シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.22) 貧困撲滅の闘い(上)──広大な国土と多民族の国での困難な課題の遂行

はじめに
 習近平国家主席は、2021年の新年のあいさつにおいて、貧困撲滅計画、小康社会(ややゆとりのある社会)実現の最終年である2020年に、貧困県832県(村単位では12.9万村)、農村貧困人口約1億人が全て貧困脱却を実現をしたことを発表しました。
 この発表に対して、西側メディアだけでなく、左翼陣営からも疑問視するような声が上がっています。「貧困脱却と言っても1人あたりのGDPは1万500ドル、世界第67位に過ぎない」「裕福になっているのはファーウェイやアリババなどのハイテク企業の大富豪や都市部の金持ちだけで、大多数の農民は依然貧しいままだ」「都市と農村の貧富の差が激しくこれで社会主義と言えるのか」などなどです。
 一方では「先進国の豊かさ」の幻影を対置し、他方ではかくあるべしと思いこんでいる「理想の社会主義」の絵を描き、それに照らし合わせて、これは不十分あれも違うと否定面を並べたてているのです。新中国が戦争と植民地支配による荒廃の中から試行錯誤しながら立ち上がってきた経緯を無視して「遅れた農民国」として見下したり、市場経済を積極的に導入し民間企業を活用する形で経済発展をする方針を「社会主義とは違う」と突き放して、勝手に自分の尺度で評論しているだけです。そもそも中国政府を信用できない、褒めたくない、成果を認めたくないという意識が働いています。
中国の貧困扶助の成果は顕著で、鉄の証拠で西洋メディアの質疑に反撃した(DZNet Japan)
West’s criticism of China's poverty alleviation success far-fetched(Globaltimes)

 たしかに、一人当たりGDPは、40300ドルの日本や65300ドルの米国に比べれば、ようやく中国全土から極度の貧困人口をなくす段階にきたにすぎず、依然貧しい途上国であることに変わりはありません。また持てる者と持たざる者の差は激しく、上海や深センなどでは超高層ビルが建ち並び巨額の富が取引される一方、ようやく電気や道路が通ったという地域もあるのも事実です。
 しかし中国の貧困撲滅の闘いに目を向ければ、その成果は明らかです。
 まず第一に1978年の改革開放後の40年余りで、中国型社会主義建設の過程で7億5000万人が貧困から脱却したという事実があります。最後の1億人の貧困脱却は直近の2012年以降の闘いの中で実現しました。これは世界銀行の統計報告さえも認めています。
 第二に、中国特有の想像を絶する困難性があります。詳細は後述しますが、14億の人口を擁し、厳しい自然環境の中、言語も文化も生活習慣も全く違う55の少数民族を尊重しながら貧困克服の闘いを遂行してきました。そのような中で、ここ数年間で全土の通電、上下水道の基本的整備、通信の確立等最低限のインフラを構築したのです。
 第三に、巨大ハイテク企業を野放しにして格差を拡大しているのではなく、党が活動を厳しく規制し、貧困対策に資金を投入させ、「先富論」を具体的プログラムとして遂行しているという事実があります。中国政府はこれを社会主義の体制的優位と表現しています。
 第四に、中国政府が経済支援を通じてアフリカの貧困削減にも貢献していることが国連でも成果として認められており、さらに中国の貧困克服のやり方や構築したシステムを途上国にも紹介し国際協力を強化していくというのが中国の方針です。
Roundup: What Does It Mean to Eradicate Absolute Poverty?(Qiao Collective)
 中国の「農村貧困基準」(2010年価格基準)は年収が2300元(約360ドル)で、世界銀行の絶対的貧困基準一日1.25ドル(年450ドル)に準ずる(世銀は2015年に1.9ドルに改定)。中国国務院が認定する「絶対的貧困からの脱却基準」は4つで、(1)個人レベルでの収入が「農村貧困基準」を安定的に上回ること、(2)家計レベルでもその基準を上回ったと共産党委員会と村委員会のワーキングチームによって認定されること、(3)村レベルの基礎インフラ、公共サービスの提供、産業発展、集団経済所得なども総合的に判断された上で、貧困率が人口の2%(西部は3%)未満になること、(4)郡、県、州レベルでも同様に貧困率が2%(西部は3%)未満になること。これを基準に「貧困のレッテル外し」が認定される。
China’s poverty eradication worth sharing(Globaltimes)
China issues white paper on poverty alleviation to share experiences in eradicating extreme poverty(Globaltimes)

 中国の貧困克服に対する否定的な考えの多くは、具体的な事実が知られていないことにあります。ほとんど西側メディアでは報道されません。しかしそれだけでなく、中国を見下しているため、経済発展すれば格差が拡大したと言い、巨大企業への規制を強めれば独裁政権だと非難し、貧困を克服したら西側と比べてまだまだ貧しいままだと反論し、中国が何をしても粗探しをしてケチツケをするのです。そしてより根本的には、中国にマイナスからの出発を強いたのは自分たち帝国主義列強、特に日本軍国主義による侵略と植民地支配であるにもかかわらず、その自覚と自己批判の欠如があり、その裏返しとして根強い差別と蔑視を染み込まされているのです。私たちは先入観と偏見を捨て、まずは中国の貧困の闘いの中で起こっている事実を確認するところから始めなければならないと思います。

