シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.58) 「汚染水放出への抗議」を利用した反中国宣伝をやめよ
日本政府・東電は今すぐ汚染水放出を中止せよ

 日本政府と東京電力は、福島第一原発の事故で発生した放射能汚染水の海洋放出を、8 月 24 日から開始しました。「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」との約束を踏みにじり、豊かな海を汚染するこの暴挙に抗議し、すぐに中止するよう要求します。
 これに対し中国政府は、「(海洋放出は)極めて利己的で、放射能汚染リスクを全世界に転嫁するもの」「取り返しがつかない局面を招かないように、直ちに誤った決定を取り消し、海洋放出を停止すべきだ」「安全無害というのなら、なぜ日本の国内の湖に流さないのか」と強く抗議しています。膨大な量の放射能を意図的に海に流すというのですから当然のことです。
 福島原発で事故を起こして放射能汚染水を生み出し、地下水遮断に失敗し現在も生み出し続けているのは東電と日本政府の責任です。生み出した放射性物質は国内処理で環境中には放出しないのが基本原則です。薄めて放出してもいいのなら高濃度廃棄物を含むあらゆる放射性物質を海洋投棄できることになります。本来陸上で長期保管すべきものを海洋投棄するのは東電と政府の費用削減のエゴに過ぎません。そして、国内の漁業者にも、周辺国にも理解を得るために何の努力もせず一方的に海洋投棄することを押しつけたのは日本政府です。私は正しいと口で言うだけで、相手の調査にも応じず、相手を納得させるために何もしなかったのです。
 中国について言えば、海洋投棄そのものに反対を明確に表明し、すでに一部で輸入にブレーキをかける措置を取っていました。日本の説明に納得できない、日本は勝手に海洋を汚染する権利は持っていない、と考えていることは明白でした。にもかかわらず、日本政府は海洋投棄の一時延期や話合いなど両国間で対立を緩和することをせずに強行しました。今、中国政府がとった海産物の輸入停止措置で漁業を中心に大規模な損害が生じていますが、放射能汚染水の海洋投棄にともなう問題は放射性物質の発生者、投棄者である東電と日本政府に全部の責任があります。
 にもかかわらず、日本国内では、政府や政治家、評論家、マスコミがネット世論をあおりつつ、「科学的根拠がない」「経済的威圧」「失業など経済状況への不満をそらすためにやっている」など、すさまじい反中国の嵐が吹き荒れています。ただでさえ強かった反中嫌中の世論は、これを機に一層強まっていると予想できます。
 岸田政権は、自らの汚染水放出への責任追及を、反中国をあおることで逸らそうとしているのです。と同時に、この事態を利用して、「中国嫌い」の感情をかきたて、米国などとともに中国との政治的・軍事的・経済的対決、包囲網を強めようとしているのです。

中国の批判には「科学的根拠」がある
 岸田首相は、中国に対して全面禁輸措置への抗議を行い、問題が「風評被害」であるかのようにふるまっています。報道や宣伝ではあたかも、中国の放出中止要求には「科学的根拠」がなく、理不尽であるかのように言われていますが、これは全く事実に反します。
 まず、汚染水は、ALPS(「多核種除去設備」)によってほとんどの放射能を取り除かれた「処理水」であり、含まれる放射能が「トリチウム」だけであるように言われています。そして、そのトリチウムは、既に一般の原発や使用済み核燃料再処理工場からはるかに多く放出されているので問題にする必要はない、という宣伝がされているのです。
 しかし、福島の汚染水は原発事故により破損した核燃料に直接触れた水であり、トリチウム以外の様々な放射性物質――セシウム、ストロンチウム、ヨウ素 129、プルトニウム、カドミウムなどの核種が基準を超えて含まれています。この事実に、政府と東電は全く触れようとしません。しかし、タンクにためられている水の72%で、トリチウム以外の62の放射性核種の濃度の合計(「告示濃度比総和」)が排出基準を上回っていることを東電は認めており、基準の300倍以上の汚染水があることが明らかになっています。
ALPS処理水、トリチウム以外核種の残留~「説明・公聴会」の前提は崩れた(FoE Japan)

 東電は、放出前に再度ALPS処理を行い、さらに海水で薄めて放出するとしていますが、同じALPSでの処理で排出基準以下にすることができるのか、全く信用できるものでありません。薄めても放射能の総量が減るわけではなく、30年もの間、毎日学校プール 110 杯分の大量の汚染水が放出されるのです。放射能は海底の土、海藻、魚介類に年々蓄積、「生体濃縮」され、いずれ私たちの食卓に上ることになります。中国の言う「核汚染水」というのは事実であり、私たちの、アジアと世界の人々の生活を脅かすのです。

