[講演録](その六)

教育基本条例は何をもたらすか 〜東京と大阪の教育現場から〜
  
第二部 パネルディスカッション(3)――質疑応答

 会場からの意見、質問に対する渡部謙一さん、パネラーの教員の方々の回答です。
 会場の参加者からの質問・意見では、知的障害をもっている子どもたちの支援をやっている方から、“教育現場のことがあまり伝わっていないと思う、教育基本条例反対といってもイデオロギー的な話が前に立ってしまう、先生は言っているのになかなか伝わっていないのか、学校の先生はそもそも自分のことを言うのを遠慮されているのか、どっちにしても、伝えていく必要を今日のお話を聞いて痛感した”という感想がありました。
 82歳の元教員の方の経験や81歳の方の徴兵検査の体験が話されました。橋下の「教育改革」にはらわたが煮えくりかえり、なんとしても止めさせなければならない、そんな思いで「老体にムチ打って参加しました」と訴えられていました。
 保護者からは、大阪府内の自分の子どもが通っている小学校が廃校になり隣の中学校とともに小中一貫校ができようとしているがどう考えたらいいか、保護者がどんな形で関わっていったらいいのか距離感をつかみかねる、という質問もありました。また、東京都教育委員会の異様さや児童虐待に対する教員の取り組みなどについても質問もありました。

■渡部謙一さん:
○東京都教育委員会について
 「先ほどの話の中でもちょっとふれましたが、東京の場合にはオール与党で、石原にまともに反対するのは残り一部の政党の若干名しかいません。民主党が今第一党で、(石原に)「反対」というようなポーズを取ってますが、もともとは全く同じでした。一緒にずーっとやってきたんですから。教育政策なんか民主党の方が悪い。悪いというか、都議会の中で焚きつけたのも民主党の議員なんですね。それから先ほど話した七生養護学校に押しかけていったのも民主党の議員を先頭とした自民党の議員なんです。
 だから本当にオール与党なんですね。1956年でしたっけ、旧教育委員会法が教育三法問題でひっくり返されて、首長の任命制に変えられて、そういう中で総務部長から副知事待遇でとにもかくにも何にも知らない人が教育長に入ってきて、そのもとで米長、丸紅の会頭、それから東京家政学院大の理事長、それから内舘というシナリオ作家。まあ蒼々たるメンバー、みんな、これは石原を支える教育委員、特別な教育委員会なんだと、東京の教育委員会だと豪語しているわけです。ですから石原が選出したらもうオール与党ですからそのままなっていくわけですよね、この政党を変えない限り。
 東京でいうなら中野区というのが準公選制運動をやってきたんです。しかしそれもつぶされて今はなすすべもないっていうかな…。教育委員会の制度の選出の見直し運動というのは依然として続いています。
 しかし同時に、橋下が教育委員会そのものを解体する動きっていうのがあるんですよね。朝日新聞に出てましたが、相当な割合で、教育委員会を飛び越えて市長が教育目標等を決めるというのに賛同しているのがかなりいるわけですよね。今、そういう動きがある。だからたいへん難しい問題だと思うんですよね。だから最初にいった政治情勢を変えない限りこの教育委員会っていうのは変わらない。しかし多くの学校、地域っていうのは教育委員を選ぶのにまだかなりリベラルなわけですよね。例えば愛知の犬山に見られるようにですね、その県政とは別にそのリベラルな教育委員会をこう作っていくというふうなところは一定の理性はあるわけですよ。」

○教科書問題について
 「大阪や東京をはじめとして、横浜とか典型的なところでは、まともに政治が介入していくというところが問題になっている。同時にその教科書問題、これも東京でいうと最初に、あの問題になっている教科書をとりいれたのは杉並区区長、これも「日の丸・君が代」問題と全く同じですね。首長が代わって、教育委員会を代え、そういうメンバーを教育委員に選んでそしてみんなやっていく訳じゃないですか。今問題になっている最後まで残っている沖縄の問題でもそうです。
(注:沖縄県八重山地区で「つくる会」系の公民教科書が選定される。石垣市と与那国町の教育委員会はこの方針に従うが、竹富町教育委員会は東京書籍の公民教科書を採択。この分裂状態は未解決のまま。)
 典型的なのは横浜がそうです。教育委員を代え、そして選択学区を変える。今まで横浜なんか選択学区が18学区に分かれてたわけですね。それを横浜市1本にしちゃったんです。だからものすごい生徒数がいるんですが、それを保護者の1本で決めていっちゃう。選択学区までも変えていくという、まともに政治が選ぶ体制をつくっていく。
 逆に(「つくる会」系教科書を)最初に導入した東京の杉並区が今年ついに、ある一人の教育委員が定年で変わって、今年はその教科書を採択できなかったんですね。それは運動の成果だと思うんです。東京都教育委員会が(「つくる会」系教科書導入を)どこから始めたかというと中高一貫校、それから養護学校――今の特別支援学校――から導入していく、そこに教育委員を送り込むんですよ。米長なんかが最初に送り込んだのが白鴎高校といって中高一貫校、そこに理事として米長が入り込む。そして自分がそれを推薦して選んでいくという形で、まさに行政がそのものが学校に介入していって、そういう形で広めていってるんですね。だからそこらへんの運動も本当に強めていかないと。これも親が全然わかっていない状況があるんですね。だから大阪で今度は学校協議会でしたっけ、そこで最大の部分は、ほんとうにとんでもないことには「当該学校の教職員を除く」なんてことが書いてありますよね。その学校の教職員を除いて作って、教科書の推薦なんかもやらせるわけでしょ。これはものすごく危険な方向になっている。教師を排除してね、またそういう教科書を採択していく方向に薦めているんじゃないかと。」

○小学校統廃合と小中一貫校について
 「小中一貫校については、私はずっと一貫して高校だったんで詳しくは知らないのですが、私たちの会で来月17日に「学校選択制と小中一貫校問題」という学習会を持ちます。先程出た山本由美さんという和光大学教授の人が専門にやっていて、そこに詳しく出ているんですね、小中一貫校問題、学校選択制と全国的な状況と取り組みが出てるんです。
 そこでも言われているのが、なぜ小中一貫校なのか、学説としても検証されていない。たとえばマスコミがよくいう中1ギャップ問題等、それが本当にそうなのかどうかも全然検証されてないんです。ただ実際に東京でやられているのは早期からの競争のためなんですよ。それ事実なんです。
 小学校5年から学科担任制にする、クラス担任制じゃなくてですよ。大阪ではどうするかわかりませんが。子どもたちと先生とのつながり、ある先生が生徒をよく面倒をみるいくということではなくなっちゃうんですよね。そして小5から中学や高校と同じように定期テストをやるんです。そこで学力競争させる。早期の競争化。
 そして中高一貫校なんかは、もっと明確に、早くから自分の将来を見通して計画的に人生設計をしていく子ども達を狙っています。そうではない普通の子ども達――という言葉を使っているんですね――はちゃんと中学まで行ってじっくり考えて人生をつくればよい。まさに早期からの選択によってエリートをつくるというもの、まさにひとつの狙いがある。その山本さんの本に出てきますが、早くから低学年のうちから勉強嫌いの子ども達が出てきちゃっている、増えちゃってるという事実が指摘されています。定期テストまでやって、学力競争させていくわけですから、これがどうなっていくのか。山本さんの本は『これでよいのか小中一貫校』です。」

(つづく)
2011年3月18日
リブ・イン・ピース☆9+25

教育基本条例は何をもたらすか 〜東京と大阪の教育現場から〜
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