ソマリア沖への新たな自衛隊派兵策動を許すな!
――海外派兵の恒常化と集団的自衛権行使、武器使用緩和に反対する――

海外派兵による「国益」防衛を掲げた、帝国主義的野心むき出しの法案
 11月20日、日本政府はアフリカ・ソマリア沖の「海賊」に対して海上自衛隊の護衛艦を派遣するため、「海賊行為防止活動特別措置法案」(仮称)なる素案をまとめた。自民党の中谷元や民主党の前原誠司が集う超党派の議員連盟「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」が、日本財団などとの協議の上、政府に対して要請したものである。来年の通常国会で法案提出を目指している。
海賊対策で海自派遣特措法案/抵抗抑止に武器使用容認(四国新聞)
海賊対策で海自派遣の特措法検討 超党派議連(日経新聞)

 マスコミ報道によれば、(1)護衛艦の活動範囲は「日本領海とソマリア沖」。(2)自衛隊部隊による活動として、[1]同海域を航行する船舶の監視や伴走、[2]海賊船への停船命令や立ち入り検査――を例示。(3)護衛対象は日本関係船舶とそれ以外の外国船籍を含む各国船舶。(4)さらに武器使用基準の大幅な緩和。――などを内容としている。
 私たちは、日本の領海から遙か離れたソマリア沖で、「海賊」対策のために自衛隊を派遣するという、かつてない自衛隊の海外派兵の動きを厳しく批判する。カンボジアPKOから戦地イラクへの自衛隊の派遣へと至った一連の海外派兵を私たちは批判し反対してきたが、今回の法制定の動きは従来の自衛隊海外派兵の概念を根本的に変える大問題である。これまでは、曲がりなりにも、紛争後の当事国の要請による停戦監視、多国籍軍への燃料補給、住民への水支援、復興援助、援助物資の輸送等々の大義を掲げ「国際貢献」の美名の下に行われてきた。もちろんこれらが、帝国主義的で植民地主義的な意図を持っていたことは言うまでもない。
 だが、今回出されようとしている法案は、「海賊」対策を前面に押し出すことによって、国家間の紛争ではないかのように事態を描き出しながら、その実は、日本の「経済権益」の防衛という意図をむき出しにし、海外派兵を強行しようというものだ。法案は各国に海賊への対処行動を求めた今年6月の国連安保理決議1816を法的根拠としている。安保理を牛耳る帝国主義諸国が寄ってたかって軍艦を派遣し、「海賊」対策を理由に軍事行動を展開するのである。日本は、自衛艦派遣に踏み出す衝動をもって共同提案国に名を連ねた。日本は、2009年から2年間、安保理非常任理事国となる。それを理由にして軍事力の海外展開の実績を積み上げようとしている。それは、常任理事国への昇格意図も明確に絡んでいる。私たちは、この決議に反対である。ソマリア派兵は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄」した憲法9条に真っ向から対立する。武力による威嚇と行使そのものである。
安保理決議第1816号 ソマリア情勢に関する決議

 アデン湾は「世界の石油輸送量の3割以上が通過するエネルギーの大動脈」である。法案は海上輸送ルートの防衛を公然と掲げている。石油をはじめとする日本への海上供給ルートを自衛隊に防衛させる、いわゆるシーレーン防衛というまさに帝国主義的で植民地主義的な内容である。自衛隊は、タンカーや民間商船の武装ガードマンとして出動させられようとしているのである。
政府は安保理決議を錦の御旗にし、「ソマリア海賊」にのみ対応するかのように装っているが、それは子どもだましのペテンでしかない。日本の国益を守るために、「海賊」懲罰を目的として自衛隊が海外派兵されたらどうなるのか。それは「ソマリア沖」には限らなくなってしまうだろう。ソマリアの「海賊」を懲罰すれば、他地域の「海賊」も懲罰してよいはずであり、「海賊」を懲罰すれば、「山賊」も懲罰してよいことになる。いや懲罰しなければならないことになる。国連安保理決議1816号は「ソマリアの特殊事情」に訴えているが、それは何の歯止めにもならない。反日感情の強いところ、治安の悪い地域はいくらでもある。このような地域に、自衛隊を次々に派遣することになってしまうだろう。
 さらに、活動海域は「日本領海とソマリア沖」とされているが、平時における治安維持活動、警察活動、犯罪行為への自衛隊の動員など認められていない。現に2007年5月に、辺野古の事前調査に反対する住民運動弾圧のために自衛艦を動員した違法行為は大問題になった。この法案が有事法制発動の先取りになってしまうだろう。
軍艦を動員した辺野古基地建設強行糾弾!(署名事務局)