コロナ下で、2020年貧困脱却の目標を達成
 私たちが特に注目したいのは、コロナ下でこの目標を実現したことです。中国でのコロナ感染拡大が収束に向かいつつあった昨年3月6日、貧困脱却決戦攻略座談会がオンラインで開催されました。これは、貧困脱却問題で2012年以降に開かれた最大規模の会議でした。そこで習氏は「中央政府が国民に約束したことなので、守らなければならない」と、コロナを言い訳にせずなんとしても2020年貧困脱却をやり遂げるよう訴えたのです。コロナ下で物流が細り、人の行き来も制約され、地場産品の出荷や観光客が減少する中、困難を極めるなかでの達成でした。また同時に、米をはじめとした西側諸国が対中制裁を強化し、難しい経済運営が要求される中での達成であったこともみなければなりません。
習近平が導く 疫病との戦い:二つの決戦(China Radio International CRI)

 そして2020年の中国の貧困撲滅の実現は、米欧の「人権外交」への答えでもあったはずです。米欧諸国は、「香港の言論弾圧」「モンゴル語の禁止」「ウイグルでの人権弾圧」、はては「ウイグル・ジェノサイド」までウソを並べたて、中国を人権を無視する国と宣伝してきました。しかしちょうどそのとき、中国は新型コロナ感染を封じ込め、自国民の命と健康を保護することに成功し、「貧困は人権侵害の根本原因」との認識の下、過去8年間にわたる1億人の絶対的貧困から脱却を完成させたのです。これは英国とカナダの人口を合わせた規模に匹敵します。そして中国で貧困から脱却した多くの人々が、「ジェノサイド」の標的であるはずの新疆ウイグル自治区のウイグル人でした。
 いわば「コロナに打ち勝った証」として、言葉遊びではなく「真の人権」を行動とその結果で提示したのです。
Human rights start from poverty alleviation: Global Times editorial(Globaltimes)
ウイグル・ジェノサイド批判については本シリーズ「『ウイグル・ジェノサイド』のデマ・ねつ造を批判する」(上)(中)(下)を参照。

78年改革開放から進められてきた貧困対策の最終局面
 中国共産党は2012年第18回党大会で「2020年絶対的貧困の克服」の目標を掲げました。それは79年の「改革開放」以降の貧困脱却のための闘いの最終段階(第4段階(2013年~2020年)での「全面的な小康社会(ややゆとりのある社会)の実現」を意味しました。これまで、第1段階(1978~1985年):貧困地区の道路・水利施設などインフラ施設の大規模整備。第2段階(1986~2007年):中央政府による組織的で大規模で計画的な開発型扶貧事業。第3段階(2007~2012年):農村全域を対象とした最低生活保証制度(2007年)実施がありました。貧困撲滅の闘いは、社会主義建設の一つの戦線であり、ひとつの段階でもあります。
 中国は、1958年~61年にかけて、生産力の発展を掲げて客観的諸条件を無視した「大躍進政策」をとり、農地の荒廃やインフラの破壊などを招いて数千万人とも言われる餓死者を出すに至ります。さらに1966年から1976年まで続いた文化大革命は、市場経済を推進する勢力を「走資派」として打倒の対象とするなど知識人や経営者らをはじめ「反革命分子」との闘いをエスカレートさせ、国内の大混乱と経済の深刻な停滞をもたらしました。ここからの脱却を目指したのが「改革開放」です。始まった1980年当時はひとり当たりGDPは約300ドルでしたが、40年にわたる貧困克服のための闘いで、1万500ドル、35倍へと拡大したのです。
 中国政府は、「共同富裕論」「一人も取り残さない」「豊かになった東から貧しい西へ」等のスローガンの下、発展の不均衡・不十分を真正面から認め、衣食、義務教育、基礎医療、住宅の安全を目標に進めました。しかしその枠組みからこぼれ落ちている地方が存在していました。都市部には巨大高層ビルが建ち並び、デジタル革命が進行する中でも、一部の地域で電気が通っていない、上下水道がない不衛生な環境で安全な飲料水の供給や汚物を処理できない、住居が壊れかけで雨風をしのげないなど深刻な状況が続いてました。
 2013年~15年にかけて従来のインフラ整備や開発型扶養事業などを重視するやり方(開発式扶貧)から、貧困克服をターゲットを絞って行う方針(精準扶貧)に転換しました。貧困扶助の措置、項目、資金、責任者、効果の測定(査察)もピンポイントで行う方針です。貧困の地域や家庭のファイルをつくり、貧困の原因を具体的に明らかにし、それぞれの事情に即した貧困脱却方針を出していったのです。ターゲットを絞った政策を実施し、貧しい人々を雇用するために産業を育てることで、持続可能な貧困緩和を実現しました。「輸血を通じて患者を助けることから、彼が自分の体を通して血液を作ることを可能にする」方針を徹底しました。
中国の「ピンポイント貧困扶助」、人類の貧困削減に新しい道を探り出す(CRI)
偉大な歩み 第18回 貧困脱却への道(CCTV 2020.11.8.) この番組では、ピンポイントの貧困克服方針について四川省イ族自治州や寧夏回族自治区、広西省荘族自治区の例などが紹介されている。