IAEAの「お墨付き」はない
 政府は、国際原子力推進機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致している」とした報告書を理由に、放出がIAEAの「お墨付き」を得たかのように言いますが、実は、IAEA報告書は汚染水放出を正当化していないし、推奨も支持もしていません。
 この報告書は冒頭で「今回のIAEAの安全審査の範囲には、日本政府がたどった正当化プロセスの詳細に関する評価は含まれていない」「ALPS処理水の管理方法の最終的な選択の正当性は、多くの利害関係者にとって極めて重要であり、日本政府から明確な説明がなされるべき」「福島第一原子力発電所に貯蔵されている処理水の放出は、日本政府による国家的決定であり、この報告書はその方針を推奨するものでも支持するものでもないことを強調しておきたい」と、はっきりと書かれているのです。
IAEA報告書は「処理水の海洋放出」を承認していない。中国を「非科学的」と切り捨てる日本の傲慢(BUSINESS INSIDER JAPAN)

全漁連や太平洋島しょ諸国も汚染水放出を批判
 日本では、汚染水放出に反対しているのは中国だけかのように宣伝されていますが、そんなことはありません。
 国内では、全国漁業協同組合連合会(全漁連)も福島県漁連も反対の姿勢を変えていません。8 月 21 日に岸田首相と面談した全漁連会長は「漁業者・国民の理解を得られない海洋放出に反対であるということはいささかも変わらない」と、改めて表明しました。福島県の市町村の7割が反対または慎重の意見書を出し、宮城県議会は反対の意見書を全会一致で可決しました。
 8月18日には、首相官邸前に300人が集まり、海洋放出中止を求めました。院内集会230人が参加しました。8月24日・25日には東電本社前や官邸前、大阪でも行動が行われました。海洋放出差し止めの訴訟も予定されています。
処理水 24日にも放出 反対の住民など中止求め来月提訴へ(NHK)

 韓国でも海洋放出に反対する市民の運動は一層強まっています。8月26日には、ソウルでの集会に5万人が集まりました。
福島原発汚染水投機中止汎国民大会 大韓民国ソウル市庁~龍山(ヨンサン)大統領室行進(twitter)

 太平洋の島国からも心配する声が上がっています。21年4月に日本政府が海洋放出方針を決めた後、マーシャル諸島政府は懸念を表明し、代替策の検討や海洋環境保全のための国際的義務の履行、対話の実施などを求める声明を発表しました。今年3月にも、国会が「重大な懸念を表明し、より安全な代替処理計画を日本に検討するよう求める」決議を採択しました。汚染水放出が「海洋資源に大きく依存している太平洋諸島の人々の命と生活を脅かす」とし、「太平洋を核廃棄物のごみ捨て場にこれ以上するべきではない」と訴えています。北マリアナ諸島の議会でも同様に反対決議が採択されています。ソロモン諸島の首相は「海洋放出はソロモン諸島の国民や海、経済、暮らしに影響を与える」と主張し、「日本の決定に強く反対する」と表明しました。これらの島々は、米国やフランスの核実験により核の被害を受けてきた歴史があります。フィジー、フィリピンなど、政府が海洋放出を容認している国でも、市民から反対の声が上がっています。
処理水放出、太平洋島しょ国が怒り 背景に核や戦争、大国の犠牲になってきた歴史(東京新聞)
フィジーの住民 日本の放射能汚染水海洋放出に抗議(CRI online)
フィリピンの漁業者と香港の活動家が福島の水放出に抗議(ABS-CBN)

汚染水は、日本政府と東電の責任で保管・管理すべき
 そもそも、何十年もさんざん指摘されてきた、原発を大地震と津波が襲った場合の危険性に目をつむり、「大事故は起きない」として原発建設と運転を強行してきたのは、日本政府と電力会社です。その結果起きた2011年3月11日の原発事故の結果について、すべての責任は日本政府と東京電力が負わなければなりません。事故によって生み出された放射能は、政府と東電が厳重に保管・管理する責任があります。汚染水の海洋放出はその責任を放棄し、地球規模に放射能汚染を拡散することなのです。責任を追及されるべきは、岸田政権と東電です。そこを問題にせずに、「中国による水産物全面禁輸」「中国市民からの迷惑行為」を言い立てるのは問題のすり替えです。根本原因である「世界の海に対する大迷惑行為」である汚染水放出を今すぐ中止すべきです。
 汚染水放出は30年続く計画です、中国や、汚染水放出に反対するアジア・太平洋と世界の人々とともに、汚染水放出の中止を要求し続けましょう。

2023年8月31日
リブ・イン・ピース☆9+25

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