 ソマリア沖、アデン湾への自衛艦の派遣問題は、そもそも民主党の側から提案したのが発端であった。対米追随、帝国主義的権益の擁護という点で、自民と民主の軍事外交政策の同一性は極めて危険である。米国がイラクからの撤退を打ち出し、それに伴って航空自衛隊も年内に完全撤退することになった。自衛隊がイラク情勢を利用して海外派兵を行ってきた理由が全く消滅する。今度は、ソマリアの困窮を利用して、自衛隊の武器使用の“実績”を作り出そうとしているのだ。そのための「海賊行為防止法案」に、私たちは断固として反対する。

外国籍船護衛も可能とし、武器使用基準を一気に「船舶検査」=臨検にまで拡大
 この素案においては、「海賊行為防止活動の実施に対する抵抗を抑止するため武器を使用できるほか、自衛官は、自己保存のための武器を使用できる」と明記されているという。“海賊退治”のために自衛隊が派遣され、そのための武器使用の大幅な緩和が目論まれている。
「武器使用基準」がもっとも緩和されたイラク特措法でさえ、治安維持活動や船舶検査での武器使用などは認められていない。「自己又は自己と共に現場に所在する他の自衛隊員」「自己の管理の下に入った者」の正当防衛時のみである。これが一気に、外国艦船の警護や「船舶検査」=臨検にまで拡大されることになる。船舶検査=臨検とは、国際法では戦争行為の一部である。船舶停止と強制立ち入り、乗組員や積み荷の検査、物品の押収、乗組員の拘束と引き渡しなど、武装艦と武装自衛隊による強制措置である。武力行使が前提になっている。
 「抵抗を抑止するため武器使用」で、どの程度の事態が想定されているのかはわからない。だが、ソマリア沖では、海賊船もロケット砲などで重武装し、イギリスのフリーゲート艦と交戦する事態まで起きている。戦車30台を積んだロシア艦船が乗っ取られている。日本の自衛隊は、そのような船とどのように渡り合うつもりなのか。麻生などが言うように「自衛艦がいるだけで抑止力になる」程度ではすまない。
 ここで、11月18日に起こった事件を見よう。インド海軍は、19日「ソマリア沖のアデン湾で、銃やロケット砲を持った海賊が乗った海賊船を18日に撃沈した」と発表した。だが、実は撃沈したのは海賊船ではなく、海賊に乗っ取られたタイの水産会社に所属するトロール漁船(566トン)だったというのである。このとき、インド海軍フリゲート艦「INSタバール」からの砲撃によって乗組員1人死亡し、14人が現在も行方不明になっているという。「抵抗を抑止するための武器使用」は瞬時にして、交戦状態にはいり、敵味方が入り乱れる戦場となる。民間船もまきこんだ軍事行動は重大な結果をもたらさずには置かない。
インド海軍撃沈の「海賊船」 実は漁船? ソマリア沖(朝日新聞)

 法案が想定する自衛艦の任務には、「外国船護衛」も含まれる。自衛艦は日本のタンカーや輸送船だけを護衛することにはならないのは明らかである。米やNATO諸国軍艦船との共同軍事行動へとエスカレートするのが避けられない。護衛艦やP3Cの派遣がもくろまれている。派遣部隊相互の情報共有と作戦行動がすぐさま問題になる。集団的自衛権の行使である。「周辺海域で戦闘行為が発生した場合は、活動を中断して避難する」ことなど不可能である。周辺海域ではなく、自衛艦の活動しているところがまさに戦闘海域になるのである。
EUとNATO、ソマリア沖の海賊対策を強化(日経新聞)

 加えて言えば、「警護活動」や「船舶検査」は、「派兵恒久法」で目論まれている武器使用基準緩和の重要な項目である。政府はこの法案で「派兵恒久法」の中身を先取りしようとしているのだ。
領域外での武力行使=交戦権行使の最後の制約を取り払う自衛隊海外派兵恒久法の危険(署名事務局)

「海賊」の拡大の背景は、内戦と貧困
 ところで、この“海賊”の正体はなんであろうか。それは、17年にわたる内戦で荒廃し、世界最貧国となっているソマリアの貧しい若者たち、漁師たちである。長期の内戦によって仕事がなくなり、漁場も荒らされ漁ができないため、手っ取り早い稼ぎ口として「海賊」になっているのである。
※商業メディアの中でも、ソマリアの内戦や貧困問題と絡めて「海賊」問題を冷静に捉えようとする動きがある。11月30日(日)放送のNHK海外ネットワークは、国連の援助物資さえどこに届くか分からないような極度の無政府状態と貧困の中で、家族の生活のために「海賊」にならざるを得ない貧しい若者たちを映し出した。
ソマリア海賊の犯行急増 元は漁師、無政府状態で失業(朝日新聞)
ソマリア沖海賊問題 解決の要「無政府状態解消」(ビジネス・アイ)

