シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.38) 情報機関報告でも破綻した米国の「コロナ研究所漏洩説」
バイデン大統領は「起源問題」を道具とする反中国宣伝をやめよ

 バイデン米大統領は、新型コロナウィルス起源問題を一貫して中国非難の道具にし続け、主要なメディアを動員して執拗に「ウィルス研究所漏洩説」のキャンペーンを繰り返してきました。中国政府を秘密主義と非難し、世界保健機関WHOに対して3月31日のWHO調査団報告書で「今後検討に値しない」とされた「研究所漏洩説」を調査の中心から外すなと圧力をかけ続けました。5月26日には国内の全情報機関に対して90日以内に「ウィルス起源問題」での報告を出すように命じました。しかし、期限後の8月26日に国家情報長官室(ODNI)がまとめた報告内容は、米国政府の「研究所漏洩に違いない」との主張が何の根拠もないものであることを政府情報機関そのものが示し、「研究所漏洩説」に固執し続けた米政府とバイデン大統領の信頼性は更に地に落ちることになりました。
COVID-19の起源に関する情報機関の評価の機密指定でない部分の要約(国家情報長官室(ODNI)発表、8月26日)
バイデン大統領の声明(8月27日)

目的は起源の解明ではなく、中国非難
 90日の報告期限である8月25日に、米国の全ての情報機関はバイデン大統領に「新型コロナウィルス起源問題」での報告を行いました。その内容は公表されず、まとまった報告書も出されず、国家情報長官室がとりまとめた報告について機密指定されなかった部分の要約が発表されただけでした。
 国家情報長官室の発表した内容は、[1]ウィルスが生物兵器として開発されたものでないことには広い合意がある。[2]ほとんどの情報機関は、おそらく遺伝子操作されたものでないと考えるが、確信度は低い。[3]2つの情報機関は、評価を下すのに十分な証拠がなかった。[4]国家情報長官室は、中国が武漢感染爆発以前に中国政府がウィルスを予知していなかったと考える、というものでした。
 発表はさらに、[1]国家情報長官室と4つの情報機関は自然発生のウイルスへの曝露(自然発生説)が原因の可能性が高いと確信度は低いが考えている。[2]1つの情報機関はコロナウイルスを扱うことの本質的なリスクから中程度の確信度で武漢ウイルス研究所から流出した可能性があると考えている。[3]3つの情報機関はどちらの説にもまとまらない。[4]これらは情報の違いではなく、各情報機関ごとに重点を置く観点の違いによるもの、としました。
 この報告を受けたバイデン大統領は、27日に上掲の声明を出しました。声明は、あたかも確かな証拠があるかのように騒いで中国に秘密を出せと非難した責任をまったく反省せず、今回も中国が重要な情報を隠しているからだ、透明性と情報共有を拒否しているからだと、本末転倒の中国非難に終始しています。まったく無反省という他ありません。そもそも科学の問題である新型コロナウイルスの起源問題を情報機関が解明できると考えることそのものが的外れです。案の定、起源問題については何一つ新しいこと、解明につながる内容はありません。その上で「研究所漏洩説」の根拠がまったく得られなかっても、責任は情報を公開しない中国にあると責任のなすりつけです。結局、米政府は起源の解明など何の関心もなく、中国を非難し続けることにしか関心がないのです。

