米国が中国叩きで西側の盟主復活を追求。新たな標的は中台関係 なぜ西側政府・メディアは、突如「台湾有事」を喧伝し始めたのでしょうか? そもそも「台湾有事」とは何なのですか? それは本当なのですか?――彼らが言う「台湾有事」とは、「中国の台湾攻撃、武力統一が近い」ということです。しかし、そのような「台湾有事」は存在しません。なぜなら、中国は一貫して「平和的統一」を追求しているからです。詳しくは後で述べますが、メディアのほとんどはこの明白な事実を無視して報じません。 では、なぜ彼らはでっち上げまでして「台湾有事」を大宣伝し始めたのでしょう。そこには中国を軍事的・経済的・技術的に叩くことによって中国の台頭を阻止し、欧米の盟主の地位を復活させようとする米国の戦略的な狙いがあります。先日のG7サミットでイギリスに到着したバイデン大統領が開口一番口にしたのが「アメリカが復活したことを明確にする」でした。今年2月のミュンヘン安全保障会議の特別会合で演説し、「米国は戻ってきた」と発言したのも同じことです。米国が再び世界の覇者として世界中に指図・命令すると意気込んでいるのです。 来年は米の中間選挙の年です。それに向けて民主・共和両党は、中国叩きで競い合いを始めています。バイデン大統領は、貧困と格差拡大の分断社会でトランプ支持者を取り込もうと反中・嫌中の姿勢をエスカレートさせています。 ※バイデン大統領がG7サミットへ 米国の復活アピール(2021年6月10日 ANNNews) ※バイデン米大統領「米国は戻ってきた」(2021年2月20日 テレ東BIZ) 「外敵」をつくり、気に食わぬ国を攻撃することが米国のやり方 人為的に「外敵」をつくりだし、反米・反帝の進歩的・社会主義的政権を侵略戦争と内政干渉、経済制裁で叩き潰すことは、グローバル金融資本と軍産複合体が支配するアメリカという国の本性です。かつて「敵」はソ連であり、ベトナムであり、朝鮮民主主義人民共和国であり、キューバでした。その後、イラクやアフガニスタンになり、ベネズエラやイランに代わりました。戦後、米の軍事介入、内政干渉は途切れることがありませんでした。米国こそ何の権利も正義もないのに侵略を繰り返し、人命を奪い、人権を踏みにじってきた張本人です。本来恥ずかしくて「人権」など口にできないことをしてきたのです。この自明の事実もメディアは一切触れません。 トランプ政権になってから標的は中国に絞られました。バイデン大統領は、対中封じ込め政策をそっくりそのまま引き継ぎました。欧米全体を総結集するという意味では、トランプよりも危険です。中国を孤立化させるためには、ロシアとも妥協する構えを見せています。先日、バイデンは、中ロ離間を狙い、プーチンと米ロ首脳会談を行いいましたが、そう思惑通りにはいかないでしょう。 ※米ロ首脳会談で中国「中ロ団結は山のように動かず」(2021年6月16日 ANNNews) ※米ロ首脳初会談、遠い関係改善 サイバー攻撃、人権…対立根深く(西日本新聞) 最新の標的は中台関係、「台湾有事」です。直近の転換点は今年3月でした。新旧の米インド太平洋軍司令官が米上院軍事委員会で相次いで「台湾有事切迫論」「6年以内台湾侵攻論」をぶち上げたことに始まります。その後、日米安保協議委員会(2+2)、日米首脳会談、最近の米韓首脳会談や日EU首脳会議でも、「台湾有事」を合意や共同声明に盛り込みました。 6月11日~13日にイギリスで開かれたG7サミットでも、新疆ウイグルや香港の「人権問題」と並んで「台湾」「南シナ海」問題が取り上げられました。コミュニケでは「我々は、台湾海峡の平和及び安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的な解決を促す。我々は、東シナ海及び南シナ海の状況を引き続き深刻に懸念しており、現状を変更し、緊張を高めるいかなる一方的な試みにも強く反対する」としており、あたかも中国が武力統一を追求したり、力による現状変更を行おうとしているかのような書きぶりです。G7として初めて中国を名指しで批判し、一帯一路に対抗するインフラ投資資金集めを含めて、全体で対抗していくことを確認しました。不安定な中台関係への内政干渉を西側のトータルな戦略に据えたのです。 ※G7閉幕 首脳宣言 “台湾海峡”に初の言及 五輪開催への支持も(NHK) 「台湾有事」の3つの狙い――軍事的優位の再確立、国家分裂、台湾半導体の囲い込み バイデン大統領の「アメリカの復活」にとって、なぜ「台湾有事」が必要なのでしょうか? 狙いは3つあります。まず第1は、アジア太平洋軍事戦略の根本的な再編強化です。 米軍は、戦後長きにわたり、アジア太平洋全域と中国周辺海域で圧倒的な軍事的優位を保持し、我が物顔で軍事的プレゼンスを誇示してきました。ところが、中国が海空軍力の近代化を成し遂げ、中距離ミサイルを中核とするA2/AD(接近阻止・領域拒否)能力を強化したことで、東シナ海・南シナ海における通常戦力面での米国の優位が崩れ始めたのです。