シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.12) 香港国家安全法(上)――西側帝国主義に蹂躙されてきた被抑圧国の視点から捉える

香港国家安全法の基本的性格――国家分裂(香港分離独立)とそれを目的とする外国の介入、内政干渉の阻止
 中華人民共和国全国人民代表大会(全人代)常務委員会が昨年6月に採択、即時施行した「香港国家安全維持法」(国安法)に対する西側メディアの批判が続いています。「言論の自由の圧殺」「一国二制度の破壊」などがその理由です。
 しかし同法の目的は以下のように、はっきりと同法「総則」第一章第1条に明記されています。
「第一章 第1条 一国二制度、港人港治、高度な自治を正確に実施し、国家の安全を守り、国家分裂や政権転覆、テロ、外国勢力との共謀を防ぎ、香港の繁栄と安定の維持、香港市民の権利と利益そして国家の安全保障のために、香港の法制度とその執行メカニズムを確立して改善する決定を行い、この法律を定める」
 また、同法の犯罪行為も、第三章「犯罪行為と処罰」において6節にわたり、国家分裂罪・国家政権転覆罪・テロ活動罪・外国又は境外勢力と結託し国家安全に危害を及ぼす罪の四種類の犯罪行為の具体的な構成と相応の刑事責任、それに対応した処罰規定および効力範囲を規定しています。日本のメディアでは曖昧だと批判されていますが、大間違いです。
 いわゆる「民主派」の過激なデモが掲げたスローガン「光復香港,時代革命」で示されたような、香港を中国から独立させ米英など西側帝国主義に服属させる行為、“香港独立”を西側帝国主義勢力と一体となって実現する国家分裂行為を阻止することです。しかも西側帝国主義の狙いは、香港の分離独立を、台湾、新疆ウイグル自治区、チベット自治区など、中国の国家分裂=分離独立と連動させているのです。台頭する中国を抑え込むには軍事力だけでは難しい、国家を分裂させれば抑え込めると考えているのです。
 つまり、問題は「人権」や「自由」や「民主主義」一般ではありません。国家分裂や国家転覆などを除けば、同法制定後も言論の自由は保障されています。香港の一国二制度も全く変わっていません。資本主義制度も高度な自治も法律制度も変わっていません。行政管理権、立法権、独立した司法権と結審権も何も影響を受けていません。
【全文翻訳】香港国家安全維持法 その(1)(note)
【全文翻訳】香港国家安全維持法 その(2)(note)
香港国家安全維持法の概要(Wikipedia)

国連人権理事会で、国安法への賛成は53カ国、反対は27カ国
 ところでどんな国々が国安法を支持し、どんな国々が批判しているのでしょうか。なぜ、キューバは国安法を支持したのでしょうか。ここにこの法律の本質が端的に表れています。
 国安法問題、香港問題を捉える最大のカギは、西側帝国主義による発展途上諸国に対する植民地主義支配の歴史と現在をどこまで認識しているかどうかにあります。日本の私たちは、戦前・戦中も戦後も、侵略したり植民地支配をした歴史はありますが、逆に、侵略されたり植民地支配を受けた歴史はありません(戦後の一時期に米国に占領された時を除けば)。だから、どうしても「人権」や「自由と民主主義」も、支配してきた側の欧米の解釈で考えてしまいます。
 ところが、発展途上諸国は、19世紀から第二次世界大戦後70年以上も経った今日まで、切れ目なくずっと、西側帝国主義諸国による軍事力を使った侵略や横暴、諜報機関を使ったクーデターや暗殺、メディアを使ったデマ宣伝、資本進出、ドルやマネーや金融の暴力によって、民族の独立や解放、自立した政治的経済的発展を潰されてきたのです。
 私たちが無意識のうちに持っている意識が本当に正しいのかどうかを絶えず考えなければなりません。
 昨年5月に、国連人権理事会で採択された香港国安法に関する決議では、27カ国が反対し、ほぼ倍の53カ国が賛成しました。
 決議に反対したのは、英国、日本、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、オーストリア、スウェーデン、スイス、デンマーク、ノルウェー等々合計27ヶ国。かつてアジア、アフリカ、中南米諸国を侵略し植民地化して莫大な富を略奪した国とその取り巻きの国ばかりです。ちなみに米国はトランプ政権になって同理事会から撤退したので、反対国には入っていません。
 逆に同法を支持したのはキューバ、ドミニカ、エジプト、イラン、イラク、ラオス、モザンビーク、北朝鮮、パキスタン、サウジアラビア、ソマリア、スリランカ、スーダン、シリア、ベネズエラなど中東、アジア、アフリカ、中南米の合計53ヶ国です。現在の政権の性格が反米か親米かなどによらず支持しているのは象徴的です。かつて「第三世界」などと呼ばれ帝国主義の新植民地主義のもとに置かれて資源や第一次産品などを収奪されてきた国々、今回の「決議反対組」に侵略され、蹂躙されてきた国々です。
中国の香港政策で国際社会が分裂 27カ国が懸念、53カ国は支持(東京新聞)

