[シリーズ]沖縄にも、大阪にも、どこにも米軍基地はいらない(その6)
3兆円を日本側に負担させるために、「基地負担軽減」と「グアム移転」、「在日米軍再編」が突如リンク

日本側3兆円の負担は日米合意の核心
 2006年5月「ロードマップ」(最終合意)に「基地負担軽減」「V字型滑走路」「グアム移転」「在日米軍再編」が盛り込まれました。そしてこれらは「パッケージ」とされ、「グアム移転費」を日本側が負担することが初めて明記されました。そこでは、沖縄での普天間移設=「基地負担軽減」、グアム移転、横田や岩国などを含む在日米軍基地再編、ミサイル防衛などが一体のものとされ、それらのどれか一つが滞ったとしても全体の進行に影響を及ぼすと説明され、しかもこれら一切合切にかかる費用を日本がもつことが合意されたのです。それが日米両政府にとってのロードマップの最重要の確認の一つでした。

 ロードマップでは「グアム移転費」としての約7000億円(60.9億ドル)だけが明記されていますが、米軍再編に関わる日本側負担が3兆円を超えることは公然たる秘密であり、日本政府側が試算して米側に提示し、米の予算要求の前提にさえなっていることが暴露されています。ところがこの事実を日本政府はいまだに正式に認めていません。米国に対しては約束しながら日本国民にはしらばっくれるという、「密約」の典型が現実に進行しているのです。その内容をもう少し詳しく見ていきましょう。

○ロードマップが発表される直前の2006年4月25日、ローレス米国防副次官(当時)は記者会見で、在日米軍再編全体にかかる日本側の負担について、少なくとも約260億ドル(3兆円)にのぼるとの見通しを明らかにしました。内訳(概算)は、沖縄も含めた日本国内の再編関連経費約200億(2兆3000億円)と、沖縄海兵隊のグアム移転経費約60億ドル(7000億円)としています。ローレス氏はこの時点で「控えめな試算」とし、日本側負担の総額は3兆円を超える可能性があることを示唆しました。ローレス氏は「今後6〜7年で約200億ドルとなり、全額が日本の負担となる」と明言しました。
 ローレス氏はその後この発言について「自分が計算した」などと語って収拾を図りました。しかしその時、日本側から提供された情報をもとに自分で計算したものだったと説明したのです。
Presenter: Deputy Undersecretary of Defense for Asia and Pacific Affairs Richard Lawless and Deputy Undersecretary of Defense for Installations and Environment Philip Grone(Department of Defense)
$ 26 billion bill coming Japan's way: Pentagon(The Japan Times)

○4月26日の共同通信は、ローレス氏が3兆円を暴露してしまった事について日本政府が「戸惑っている」ことを伝えながら、3兆円は日米の共通認識であると報じました。
3兆円負担発言に戸惑い 政府、米側と認識共有(共同通信)
ローレスがこの時期に「爆弾発言」をしたのは、米議会対策だったとも言われています。「沖縄の基地負担軽減のために」40億ドルの経費負担を強いられるという米議会での異論を封じ込めるために、40億ドルは全体の中のわずかな額であり日本側の負担は260億ドルにも登るという「密約」を暴露することによって米議会を説得しようとしたのです。そもそも米軍の世界戦略の一環として進めている在日米軍基地再編とグアム移転について、日本側の巨額の負担を明らかにすることで米の財政出動を促すなど、全く本末転倒といわざるを得ません。
『同盟変貌』(春原剛 日本経済新聞社 2007.5)

○日本経済新聞は、これに先だって2006年3月12日、日本側経費について総額3兆円を超すとの日本政府の試算を報道しています。日米両政府は、ハワイで3月7日から11日まで在日米軍再編に関する外務・防衛審議官級協議を開催しており、このなかで日本側が試算を説明したのです。つまりこれは米側の要求でも恫喝でもなく、日本政府の側からの提案だった事になります。その経費には、米沖縄海兵隊のグアム移転経費、普天間基地のキャンプ・シュワブ沿岸への移設に伴う代替地の建設等が含まれ、「一般会計の防衛予算から10カ年程度にわたって計上する方向」という予算拠出方式まで提案しています。
日本側から3兆円もの負担の試算が提案されたという事実は、私たちが本シリーズ(3)(4)で明らかにしたように、米海兵隊の駐留継続をむしろ日本側が要請したという事実と符合します。
(その3)辺野古新基地建設計画と海兵隊駐留にこだわった日本政府(リブ・イン・ピース☆9+25)
(その4)日本政府による米海兵隊引き留めの衝動は、対中・対北朝鮮軍事対決の維持・強化(リブ・イン・ピース☆9+25)

