シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.27) (補論)米国立衛生研究所が驚くべき調査報告を発表
~武漢以前に米国内で感染者が発生~

2020年1-3月の血液サンプルから新型コロナ抗体検出
 バイデン政権はまともな根拠もなく中国の武漢ウイルス研究所からのコロナ漏洩説を振りかざして中国非難を繰り返しています。G7サミットでも「研究所漏洩説」を調べるべきだ、「自由で独立的な調査」が必要だと、この機会に中国国内を好き勝手に調べることを要求しました。いまやバイデン政権は、新型コロナ起源問題について、科学なんかそっちのけで、起源究明もどうでも良くて、中国非難のキャンペーンさえできればいいと考えているとしか思えません。
 そんな中でAP通信社はアメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究員らがが6月15日に「臨床感染症」という科学雑誌に発表した報告について配信しました(※1)。「2020年1月2日から3月18日までの全米研究プログラム参加者におけるSARS-CoV-2に対する抗体」という報告はアメリカ国内で2019年12月にすでに新型コロナウイルスへの感染が始まっていたことを明らかにしています。アメリカ国内での初めての感染者は2020年1月15日に武漢から帰国し19日に診療所に駆け込んだワシントン州の男性だったとされていますが、それに先立って前年のクリスマスの頃にすでに感染者が出ていた可能性があると指摘しています。「臨床感染症」のサイトに公表された報告(※2)は2020年1月2日から3月18日に全米50州から提供された献血の血液サンプル2万4079名分の抗体を分析したもので、複数の方法で抗体検査を行いこのうちの9名の血液サンプルから抗体(IgG)が検出されたというものです。抗体が検出されたイリノイ(3人)、マサチューセッツ、ミシシッピ、ペンシルベニア、ウィスコンシン州からの7人のサンプルでは各州の最初の感染者の出現より採血日が早かったといいます。一番早いイリノイ州の採血日は1月7日、2番目のマサチューセッツ州では1月8日でした。抗体ができるまで感染してから2週間程度かかりますから、武漢で多くの新型肺炎患者が病院に来て新型ウイルス感染が問題になる12月26日以前に、アメリカ国内でも感染者が出ていた可能性があるわけです。イリノイ州の感染者について報告の責任者でジョンズ・ポプキンス・ブルームバーグ公衆衛生大学院のケリー・アルトホフ准教授は「クリスマスイブに早くも感染した」と言っています(※1)。これらの結果について、研究者らは偽陽性、あるいは他のコロナウイルスで抗体ができたなど反論を予想し、何種類もの抗体検査を行い、検査そのものの有効性を確かめながら慎重に「5つの州では最初に認められた症例の数週間前にSARS-CoV-2感染」があったと結論を出しています。米疾病管理予防センターCDCの呼吸器ウイルス免疫学の主任研究者ナタリー・ソーンバーグ氏は、各国が協力し、あたらに出現するウイルスを可能な限り迅速かつ協力的に特定する必要性を強調しています。
※1 More evidence suggests COVID-19 was in US by Christmas 2019(AP)
※2 Antibodies to SARS-CoV-2 in All of Us Research Program Participants, January 2-March 18, 2020(Clinical Infectious Diseases 15 June 2021)

