シリアのアサド政権転覆は米国=イスラエルによる代理戦争(下)
次はイエメン・イランを狙う米の反米国家転覆計画

(5)アサド政権転覆を正当化するための「圧政」「暴虐」プロパガンダを批判する
 シャーム解放機構(HTS)の権力掌握直後から、西側メディアはアサド政権の圧政、市民弾圧、刑務所収監者の虐待、麻薬製造、毒ガス使用などアサド政権を悪者に描く大宣伝で埋まりました。それは、アサド政権に外部から代理戦争を仕掛け、転覆させた米国とイスラエルら同盟国の所業を正当化し、新しいシリア政権を美化するためのプロパガンダです。もともと化学兵器の使用などシリア政府に対するデマと捏造は欧米諸国と反政府勢力の常套手段でした。攻撃を仕掛ける度に口実として「化学兵器使用」がでっち上げられました。だから全く信用に値しないものです。何より西側メディアが「人権団体」としてたびたび引用する「ホワイトヘルメット」は英国情報局MI6が作った謀略機関そのもので、反政府武装勢力組織に係わっただけでなく、戦争の初めからアサド政権の人権侵害を宣伝する目的で活動してきました。
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 しかし、西側メディアや「ホワイトヘルメット」などが大急ぎで演出したプロパガンダは次々と馬脚を表しました。CNNが報じた「刑務所収監者の虐待」は当該の収監者が元シリア兵の犯罪者で虐待もなく、全くの虚偽であること直ちに明らかになってます。大量虐殺や集団墓地のニュースは、大宣伝にも関わらず発見された死体は少数で、犠牲者が反政府側かどうかも不明です。化学兵器(毒ガス)使用による市民虐殺も、すでに2013年から18年の化学兵器使用の主張もすべて反政府勢力による自作自演だったことがあきらかになっています。それを利用して米国が爆撃、制裁、戦争のエスカレーションをするために演出として利用したのです。今繰返されているのはその焼き直しの政治的宣伝です。
 もちろんアサド政権にも様々な矛盾があったことは事実です。しかし、それと2011年以降を区別すべきです。2011年までは、シリアは医療も教育も無料で、中東では高い成長を遂げていたのです。米と西側にとって成長する反米・反帝シリアは邪魔でしかありません。そして米英の諜報機関が育成したテロリスト集団、トルコ、米軍がアサド政権打倒で四方八方から侵略し、国土と石油資源と穀倉地帯を徹底的に破壊したのです。アサド政権側が侵略者を撃退し、侵略者を逮捕・投獄することは当然のことなのです。たとえ戦時下のシリアでアサド側に非人道的行為があったとすれば、米英や暫定政府関係者ではなく、厳格に独立した第三者による公正な今後の検証を経なければならないのです。

