「海上警備行動」の拡大解釈による自衛隊ソマリア沖派兵反対 政府は1月28日の安全保障会議で、ソマリア沖の「海賊対策」と称して、自衛隊法の「海上警備行動」を「拡大解釈」することによって海上自衛隊艦艇を派遣することを決めた。防衛相は準備命令を出した。そもそも「準備命令」を出すのに安保会議での決定など必要がない。ところが「内閣全体で支える」ことを印象づけるために、わざわざ安保会議を開いたのだという。呉基地の護衛艦「さみだれ」と「さざなみ」2隻、哨戒ヘリコプター、P3Cなどの派遣が候補に挙がりだした。 ※海賊対策:海自ソマリア沖派遣、準備を指示 武器使用基準作成へ−−防衛相(毎日新聞) ※広島・呉の護衛艦2隻派遣へ 海自、ソマリア沖海賊対策(朝日新聞) ソマリア沖派遣の根拠にしようとしている自衛隊法82条「海上警備行動」の対象はそもそも日本の沿岸警備である。それは陸上の治安出動と同様の想定であり、公海上を遠く離れた場所での武力行使=海賊退治など任務に入っていない。自衛隊法第3条の「必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」に対応する。過去2回発令されただけである。99年の北朝鮮「不審船」事件、04年の中国原子力潜水艦による領海侵犯事件の過去2回である。いずれも対象艦船が日本領海から公海上に出て行った時点で、当該行動は終了する性質のものである。それが、3回目の発令としてソマリア沖の海賊対策が選ばれるというのだ。 第八十二条 防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。 (自衛隊の任務) 第三条 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。 海上警備行動は、防衛大臣の命令で行うことができる(82条参照)とされている。自衛隊そのものの任務(戦闘、防衛出動)、海外における派遣任務(給油など)には首相の命令が必要だが、海上警備活動には首相の命令は必要ない。閣議決定も必要ない。必要なのは「首相の承認」だけだ。なぜなら海上自衛隊基地に停泊していたり航行中の海自艦が日本の沿岸で行う事が前提になっているからだ。政府はソマリア派兵決定に当たって閣議で決定するかのようなことを言っているが、それもまた海外派兵に箔を付け、国民に支持を強要するためのセレモニーとして行われるに過ぎない。 つまり、政府はこの重大転換を、政府解釈の変更の言明も国会議論も一切経ずに、首相の承認と防衛相の命令というきわめて実務的な手続きで行うことのできる、82条のねじ曲げ適用という詐欺的手法で押し切ってしまおうというのである。私たちはこのような横暴を断じて許すことはできない。 ※「海上警備行動」の拡大解釈による自衛隊のソマリア沖派兵反対!首相・防衛相は、派兵決定・準備命令を撤回せよ!(リブ・イン・ピース☆9+25) 「専守防衛」をかなぐり捨て、際限ない海外派兵に道を開く危険 自衛隊は、日本の領土、領海、領空を守るために必要最低限の防衛力の保持を認める「専守防衛」という政府解釈によって正当化されてきた。自衛隊の活動も、自衛隊関連の全法体系も「専守防衛」の原則に立っている。したがって、82条の「海上警備行動」の対象がソマリア沖をも含むというような解釈がなされるならば、それは「拡大解釈」「拡大適用」などというレベルの話ではない。自衛隊の存在と自衛隊法の前提、従来の政府解釈全体を根底から覆すものとなる。自衛隊法を条文そのままで全く別の法律にかえてしまう究極の解釈改憲である。 マスコミはこの異常さを報道していない。「海賊対策」を前提にして、武器使用の基準をうんぬんしている。比較的批判的なマスコミでも「「海賊対策」は理解できる」などと譲歩した上で、手続き論で異論を挟んでいるに過ぎない。このようなマスコミの対応が、異常な方針転換の危険を見えなくしている。 ※禍根残す「脱法行為」 海自のソマリア派遣(中国新聞) ※海自ソマリア派遣 憲法に照らす論議が必要(琉球新報) ※ソマリア派遣 粗い論議を懸念する(東京新聞) これまでの政府解釈では、海外での「安全確保活動」=治安活動、「警護活動」、「船舶検査」は認められてこなかった。