 この決議への賛否を見るだけで「香港国家安全維持法」がどのような性質の法律なのかを推測できるのではないでしょうか。
香港国家安全立法について知っておくべき六つの事実(中国在日大使館)

香港問題を見る視点(その1)――戦前に侵略戦争と植民地支配で蹂躙され続けた側から
 前記のことを、中国と日本に引きつけて、もう少し詳しく歴史的に見てみましょう。中国は、1840年にイギリスが仕掛けたアヘン戦争以降、欧米日の帝国主義列強によって領土を分割され、不平等条約を押しつけられ、侵略され、植民地化されてきました。100年以上にわたって帝国主義のくびきの元におかれ、民族主権と民族の尊厳を踏み潰され、蹂躙され続けてきたのです。清国の封建制の没落と滅亡、ブルジョア革命(辛亥革命)による中華民国の誕生、中国社会主義革命による中華人民共和国の成立という風に、中国の政治体制は大きく変わりましたが、列強による侵略と支配という屈辱の記憶は、今日も中国人民に引き継がれています。
 私たちはこのことを知識として知るだけではなく、外国からの介入、内政干渉への中国の高い警戒心、中国人民の敏感さと憎悪を理解しなければなりません。
※1842年イギリスとの南京条約による香港島の割譲と上海ら5港の開港。1857年第二次アヘン戦争(アロー戦争)と天津条約締結。イギリスに対する九龍半島南部の割譲を認めさせる北京条約(1860年)。ロシアによるアムール川左岸とウスリー川右岸の割譲、アムール州、沿海州としての編入(アイグン条約(1858年) 北京条約(1860年)。日清戦争(1894 - 1895年)の敗北、下関条約による遼東半島および福建台湾省の割譲。帝国主義列強諸国による勢力分割――イギリスは九龍半島と威海衛、フランスが広州湾、ドイツが青島、ロシアが旅順と大連を租借地にし半植民地化。1931年日本による傀儡政権満洲国の設立、1937年の盧溝橋事件を契機とした日中全面戦争突入。等々。
 
 とりわけ天皇制日本軍国主義の果たした犯罪的役割は重大です。満州国成立と1937年日中全面戦争突入によって、中国の人民に筆舌に尽くしがたい苦しみを与えました。土地を奪われ、家屋は焼かれ、あらゆるものを略奪され、奴隷のように働かされ、陵辱され、虐殺されました。中国人民は、おびただしい犠牲を出しながら抗日闘争を組織し、日本軍を敗北・撤退に追い込み独立を勝ち取ったのです。中国側の犠牲者は2000万人とも3000万人とも言われています。そして激しい内戦を経て1949年中華人民共和国が成立します。
 このような過程を経て成立した中国政府にとって、帝国主義の干渉や介入から国の独立を守ることは何にもまして重要な使命となってきました。日本や欧米諸国は「人権」「自由」を旗印に中国を非難しますが、これらの国々こそが「人権」「自由」を踏みにじってきたのです。声高に「人権」「自由」を掲げ、制裁をちらつかせて他国を威圧する側こそ怪しいのです。中国にとっての「人権」「自由」とは、何よりもまず、西側帝国主義の侵略や介入から、民族の独立、民族の尊厳を守ることなのです。
 アヘン戦争以来のイギリスの過酷な植民地支配、第二次世界大戦後の米国による中国の革命政府の転覆策動、反共・反社会主義の中国封じ込め政策を全部忘れて、旧宗主国イギリスのユニオンジャックや米国の星条旗を掲げ「トランプさん、香港を救って下さい」などと米英帝国主義の制裁や介入を求めることは、中国の再植民地化、香港の再割譲を求めることと同じです。いったいどれだけ大勢の民衆が血みどろの抗日戦争、民族解放闘争を戦って犠牲になったか。香港の若者が英米の国旗を振り、中国国旗や香港政府旗を踏みつけ燃やす行為に、多くの中国人民が反発や嫌悪感を持ったのは当然です。
 私たちは、中国と香港で起こっていることを、侵略してきた側、植民地支配した側、帝国主義日本の側から見るのではなく、侵略戦争と植民地支配で蹂躙された中国と中国人民の側に立って見る必要があると思います。

