海賊対処法の衆院再可決・成立に抗議する
ソマリア沖での威嚇行動をやめ、自衛艦を今すぐ撤退させよ

数の暴力による海賊対処法の強行可決に抗議する
 アフリカ・ソマリア沖での自衛艦の活動を公然と認める海賊対処法が6月19日成立した。政府・与党は衆院での数の力を背景に、参院での否決を受けて衆院本会議で再可決し成立させたのである。「議会制民主主義」さえ踏みにじる暴挙である。民主党は、解散総選挙を早めるために法案処理を急ぎ早々と参院否決に踏み切ることでこの暴挙に手を貸した。そもそも自衛隊による「海賊対策」は民主党から投げかけられ、麻生が飛びついたものだ。民主党は国会での事前承認という対立点をあえて作り出して「反対」を演出してきたが、根底でこの法律を支持している。
 今回の「海賊」対処ソマリア派兵は、国益の擁護を法律の目的に掲げる点で、曲がりなりにも「復興支援」や「国連平和維持活動」への参加を掲げた従来の法律とは違う。露骨に日本の国益、帝国主義的権益を防衛するためにアフリカ・ソマリア沖へ自衛隊を派遣する法律が、民主党が事実上後押しする形で成立したことに私たちは怒りを禁じ得ない。断固糾弾する。

武器使用と集団的自衛権の行使に踏み出す危険
 海上自衛隊がソマリア沖・アデン湾ですでに行っている「海上警備活動」は海の「治安活動」であり、武力をもってソマリア人民に対して監視活動や治安・弾圧活動を行うことを意味する。政府は自衛隊法82条「海上警備活動」のデタラメな解釈でソマリア派兵を強行した。武力による威嚇と行使を禁じた憲法9条の蹂躙であり、専守防衛を基本とする政府解釈からの重大な逸脱である。
 さらに今回成立した海賊対処法は、従来の自衛隊海外派兵の枠組みを根本的に変えるものとなる。正当防衛に限定されていた武器使用が「任務遂行のため」に許されることになる。相手船を停船させるための船体射撃と海上検査(臨検)を認めている。外国船を「護衛」対象に拡大している。外国船の護衛が「専守防衛」だなどとは口が裂けても言えないはずだ。集団的自衛権の禁止や正当防衛に限定されてきた武器使用基準の制約などをことごとく取り払う危険をもっている。しかもこれは、ソマリア「海賊」対策と言いながら「ソマリア」も「国連決議」も一度も出てこない奇怪な法律だ。「海賊対策」という口実をつければ世界中の海に自衛艦隊を派遣することができる、海外派兵恒久法の先取りという危険性を持っているのである。

不法漁業と海洋投棄、軍艦派遣がソマリアの人々の生活を脅かす
 それでは米国を中心とした主要諸国が「海賊対策」活動をおこなったことでソマリア沖の「海賊」は減ったのか。「海賊」事件の数は減るどころか、逆に急増している。これが実態だ。広大な海域で軍事力による個別対応ではどうにもならないことを示している。4月にオバマが指示した「海賊」への射殺事件が、単なる地域的な「海賊」から報復を目的とする反米武装勢力へと追いやり、また比較的安全であったインド洋や喜望峰にまで「海賊」被害を拡大しているという指摘さえある。つまり、「海賊」殺害や無法な取り締まりが怒りを増幅させているのである。イラクやアフガニスタンの陸地で起こったことがまさにソマリア沖、アデン湾の海上で起こっているのだ。
 そもそも現在ソマリアの「海賊」と言われているのは、内戦で農業が出来なくなった貧しい農民であり、漁場を荒らされて漁が出来なくなった貧しい漁民である。これは疑い得ない事実だ。そしてそのソマリアの内戦を生み出し、困窮に陥れてきたのが、今「海賊対策」に血道を上げている先進諸国なのである。同じくソマリア沖とアデン湾を漁のできない海域にしてきたのも先進諸国である。ソマリアの貧困を問題にするのであれば、違法漁業によって魚資源を略奪し、産業廃棄物など有害物質の海洋投棄で海を汚す――このような違法行為を直ちにやめることこそが真っ先に行われなければならない。

今すぐ、ソマリア沖から自衛艦を撤退させるべき
 もちろん問題は、海賊対策の効果が上がっていないことではない。問題は、ほかならぬ先進諸国の軍艦の派遣こそがアデン湾での脅威となり、ソマリア人民の生活悪化に拍車をかけていることだ。ソマリアの漁師たちが、軍艦の威嚇射撃をおそれ、まともな漁ができなくなったことを訴えている。ソマリア沖に展開するフランスや米国の軍艦がやみくもに漁船に威嚇射撃を行っているのである。
 私たちは、ソマリア人民のためにこそ、今すぐ護衛艦の活動を停止し、撤退することが重要であると考える。法律の成立を受け、防衛相は護衛艦「あまぎり」と「はるさめ」の第二陣の派遣を指示した。ソマリアの人民に危害を加えてからでは遅い。絶対に武力行使に踏み込んではならない。日本政府は、「海上警備活動」を名目とした威嚇活動を直ちにやめるべきである。護衛艦の増強・交代方針を撤回すべきである。今すぐ自衛艦を撤退させるべきである。

2009年6月20日
リブ・イン・ピース☆9+25


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