菅の対中軍拡反対。対中強硬翼賛体制、野党の対中強硬政策に反対する 菅政権は「台湾有事」を口実に対中軍拡を強化し、日本軍国主義を新しい段階に押し上げようとしています。それは、バイデン政権の新軍事戦略に従順に呼応するものです。安倍政権から始まっていた日米軍事一体化の強化拡大、対中戦争準備での日本の初めての軍事イニシアチブ、アジア版NATO準備構想への参加などを、さらに加速するものです。背景には、バイデン政権と西側諸国の対中戦争準備の加速という国際情勢の変化があります。 菅政権は、米中対立の板挟みの中で揺れていましたが、日米防衛協議委員会(2+2)、日米首脳会談共同宣言をきっかけに対中戦争準備に迎合する方向へ転換し始めています。しかし、政治の反中転換は一直線には進みませい。すでに緊密化した日中経済関係との矛盾を必ず引き起こすでしょう。 日本軍国主義の新段階は以下の特徴を持っています。 ――日米軍事一体化のさらなる拡大強化:「離島防衛」を口実にした離島の軍事要塞化、対中攻撃準備。敵基地攻撃能力、長距離巡航ミサイル、新型極超音速ミサイル開発とその長距離化。南シナ海を含め多国籍軍での包囲体制。自衛隊と米軍基地・演習場の共同使用と自衛隊・米軍の一体化。何よりも南シナ海をはじめ西太平洋での米軍との共同行動、共同演習・共同訓練が頻繁になっています。自衛艦は米空母の護衛艦として随伴し、南シナ海に入り対中威嚇に参加しています。グアムから沖縄・日本海を通り米に向かう戦略爆撃機の護衛も日常化しています。米海兵隊と水陸両用団の共同上陸演習も日常化しています。様々な面で自衛隊と米軍部隊は一体化を急速に進めているのです。 ――アジア版NATO準備構想への参加:菅政権は、国会審議や国民的な議論もなく、米国主導の、事実上のアジアでのNATO準備構想に参加し始めた。ヨーロッパのNATOのように公式に参加国が会議を開き、制度として創設する形ではなく、ヨーロッパのNATO軍が自衛隊、米軍、豪州軍と軍事演習・軍事訓練をする形で、なし崩しで進められています。 ――初めて日本が軍事的主導権を発揮:「クアッド」(米日豪印)が代表的ですが、米国と並び日本が西側連合軍のイニシアチブをとり始めました。英仏独などNATOの軍隊・軍艦が日本に総結集し、米軍だけでなく豪軍やカナダ軍などと多国籍共同軍事演習、共同訓練を強化していいます。日本は今や、これら西側連合軍の寄港基地、演習・訓練場となっています。 対中強硬への転換と軍国主義の新段階が菅政権の反動化を促進 菅政権の新たな軍国主義化は、反動化をも刺激し、促進しています。東京オリパラ最優先でコロナ対策を棚に上げ、国民投票法案、重要土地規制法案など反動諸法案、さらには原発汚染水の海洋放出や原発再稼働を強行しています。 自民党、政府・支配層内部でも対中強硬派が活発化しています。安倍が麻生派など極右・反動勢力と共に、憲法改悪や軍事外交政策で前に出始め、戦争法体制の具体化、対中軍拡、対中軍事費拡大、経済安全保障(サプライチェーン見直し)、「人権外交」など、矢継ぎ早の対中強硬政策を押し進めています。中国が激怒するまで対中強硬を続ける構えです。 野党は自らの対中強硬路線が日本政治の反動化・軍国主義化を促進することを自覚すべき 野党にも重大な責任があります。対中強硬では野党が存在しません。いわば対中翼賛体制ができています。立憲民主党は何と対中強硬の「領域警備・海上保安体制強化法案」を衆院に提出しました。共産党は対中強硬路線で先頭に立っています。中国共産党を「共産党の名に値しない」と指弾し、「中国は内政干渉と言うが人権問題は国際問題だ」と香港問題やウイグル問題で内政干渉を煽る始末です。これが米欧諸国の「人道的介入」という侵略戦争の大義名分になっているのを知っているのでしょうか。 日本の左翼・共産主義勢力は、今日の情勢において中国社会主義を非難・攻撃する側に立つことは日本の軍国主義化・反動化を促進する側に立つということを自覚しなければなりません。米国も悪いが中国も悪い式のどっちつかずの曖昧な態度は許されないのです。今日、反帝・反戦平和を貫くことは、反中・嫌中意識と闘うことを意味しています。 私たちは、野党が菅政権に対して、右から対中強硬路線で圧力を加えるのではなく、中国との平和共存・善隣友好路線を促進する側から圧力を加えるよう求めます。 米・西側政府と菅政権の対中強硬政策は、国際的力関係の変化の中で必ず行き詰まるでしょう。中国社会主義や反米・反帝勢力と連帯し、菅政権の軍国主義化・反動化を押し返すために闘いましょう。 