テロ特措法によるインド洋派遣でも、イラク特措法によるイラク派遣でも、「治安活動」はやっていない。なぜなら、自衛権の発動の用件は、(1)わが国に対する急迫不正の侵害があること、(2)この場合にこれを排除するために適当な手段がないこと、(3)最小必要限の実力行使にとどまるべきことという受動的で防衛的なもの、に限定されているからだ。武装した自衛隊による海外での治安活動は、「わが国に対する急迫不正の侵害」がないもとでの「武力による威嚇」、「武力行使」を前提とし、「専守防衛」の原則から逸脱し、憲法9条に抵触するからだ。表向きインド洋では「給油活動」、イラクでは、「給水活動」や「人道復興支援」「物資の輸送」を装っていた。さらにPKOでは、相手国のによる要請など厳しい条件が加わる。 ※日米同盟のグローバル侵略同盟化に向けた条件整備 集団的自衛権行使「個別研究」をやめよ!(署名事務局) これらの活動は、現行法では認められないという認識から、イラク特措法やテロ特措法の延長問題が国会の最大案件になって以降、「恒久法」の対象となってきた事案だ。今回の海外警備行動は、治安活動での海外派兵を現行法でいとも簡単に行おうというものだ。海外派兵恒久法を先取りしようというものだ。それを日本から遙か離れたアフリカ・ソマリア沖で日本の護衛艦がやろうというのである。 ※領域外での武力行使=交戦権行使の最後の制約を取り払う自衛隊海外派兵恒久法の危険(署名事務局) 「海上警備活動」すなわち海の「治安活動」とは、武力をもってソマリア人民に対して監視活動や治安・弾圧活動を行うことを意味する。たしかに対象は一般市民ではなく海賊だというかもしれない。だが海賊船は、どくろの旗を立てているわけでもないし、船腹に大書きされているわけでもない。「海賊」船は、一般商船を襲ってこそ海賊船であって、航行しているだけでは海賊船かどうかなど分からない。だからひとたび警備活動を始めれば、航行する船、近寄ってくる船に対しては、常に威嚇し、「正当防衛」の武器使用をいつでも出来るような体制を取っていなければならない。これが、麻生が言う「自衛艦がいるだけで抑止力になる」、「自衛官に襲いかかる強盗っているか?」の意味だ。 復興支援でも、給油活動でもなく、正真正銘の威嚇と武力行使、治安弾圧のための派遣、にもかかわらず「武力行使」が制限されていてはたまらない――これが当初派兵に難色を示していた防衛省と自衛隊の本音だ。 武力行使の歯止めをなくし、集団的自衛権の行使につながる 「専守防衛」に制限されていた自衛隊法の条文が、そのままの形で海外にも自動適用されるというようなメチャメチャな解釈がまかりとおれば、どうなるのか。(ソマリア沖)だけでなく(地中海)(カリブ海)などと、括弧付きの文言を空で付け加えるだけで、全世界で海上警備活動が可能となってしまう。政府はそういう解釈なのか。海上警備活動だけではない。たとえば78条は治安維持活動に関する条項だ。これも「日本の領土において」というような限定はついていない。前提になっているからだ。海上警備行動同様、治安活動を目的に陸上自衛隊でさえ世界中に派遣することが可能となってしまうだろう。自衛隊法の海上警備活動の任務を根拠に海上自衛隊をソマリア沖に派遣していいというなら、「治安活動」の任務を根拠に陸上自衛隊をソマリア本土に派遣するという解釈が成り立つことになるだろう。 第七十八条 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。 アメリカは、ソマリア沖の「海賊」を徹底して追い詰めるために、ソマリアの陸および空域も含めてすべての必要な処置をとることを求める安保理決議を要求している。これは、海賊対策と称したソマリア人民に対する治安弾圧に、「海上警備行動」が深く組み込まれることを意味する。そしてソマリア本土での「治安出動」が現実味を帯びるのである。 ※US wants to take fight against Somali pirates on to land(Guardian) 加えてソマリア沖派兵は集団的自衛権の行使に道を開く重大な危険性を持っている。