「研究所漏洩説」の証拠や根拠は何もない
 しかし、情報機関の報告は事実上の米政府の敗北宣言に他なりません。トランプ元大統領は昨年3月に研究所からの漏洩が原因だとして、「私は証拠を見た」と公言して、中国を非難しました。今年1月にはWHOの中国現地調査に合わせて、「武漢感染拡大に先だってウイルス研究所の研究員3人が新型コロナ様の症状で入院した」と「武漢ウイルス研究所が感染の始まりである」と暗示するレポートを国務省が公表しました。(もちろんそんな事実はなく入院した研究員もいません。この点については2021年2月3日にWHO調査団が武漢ウイルス研究所を訪れた際に、全研究員は年2回血清検査を行い、血液サンプルも残されている、全ての職員の抗体検査は陰性だったと報告しています。その後も事実と関係なく繰り返される米メディアのプロパガンダに対し、中国側はそんな研究員がいるなら誰なのか氏名を明らかにすべきと反論しました)。バイデン大統領は、3月31日にWHOが新型コロナの起源に関する報告書を公表し、その中で「研究所漏洩は可能性が低く、今後研究する必要はない」と結論付けたことを批判し続けました。「研究所漏洩説」は自然発生説と並べて追求し続けて、中国側にあらゆる情報をはき出させるべきだと言い続けています。ウォールストリート・ジャーナル、ワシントンポスト、ニューヨークタイムス、CNNなど米国の主流メディアを組織し、何度も研究所漏洩の根拠や証拠があるかのように宣伝させました。さらに政府に従順な科学者を動員し、「研究所漏洩説」の応援をさせました。議会内では共和党が中心になって、ファウチ国立アレルギー・感染症研究所所長-エコ・アライアンス-武漢ウイルス研究所が結託してウイルスを改変=遺伝子操作を行い、新型コロナウイルスを作り出し、漏洩させたとのプロットをでっち上げ、ファウチ氏らへの政治的つるし上げ劇を大々的に行いました。これら大騒ぎの結末が今回の国家情報長官室の報告だったのです。彼らがさんざん宣伝してきた「研究所漏洩説」について人々が納得するような証拠や根拠は何一つありません。人々どころか、自分たち情報機関の中でさえ大半が「研究所漏洩説」を支持せず、自然発生説と考えていることが暴露されたのです。中国が犯人で研究所漏洩を隠していると大声で叫んでいたことはいったい何だったのでしょうか。

自然発生説と「研究所漏洩説」との根本的な差違
 新型コロナウイルスについて自然発生説と「研究所漏洩説」では、その根拠、信憑性に根本的な差違があります。[1]自然発生説は、過去に発生した新興感染症のほとんどがその例で、しっかりとした実例に裏付けられています。重症急性呼吸器症候群SARS(コロナ感染症)、中東呼吸器症候群MERSのいずれもコウモリのコロナウィルスが元になって、中間宿主を通って人に感染したものが広がったケースです。エボラ出血熱やHIVウイルスもそうです。だから、今回も新しいコロナウイウルスの起源を自然発生の可能性に求めることは当然のことです。同時にSARSウイルスの発見に14年を要したように、起源の解明には時間がかかることもよく知られています。[2]一方、新型コロナウイルスの「研究所漏洩説」には大きな問題があります。確かに「研究所漏洩」は過去にいくつかの事例があります。SARSも北京の研究所で研究員に感染し、限定的な感染拡大が起こりました。米で生物兵器の研究拠点だったフォートデトリックでは炭疽菌の流出など多くの漏洩と感染がありました。2019年にはフォートでトリック内でペストやエボラウイルスを扱っていた米陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)に米疾病管理予防センターCDCが研究中止命令を出しています。しかし、これらの漏洩事故では漏洩に先立って原因となるウイルスや病原菌がすでに存在していました。「研究所漏洩」で周りの人に感染するためには、すでにウイルスがあることが必須なのです。北京の研究所はSARSウイルスを扱って研究していて、誤って感染事故を起こしました。ところが新型コロナウイルスの場合、そのウイルスそのものはどこにもありませんでした。8月に出された共和党の新型コロナウイルスの起源に関する報告書は、武漢ウイルス研究所が雲南の洞窟コウモリから手に入れたRaTG13ウイルスから遺伝子操作(機能強化実験)で新型コロナウイルスを作り、それが漏洩したのだと全くの作り話を広げようとしました。しかし、[1]遺伝子配列が96.2%近似するRaTG13でも、新型コロナとは遺伝子が違うところが多すぎて、遺伝子操作しても新型コロナウイルスを作る事はできないというのが科学者らの一致した見解です。[2]武漢ウイルス研が機能獲得の実験をしていたのは既知のコウモリのコロナウイルスだけで、人のコロナウイルスには行っていません。だから新ウイルスもできるはずがありません。従って、共和党の報告書には何の根拠もなく、単なる作り話と言うことになります。国家情報長官室の報告にも、生物兵器の開発は行われておらず、遺伝子改変も行われていない、政府自身が新型コロナの出現を予期していなかったとあるのですから、唯一残るとすれば偶然採取したコロナウイルスに、新型コロナウイルス(あるいはその直前の前駆ウイルス)が含まれていて、そのウイルスが偶然人への感染性を持っていて、それが偶然漏れて人の間に感染が広がったという場合だけです。そんな偶然が重なって起こる可能性は事実上ゼロです。また、採取したサンプルの遺伝子型は、隠す理由がないからすべてデータベースに登録され、あるいは学会等で発表されたはずです。しかし、そんな遺伝子配列は存在しません。現在も起源になったウイルスは発見されていないのです。結局、事前にウイルス研に新型コロナウイルスがあった等ということはなく、「研究慮漏洩説」には何の根拠もないのです。