香港問題を見る視点(その2)――戦後、米国の侵略と介入の危険に絶えず脅かされている側から
 戦前・戦中の過去の侵略戦争と植民地支配だけではありません。中国は、戦後の中国革命後も絶えず米国の侵略と介入の危険に脅かされてきました。日本はこの米国の対中軍事包囲網に軍事基地を提供し、政治的にも1970年代の国交正常化まで、中国封じ込めの最前線に立ってきました。
 米国は、戦後、中国のみならず、自らの意にそぐわない国に対して、さまざまな事件や理由をでっち上げて戦争をしかけ、いくつかの国は実際に滅ぼしてきました。革命直後のキューバへの侵攻を企てたピッグス湾事件(1959年)、トンキン湾事件をでっち上げてのベトナム戦争(1964年)、ピノチェトを擁してのチリの反革命クーデタ(1973年)、70年代後半から80年代にかけてのニカラグア、エルサルバドル、グアテマラ、グレナダ、パナマ等々中南米諸国への介入と侵攻、イラクに対する湾岸戦争(1991年)、等々。CIAによる謀略、非公然の軍事介入・政治工作・テロ・暗殺などは数えきれません。
 21世紀に入っても、米国は9・11事件への報復と称してアフガニスタンへ軍事侵攻しタリバン政権を打倒(2001年)、さらに大量破壊兵器の保有をでっち上げてイラク戦争を開始し(2003年)、フセイン大統領を拘束し絞首刑にするという暴挙を働きました。イランや朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対しては、「核開発疑惑」をめぐって絶えず軍事侵攻の危険をちらつかせています。
 2011年チュニジアで始まったいわゆる「アラブの春」に乗じ、反米国家であったリビアに対して軍事介入を行い元首であるカダフィ大佐を殺害、同様に反米色を強めるシリアに対しても、武装勢力を送り込みアサド政権転覆を図りました。

香港問題を見る視点(その3)――資金投入・メディア・制裁・人権NGO・大衆運動を使ったクーデター(「カラー革命」)にさらされる側から
 香港の「民主派」デモに対して、中国メディアは「これは『カラー革命』だ」と非難しました。2000年頃から、中・東欧や中央アジアの旧ソ連圏諸国で、「不正選挙」や様々な口実をでっち上げ、大衆の怒りや不満を利用し、親ロシア政府を転覆し、親米・親欧政権に強引に交代させる事実上のクーデターのことを指します。狙いは反米色を強めたロシアを政治的・軍事的に包囲することでした。米・NATO諸国政府や諜報機関が主導し、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)、米国際連合開発計画がネット環境を構築し、全米民主主義基金(NED)、国際共和協会(IRI)、全米民主国際研究所(NDI)、フリーダム・ハウス、ソロス財団、米系「人権団体」などが暗躍しました。この中には現に香港デモで暗躍した団体もあります。
 米国は、直接的な侵略や軍事介入が困難になるや、こうした米欧政府・諜報機関が、住民団体や「人権団体」と一体となって、政権転覆(香港の場合は「香港独立」)の大衆運動を巻き起こす方法を考案しました。この中には、意図的に暴力・破壊行為、武装テロを行い、わざと当局の「介入」や「弾圧」を誘い、西側メディアを使って世界中で騒ぎ立て、政権を揺さぶり、政権転覆を図る戦術も含まれます。
 まさに、この「カラー革命」の際に旗印になったのが香港でも多用された「人権」「自由」「民主主義」です。これには極右系メディアからリベラル系メディアが中心的な扇動役を買って出て、アムネスティやヒューマン・ライツ・ウォッチなど人権団体も加わりました。総仕上げは、米欧諸国による制裁発動や内政干渉です。

 以上、歴史をたどる形で、かつての植民地時代から現在まで、多くの発展途上諸国=被抑圧諸国とその人民大衆がどのような経験をしてきたかを見てきました。要するに、西側帝国主義の側にいる私たちは、全てを帝国主義のプリズムを通して誘導しようとする西側政府やメディアや「人権団体」を疑ってかかるべきだということ、きちんと真偽や真実を調べることから始めなければならないのです。
 現在、西側のマスメディアが私たちの意識や心理を支配する傾向が高まっています。彼らは米欧日の政府・支配層の道具でしかありません。絶対に自国の侵略や人権侵害を徹底的に追及しません。私たちは、今後も、メディアの政治的・階級的役割を暴露していく決意です。
Chinese ‘Imperialism’ in Hong Kong Concerns US Media; Puerto Rican, Palestinian Colonies, Not So Much(FAIR)
 この記事は、米国メディアが、香港を植民地化したと中国批判を行うのに、植民地プエルトリコに対する米国政府批判、植民地パレスチナに対する米政府・イスラエル政府批判はほろんどない、と非難しています(FAIRは、米国のメディア批判を専門とする民主的団体です)。

 そもそも、米国は、数え切れない侵略や大量殺戮の張本人であっただけではありません。国民が安心して医療を受けられる公的医療制度もなく自己責任で放置され、すでに新型コロナで50万人もの死者を出しています。BLM(黒人の命は大切だ)運動が起こるほど、黒人に対する差別や迫害が日常茶飯です。移民排斥やマイノリティへのヘイトや差別も激しくなるばかり。貧富の格差で大勢の貧困層が生み出され、生存すら難しくなっています。他国の「人権」「自由と民主主義」を云々するヒマはないはずです。まずは自国の襟を正すべきです。

2021年2月25日
リブ・イン・ピース☆9+25