シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.3) 南シナ海領有権争いを煽っているのは米国
中国ら当事国は平和的解決を模索

はじめに

 南シナ海で緊張が高まっています。といっても南シナ海での各国の領有権争いが激化しているわけではありません。米国が中国に対して南シナ海でも一方的に冷戦を仕掛けていることで緊張が走っているのです。7月13日、ポンペオ国務長官は、「(南シナ海の)大半の海洋資源を所有するという中国の訴えは完全に違法であり、資源を支配しようとする脅迫的な一連の行動も違法だ」とする声明を発表しました。同海域の領有権問題には関与しないというこれまでの方針を翻したのです。米国は、中国の主張に一方的に敵対し、周辺国に領有権争いを扇動し、中国にけしかける戦略へと転換したのです。

 この声明と軌を一にして、米軍は南シナ海での軍事行動を一挙に強めました。中国の目と鼻の先に空母・打撃部隊を投入して、軍事的威嚇や挑発を繰り返したのです。7-8月には米空母ロナルド・レーガンとニミッツの打撃部隊が3回も南シナ海に入って軍事演習を強行しました。さらにレーガンは10月にも再び南シナ海で軍事行動を行いました。中国は必要最低限の防衛のための軍事演習を行いました。領有権問題を抱えるASEAN諸国は事態の衝撃に困惑しています。
※詳しくは、(No.1) 南シナ海で軍事挑発を繰り返しているのは米国(上)(リブ・イン・ピース9+25)

 日本のマスメディアは、南シナ海の領有権問題を取り上げる際には必ず中国の立場をねじまげて報道します。「中国は、南シナ海のほぼ全域を占める『九段線』で囲った海域に権益が及ぶと主張している」とか、「岩礁を埋め立てて軍事拠点化を進めるなど実効支配を強めており、周辺国と領有権を争っている」といった類です。「中国は領土的野心を持っていて、覇権主義を加速している」というイメージづけです。本当にそうなのでしょうか。報道では語られてないことが多いので、そのいくつかをあげてみたいと思います。

中国は南シナ海の大部分が中国のものと主張しているわけではない
 中国は「九段線」の海域を「自国の領海だ」と主張しているという米国の主張は事実ではありません。米国はこう宣伝することで中国が拡張主義であり、侵略的で脅威であるという印象を植え付けようとしているのです。
 しかし、実際には「九段線」は南シナ海で各国が主張している境界線と同様に、この範囲の内部の島嶼に自国の主権があると主張しているに過ぎないのです。2020年の9月に中国の王毅外相は改めてこの問題についての見解を示しました。その中で王毅外相は「九段線」はその中にある東沙・中沙・西沙・南沙等の島々が中国領であり、それぞれが領海を持っていると言っているに過ぎない、それ以外は公海であると述べ、さらに「断続線(九段線)内の海域を自国の内水及び領海としている、と言い立てるものがいるが、これは下心を持って概念を曖昧にするものであり、中国の立場に対する歪曲である」と米国の宣伝に反論しています。
「南海(南シナ海)主権問題(九段線)に関する王毅外交部長発言」参照(21世紀の日本と国際社会)

 実際に各国が同様の境界線を主張しており、ベトナムは西沙と南沙諸島を囲む区域を、フィリピンも中沙・南沙諸島を含む区域を、インドネシアも南沙の一部を含む区域を主張しています。九段線も同様に中に含まれる諸島に自国の主権があるといっているにすぎないのです。当然、域内の領土主権・海洋権益の及ばない海面は公海であって、他国が自由に航行できる内容になっています。メディアはそのことには一切触れません。この中国の主張は国連海洋法条約や従来の国際法に何の違反もするものではありません。


(https://en.wikipedia.org/wiki/Territorial_disputes_in_the_South_China_Sea より)


