シリーズ 「新冷戦」に反対する 〜中国バッシングに抗して
(No.2) 南シナ海で軍事挑発を繰り返しているのは米国(下)

(3)米中の軍事力の関係、特に南シナ海や中国周辺海域での関係を考える場合、2つの問題を考えなければなりません。まず第1に、米中軍事力の地理的非対称性の問題です。そもそも、この問題を米欧日の政府やメディアは全く問題にしません。なぜ何千キロも離れた遠い米国の軍隊が中国の目と鼻の先に、空母・打撃部隊という攻撃的・侵略的軍事力を突き付けるのを、戦争挑発として問題にしないのでしょうか。

 米中双方の軍事行動の意味は、地理的観点から全く異なるのです。南シナ海は中国周辺の海洋であり、そこでの中国軍の軍事行動は防衛的な性格を持ちます。米軍などが攻撃してくる場合に備えた対空戦闘、対艦船戦闘、島嶼と本土防衛の訓練・演習が中心になっています。一方、米軍は自国領土や周辺海洋の防衛が目的ではありません。そんなものは脅かされていません。中国軍がワシントンやカリフォルニア沖で示威行動をしているのではないのです。彼らの行動は自国から遠く離れた、自国の防衛とは何の関わりもない南シナ海での軍事力の示威であり攻勢作戦です。空母部隊や打撃部隊は、南シナ海にある島嶼や中国本土を攻撃するための訓練、南シナ海に潜む中国潜水艦を狩りたてる訓練を行っているのです。この点からだけでも、どちらが攻撃的で、どちらが防衛的かが分かります。

 第2に、もう一つ重要な問題があります。実は、南シナ海問題とは、戦略核兵器の「均衡問題」なのです。この問題も米欧日の政府・メディアは全く触れません。どういうことなのでしょうか。
 南シナ海の北部は中国周辺の海洋では唯一深い海であり、そこには中国が戦略核を搭載した戦略ミサイル潜水艦を秘匿・待機させることができます。歴史上核兵器を実際に使ったのは米国だけです。広島・長崎だけでなく、その後も米は、朝鮮戦争やベトナム戦争でも、直近では朝鮮民主主義人民共和国に対しても、使用寸前にまで突き進みました。中国は、このような米国の先制核攻撃(第一撃)に対して、戦略ミサイル潜水艦を南シナ海に潜伏させ、反撃の第二撃を確保する態勢をとっています。これを米国の攻撃力に対する抑止としているのです。

 もし、この南シナ海の中国原潜を捕捉すれば、それでなくとも核戦力で圧倒的に優位な米の先制核攻撃力は格段に強化されます。米軍が日常的に南シナ海に対潜哨戒機を飛ばし、対潜作戦を行う艦船をいれれば、地上配備のミサイルが先制攻撃で破壊されたときに中国が第2撃の核抑止力とする潜水艦発射核戦力ミサイルを無効化することができます。中国の核反撃力の無力化、これが米軍が南シナ海での軍事プレゼンスを活発化させるもう一つの大きな目的なのです。

 米軍が中国に対する軍事的圧力を強めるほど、中国の側も防衛的対応を強め、軍事力の増強を行わざるを得ません。軍事的エスカレーションと緊張の激化が現に生じています。しかし、これら米中の軍事行動の違いを抜きにして、中国の対応だけを一方的に騒いで批判したり、あるいはどっちもどっちと評価を曖昧にすることは許されません。常に挑発的なのは米国の側なのです。