対中戦争自動参戦の危険が現実のものに。戦争法を廃止しよう 自衛隊と米日豪英仏など多国籍軍の共同訓練、強襲上陸訓練が、戦争法の危険な本質を現実のものにしています。その他、南シナ海での米空母の護衛、南シナ海を想定した敵前上陸訓練、米艦・米軍機に自衛隊員を搭乗して行動させ事実上指揮権を米軍に与える訓練、等々がある。これら多国間軍事演習全てが対中戦争準備の体制づくりになっています。 日本の反戦平和運動は、かつて戦争法の国会審議に際して「武力攻撃事態」「存立危機事態」「重要影響事態」は自動的な参戦につながると強硬に反対しました。この間の対中多国間軍事演習は、まさにこれらの「事態」を意図的・挑発的につくり出す予行演習なのです。自衛隊は西側連合軍の一部隊として台湾や南シナ海へ軍事介入することになります。連合軍で交戦する限り、全ての条件、つまり「日本が攻撃された場合」「日本と密接な関係がある同盟国・第三国が攻撃されて日本の存立が脅かされ場合」が当てはまります。「専守防衛が前提」といっても無意味なのです。わざと連合軍が「事態」をつくり、対中攻撃を開始する。そうすれば自動的に戦争法を発動し、参戦できる。これが「集団的自衛権」の危険なのです。戦争法は廃止するしかありません。 日本は対中攻撃の最前線、「日本を対中攻撃拠点にするな」の声を挙げよう 対中戦争準備では日本が最前線に立つ。このことの意味が日本ではほとんど理解されていません。バイデン政権の新軍事戦略はPDI構想=「太平洋抑止イニシアティブ」、その元になったのは「海洋プレッシャー戦略」です。この戦略では「第1列島線」である九州から南西諸島に日米の対韓・対空ミサイル、中距離ミサイル部隊を配備し、大陸と「第1列島線」までの間に中国海軍、空軍を閉じ込め、そこでの軍事的優位を追求しようというものです。その前提は予想される中国軍の反撃で「第1列島線」上の自衛隊と在日米軍だけでなく周辺の住民が壊滅的な打撃を受けても持ちこたえ、それを盾にして後方の米空母や爆撃機部隊、ミサイルが反撃するというものです。現在自衛隊や米軍が掲げる「離島防衛」や「尖閣防衛」、台湾海峡・南シナ海での帝国主義連合軍の共同演習もすべてこの軍事戦略の一環です。その最大の柱は海兵隊対艦ミサイル連隊と米陸軍の中距離ミサイル配備です。配備候補地は沖縄、九州が有力とされています。 西側連合軍の挑発的軍事演習も、対中先制攻撃ミサイルの配備も、日本を対中攻撃の最前線拠点にすることを意味します。しかし、日本が攻撃拠点になるということは、同時に、中国の反撃が日本に集中することを意味します。南西諸島のミサイル要塞化による「離島からの攻撃」は、一瞬で中国のミサイル反撃の標的になるのです。戦場になるのは、「捨て石」になるのは日本なのです。米国本土でも、アジアに艦隊を出動する欧州でもありません。そんな当然のことを菅政権は国民に語ろうとせず隠しているのです。 ここから引き出される結論は、菅政権が今推し進めている日本軍国主義を新しい段階へ押し上げる政策全体に反対し、押し返すことの重要性です。一旦暴走すれば取り返しがつかないことになります。暴走する前に、偶発戦争の危険を初発の段階で叩き潰さねばなりません。 私たちは当面以下の内容を重要と考え、そこにある諸要求を掲げます。 ○戦争準備はイデオロギー的なデマ宣伝と世論誘導から始まります。「中国が攻撃してくる」という対中イデオロギーを暴露・批判することが必要です。「中国脅威論」「中国独裁論」「ウイグル・ジェノサイド」論など、人々に反中・嫌中を植え付ける政府メディアのプロパガンダに対抗します。 〇米PDI構想=「太平洋抑止イニシアティブ」の危険性を暴露・批判しよう。 ○米軍の海兵隊対艦ミサイル連隊、陸軍の新中距離ミサイル配備を阻止しよう。 ○米日欧西側連合軍の共同演習、共同訓練反対。これら多国籍軍の日本寄港に反対します。 ○石垣、宮古、奄美のミサイル要塞化反対。宮古への弾薬搬入強行に反対します。政府・自衛隊の「離島防衛」「日本の防衛」は、「防衛」準備ではないことを人々に説得することが重要です。 ○辺野古新基地に反対します。埋め立てに遺骨含む土砂を使うな。 ◯重要土地規制法案反対。反戦平和運動、反基地運動、反原発運動への監視・弾圧に反対します。 ○対中軍拡に反対します。敵基地攻撃能力獲得、長距離巡航ミサイル取得・開発、新型極超音速ミサイル開発とその長距離化に反対します。 ◯軍事費の大幅削減。 ○対中戦争ではなく、対中平和共存を要求します。 