○ブルース・ライト在日米軍司令官は2007年6月22日、東京での講演で、日本側の負担額が「260億ドル(約3兆円)程度」と述べた上で「大きな額と思うだろうが有事や戦争がこの地域で起きた場合、比較にならない額になる。はるかに安く済むということだ」と語りました。
「負担3兆円」 在日司令官、有事考えれば「安い」(琉球新報)

○米国防総省が2009年5月7日に議会に提出した2010年度予算案についての説明で、日本側が負担する在日米軍再編費用の総額が推計で200億ドルから300億ドル(2兆円から3兆円)にのぼるということが明記されています。この点について2009年5月12日の参議院での追及に対して、浜田防衛相(当時)は、米予算案に「日本が負担する再編経費の総額の見積りが200億ドルから300億ドルにのぼるかもしれない旨を表記していることは承知をしております」と答え、米側の対応を認めながら、「日本側の経費負担の総額については現時点では申し上げる段階にありません」と逃げています。日本政府は国会で追及を受けながら、米国に対して事実を確かめることも、問い合わせることもしていないのです。
第171回国会 外交防衛委員会 第11号(参議院)
Guam: U.S. Defense Deployments(CRS Report for Congress)

「沖縄の負担軽減」は、日本のカネで米軍の一大展開拠点を造らせるための大義名分に過ぎない
 昨年2月クリントン国務長官の来日時に、第3海兵機動展開部隊のグアムへの移転を明記した「グアム移転協定」の署名が強行され、3月には09年度予算に移転関連経費として353億円が先行計上され、自公の強行採決で同協定が5月に発効しました。この協定でも、(1)グアム移転(2)普天間移設(3)嘉手納以南の基地返還―の3つが「パッケージ」として盛り込まれ、そもそも別物であったこれらが無理矢理リンクさせられ、日本側の予算拠出が先行させられたのです。
グアム移転協定 あからさまな県民無視だ(琉球新報)
「グアム移転協定」の衆院強行採決を糾弾する!(リブ・イン・ピース☆9+25)

 そもそも「普天間返還」で合意したSACO最終報告(1996年12月)、「在日米軍の兵力構成見直し」を表明した2+2会議共同発表(2005年2月)があり、2004年8月の沖縄国立大学での米軍ヘリ墜落事故を挟んで「グアム移転」が突如浮上し、2005年10月の「中間報告」でそれまで全く別々に存在した在日米軍基地の移設問題が関連づけられてしまいました。そして2006年5月の「ロードマップ」(最終報告)で、財政措置を含む形でこれら全部がパッケージとされたのです。すなわち、米国の領土に海兵隊を移転させる「グアム移転」と在日米軍基地を再編する「米軍再編」−−どう考えても日本が負担する根拠がなく猛反対が予測されるこれら二つの移転問題を、普天間返還と無理矢理リンクさせ、「沖縄県民負担の軽減」という大義名分で、それらすべてにかかる費用を日本に出させようというのがロードマップの正体でした。
 1978年より米軍援助として30年以上にわたって支出され続けてきたいわゆる「思いやり予算」は総額5兆5600億円にものぼります(2009年度の予算要求を含む、実行ベース)。そもそもこれ自身が全く正当な根拠のないものです。しかも3兆円を超えるという米軍再編・グアム移転費は、これらとは別に巨額の負担となって日本の財政にのしかかろうというのです。全く理不尽と言う他ありません。海兵隊のグアム移転費用を分担し、米軍再編に日本が費用的責任を持つということは、日本のカネで米軍が世界展開する出撃拠点・基地コンプレックスを造ることを意味しており、「専守防衛」「集団的自衛権の禁止」などの日本の防衛政策に根本的に対立するものです。絶対にゆるすことは出来ません。
在日米軍駐留経費負担の推移(防衛省・自衛隊)

