「反占領・平和レポート NO.58」で明らかにしたガザ封鎖・飢餓戦略も、そして今回の大虐殺も、ハマス・バッシングのプロパガンダによって支えられています。マス・メディアで横行している報道は、大虐殺に賛成するまではいかないとしても、「けんか両成敗」的な報道によって、国際世論によるイスラエル批判をあいまいにしています。許し難い人道に対する罪で糾弾しなければならないのに、その矛先をにぶらせる役割を果たしているのは間違いありません。今回の「反占領・平和レポート」は、マス・メディアと西側諸国が作り出すハマス=「テロ組織」の虚像について批判します。ハマスとそれを支持する住民に対してであれば、空爆でも砲撃でも虐殺でも破壊でも何をやっても許される、ハマスさえ排除すれば「中東和平」が実現する――そのような悪質なデマ宣伝と世論誘導がまかりとおっています。米欧日政府と世界中の大手メディアの責任は極めて重大だと言わなければなりません。 2009年2月24日 まずハマスは、06年1月の自治政府の評議会選挙で、世界中から集まった選挙監視団の厳重な監視下で民主的手続きを経て勝利した正当な政権政党です。ハマスは同時にガザの人々の生活と生命を維持するための行政組織であり、イスラム政党として網の目のように張り巡らされた支援組織という性格も持っています。この支援組織という性格は、「停戦」後もイスラエルによる完全封鎖が続く中で、人々への援助と復興にとって決定的な意味を持ってきています。今ハマスを攻撃することがガザの人々の生命と生活にとっていかなる意味をもつのかを考えてみる必要があります。 ところが主要メディアはハマスに言及するとき必ず「イスラム過激派」、「イスラム原理主義組織」などという形容詞を付け、あたかも得体の知れない「テロ組織」であるかのような虚像を作り上げています。それはちょうどネオコンたちがアフガン・イラク戦争を始めるために、彼らがねつ造した「国際テロ組織アルカイダ」の虚像を全世界に広め、タリバンとの関係、フセイン政権との関係などありもしない事実をでっち上げて開戦の根拠にしたのと全く同じ手法です。いや、それ以上に極めて悪質です。なぜなら「アルカイダ」は、幻のテロ組織を存在するかのように宣伝したものでしたが、ハマス・バッシングはれっきとした政権政党を「テロ組織」と偽り、破壊の対象としているからです。 ※たとえば2004年にイギリスで作られた『「テロとの闘い」の真相』は、「国際テロネットワーク」という神話が9.11以前から作り出され、それが9.11後にネオコンによってアフガン・イラク戦争の理由づけとして虚像が膨らまされていったことを明らかにし、大きな反響を巻き起こした。日本でも2005年に放映されたが、この内容はまだまだ多くの人々の共通の認識になっているという状況にはほど遠い。もっと広く知らせていく必要がある。 『対テロ戦争』への加担に反対し、イラク・インド洋からの自衛隊撤退を求めるシリーズ(その6)――[ビデオ紹介]「テロリスト」とは誰か、「テロとの闘い」と何か?ネオコンが作り上げた、壮大な虚構 国際テロネットワーク、アル・カイダは存在しない――(署名事務局) しかも、2007年5月には、何とイスラエル軍は西岸で白昼堂々とハマスの教育相と評議会議員、自治体首長ら計33人を一斉に拉致・拘束しました。西側政府やメディアはイスラエルのこの違法行為を全く非難しませんでした。何をやってもイスラエルは許されるという風潮が、今回の大量殺戮につながったのです。 ※イスラエル軍、ハマス閣僚ら政治指導者33人を一斉拘束(読売新聞) はっきりしているのは、パレスチナ人民の大義を裏切り、宿敵米・イスラエルに迎合し屈服し、西側や国連からの援助を独占することで官僚主義化し腐敗したファタハ、それに対する批判勢力として、ハマスはガザ住民とパレスチナ人民に支持されているという事実です。ハマスはガザ住民の抵抗の代弁者、象徴となっているのです。ガザの一般住民は、当たり前の人間の尊厳、生存する権利、「強制収容所」の廃止を求めているのです。殺されても殺されても抵抗をやめないのは、人間の尊厳、誇りを捨てていないからです。 ※反占領・平和レポート NO.44 (2006/2/10)1/25パレスチナ立法評議会選挙 屈服を拒否したパレスチナ人民(署名事務局) ※Hamas Election Victory: A Vote for Clarity(Electronicintifada) ※[紹介]ガザ封鎖の中でも屈しない人々の魂を描く 封鎖された街に生きて 〜ガザ ウンム・アシュラフ一家の闘い〜(リブ・イン・ピース☆9+25) ファタハのアッバス議長は1月9日任期切れとなり、政治的な正当性を持たない存在になっています。