2021年6月24日 関連記事 (No.53)番組紹介 「台湾海峡の記録」(中国テレビ「国家記憶」) (No.29)「台湾有事」プロパガンダと日本軍国主義の新段階(2) (No.28)「台湾有事」プロパガンダと日本軍国主義の新段階(1) [解説]PDI構想と「海洋プレッシャー戦略」 バイデン政権の新軍事戦略は、PDI構想=「太平洋抑止イニシアティブ」とその元になった「海洋プレッシャー戦略」(2019年に戦略予算評価センターが提言)です。それは、中国の海空軍を第1列島線内部に閉じ込め、そこに南西諸島、奄美、九州と本土の自衛隊と在日米軍(インサイド部隊)が全面攻撃をかける想定です。 具体的には、グアムにおける統合防空ミサイル防衛の構築、第一列島線に沿ったミサイル網の形成、兵力拠点の分散、広大な戦域において米軍の能力を最大限発揮させるために必要な燃料・弾薬庫や飛行場(滑走路)などの兵站やインフラの整備・強化であり、これに同盟国・パートナー国の攻撃能力の強化、軍事演習・訓練の強化などが含まれます。PDIは「エアシー・バトル戦略」(2010年)以降に米軍関連シンクタンクで議論されてきた「海洋プレッシャー戦略」(インサイド・アウトディフェンス)等の戦略を全面的に現実化するために打ち出されました。正式の戦略そのものは6月にも提起されたようですが内容は公表されませんでした。 この戦略はどのような形で発動されるのでしょうか。想定されているのは、米軍主導の西側連合軍と中国軍との大規模な通常兵器の戦争です。当然、中国軍は反撃します。被害は自衛隊・米軍の軍隊だけに止まりません。これらの地域の住民は壊滅的な被害を受けるのです。尖閣、あるいは南西諸島だけを線上とする局地戦とは限りません。戦火は日本全土に広がる可能性が大きいのです。 この時、米軍の本隊はグアムなどに一時退避する計画です。つまり米軍は日本を守るのではありません。日本の国民を犠牲にして遠く太平洋真ん中にまで遠方退避するのです。その後、戦況を見ながら、有利となれば、第2列島線であるグアムの米空軍(イージス・アショアで防衛)や一時遠方退避していた米空母部隊(アウトサイド部隊)などが大規模な追加戦力で攻撃を仕掛け、中国の海軍と空軍に大損害を与える計画なのです。米軍にとって戦況が不利となれば、何らかの停戦合意をするしかありません。その場合は日本だけが重大な被害を引き受けるだけになります。米軍は、東シナ海、台湾海峡、南シナ海で中国が対抗できないような軍事的優位を追求することで、戦争以前に中国を沈黙させ、たとえ戦争になっても、相手に大被害を与えて引き下がらせるために軍備を増強するというのです。 あり得る交戦の一つのシナリオはこうです。中国側から仕掛けることは考えられません。好戦的な米国が先制攻撃する場合か、双方の読み違いの連鎖の結果としての偶発的戦争が起きる場合です。すでに南シナ海・台湾海峡・東シナ海では双方の艦船、航空機が近距離で牽制しあう緊張状態が日常的に起こっています。例えば、米軍や自衛隊、ヨーロッパ軍が台湾海峡、尖閣諸島周辺、南シナ海周辺で調子に乗って中国を挑発し続け、反撃を受ける場合です。(過去には米軍機が領空侵犯をしたケースや、双方が接近・衝突したケールがいくつもあります)。その時は、米国内で共和党や、居丈高な「人権外交」で頭に血がのぼった民主党のリベラル派の好戦的な言動がピークに達します。世界中のメディアは「自由と民主主義」に挑戦する「覇権国家中国」「独裁国家中国」を煽り立てるでしょう。一戦を交えるよう大衆を煽動するでしょう。冷静沈着や躊躇は、西側各国の政権を窮地に陥れることになります。いったん暴走すれば押さえが効かなくなります。その時は日本が戦場になり、「捨て石」になるのです。 いずれにしても、南西諸島、奄美大島等、日本本土とその国民は米国の対中戦争の盾、弾よけ、人身御供にされます。安倍政権に続いて菅政権は、このような日本の国民を米帝国主義の軍事的野望の生贄として差し出し、自らの権力と権益を拡大しようとしているのです。 ※米軍の最新戦略「海洋プレッシャー戦略」の全訳 ※強敵中国に対処する列島防衛戦略の復活(米国有名シンクタンクCSBAの新戦略「海洋プレッシャー戦略」).政策提言委員・元陸自東部方面総監 渡部悦和 ※〔研究レポート〕米国の「太平洋抑止イニシアティブ」とその行方 ――「欧州抑止イニシアティブ」との比較の観点から 合六強(二松學舍大学国際政治経済学部専任講師) ※〔研究レポート〕太平洋抑止イニシアティヴとインド太平洋軍 森聡 |
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