政府は「警備」の対象を、日本籍船のみならず日本人や日本の貨物が乗る外国籍船までも対象に護衛しようとしている。 現在考えられているのは、商船団の前後に武装自衛艦が一隻ずつついて護衛するというものだ。護衛の対象は日本籍船や日本人、日本の貨物が乗る外国籍船までも含まれる。自衛隊は、日本の商船の武装ガードマンになるということだ。だが対象船は2300隻以上にのぼるため、全部は護衛できない。だから実際に護衛するのはあらかじめ護衛の要請があった船、日本籍船限定される。海外派兵にあたって、実際の行動とは別に、「拡大解釈」を広げるところまで広げておこうというのである。 ※海自艦が日本籍船を護送 ソマリア海賊対策で政府方針(産経新聞) ※海自任務、護送に限定 海賊対策、日本籍船を最優先(産経新聞) だがたとえば、日本籍船で、フィリピン人の船長と乗組員が乗っており、フランスの積み荷が載っているような場合はどうか。自衛隊とフランス海軍が護衛するのか。重ならないように、分担をきめるのか。とすれば、ソマリア沖で、日本の自衛隊も、EUやNATO軍、米軍らの一員として警護活動をになうことになる。実際、EUは日本も含めた役割分担を模索している。インド洋では1月、米が新多国籍軍CTF151を立ち上げ、海賊の取り締まりを始めた。海自は、多国籍軍に入らず「個別対応」する方針と言うが、事実上「共同作戦」に組み込まれる極めて危うい状況になる可能性がある。それは集団的自衛権の行使=集団的な治安活動として批判しなければならない。 ※[欧州・ロシア] 海賊対策:EUのソマリア沖作戦で海自参加を協議…司令官(Privatejapan 毎日新聞) ※海自、多国籍軍入らず ソマリア派遣で防衛省方針(中日新聞) さらなる危険は武器使用のエスカレーションである。海上警備行動では、武器使用基準について警察官職務執行法を準用するという。これもデタラメな話だ。政府・与党は、(1)英海軍が銃撃戦で海賊2人を射殺した、(2)インド海軍が海賊に乗っ取られたタイ船を撃沈した、というソマリア沖で実際に発生した2つのケースを例に挙げ、いずれも正当防衛・緊急避難に該当するとしている。とりわけ昨年11月に起こったタイ船撃沈事件は、インド海軍が乗っ取られた漁船を海賊の母船と誤認して攻撃して撃沈させたことが明らかになっている。インド海軍は、漁船が敵対的だったと言い訳し、あくまで「正当防衛」と主張しているが、「海賊」対策と称する海上警備行動が極めて攻撃的で即座に交戦状態にまでエスカレートする危険を伴うものだということを示している。しかも、具体的な武器使用基準は非公開の部隊行動基準(ROE)で定める、としている。いざとなれば何でも正当防衛・緊急避難と言い逃れできるということではないか。 インド洋に派兵されていた海上自衛隊では、「テロ特措法」と無関係はずのイラク攻撃に参加する米空母に燃料補給を行い、その記録が改ざんされ、航海日誌などが破棄された。また、イラクに派兵されていた陸上自衛隊では、交戦が起きた時に情報収集を口実に現場に向かい、意図的に戦闘に巻き込まれ、「正当防衛」と称して発砲する「駆けつけ警護」を計画していた。これは佐藤正久元派遣隊長の発言でわかったが、自衛隊が組織的に立案していたことが暴露されている。さらに、昨年明らかになった田母神前航空幕僚長の、侵略戦争を正当化し、憲法「改正」・海外派兵推進を主張するの数々の発言。これらが示しているのは、活動を秘密にし国会のコントロールをも離れて暴走する危険な自衛隊の体質である。正当防衛・緊急避難という言葉など何の歯止めにもならない。 ※イラク戦向け給油=テロ特措法違反は確定的に(署名事務局) ※田母神論文問題に見る「軍部の台頭」の危険(リブ・イン・ピース☆9+25) 目的は軍事的プレゼンス いかなる形でもソマリア沖への派兵反対 ソマリア沖への派兵について、現行法で行うか新法の成立を待つかについて、政府の中で議論があった。少なくとも11月の時点では、「海賊対策法」なる新法制定に傾いていた。一体何が起こったのか。