ハマスの反対を無視して一方的に1年の任期延長を決定していますが、パレスチナ人民の意思を反映したものとはとてもいえません。マスメディアはそれには目をつぶり、唯一正統な選挙で選ばれたハマスが攻撃されているのです。これは許し難いことです。マスメディアは、ハマスが選挙で正当に選ばれた政権政党であることを認めるのかどうか、はっきりさせるべきです。 今回の大虐殺がイスラエルによる一方的侵略であることをはっきりさせるべき 今回のイスラエルの攻撃についても真相が暴露され始めています。いまだにハマスの「ロケット攻撃」にイスラエルが過剰反応したというような見方が根強く存在しています。しかし経緯をよくみてみると、今回の攻撃はイスラエルの防衛でも反撃でもなんでもなく、また突如起こったものでもありません。イスラエルはガザ地区でハマスを攻撃する機会をうかがい、周到に計画的に準備してきました。バラク国防相自身が軍に今回の軍事作戦の準備開始を命じたのは少なくとも6ヵ月前であることを明言しています。それはまさにイスラエルとハマスの間の「停戦期間」そのものでした。つまり、「停戦」の裏で、攻撃目標の偵察、兵員準備と兵器調達を着々と準備していたのです。また、9月にはアメリカ議会が、イスラエル政府の要請に応じ、今回の大虐殺で使われることになるGBU-39を1000発売却する計画を承認しています。これは当時のブッシュ政権との緊密な打ち合わせの上で行われたことを意味しています。 ※U.S. Approves Bunker-Buster Bombs to Israel(Newsmax) ※Disinformation, secrecy and lies: How the Gaza offensive came about(Haaretz) 今回の攻撃の直接のきっかけを再確認してみましょう。12月23日、24日にかけてのハマス側からのロケット弾攻撃だというのも、意図的なデマです。これに先駆けてイスラエル軍は23日夜、パレスチナの戦闘員3人を射殺しています。報道では、戦闘員が爆弾を仕掛けていたから射殺したなどと報じられていますが、爆弾を仕掛けていると見えただけで射殺が正当化されるならば、イスラエルや米国は真っ先に攻撃されなければならないでしょう。 ※IDF troops kill three Gaza militants at border fence(Haaretz) 半年の停戦期間中も、イスラエル側からの数々の協定違反と挑発がありました。イスラエル特殊部隊が幾度となくガザに入り込み、ハマス戦闘員や一般住民を殺害しています。そして、今回の侵略の前月11月4日には、イスラエル地上軍がガザに侵攻しました。ハマスなどガザの武装勢力はロケット弾で応戦しました。ガザに通じる検問所が閉鎖され、現地で活動する国際NGOも外国人報道関係者も入れなくなりました。この時点でガザ住民は閉じ込められ、外部とのわずかな接触も遮断され、完全に攻撃準備は整いました。イスラエルは大規模攻撃の準備をしながら12月19日に半年の停戦協定が切れるのを待っていたのです。ハマスのロケット弾攻撃への報復というのは単なる口実です。「停戦期間」をつかって、ハマス軍事部門の活動拠点や関連施設、訓練キャンプ、ハマス幹部の居宅、その他さまざまな施設などの情報収集を行っていたのです。 12月27日からの空爆、1月4日からの限定的地上戦に続き、13日からは予備役1万人も含めた2万人規模での全面的地上攻撃に迅速に入ったという、軍事作戦の経緯そのものが周到な準備を物語っています。 ところがマス・メディアがやっていたのは、エジプト国境の「日常物資搬入のトンネル」を「武器搬入のトンネル」にねじ曲げてハマスを攻撃することでした。しかもそもそも、ハマスの「ロケット」などは、プラスチック管などを加工した大人の背丈程度のもので、イスラエルの武器とは比べようもないほど、武器と言うにはあまりにお粗末な代物なのです。それを証拠もないまま「武器密輸」などと呼び、いたずらに脅威だけを煽ってきたのです。 