 「海賊」の大半はハラゼレやホビョなど中部の漁村を拠点にしているという。約15年前から活動は行われていたが、この1、2年で急増した。ニューヨークタイムスとのインタビューで「海賊」のサグル・アリ氏は、外国船がソマリア海岸の豊かな漁場を荒らし、水産資源を略奪していくだけでなく、釣りをする地元ソマリア人に対して、税の支払いさえ要求しているとして糾弾している。彼は、「我々の海域での外国船による違法操業と海洋投棄を取り締まるためにやっている、我々が欲しいのは、武器ではなくお金だけだ、我々は米やパンなどを食べなければならない、我々は海賊ではなく、海岸警備隊だ」と主張している。
Somali Pirates Tell Their Side: They Want Only Money(ニューヨークタイムス)
Somali Fishermen Support Somali Pirates(Ktla.com)

 確かに、「ル・モンド・ディプロマティーク」が報じているように、2000年頃には小規模なものであった海賊行為が、金儲けの手段として「投資家」がむらがることで、その規模を拡大させ「一大産業」へと成長してきた面がある。だが、ここで糾弾されるべきは、内戦と混乱に追い詰められた漁師たちの「海賊行為」を有利な投資先とみなして規模をエスカレートさせ、そこから甘い汁を吸い取る金融資本主義的腐敗であろう。
ソマリア沖の海賊(ル・モンド・ディプロマティーク)
Somalia Kidnapping Economy Booming(Wired.com)

 ソマリアの海賊問題の解決に真に必要なことは、貧困からの脱出であり、そのためにまずはソマリア人民が外国軍の手を借りずに無政府状態を終結させることである。直近では2006年、「イスラム法廷会議」が首都を制圧したが、反米イスラム勢力の拡大を嫌う米国の直接・間接の介入によって、ソマリア暫定政府との対立を激化させ、統一政府が確立されることなく、撤退に追い込まれた。ここでは、米国は反米イスラム勢力を「アルカイダに操られている」などと宣伝し空爆も含めた露骨な介入と恫喝を加えたのである。そして、現在また泥沼の内戦状態を呈してきている。
US bombs Islamist town in Somalia(BBCニュース)

 2000年の国連サミットで採択された「ミレニアム宣言」では、2015年を期限にアフリカの「極度の貧困と飢餓の撲滅」など8つの目標を定めた。だが、事態は悪化の一途をたどっている。国連は、ミレニアム宣言の遂行をネグレクトしながら、「海賊」活動によって帝国主義諸国が被害を受ける段になって、あわてて制裁措置を講じ始めたに過ぎない。アフリカの極度の貧困と飢餓の原因である、帝国主義諸国によるどう猛な収奪と支配、介入を批判し排除することなしに本質的な解決はできない。
戦争と貧困、食糧危機、地球温暖化危機、原油・資源暴騰をもたらした張本人たちが集まるG8洞爺湖サミットに反対する!(署名事務局)
グローバル経済が加速するアフリカの貧困と悲惨(署名事務局)

グローバル独占資本の、ソマリア海外派兵要求を許すな
 経済同友会や経団連は、世界中で経済活動を展開する企業や商社の安全のため、世界のどこへでも自衛隊を派遣できるよう派兵恒久法の制定と憲法の「改正」を求めてきた。ソマリア派兵法はまさにそのような意図を露骨に表したものだ。
<シリーズ:自衛隊派兵のウソと危険>自衛隊派兵のもう一つの狙い:「復興支援」ではなく「復興利権」。 派兵で石油権益・復興利権を狙う(署名事務局)
<シリーズ憲法改悪と教育基本法改悪 その2>9条2項改憲の欺瞞と危険を批判する(署名事務局)

 大企業が利益を上げることによって、国民もその恩恵にあずかれるというトリクルダウン論は、金融恐慌の勃発によって化けの皮が剥がされた。金融資本救済のための多額の資金注入が図られる一方、労働者人民は生活苦を押しつけられ、街頭にたたき出され、文字通り生死に関わるところまで追い詰められている。街では解雇の嵐が吹き荒れている。ソマリア派兵を主張する張本人であるトヨタやマツダ、キヤノン、ソニー、日本IBMなど世界に名だたるグローバル独占企業は、金融危機と実態経済の悪化を受け、対北米輸出主導型成長構造が崩壊し、その犠牲を真っ先に労働者人民に転化し、派遣労働者を切り捨て、正社員への退職強要、内定取り消しなどなりふり構わぬ暴挙に出始めている。一方では税金を使って自衛隊派遣を要請し、他方では労働者をモノのように使い捨てる――自らの利益と権益のことしか考えないグローバル独占企業の策動を絶対に許してはならない。
 私達は、新テロ特措法の再可決と自衛艦のインド洋派遣、ソマリア派兵策動に反対し、自衛隊の兵器調達や戦争協力、米軍再編費に予算を回すのではなく、人民生活防衛と福祉・医療拡大にこそ予算を回すべきであると強く訴えたい。

2008年12月5日
リブ・イン・ピース☆9+25