沖縄関係、基地関係、安保関係の「密約」の一つとしての3兆円負担
 かつて、1972年の沖縄返還をめぐり日米両政府が交わしたとされる「密約」の存在が、昨年12月1日の沖縄密約情報開示請求訴訟で元外務省アメリカ局長の吉野文六氏によって証言されました。すなわち、沖縄返還に伴い米国が負担するとされた旧米軍用地の原状回復補償費400万ドル(当時のレートで約14億円)を日本が肩代わりするとした密約、米短波放送中継局(VOA)の国外移設費用1600万ドル(約57億円)を肩代わりして負担する密約などについて認めました。いずれも歴代政権が否定してきた密約です。さらに沖縄返還協定で日本が負担するとされた3億2000万ドルの積算根拠もあいまいなままです。またそれ以外の「秘密枠」で、基地従業員労務費や基地改修費など数千万ドルから2億ドルもの経費を日本側が負担するなど、おびただしい「密約」が指摘されています。これは、現在の在日米軍に対する「思いやり予算」の原型といわれています。
沖縄密約証言 「歴史の真実」解く糸口に(西日本新聞)
吉野氏らきょう証言 沖縄密約情報開示訴訟(琉球新報)
沖縄返還密約:有識者委、財務省に資料要求 「肩代わり」実態究明へ(毎日新聞)

 吉野氏は、協定を通すために「あらゆるところに密約があった」と語っています。自民党政権下の普天間・辺野古をめぐる日米協議、米軍再編協議は、日米の軍事・外交当事者だけで、まやかしと秘密だらけで、日米安保条約や憲法9条に反して強引に勝手に推し進められてきた経緯があります。自民党政権時代の闇は、よく知られている「核密約」だけではありません。沖縄関係、基地関係、安保関係の「合意」や「取り決め」が数々のいかがわしい密約によって支えられてきたのです。自民党政権時代の2006年に取り決められた3兆円もの巨額の移転費用負担は、そのような密約の中でも、日米両当局者にとって最も触れられてほしくないものの一つです。

鳩山政権は、自民党時代の悪しき「密約」外交を繰り返すな
 昨年11月に鳩山首相がオバマ大統領との会談で発言した「トラスト・ミー(私を信じて下さい)」という言葉が、マスコミでは、普天間移設の現行案決着を指すと伝えられ、辺野古シュワブ案断行で約束したにもかかわらず鳩山首相はそれを簡単に翻したと大々的に非難報道がされましたが、実は「トラスト・ミー」はグアム移転費の拠出の約束を意味していたという内容の報道がなされています。
普天間移設「長崎案」急浮上(週刊朝日2009.12.25)
 2009年12月25日号の『週刊朝日』によれば、12月4日に鳩山首相は岡田外相と北沢防衛相に「国外・海外移転」の検討を初めて指示し、社民党福島党首の「連立離脱」発言もうけ、グアムも含め大きく「県外・海外移設」に舵を切ったといいます。そして12月6日、岡田外相がルース駐日大使に、「普天間基地の県外移設を検討する」と伝えた際、ルース駐日大使は、それに対してではなく、「来年度予算に計上したグアム移転経費がゼロ査定になった」という予算編成方針に対して激怒したというのです。すなわち、「日米合意の通りグアム移転経費は負担する、トラスト・ミーと首相は言ったじゃないか」と。
 これに対して鳩山首相は、「米議会の対応が見えないので、復活折衝で私が決めるという整理にしてもらいました。・・・安心してくださいと大使に伝えてください」と岡田外相に投げ返したというのです。
ここでルース氏が本当に「激怒した」かどうかはわかりません。そういうねつ造までして世論誘導をおこなおうとすることがよくあるのは、すでに本シリーズ(その4)で明らかにした通りです。
 (その4)日本政府による米海兵隊引き留めの衝動は、対中・対北朝鮮軍事対決の維持・強化(リブ・イン・ピース☆9+25)

