「改革・開放」以降重要性を増した「社区」の役割 中国において社区での活動が大きく重視されるようになったのは、「改革・開放」政策採用からです。それ以前は、このような住民サービス全般は、都市部では国有企業が、農村部では人民公社が、過大な住民の雇用を通じて行っていました。すなわち、職を提供し、住居を提供し、医療・福祉等の住民サービスを提供していました。しかし「改革・開放」政策で民間企業との厳しい競争に置かれた国営企業は、従来と同様に全従業員への住宅・医療等の住民サービスを提供することはもちろんのこと、過大な従業員を雇用し続けることができなくなりました。このような中、中国政府は住民の基礎単位である社区ごとの居民委員会を抜本的に改革・強化し、住民へのサービス提供を図ります。 ところがここで大きな問題が起こります。それは、居民委員会が膨大な仕事を請け負っていることです。住民へのサービス提供をおろそかにせず、膨大な仕事量を是正するため、多くの都市では、社区内に住民サービス提供の専門組織「社区サービス(工作)ステーション」が設立され、そこから住民サービスを提供されるようになりました。この社区サービスステーションには、ソーシャルワーカー、看護師、介護士などの専門知識・技能を持った人たちを配され、十分なサービスを提供できる組織となり、実際に住民への各種サービスを提供しました。もちろん配された人への給料は市政府からの援助などで世間と同等の給料が支給されます。これによって住民への種々のサービス提供には問題がなくなりました。一方居民委員会は住民の意見を討議し、それを市政府に具申する活動に専念するように変化してきました。いわゆる「議行分設」といわれ、議論と住民サービスの分離です。 ※中国都市部における社区居民委員会の沿革(包敏 広島国際大学) ※中国の「社区」の新しい展開 : 「単位人」から「社会人」へ (陳彩玉 生活経済学会) ※中国における「基層群衆性自治組織」の法的性質(松本未希子 神戸法学) 試行錯誤の中から、住民の自発性・自治意識を向上 しかし、この方式だと新たな問題が生じました。いわゆる4つの「自我」の推進、すなわち住民の自発性、自治意識の向上が図れないという問題です。住民自身が考え実行してサービスを行うのではなく、住民は単なる受け手として提供されるサービスを享受するだけに留まります。サービスさえ受けられれば十分という、自治活動に対して消極的「賛同」しかしない住民もかなりの数となりました。これらを解消するために、まず、サービスステーションの設立や活動はあくまで居民委員会の主導で行うように変更しました。また、住民の意見討議の場を活発化するため、イギリス等の住民自治・討議の方式を一部取り入れて改善を図りました。更に、居民委員会の仕事量の軽減に関しては、NGO等も積極的に活用するなど住民のボランティアを最大限引き出して軽減することとして、現在社区居民委員会の活動の改善が図られており、中国の社会主義的民主主義の向上が図られています。 社区での活動はその活動開始当初からスムーズに行えるようになったわけではなく、試行錯誤を繰り返し、その中から住民のボランティアを最大限生かしていくことで解決してきました。 ※CiNii 論文 - 中国の都市と農村における「社区建設」--中国におけるコミュニティ形成の文脈(南裕子 慶應義塾大学) ※中国の都市部で住民自治を仕掛ける ―草の根 NGO の役割に着目して―(李妍焱 駒澤大学) 社会主義的民主主義の発展 このように、中国における住民の最基層社区での自治活動・社会主義的民主主義は、試行錯誤を経ながら人民の自発性向上と住民サービスの向上というある意味矛盾した難しい課題を日夜克服しながら発展しています。 これは、同じく社会主義国キューバで、人民の自発性をいかに維持し社会主義建設に引き入れていくかに腐心し、住民の自治組織、革命委員会、学校や職場での教育、自発労働、生産大会等々地域や職場でさまざまな試みを進めてきたことと共通するものがあります。キューバ革命の英雄チェ・ゲバラは、「個人を犠牲にした集団主義」などと社会主義を批判する見方に対して、“一個の人間であると同時に共同体の一員である二重の存在”という言葉で、社会主義ならではの人民のあり方を表現しました。 ※『ゲバラ 世界を語る』 (チェ・ゲバラ 中公文庫)所収「キューバにおける社会主義と人間」 ゲバラが目指した「新しい人間」の創出、その人格の形成を英雄主義、精神論、道徳論によるのではなく、社会システムとして整えていくこと、その中国版が今眼前で繰り広げられているのです。 2021年2月5日 関連記事 (No.10)中国の「ゼロコロナ」政策に学ぶべき(下) 「社区」「居民委員会」にみる「中国型民主主義」 (No.9)中国の「ゼロコロナ」政策に学ぶべき(中) 『武漢支援日記 コロナウイルスと闘った68日の記録』より (No.8)中国の「ゼロコロナ」政策に学ぶべき(上) 河北省石家荘市でのコロナ感染に対する徹底した検疫政策 |
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