ガザ援助の政治利用、ハマス排除をやめるべき 米欧日政府とイスラエルは、「停戦後」のガザ復興・援助をめぐって、ファタハだけに資金・物資を流すことで、またもやハマスとファタハを競わせ、内部対立を煽り、巨額の援助資金をちらつかせ、この機に乗じてガザへのファタハ支配を促進しようと目論んでいます。今やガザは言うまでもなく、西岸も含め、パレスチナ問題のあらゆる解決に際してハマス抜きではあり得ません。 ※パレスチナ:ガザ地区、復興で主導権争い ハマス支持拡大、ファタハは苦戦(毎日新聞) このような策動は、西側諸国やマス・メディアが言う「人道危機」や「援助」なるものがいかに欺瞞的なものであるかを見せつけています。ガザの人々が封鎖で半飢餓状態に陥っているとき、食料や衛生物資などが緊急に必要です。ところが、配給体制からハマスを排除し物資を行き渡らないようにした上で、マス・メディアは「ハマス横取り報道」を行っているのです。そして緊急の食料や家の再建・復興などのための資金がガザに流入することを妨害しているのです。 ※ガザでの人道支援作業を中止、ハマスの食糧横取りで国連機関(CNN) ※ハマス幹部の現金10億円ガザ持ち込みを阻止…エジプト(読売新聞) ハマスが正当な選挙を経てガザを政治的に掌握しており、それがちゃんと機能している状況の下では、ハマスに援助物資を配ることが、被害住民に援助物資を届ける最良の方法であることは明らかです。国連や西側諸国は、援助活動をガザの人民のためにではなく、イスラエルのために、ガザ住民を手なづけるためにやっていると言う他ありません。 たとえば2月19日付けの読売新聞は、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)が「「ニーズ把握」でハマスに遅れをとる」として、被災住民アベドラボの次のような言葉を掲載しています。「UNRWAの配給は数日に一度。煮炊きに苦労しているのに、米や小麦粉ばかり。ハマスのパンはありがたい」と。ハマス政府は地元のイスラム系民間団体と連携して、毎日焼きたてのパンを配っているといいます。ハマス政府は住民8万人の被害状況を詳細に記録したリストを作成しているといいます。イギリスのNGOオックスファムは効率よい援助のため、「ハマス政府との連携は不可欠」と語っています。 ※加えて言えば、読売新聞は同じ記事の囲みで、「交戦に備え武器密輸」という見出しの記事を掲載しています。しかし中身を読めば、「暫定停戦宣言後はハマスは一発もロケット弾を発射していない。発射しているのは他の政治組織だ」というもので、不測の事態にそなえ武装態勢を継続していると付け足しているにすぎません。読売新聞は、見出しであたかもハマスが「武器密輸」をして戦争準備をしているかのような印象を作り出そうとしていますが、実際に語っている中身は、ハマスは攻撃を一切控えているという内容なのです。 『デイズ・ジャパン』09年3月号の特集「ガザ 世界はイスラエルを裁けるか」では、ハマスの「物資略奪」について詳しく説明されています。UNRWAは難民登録をしている人にしか援助物資を配給しないが、今回の攻撃で家を失った人たちは難民登録をしていない、緊急にその人達にも配給する必要があるために、ハマスは物資を「略奪」したのだと伝えています。この「略奪」がどのように行われたのかの詳細はあきらかではありませんが、「小麦粉やコメ約300トンが、エジプトからガザに入境した直後、ハマス政府のトラックで持ち去られた」(毎日新聞)ということであれば、援助対象を制限して配給に数日かかる国連機関に対して、ハマスが緊急の配給を行うために非常手段をつかったということではないでしょうか。ガザを掌握しているハマス政府と国連が連携し、エジプト国境に物資が着いた時点でハマスのトラックに乗せて配給してもらうという計画が出来ているべきなのです。ところが、ハマスが物資を配布するのならば搬入しないといっているのが国連なのです。国連の米・イスラエルべったりを糾弾しなければなりません。メディアは、国連と米のプロパガンダをそのまま垂れ流しているに過ぎません。 ※ガザ支援物資「ハマスが横取り」 国連、搬入を中止(朝日新聞) ※ハマスまた援助物資横取り、国連機関は搬入停止宣言(読売新聞) マス・メディアと西側諸国は、ハマス=「テロ組織」の虚像のプロパガンダをやめるべきです。ガザ封じ込めと飢餓戦略の残虐性を報道し、イスラエルによって飢餓寸前の状態におかれているガザ住民に支援物資が迅速にとどくよう努めるべきです。 |