 つまり、鳩山首相が11月のオバマ大統領との会談で発言したとされる「トラスト・ミー」とは、「辺野古移設」や「年内決着」ではなく、グアム移転費の約束通りの負担だというのです。
 これについては様々な情報が飛び交っており、今も米側が「辺野古案が唯一の解決策」と強硬に主張していると伝えられていることから見ても、事態はそう単純ではないと思われます。しかし、少なくとも事態は次のように動いています。
 「ルース激怒」が伝えられた直後の12月8日、米連邦議会は上下両院協議会で2010会計年度予算において在日米軍再編に伴う沖縄県の海兵隊のグアム移転経費について、米政府側が求めていた約3億ドル(約265億円)のほぼ全額を認めることで合意し、のち上下両院でそれぞれ可決しています。
 一方日本では、12月25日に決定された来年度政府予算案で、防衛予算について、グアム移転など米軍再編経費1077億円が計上されました。(「在沖縄米海兵隊のグアム移転」に472億円(前年度比126億円増)、「岩国飛行場への空母艦載機移駐」に270億円(同215億円増)、基地負担を受け入れた自治体への「再編交付金」に92億円(同1億円増)など)。また、一時は見送りとされていたキャンプ・シュワブの環境影響評価(アセスメント)の継続経費などとして、53億円が計上されています。移設先決定後の経費は、緊急の支出に備える「国庫債務負担行為」や予備費で対応することとされました。
 これらの動きは、先に述べたローレス米国防副次官(当時)が米議会対策として「日本の負担は3兆円」を暴露した状況と酷似しています。
グアム移転など米軍再編経費1077億円計上 防衛予算(朝日新聞)

 米国は、2006年5月のロードマップ以降、一方ではそこに盛り込まれた「普天間代替施設としての」キャンプシュワブの辺野古新基地建設を強く要求しつつ、他方では2006年7月の「グアム統合軍事開発計画」で示された軍事計画の変更、つまり在沖縄海兵隊をグアムへ全部隊撤収・配備するという変更を進めるという二面的な対応を取ってきました。
(その1)海兵隊のグアム全面移転で、普天間の代替地としての辺野古新基地は必要ない(リブ・イン・ピース☆9+25)

 米側の意図は以下のようなものではないでしょうか。日本側が言い出した辺野古新基地と演習場は日本のカネであくまでも作らせる。迷走したあげくにようやく到達した辺野古V字型案をいまさら変更させることはしない。しかし万が一それがダメであった場合でもグアムへ海兵隊全面移転のオプションを作成し、それはそれで日本のカネで行う。
 米国にとっては、どちらにころんだとしても、自らの基地建設・移転費について3兆円を超える予算を日本側が出してくれることを最大の関心としているのです。これが日米合意の核心の一つ、自民党政権時代に作られた「沖縄密約」の一つです。私たちは、辺野古新基地建設に徹底して反対するとともに、グアム移転と基地再編の一切の拠出、3兆円の負担に対しても批判の声を上げていかなければなりません。

2010年1月13日
リブ・イン・ピース☆9+25

「基地負担軽減」と「グアム移転」、「在日米軍再編」がリンクされたロードマップの記述は以下です。

(1)普天間移設費=「基地負担軽減」
 日本及び米国は、普天間飛行場代替施設を、辺野古岬とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ形で設置し、V字型に配置される2本の滑走路はそれぞれ1600メートルの長さを有し、2つの100メートルのオーバーランを有する。各滑走路の在る部分の施設の長さは、護岸を除いて1800メートルとなる。この施設は、合意された運用上の能力を確保するとともに、安全性、騒音及び環境への影響という問題に対処するものである。

(2)グアム移転
 約8000名の第3海兵機動展開部隊の要員と、その家族約9000名は、部隊の一体性を維持するような形で2014年までに沖縄からグアムに移転する。移転する部隊は、第3海兵機動展開部隊の指揮部隊、第3海兵師団司令部、第3海兵後方群(戦務支援群から改称)司令部、第1海兵航空団司令部及び第12海兵連隊司令部を含む。

(3)グアム移転費用の日本側負担
 第3海兵機動展開部隊のグアムへの移転のための施設及びインフラの整備費算定額102.7億ドルのうち、日本は、これらの兵力の移転が早期に実現されることへの沖縄住民の強い希望を認識しつつ、これらの兵力の移転が可能となるよう、グアムにおける施設及びインフラ整備のため、 28億ドルの直接的な財政支援を含め、60.9億ドル(2008米会計年度の価格)を提供する。米国は、グアムへの移転のための施設及びインフラ整備費の残りを負担する。これは、2008米会計年度の価格で算定して、財政支出31.8億ドルと道路のための約10億ドルから成る。

(4)在日米軍基地再編
・米陸軍司令部能力の改善
・横田飛行場及び空域
・厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐
・ミサイル防衛
・訓練移転


再編実施のための日米のロードマップ(防衛省・自衛隊)より