かつての第3次台湾海峡危機の時のように米空母打撃部隊や爆撃機が自由気ままに行動し、相手に言うことを聞かせることが難しくなったのです。かと言って中国が優位に立ったわけではありません。中国としては防衛力を整備し、他国に脅されないようにしただけです。他方、米は安易に軍事脅迫ができなくなったと金切り声を挙げているのです。 西太平洋と東シナ海・南シナ海全域で通常戦力での軍事的優位をもう一度手に入れるために、米国は大々的な軍事力の再編強化と大軍拡を表明しました。それが「太平洋抑止イニシアティブ(Pacific Deterrence Initiative: PDI)」です。これは対中軍事戦略を担うインド太平洋軍の装備拡充費用などを賄う対中戦略の特別基金名です。しかし、その予算一覧には米の新しい戦略が表明されているのです。その狙いは、中国軍を第一列島線内に封じ込めること、そこでの米軍の優位、制空権・制海権を確保する戦略です。同時に、ソ連崩壊の「成功体験」に基づき長期にわたって中国に軍拡競争と軍事的緊張、財政的出血を強いることで弱らせようとしているのです。 今年3月の「6年以内に台湾攻撃」論は、軍事費増額要求のために意図的に米議会でぶち上げたものです。6年間で270億ドル強の予算という異常な規模です。2022年度の予算教書でPDI予算は51億ドル(約5600億円)、前年度比倍以上が盛り込まれています。 ところが軍事費獲得にメドがついたからか、今度は一転して米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は6月17日、「中国が必要とする軍事力を開発するには時間がかかるため、中国が近い将来、台湾を軍事的に占領しようとする可能性は低い」と発言したのです。いい加減なものです。米軍や米支配層の思惑に踊らされて、にわか仕立てで「台湾有事」を煽る「中国脅威論」を煽り立ててきた、日本を含む世界中のメディアは、今度はどういう辻褄合わせをするのでしょう。 ※中国による台湾の軍事的占領、近い将来起こる公算小=米軍トップ(ロイター) ※「中国、6年以内に台湾侵攻の恐れ」 米インド太平洋軍司令官(AFPBBNews) ※“6年以内に”台湾侵攻? 中国政府は反発(テレ朝news) 第2の狙いは、台湾を中国本土から分裂させる対中分裂策動です。米・西側帝国主義は、防衛力と経済力を増強した広大な中国を軍事的に制圧する力はもはや持っていません。(もちろん核戦争で中国を壊滅させ、自分も巨大な犠牲を払うなら別ですが)。イラクやアフガニスタンとは全く違うのです。だから、彼らは中国を不安定化させ、国家を分裂させることに重点を移しています。それが一昨年来の、香港の親米英勢力を使った「独立」攻勢であり、ありもしないでっち上げの数々なのです。新疆ウイグルの「ジェノサイド(大虐殺)」、内モンゴルの民族教育破壊、チベットの宗教弾圧、等々のプロパガンダです。そして、今回、最大の攻撃の集中点に「台湾有事」を据えたのです。国際的に国家主権は中華人民共和国(中国)にあり、台湾はその中国の一地域とされています。このことは米国も承認しています。にもかかわらず、台湾に独立をそそのかし、「中国が台湾に攻めてくる」と煽り、これに対抗して中国封じ込め戦略を構想することは、中国への公然たる内政干渉であり、冒険主義的な戦争挑発です。 第3の、もう一つ重要な狙いは、中国のハイテク技術追撃を阻止し、中国のハイテク国家戦略「中国製造2025」を叩き潰すことです。今や、台湾の半導体製造技術は圧倒的です。最新ハイテク技術から車載半導体、家電製品から兵器まで、半導体は産業のインフラ基盤となっています。とりわけ台湾積体電路製造(TSMC)は半導体ファウンドリー(製造)世界シェアの56%を独占しています。 悪知恵を働かせたのはトランプ政権でした。中国のハイテク企業の殆どは、設計は自社で行うが、製造は大半を台湾メーカーに発注してきました。トランプはそこに目をつけたのです。TSMCから中国ハイテク企業への半導体供給をストップすれば、ファーウェイをはじめ中国ハイテク企業の息の根を止められると考え実行したのです。そしてファーウェイをスマホ市場から大きく後退させることに成功しました。台湾メーカーを米国の支配下におき、輸出先を自由自在に米国の命令通りに指図できれば、中国のハイテク企業を潰せるという成功体験を得たのです。市場経済も自由経済も何もあったものではありません。 バイデン政権は、この点でもトランプを受け継ぎました。台湾の半導体製造技術を自国に囲い込むこと、中国への禁輸を継続強化することを戦略の中心に据えたのです。「エンドレス・フロンティア」(半導体国産化)法案も、上院外交委員会が発表した米の超党派の「戦略的競争法」も、この延長線上にあります。しかし、台湾の対中輸出は4割を超えます。