複雑な各国の実効支配の現状
 もちろん、上の話は中国が海域全体に領有権を主張しているのではないというだけであって、周辺諸国との間の島嶼の領有権を巡る問題は残ります。しかも以下に述べるようにこの地域の領有権問題は非常に複雑です。しかし、重要なことは問題は2国間の問題になるのであって、米国が口を出す何らの根拠もないという事です。
 下図を見てください。 南シナ海の南沙諸島で、どの国が実効支配をしているのかを旗を起てて示している図です。一番多いのはベトナムです。フィリピン・マレーシアも相当数あります。最大の島は台湾が支配しています。中国は散在するいくつかの環礁を支配しているだけで、中国が南沙諸島の大部分を支配しているわけではありません。南沙諸島では、六カ国が領有権を主張し、ブルネイを除きそれぞれが地理的にも入り乱れて島、環礁を実効支配しています。メディアは中国の埋め立てと飛行場建設を大騒ぎします。確かに規模は他と比べると大きいですが、各国がそれぞれが飛行場を持ち、軍の警備部隊を配備して支配しています。どちらかというと中国の埋め立てや飛行場建設は遅れて、一番最後になっています。


(https://en.wikipedia.org/wiki/Territorial_disputes_in_the_South_China_Sea より)


領有権争いは激化していない! 平和的解決の方向に進んでいる 
 領有権争いは激化しているのでしょうか。実際にはそんなことはありません。武力を使って島や岩礁を直接取り合うような武力衝突は21世紀に入ってからは起きていません。確かに、かつて軍同士の衝突まで起こった歴史的経緯は複雑なものがあります。感情的なしこりや、漁船・公船・軍艦による小紛争は継続しています。2012年には漁業をめぐってフィリピン軍と中国の監視船がスカボロー礁でにらみ合う事件が発生したりしています。領有権をめぐる主張の対立は平行線をたどり、フィリピンによる常設仲裁裁判所への提訴(2013)にまで至りました。
 しかし、21世紀に入ってからの流れは、基本的に領土と管轄権の紛争を話し合いによって平和的に解決する方向が主流です。2002年に中国とASEANは「南シナ海行動宣言(DOC)」をまとめあげ、さらに、紆余曲折を経ながらも南シナ海の平和と安定を確実なものとするために、実効性のある「南シナ海行動規範(COC)」へと発展させていこうとしています。紛争を取り除き、信頼を築くための当事者間の粘り強い協議と対話が行われているのです。

 フィリピンが提訴した仲裁裁判所裁定は、2016年「九段線で囲まれた海域については中国に主権があるということは国連海洋法条約に反する」との裁定を出しました。これを根拠に西側メディアは“中国の領有権主張は不当”との宣伝をしていますが、海洋についてはこの裁定は当然の結果です。領有権に関しては仲裁裁判所は何も裁定していません。逆に6つの国が領有権争いをする島について「中国の領土だ」などと裁定すれば大変なことになります。どの国の領有権も認めることはできず、当事者間の対話で解決するしかないのです。
 実際裁定以降でも、中国フィリピン間で話し合いが進んでいます。同年10月20日、ドゥテルテ比大統領と習近平中国国家主席は判決を棚上げして各方面で協力することに合意し、フィリピン漁民の操業が再開され、フィリピン領となる人工島の建設を中国が引き受けるところまで来ています。
中比首脳会談 仲裁判決棚上げ合意  南シナ海、対話再開(毎日新聞)
中国が、南シナ海にフィリピン領の人工島を造成(Pars Today)

善隣友好・紛争棚上げ・共同開発・互恵共嬴多嬴・平和的解決が中国の立場
 米国の中国バッシングはすさまじいものがあります。それを日本のメディアが取り上げる際に捻じ曲げられたまま報道されます。中国は勝手にガス油田を開発し独り占めにしようとしているとか、埋め立てをして軍事基地を作って南シナ海の支配に乗り出しているといった類のものです。実際には、中国はどんな立場をとっているのでしょうか。

 中国の立場は「紛争棚上げ、共同開発」です。中国は、石油天然ガス資源を必要としていますし、自力で開発する能力を持っています。しかし、紛争海域で一つの油井も単独でボーリングしたことはありません。沿岸国のエネルギー需要を重視して互恵・ウィンウィンの関係でやろうとしています。
フィリピン、南シナ海の油田探査許可 中国と開発前進も(日本経済新聞)

