軍事力による示威行為を繰り返したのです。
 それだけではありません。米軍は南シナ海で主なものだけで以下のような活動を行いました。
・今年3月に空母「ルーズベルト」が南シナ海に入った。
・4月には南シナ海に入った遼寧に対して空母型の強襲揚陸艦「アメリカ」とその艦隊が南シナ海に入って対抗し威嚇を行った。
・また、新型コロナ感染でルーズベルトがグアムで、レーガンが横須賀で動けなくなっている4・5月には、その「穴を埋めるために」米太平洋艦隊は出撃が可能な全部の攻撃型原潜に南シナ海をはじめ東シナ海など中国を巡る海域へ出動し、威圧活動に加わるよう命令した。
 そのほかに、米艦船が「航行の自由作戦」と称して南シナ海で挑発的な活動を行っています。過去に例がないほど異様な密度で軍事活動が行われています。
 さらに南シナ海以外の場所でも米軍の軍事活動は強化されています。
・米軍は8/25に黄海の更に北にある渤海で、実弾射撃訓練のために航行禁止領域になっている地域にわざわざU2偵察機を侵入させた。完全な挑発であり、文字通りいつ偶発的衝突が起こってもおかしくないような危険極まりない行為。
・8月中旬から末にかけて米軍はハワイ沖に10カ国を集めて大規模演習である「リムパック2020」を行った。ここでは南シナ海で行動していたレーガンに変わって強襲揚陸艦「アメリカ」が中心になった。ちなみに、新型コロナが各国で感染を広げているときに、リムパックを是非やれと米軍に働きかけたのは日本政府。
・さらにその後、米日韓豪海軍はフィリピン海で9月の中頃まで共同訓練と「パシフィック・ヴァンガード20」を繰り返した。
・9/13から17には米軍は参加していないが、自衛隊のヘリ空母「かが」と「いかづち」が豪海軍の「ホバート」「シリウス」と南シナ海で共同訓練を行い、対中国で軍事圧力をかけている。
 中国の中型空母部隊の演習に対して米空母が張り付いて対応し、威嚇することは今までも行われてきました。しかし、今年度に入ってからの米軍の行動はそれをはるかに超える頻度と強度で行われています。まさに軍事的脅威で中国を威嚇することを目的に行われているのです。米国はすでに中国に対する軍事戦略を軍事的「包囲戦略」に変更しています。この間の軍事的対応は、大統領選挙前に偶発的な軍事衝突が起こってもかまわないと考えているのではないか、と思わせるほど激しいものです。これらは、ファーウェイやTikTok問題、貿易摩擦での一方的要求、新型コロナでの「犯人扱い」、そして7月のポンペオ国務長官の「中国共産党打倒」宣言など米国の政治・経済・軍事政策全般の対中敵視と一体のものです。明らかに、米の方が中国に軍事挑発を仕掛けています。

 【7−8月の米空母レーガンの行動】
 上の図は、空母「レーガン」の行動を作図したもの。
 6/28に「レーガン」は、グアム沖で空母「ルーズベルト」と演習した後の空母「ニミッツ」と合流し、グアム沖のフィリピン海で「レーガン」「ニミッツ」2隻(正確には二つの空母・打撃部隊)による共同訓練を行った。その後、フィリピン海を通って南シナ海に入り2つの空母・打撃部隊は南シナ海を南下し、7/6にはシンガポール沖の南シナ海で自衛隊の「かしま」「しまゆき」と共に共同訓練をおこなった。
 2つの空母・打撃部隊はその後、一旦インド洋に出てオーストラリア沖で訓練などを行い、再び戻って7/19から23にかけ、南シナ海で二つの空母・打撃部隊と自衛隊の「てるづき」、豪海軍の強襲揚陸艦「キャンベラ」、駆逐艦「ホーバート」等5隻と大規模な共同訓練を行いながら、南シナ海からフィリピン海、グアム近海に移動した。
 空母「ニミッツ」はフィリピン海で分離してマラッカ海峡を抜け、インド洋でインド海軍と共同訓練を行ってから、中東に向かった。「レーガン」の部隊は沖縄付近を通って8/1に横須賀(母港)に入港した。そしてわずか半日で出港、仙台沖の太平洋で三沢の米空軍と共同訓練を行い、津軽海峡を通って日本海を南下、東シナ海に出て沖縄近海の太平洋を行動し、バシー海峡から再度南シナ海に入り8/15に海自「いかづち」と共同訓練、8/19にはフィリピン海で日豪艦船と訓練しながらグアムへと向かった。
 地図の通り、南シナ海だけでなく東シナ海やフィリピン海などこの地域全体で常時訓練と演習の軍事行動を繰り返している。

2020年10月4日
リブ・イン・ピース☆9+25