中台経済・技術関係を切断しようと強要すれば、台湾経済にも、米国を含むサプライチェーンに関係する国々にも打撃となってはね返らざるを得ないでしょう。 ※中国・ファーウェイ制裁強化、半導体に新たな混乱(ニュースィッチ) 昨年、トランプ政権は、中国の華為技術(ファーウェイ)をスマホ市場から叩き出すために、このTSMCに狙いを定めた。ファーウェイのスマホ搭載半導体の大半を製造していたTSMCから半導体輸出を禁止するために、米国技術が関わる半導体やソフトを25%以上使う場合、ファーウェイなど中国企業への輸出を禁止するという新規ルールを一方的に発動したのだ。 「台湾有事」? 中国の軍事的脅威は本当か 最後に、それでも中国が軍事的脅威を台湾に与えているし、メディアはさまざまな中国軍による威嚇的な軍事行動を伝えているじゃないか、という疑問に答えておきます。例えば「過去最大の28機の中国機が台湾の防空識別圏に侵入した」「空母が台湾を取り巻くように行動した」「台湾上陸を狙って大型の強襲揚陸艦を完成させた」などが報じられました。 確かに6月15日に台湾は中国軍機28機の台湾防空識別圏への侵入を報じています。まるで日常的な中国軍機がこのような行動を繰り返しているように報道されますが、それは全く違います。一部のメディアしか報じませんでしたが、6月14日に台湾のすぐ南側のバシー海峡を米空母レーガン部隊が通過し、南シナ海に入ったのです。さらに14日までG7サミットで対中敵視姿勢とあたかも台湾の独立をそそのかすかのような言動に対する抗議・警告として、中国軍機を飛行させたのでしょう。この傾向は「中国軍機防空識別圏に侵入」報道の大半に当てはまります。1月24日の「15機が侵入」時には空母ルーズベルトがバシー海峡を通過して南シナ海に入っており、3月26日(20機)は「6年以内に台湾侵攻」という米インド太平洋軍司令官の証言と米・台湾間の沿岸警備連携強化協定への牽制、4月12日(25機)は直後の日米首脳会談に対する牽制でした。防空識別圏をめぐる中国軍機の行動は、台湾の武力統一のための行動ではなく、米の軍事行動と「台湾独立」をそそのかす米と連携を強める蔡英文政権の動きに対応する受動的な動きが主なものです。この中国の受動対応を「覇権主義」と騒ぎ立てているのです。 一方、米軍偵察機が連日中国の沿岸近くで挑発的な偵察行動(南シナ海と東シナ海で月に100回前後)を強行していることはほとんど報じられません。しかも飛び立っているのはほとんど嘉手納基地です。日本のメディアは米軍機の行動は「中国を監視するためだから当たり前」と考えているのかもしれません。このような挑発的な行動の結果、過去に何度か偶発的な事故が起こりましたが、その時になって初めて今度は「中国の挑発だ」とでも取り上げるのでしょうか。いずれにしても、中国軍機の行動はきわめてゆがんだ形で報道されていることがわかります。 空母遼寧が4月に台湾を迂回して南シナ海に入ったことも事実ですが、これもここ数年定例の1カ月の遠洋訓練です。台湾を迂回したからと言って威嚇したというわけでもないし、迂回せずに台湾海峡を通っていたらもっと大騒ぎしていたでしょう。他方で、上の6月14日をはじめすでに南シナ海に5回も入って軍事行動をしている米空母部隊の行動をなぜ対中威嚇と報じないのでしょうか。一方(米軍)は平和のため、他方(中国)は威嚇と挑発、そんな中国悪玉論に基づく図式の押し付けはメディアの名前に値しないと思います。同じようなことは中国の強襲揚陸艦1番艦の完成にも言えます。すわ、武力解放の武器を手に入れたと大げさにメディアは報じましたが、米は同じような艦船をすでに10隻保有し、太平洋に2隻前後遊弋させています。確かに中国の軍隊の近代化は目覚ましく進んでいます。しかし、それは主として中国本土の防衛を念頭に置いています。自国から数千キロ離れた地域での軍事行動を目的とした米海軍とは全く違うことを忘れてはいけません。 ※国軍機28機、台湾防空識別圏に侵入=南シナ海に空母派遣の米けん制か(時事ドットコム) ※USS Ronald Reagan aircraft carrier heading southwest of the South China Sea. 今年に入ってからの米空母の南シナ海進入は、(1)ニミッツ2/6~9、(2)ルーズベルト1/23~28、(3)ルーズベルト2/8~19、(4)ルーズベルト4/4~19、(5)レーガン6/14~18 2021年6月22日 関連記事 (No.53)番組紹介 「台湾海峡の記録」(中国テレビ「国家記憶」)(No.53)番組紹介 「台湾海峡の記録」(中国テレビ「国家記憶」) (No.30)「台湾有事」プロパガンダと日本軍国主義の新段階(3) (No.29)「台湾有事」プロパガンダと日本軍国主義の新段階(2) |
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