更に早い時期に感染があった可能性も指摘されている
 アメリカ国内での早い時期の感染の広がりを指摘する研究はこの報告だけではありません。上の論文が公表された「臨床感染症」の科学雑誌版の6月15日号にはCDCやNIHの研究者らが関係する別の論文が掲載されています(※3)。「米国のSARS-CoV-2の反応抗体の血清学的検査2019年12月~2020年1月」という論文です。この研究は上のサンプルよりも更にさかのぼる2019年12月13日から2020年1月17日までにアメリカ赤十字社が集めた献血の血液サンプル(9州、7389件)についてのCDCで行った新型コロナウイルスの抗体分析です。この研究では12月13日から16日までの全サンプル1912のうち39、12月30日から2020年1月17日のサンプル5477のうち67件、合計106件(1.4%)がIgG抗体検査に陽性となっています。そのうち90サンプルを更に検査すると、39件はS反応性IgGとIgMを持っており、8つはIgM陽性、29はIgG陽性となりました。結果として全部で84サンプルがSARS-CoV-2ウイルスへの中和活性を持っていました。二つの抗体検査に反応した39件をはじめ、これらのサンプルは新型コロナウイルス感染者からのものである可能性が高いことを示しています。12月13-16日の採血者で抗体が陽性となったカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州の住民は12月初めに感染した可能性が高いのです。もしそうなら武漢で現在知られている感染者(12月8日)よりも早い時期にすでにアメリカ国内で感染者がいたことになります。武漢でのWHOと中国の合同調査は中国国内での12月8日以前の感染者を発見できていません。最初の感染者が国外からやってきた可能性も残されています。その意味で武漢に先立つ時期の感染者の存在は、新型コロナウイルスの起源解明に非常に重要です。場合によっては米国内で動物から感染したヒトから感染がはじまり、中国に伝わった可能性もあるのです。
※3 Serologic Testing of US Blood Donations to Identify Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2)–Reactive Antibodies: December 2019–January 2020(Clinical Infectious Diseases 15 June 2021[公表は2020年11月30日])

スパイ情報の精査ではなく、各国での先行感染の調査、感染源動物の調査が必要
 新型コロナウイルスの起源解明についてアメリカ国内だけでなく、世界中で武漢と同時期、あるいはそれに先行する感染と思われる事例がたくさん報告されています。例えば浅井基文氏のコラムでは中国外務省の趙立堅報道官の発言を紹介してスウェーデン、イタリア、フランスなどでの事例を挙げています(※4)。私たちもリブインピースの第3回オンライン・カフェで紹介しましたが、科学雑誌に掲載された論文だけで以下のようなものがあります。
(1)イタリア・ロンバルディア州 2019年9月~2020年3月に肺がん検診試験に参加した959人の血液サンプル中にSARS-CoV-2特異的抗体の存在を調べた。特異的抗体は111人で検出され、2019年9月は11.6%から検出された。最も多かったのは2020年2月第2週で53.2%(SAGE journal Unexpected detection of SARS-CoV-2 antibodies in the prepandemic period in Italy,2020/11/11)
(2)イタリア国立衛生研究所がイタリア北部の汚水処理施設から採取した40の下水サンプルの分析で12月18日時点のミラノとトリノの下水サンプルから新種のSARS-Cov-2遺伝子の痕跡を確認。(Istituto Superiore di Sanità (2020年6月18日)
(3)フランスでインフルエンザのような症状があった患者から、12月27日に採った検体を、後日検査したところ、新型コロナウイルスの陽性反応があった(International Journal of Antimicrobial Agents 2020/6/6)
 いずれにしても、昨年の段階から世界各地で先行感染の報告がされています。だからWHOの調査団も起源調査の次の段階として世界各国での先行感染調査を提起していたのです。ロイター通信は世界保健機関(WHO)がイタリアの研究者と関連する研究所と協力して、コロナウイルスが2019年秋からイタリアで感染が広がっている可能性を示唆する研究のサンプルを再テストしはじめたことを報じています(※5)。新型コロナウイルスの起源を明らかにし、コロナ感染症の再発防止に役立てるためには、上のような世界各国での先行感染事例の調査とコウモリなどの宿主動物/中間宿主動物のより広範な調査が必要です。中国を悪者にし責任をなすりつけるためだけの悪意ある米国の行動は、起源調査の次の段階の課題を検討するWHOの活動を妨害し、国際的な協力関係を撹乱するだけです。直ちに悪意あるプロパガンダをやめ、まずは自国内の先行感染の調査を行うべきでしょう。
※4 米国立衛生研究所の新コロナ・ウィルス調査結果報告(浅井基文コラム)
※5 WHO、イタリアでのコロナ初感染時期について再検査

2021年6月21日
リブ・イン・ピース☆9+25

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