米国は、米中関係に何らかの動きがある時に必ずプロパガンダを流します。ブリンケン国務長官が以前予定していた訪中前には中国の「スパイ気球事件」をでっち上げ、中国から訪中を拒否されました。さらに今度は、6月19、20日の訪中前に、中国がキューバに「スパイ施設」建設を目論んでいるとのプロパガンダをでっち上げました。しかし、現在の中国に、米国本土近辺に「スパイ施設」を置かねばならぬ必要性も必然性も全くありません。加えて、米国には外国(キューバ)に軍事施設を置くことを批判する資格は全くありません。それを言うなら、米国はキューバ領土を不法に占拠しているグアンタナモ海軍基地を撤去すべきであり、また悪名高きグアンタナモ収容キャンプを閉鎖し、収監者を解放すべきなのです。こうした観点から今回の「スパイ施設」プロパガンダを批判します。 中国がキューバに「スパイ施設」とのプロパガンダ 6月8日、米国の代表的メディアの一つ、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が、匿名(!)の米国当局者を引用した「独占レポート」なるものを発表し、「中国が盗聴ステーションの建設を許可するために、資金不足のキューバに数十億ドルを払うことに同意した」と報じました。欧米メディアの多くがWSJに続いて「ニュース」を報道しました。またCNNは、「諜報機関に精通している」という二人の情報源を引用し、キューバが中国にスパイ施設を建設することを許可することに同意したと主張しました。 米国メディアのみならず、反中国をかねてから標榜する国会議員たちも即座に行動を起こしました。米国上院情報特別委員会は、スパイ基地の建設は「国家安全保障と主権に深刻な脅威」をもたらすとの共同声明を発表しました。 米国政府は、かつてソ連の核弾頭が隠されていたとするキューバの村ベフカルで、中国が情報収集活動を展開しているのではないかと長期間疑ってきました。現在、同地では大きなパラボラアンテナが一部草木に覆い尽くされ、近くには「立ち入り禁止、軍事区域」と書かれた警告があるようです。2022年11月の米連邦通信委員会(FCC)の文書は、米国フロリダ州キーウェストからわずか116マイル(約187キロ)にあるこの拠点が、米国の電子通信を傍受するために使われているとしています。 奇妙なのは今回の報道を受けた米国政府の対応です。米国安全保障会議の戦略広報調整官であるジョン・カービー氏は、WSJの記事が公開される前に「報告書の詳細についてコメントできない」、「米国は状況を監視し、措置を講じている」と述べています。記事が公開された後カービー氏は、「このレポートは正確でない」と明確に述べ、明らかに矛盾した態度を示しました。また国防総省は、メディアの報道は「正確ではない」と述べた、とされています。 バイデン政権は詳細を明らかにせず、ブリンケン国務長官は12日にこう述べています――「キューバに関しては、2021年1月にこの政権が発足したとき、中国政府が世界中で展開している、遠方での軍事力維持を目的とした海外でのロジスティクス、拠点、収集インフラを拡大する取り組みについて説明を受けた。われわれが持っている情報に基づくと、中国は2019年にキューバで情報収集施設を増強した」と。 キューバは直ちに反論 そもそもキューバに中国スパイ施設というプロバガンダをなぜ今の時期に西側は広めようとしたのでしょうか。WSJは、中国に関するデマを広めることでは常習的再犯者です。少し前には、中国が「ウクライナの占領地をロシアの一部として認めることを提案した」との国際的デマを生み出しました。ウクライナのドモトロ・クレーバ外相は、あまりの馬鹿馬鹿しさにただちに反論しました。しかしWSJはデマに対する責任を負わず、代償も払わず、アメリカの世論をかき立てることに成功しています。これらの背後に何らかの公的なバックアップがないとは信じがたいことです。 キューバ政府はただちに米国プロパガンダに対する反撃を開始しました。6月8日にキューバのカルロス・フェルナンデス・デ・コシオ外務副大臣は声明を発表しました。その主旨は以下のようなものです――WSJによるキューバと中国との間でのスパイ施設の設置に関する合意が存在するとの情報は全く事実無根で根拠がありません。わが国は2014年1月にハバナで署名された「ラテンアメリカとカリブ海平和地帯宣言」に署名しています。この宣言に基づき、米国の多数の軍事基地や軍隊、特にグアンタナモ県の国土の一部を不法占拠している軍事基地を含め、ラテンアメリカとカリブ海におけるすべての外国の軍事プレゼンスを拒否しています。このような誹謗中傷は、米国外交官に対する音響攻撃に言及したもの、ベネズエラに存在しないキューバ軍部隊に関する虚偽、キューバに存在するとされる生物兵器研究所に関する嘘など、諜報活動に精通する米国当局者によって頻繁に作り出されてきました。