 中国がここ数年、いくつかの島礁で建設を進めているのは、居住条件を改善するためであり、南シナ海における公共財を提供するためだとしています。当然、自国の安全保障上の必要によるものでもあります。気象予報や海難救助などの能力向上のためであり、国際海域の安全を守るという義務を履行するためだということです。中国は、善隣友好の政策を堅持し、建設的な役割を果たそうと考えているのです。域外国が不断に軍事圧力をエスカレートさせることに対しては、主権国家としての基本的自衛権を持つのは当然です。

米国は部外者。軍事的脅しで邪魔をしている
 米国は、南シナ海の領有権問題にどうかかわっているのでしょうか。南シナ海の航行の自由を守るためとして、数年前から、原子力空母を筆頭に空母打撃部隊を派遣しています。中国のすぐ目と鼻の先を軍事演習をやりながら通過しているのです。武力による威嚇と脅しをやっていることはあきらかです。武力による封じ込めが緊張を高めることは必至です。今年の夏には、個別の領有権争いには関与しないとしてきた従来の政策を転換しました。中国だけを標的にして完全に違法だとし、中国に対抗するために米国との連携を呼びかけ始めたのです。中国への軍事的脅しと挑発を強めながらです。米国は当事者ではありません。国連海洋条約にも参加していません。口出しする資格はないのです。いったいどの国が米国に軍事的関与を求めているというのでしょうか。米国のやっていることは、南シナ海で緊張を高め、周辺諸国の平和と安定に向けた努力に水を差すもので見すごすことはできないものだといえます。
米国務長官「南シナ海で中国対抗に連携を」ASEAN外相会議(NHK)
中国とASEAN、米の南シナ海戦略に警戒を=王毅外相(ロイター)

日本には武力で占領した歴史がある
 では日本とはどうかかわっているのでしょうか。忘れてはならないのは、南シナ海の全領域を力づくで奪ったのは日本だということです。日本は戦前、台湾・朝鮮を植民地化し、中国を侵略しました。更に、台湾を拠点として東南アジアへの南進を図っていく過程の中で、インドシナを植民地としたフランスと争いました。日本は軍事力を使って南シナ海を勢力圏に収めていったのです。1939年、日本軍は海南島、パラセル諸島(西沙群島)に相次ぎ上陸して占領下に置き、スプラトリー諸島(南沙群島)にある島嶼を「新南群島」として、台湾の管轄下に置く形で占有したのでした。日本の敗戦以後、中国は日本が侵略戦争中に違法占拠した南海諸島を取り戻し、主権の行使を回復していったのです。その後、領有権をめぐる争いは複雑な過程を経て現在に連なっていくのですが、日本の侵略と領土拡張、植民地支配が今日の領有権問題の背景にあります。日本が再び南シナ海の領有権問題に介入し、南シナ海に自衛隊を派遣するなど許されないことなのです。
海上自衛隊が南シナ海で異例の「対潜水艦戦訓練」を決行した事情(現代ビジネス)
海上自衛隊 訓練に潜水艦の追加派遣 事前公表は異例の対応(NHK)

問題解決の道は
 問題解決の道は、関係当事国(中国・ASEAN間)による対話と政治的・平和的解決しかありません。中国とASEAN諸国は、「南シナ海行動規範(Code of conduct: COC)」策定交渉を着実に進めています。2017年には外相会議で「COCの枠組み」に合意し、2018年11月のASEAN中国首脳会議では3年以内に(2021年に)COCを策定することで合意しています。2019年にも確認しています。地域の平和と安定に向けた努力を着実に進めているのです。この時期に、はじめに述べたように、ポンペオ声明と米軍の軍事行動がなされたのです。一歩間違えば軍事紛争になる領有権問題に対して、局外者が軍事力や経済支援をちらつかせて介入し、COC協議をぶち壊すなど言語道断です。
南シナ海における当事者の行動に関する宣言(英文)

2020年11月29日
リブ・イン・ピース☆9+25