貧困問題は、広大な国土に少数民族の居住地を多数抱えた多民族国家という性格と深く関わっている
 中国は漢民族(92%)と55の少数民族で構成される多民族国家です。中国の貧困問題は都市と農村との格差や出稼ぎ農民である農民工の権利の問題などと報じられることもありますが、それはごく一部にすぎません。中国の貧困問題は、辺境の地に住む少数民族が過酷な自然環境や民族特有の古いしきたりなどの中でどう貧困から脱却するかという、民族問題と複雑に絡んでいる側面が非常に強いのです。日本の尺度で「風習や地域性の違い」などでは想像できない世界です。民族特有の文化や慣習を無視して上から強引に進めるわけにはいきません。ほとんどの民族自治区が、草原地帯や砂漠地帯、標高何千メートルもの山岳地帯や崖下150メートルの谷底などにあり、洞窟に住む民族、遊牧民、狩猟民などが存在し、広大な農地と国民の大半を農民が占めています。もともと文字を持たない民族もあります。日本とは比べものにならない厳しい気候条件や自然環境のもとで暮らし、全く違う文化や言語、慣習をもった民族が居住しています。「ひとりあたりGDPを増やす」というような単純なことではありません。
What you should know about China's poverty alleviation campaign(CGTN)

 貧困の原因や現状は多様であり、従って、その克服の手段も多様です。粗末な家屋や不衛生な衣食住、医者や医療の欠如、義務教育さえ満足に受けられない状況、通学自体の困難、婚礼や葬儀費出費のために破産してしまう地方の慣習の存在などさまざまな貧困の原因に向き合いながら、決して教科書通りにはいかない貧困克服の道を探っています。
 中国の貧困地域の多くが、少数民族の居住地と重なっており、特に「民族8省区(内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、広西チワン族自治区、寧夏回族自治区、雲南省、貴州省、青海省)」は、貧困対策の重点地域に指定されてきました。貧困の原因を一つひとつ具体的に克服する形で、2019年から2020年にかけて「貧困県のレッテル外し」を実現しました。とりわけ、困難を極めたのが「貧困三区三州」と言われる地域です。すなわち、チベット自治区、四省蔵区(青海、甘粛、四川、雲南の4省にあるチベット族居住地域の総称)、南疆四地州(新疆天山以南のカシュガル地区、ホータン地区、クズルス・キルギス自治州、アクス地区)および四川涼山イ族自治州、雲南怒江リス族自治州および甘粛臨夏回族自治州。これに中国で唯一平地がなく最貧困省と言われる貴州が加わります。チベット族、ウイグル族、イ族、リス族、荘族、回族などの少数民族が居住し、自然環境もとりわけ厳しい地方です。(地図1の青い部分 南西部の険しい山岳地帯)
中国の重度貧困地区脱貧困攻略戦、今年は重大な進展を実現(新華社通信)

 直近の貧困県からの脱却は以下のように進みました。
2019年12月:西蔵(チベット)自治区
2020年2月 :重慶市、黒龍江省、河南省、山西省、海南省、湖南省、河北省
2020年3月 :内蒙古(内モンゴル)自治区
2020年4月 :湖北省、安徽省、青海省、
2020年11月:雲南省、新疆ウイグル自治区、四川省、寧夏回族自治区、広西チワン族自治区、甘粛省、貴州省


地図1 貧困三区三州と貴州


地図2   民族8省区


関連映像
中国貧困扶助の道(1)(人民網)
中国貧困扶助の道(2)(人民網)
中国貧困扶助の道(3)(人民網)

「我ら道の上をゆく」第十八話:脱貧困の堅塁攻略(CRI)
【ドキュメンタリー】中国の貧困脱却堅塁攻略(CRI)

「習近平氏の貧困扶助物語」第一話:良田(CRI)
「習近平の貧困扶助物語」第二話:二十字経(CRI)
「習近平の貧困扶助物語」第三話:三回の下党入り(CRI)
「習近平の貧困扶助物語」第四話:福建寧夏モデル(CRI)
「習近平の貧困扶助物語」第五話:一枚の葉が富をもたらした(CRI)

テレビ番組(2021年2月放送)
※貧困脱却の決意(1)最後の難題(CCTV)
※貧困脱却の決意(2)共同の事業(CCTV)
※貧困脱却の決意(3)すべてやり遂げる(CCTV)

【日本語字幕】中国貧困地区・大涼山ー日本人監督が見た現代中国の“多様性”(竹内亮)

2021年5月11日
リブ・イン・ピース☆9+25

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