なぜ突如現行法での派遣が急浮上したのか。 現行法による派兵にもっとも前のめりだったのは、麻生首相本人である。武器使用基準が法的に制約されている海上警備行動で派兵することには防衛省が消極的だった。これに対して先にも行ったように「自衛艦がいるだけで抑止力になる」などときわめて杜撰な論理で派兵を推進したのである。これに外務省や自民党防衛族議員が乗っかり、「とにかく早く自衛隊を出したい」という無責任きわまりない思惑をもって進んでいる。 その杜撰さは、防衛省幹部でさえ「国会の関与も、地理的な制約も、期限もない状況で出していいのか」と言うほどである。 ※日本政府は昨年4月、「テロ特措法」によりインド洋で給油活動を行う自衛艦に対し、豪華客船の警護を発動することを検討していた。目的外使用として断念されたが、今年4月には世界一周の豪華客船が通過することから、その警護をターゲットにしている。 海上警備行動の発令検討 海賊多発のソマリア沖(共同通信) 豪華客船護衛へ月内に準備指示 海賊対策で海警行動(西日本新聞) 現行法での派兵へと大きく舵を切らせたのは、中国艦船のソマリア派兵決定であったという。これにオバマ政権の誕生が加わった。麻生は、イラクに変わる派兵先を探していた。というより、G8の中で出していないのは日本だけ、中国や韓国までも出し始めている、などと浮き足だったのである。 だが、漁場を荒らしてソマリア人民から魚を略奪し、核廃棄物も含むゴミを海洋投棄し、土地を奪い、内戦のままに放置しておいて、いざ海の「治安」が悪くなり船が安全に航行できなくなった、だから大国が軍艦をだして積み荷を守ろうというのは、虫がよすぎる話である。大国列強が、ソマリアの貧困や内戦をあとまわしにして、いや作り出しておいて、自国の権益だけは軍を派遣して守り抜く、各国が軍事力の存在の誇示して、しのぎを削る−−こんな競争に日本は加わるべきではない。日本は憲法9条を高く掲げ、人道的見地から国際的な貢献をする道を模索すべきである。まずもってしなければならないのは、軍事的関与を一切しないことだ。 ※オバマ政権のアキレス腱はソマリアか(日経ビジネスオンライン) ※海賊対策新法及びソマリア沖「海賊」の背景については、以下を参照。 ソマリア沖への新たな自衛隊派兵策動を許すな!(リブ・イン・ピース☆9+25) 政府は、イラクから撤退後、新たな派遣先を見つけて自衛隊の海外での活動を派兵を恒常化させ、さらに海外派兵恒久法の制定につなげようとしている。それだけではない。海上自衛隊のソマリア沖派兵に合わせて、カタールの米軍合同航空作戦センター(CAOC)に空自要員を派遣するという。CAOCの空自要員は、空自のイラク撤退と共に昨年12月に引き揚げていた。CAOCに要員を置くことは、米軍などから情報を得やすくなる。自衛隊を海外に出し続けておくことが利益になるのである。さらに、ジブチを拠点とする海自に空自が物資を輸送し、陸自が基地警備をすることまでが検討課題とされている。なんと空自派遣を軸に、陸海空の統合運用がもくろまれているのだ。イラクからの陸・空自衛隊の撤退の後、再派遣のチャンスとして、空自派遣を利用しようというのである。 ※ソマリア沖派遣 防衛省が自衛隊・陸海空の統合運用検討(産経新聞) 現行法での派兵には慎重だった防衛省・自衛隊だが、もちろん派兵そのものは大歓迎で、新法の早期制定を要求している。派兵の既成事実化で逆に新法が遅れることを懸念し、武器使用基準があいまいなままの派兵で、いざというときに責任を問われるのを嫌がっているだけである。要するに「コソコソとではなく正々堂々と武器を使わせろ」ということだ。 民主党は、昨年10月に右派議員が国会質問でにソマリア沖への派兵を要求するなど、きわめて犯罪的な役割を果たしている。政府が現行法での派兵に動いている今になっても、党内で賛否が分かれ、見解を出すこともできない。 しかも、「海賊」の取り締まりには地域的・期間的限定はない。エンドレスになる危険性がある。 私たちは、現行法であれ新法であれ、いかなる形であっても、ソマリア沖への自衛隊派兵に断固反対する。政府は派兵の準備を中止せよ。 2009年2月3日 |