これらすべて、経済封鎖の強化、キューバの不安定化、キューバへの侵略を正当化し、米国および世論を欺く、悪意に満ちた虚偽の推論です。米国のキューバに対する敵意と、人道的被害を誘発し、キューバ国民を罰する措置は、いかなる形であれ正当化できない、と。 米国はグアンタナモ基地・収容キャンプをこそ撤去すべきだ 一方、中国にとっても、米国本土のすぐ近くに「スパイ施設」を置く必然性も必要性も全くありません。中国は軍事ではなく、経済と外交で敵対する国同士を結びつけ、世界中の国と(とりわけ「グローバルサウス」諸国との)同盟ではなく協力関係を築くことを目指しています。米国と事を構える必要も臨戦態勢を取る必要もありません。「スパイ施設」が荒唐無稽なでっち上げであることはほぼ間違いありません。 中国外務省王報道官は、「スパイ施設」プロパガンダに関し、6月16日の記者会見で噂や誹謗中傷を広めることは米国の一般的な戦術であるとし、米国は長い間秘密活動のためキューバのグアンタナモ港を不法に占領し、60年以上にわたりキューバに封鎖を課してきたと述べました。米国は自らを厳しく見つめ、「自由」、「民主主義」、「人権」を口実にキューバの内政に干渉するのをやめ、キューバに対する経済的、商業的、財政的封鎖を直ちに解除し、キューバとの関係と地域の平和と安定を改善するのに役立つ方法で行動すべきだ、と話しました。 全くその通りです。私たちも改めてグアンタナモ米軍基地の撤去とグアンタナモ収容キャンプの閉鎖を要求したい。 グアンタナモ米軍基地は、キューバ東南部のグアンタナモ湾に位置する、アメリカ南方軍の海軍基地です。1898年の米西戦争で米軍が占領し、アメリカ合衆国の援助でスペインから独立したキューバ新政府が1903年2月23日にグアンタナモ基地の永久租借を認めたことになっています。しかしキューバ革命によって成立したカストロ政権は、アメリカ合衆国の基地租借を非合法としました。国家主権がキューバにある以上、ただちに基地は返還・撤去されるべきだとの立場です。 さらに人道上深刻で悪名高いのは、併設されたグアンタナモ収容所の存在です。周囲が地雷だらけで脱走が不可能な上、マスメディアにも実態が見えない海外基地、さらにキューバ国内でもアメリカ合衆国内でもない、国内法でも国際法でもない軍法のみが適用される治外法権区域ということで、20世紀後半からキューバやハイチの難民を不法入国者として収容してきました。さらに米国は、あの9・11「同時多発テロ」以降、中東などからの「テロ容疑者」とされた人々の尋問と収容をこの基地で行っています。ここで行われている拷問を伴った尋問、というより拷問を自己目的としたような収容者虐待の一端を示したい――2002年アフガニスタンから連行されたカナダ国籍の少年オマール。拘束された当時15歳。彼は、頭巾を被らされ、両手錠をかけたまま宙づりにされ、犬を使って脅された。米軍曹が彼の胃の上に乗り、足首と手首を彼の背中の後ろに縛り上げられ、ついに失禁すると軍曹は地面に油を注いで引きずり回した――。他の被収容者に対しても、あらゆる暴力、放置、物理的拷問、さらに尊厳と宗教的信念を踏みにじる行為――裸にする、女性軍曹による性的虐待、コーランを汚す、踏みつける――がなされました。米国は、租借条約上、完全な管轄権を持ち、かつ米国の主権下でもない「灰色地帯」を利用してこのような挙に出るのだと考えられています。 オバマ大統領は2008年の大統領選挙で、グアンタナモの収容施設を閉鎖すると公約しました。しかし、共和党を中心とするアメリカ合衆国議会議員の反対に遭い、頓挫したのです。トランプ時代は、上に述べたような体制が維持されました。バイデン大統領は2021年2月12日に、記者から「任期中に収容キャンプを閉鎖するのか」との質問を受け、「それを私たちが目指していることは確かだ」とは述べました。 多い時には約500名、40カ国以上から来た人々が拘束されていた収容所には、今なお37名(2022年4月2日現在、その後多少減少したようですが)の人々が、国連、赤十字、人権NGO、米世論の目にも拘わらず収容されており、バイデンも最後の決断をするわけでもありません。 米国は、キューバでの中国の「スパイ施設」を云々する前に、まずグアンタナモ基地を撤去し、収容所を廃止すべきです。さらに中国の人権を云々する前に、グアンタナモでやってきた事、現にやっていることを厳しく見つめ直し、被収容者さらに世界の人々に謝罪すべきではないでしょうか。 2023年7月12日 |
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