 もちろん、中国軍の南シナ海での訓練や演習が周辺諸国に対して脅威を感じさせることはあり得ます。現に7月初めの南シナ海・西沙諸島付近での中国軍の演習に対してベトナムは「西沙諸島はベトナムに主権がある」と抗議を行っています。南シナ海は非常に特殊な海域で、中国が主張する九段線だけでなく、周辺諸国6カ国が自国の主権領域を主張して対立し、それぞれが島嶼を領土として保有しています。
 しかし、そのことは米軍が南シナ海で中国に対して威嚇的軍事行動を行うことをいささかも正当化しません。領有権に関わる問題は二国間の問題だからです。
 しかもベトナムやフィリピンなど周辺諸国は南シナ海で米中が対立を強め軍事的緊張が高まることに反対しています。この地域で戦争や紛争が起こることは地域の全国家の安全と利害に反するからです。だからどちらか一方を支持することをしません。フィリピンが軍に南シナ海での米軍の演習への参加を禁止したように、米軍の対中包囲と威嚇に一線を画して協力しないのです。領土等に関わる問題は二国間の政治的話し合いでしか解決できません。だから、米国の軍事的威嚇は米国自身の利害−−中国の軍事的包囲と緊張の押しつけ−−に基づく攻撃的挑発的行動であり、仕掛けられている中国からすれば防衛的行動なのです。

(4)日本のわれわれが覚えておかなければならないもう一つの重要な事実は、米軍が対中国の軍事的包囲の行動に日本を中心軸にして同盟国全体を日常的に巻き込んで行動していることです。
 空母「レーガン」の行動には、頻繁にあらゆる場所で自衛隊の艦船が張り付き訓練と演習を共同で行っています。すでに米空母の護衛として行動しているのです。多くの場合オーストラリア海軍も一緒に行動しています。これは二,三年前まではなかった行動です。そしてその範囲は南シナ海だけでなく、フィリピン海、東シナ海など中国を取り巻く海域全体に及んでいます。

 日本の周辺であれば、「日本の防衛のための共同行動」といういいわけも成り立つかもしれませんが、南シナ海ではその口実は全く成り立たちません。明らかに米空母はそこまで行って、中国の島嶼や本土、あるいはそこにいる艦船に対する侵略的攻撃の演習や訓練を行っています。また、それ自体が武力による威嚇です。このような米国の侵略的な軍事行動に、自衛隊が自らを完全に組み込み、護衛部隊としての訓練・演習をやっているのです。つまり、米軍による侵略戦争に直接加担する訓練・演習をしているのです。これは他国に対する武力行使も、武力による威嚇も明確に禁止した憲法9条を真正面から踏みにじる行為です。

 戦争法(安保関連法案)が成立して5年になります。それまで日本は「専守防衛」でした。ところが安倍政権は米国などと一緒に他国と戦争をする「集団的自衛権」があると閣議決定し、それに基づいて日米の軍事役割分担である日米ガイドラインを取り決め、さらに戦争法を制定し、米軍の戦争に加担できる仕組みを作りました。しかし、そのときでも「専守防衛は維持する」といい、「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」=「存立危機事態」となってはじめて「集団的自衛権(の一部)」を行使できると言ってきました。
 しかし、南シナ海での米空母への護衛や、明らかに南沙諸島等への敵前上陸を想定した米豪日共同演習への参加などは、「存立危機事態」等は名目に過ぎず、いかなる時でも米軍と一緒に戦争に参加することが初めから前提になっていることを示しています。戦争法以来5年で、安倍政権−菅政権は日本の安全が脅かされなくても米軍と一緒に侵略戦争をすることを前提に、軍事行動に参加しているのです。(※5)
※5 安保法5年、米軍防護着々 進む一体化、中国にらみ(時事通信)

 これまで述べてきたように南シナ海における「中国軍の脅威」は日米政府やメディアが作り上げてきたものです。米軍が対中軍事包囲の戦略を強め、中国に対する軍事的威嚇活動を強めることの口実として、プロパガンダの材料に持ち出しているのです。実際に存在するのは「米軍の脅威」でり米国が仕掛ける「新しい冷戦」の危険なのです。
 この米の対中戦争準備、新冷戦政策にわれわれが知らない間に自衛隊が完全に組み込まれ、対中国戦闘の戦闘で一緒に参戦する方向で進んでいます。安倍の置き土産である「敵基地攻撃能力」獲得はその延長線上にあるのでする。米の新冷戦政策に全面的に従おうとする日本の軍事政策を徹底的に批判し、反中プロパガンダの徹底した批判を行わなければなりません。そうでなければアジアの平和も安全も守ることができません。

2020年10月4日
リブ・イン・ピース☆9+25