起源解明を妨害する米政府
 米政府は全情報機関を動員して、3カ月も費やして、結局「研究所漏洩説」の根拠も証拠も上げられませんでした。しかし、自分の言動を反省するではなく、逆に恥ずかしげもなく「原因は中国が情報を公開しないからだ」と言い放っている始末です。しかし実害はそれだけに止まりません。米国政府は、WHOに対して「研究所漏洩説」の調査を押し付け続けているのです。もちろん中国政府が米の言うままの調査を受け入れるはずがありません。10月に中国の陳旭国連代表部大使は「2回にわたって国際調査チームが中国を訪れ、明確な調査結果を出した」「今後は他の所に調査チームを送るべき時だ」と語っています。米国は中国に責任を押しつけて、中国が悪いから起源解明ができないと宣伝するつもりなのです。あくまでも起源問題は中国非難の道具なのです。結果として、WHOを軸とする起源問題解明の作業は妨げられ続けます。米政府がやっているのは全力で起源解明を妨害する行いなのです。
 WHOの3月の報告は起源問題について、[1]宿主から直接伝搬、[2]中間宿主から伝搬、[3]コールドチェーンなどを通じて伝搬のケースでさらに調査を続けることを提起しました。武漢に先行する感染の存在についてもさらなる調査を提起しました。フェーズIIの調査は中国・武漢だけでなく世界各国で、動物調査を含めてより広い範囲での調査が必要とするのですす。
 WHOは米の干渉で起源調査が困難になり、前回のようにWHOと中国の科学者が同数で協力する形をやめ、26カ国から一人ずつ26人の調査チームを作る形でフェーズIIに進もうとしています。しかし中国の協力を得ることは難しいでしょう。WHOが動けない下でも、それぞれの国で科学者たちが起源解明に取り組みを進めています。自然発生説に基づく前駆ウイルスの探索(主としてコウモリ調査)は各国で続いています。ラオスではRaTG13よりさらに近い(96.8%)のウイルスがコウモリから見つかりました。しかし、まだ新型コロナになった元ウイルスではなく、元ウイルスの発見には時間がかかると思われます。ラオス以外でもコウモリのコロナウイルス調査は広く行われています。中国ではコウモリ以外の動物の調査も進められています。武漢の前に感染があったと思われる国でも献血や保存血液などの調査が行われています。このような地道な科学的な調査を通してしか新型コロナウイルスの起源解明はできないのです。中国政府は米の情報機関の報告に強く反対しながら、米国政府に対して起源調査の政治化をやめ、科学に協力し、世界の声を聞くべきだと呼びかけています。
ラオスで発見されたCOVID-19の背後にあるウイルスの最も近い既知の親戚(nature2021年9月27日)

2021年10月25日
リブ・イン・ピース☆9+25

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