シリア国家は占領されている ティム・アンダーソン/アル・マヤディーン・イングリッシュ/2024年12月27日
シリアの崩壊と戦争プロパガンダ ブラック・アジェンダ・レポート/2024年12月11日
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(6)HTSの残虐行為に口をつぐむ西側メディア
 他方で、新たに支配者となり、暫定政府を組織したHTSとイスラム原理主義者達は、現在でも米国政府、国連などに「テロ組織」認定されています。指導者のアハマド・シャラアは米国務省がつい最近まで1000万ドルの懸賞金をかけてきた「テロリスト」です。メディアはヌスラ戦線(現HTS)が2012年から17年にかけてシーア派、ドゥルーズ派、アラウィー派に対する宗派上の虐殺を行ったことや殺人、犯罪、女性抑圧について口をつぐんでいます。HTSは元はアルカイダの下部組織であり、市民や他宗派に対して血なまぐさい虐殺の歴史を持っています。HTSや背後にいる西側政府は占領直後に西側メディアを大量に導き入れて「アサド政権の犯罪行為」を一方的に垂れ流しながら、HTSについては「穏健化」や他宗派の信教の自由、女性の権利保障など「寛容になった」とのデマ宣伝と情報操作で隠蔽しようと血眼になっています。しかし、暫定政府成立後もHTSとイスラム原理主義組織による旧政府関係者の逮捕、即決処刑の報告が次々伝えられています。またHTSは軍高官や権力の独占を強行し、他のグループに武装解除を要求していますが、東部を支配するクルド系のシリア民主軍はこれを拒否して対立しています。さらに北部ではトルコ軍とトルコ系のシリア国民軍がシリア民主軍と戦闘を繰り返し、内戦状態にあります。アサド政権は倒れたけれど、新政権の対立と分裂、勢力圏の奪い合いはますます激化しています。
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 さらに暫定政府の政権の親米=親イスラエル的性格は、イスラエルの侵略と闘わず、パレスチナ民族解放闘争に敵対していることで明らかです。12月8日以降、イスラエルは2日間で480回に及ぶ爆撃を行い、シリア軍の兵器を徹底して破壊しました。また国際法を無視して不法占拠中のゴラン高原からさらにダマスカスまで20キロの地点まで地上軍を侵攻させましたが、HTSはこれと戦うどころか、抗議さえ行いませんでした。逆に12日にはシリア国内のファタハ、PFLP、PLFP=GC、サイカ、イスラム聖戦などパレスチナ抵抗勢力に対し武装解除と国内の拠点閉鎖を命令し、パレスチナ人の闘争に敵対しました。
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 アサド政権政権下にあった人々は、一部がHTS政権に対する闘争を開始しました。多くの人々はHTSに対する嫌悪を恐怖を感じながら、長年にわたる戦争と殺し合いが終わったこと、米国による制裁と経済破壊から抜け出す可能性が生まれたのではないかという期待を抱いて様子を見ており、自分たちの主張を行える状態にないと思われます。
 
 シリアについては、アサド政権の悪魔化とHTSの穏健化の大規模なイメージ操作が行われています。そのことに無自覚にメディアの垂れ流す情報を受け入れれば、HTSを新しい手下として受け入れ利用しようとしている米国=イスラエルの思うつぼなのです。HTSは米国や西側政府とメディアに認めてもらうのに必死です。アルカイダの印象を消すためにHTSの解体と政府軍への再組織化などイメージ転換を進めています。米国は早い段階でこれに応じ始めています。ダマスカス陥落後わずか12日でバーバラ・リーフ米国国務省中東担当率いる代表団を訪問させ、シャラアに課せられた1000万ドルの懸賞を解除しました。米政府もEUもシリア暫定政権と制裁解除で話合いに入っています。

(7)イエメンとイランに次の戦争目標を向ける米国=イスラエル
 米国とイスラエルは次の目標をイエメン、イランとはっきりと定めました。すでにイスラエル・米軍・英軍は協力してイエメンに対する爆撃、攻撃を繰返しています。抵抗枢軸の一員としてパレスチナに連帯し、イスラエルへの攻撃を続けるイエメンに軍事的打撃を与え、抵抗できなくしようとしています。米国の最大の目標はイランです。すぐに全面戦争を仕掛けられなくとも、弱体化させ、あわよくば転覆させようと狙っています。「カラー革命」、介入、そして戦争、どんな手段を使っても打倒をあきらめないのです。昨年春、イランは中国の仲介でサウジと国交を正常化しました。中東を侵略戦争と破壊と混沌の中で再び米が好き勝手出来るようにするためにはイランを滅ぼすことが不可欠なのです。すでに反米・反帝だったイラク・リビア・シリアは滅ぼしました。残るはイランだけなのです。イランを放置すれば、一旦抑え込んだ諸国でも再び米国への抵抗闘争が台頭する可能性があるからです。
 米国のもう一つの狙いは中東からロシアと中国の影響力を排除することです。アサド政権崩壊をきっかけに中東からロシアを追い出し、影響力をそぐチャンスを得ました。さらにアフリカ諸国と結びつきだしたロシアの影響力を追い出すことを狙っています。

 イスラエルはばかげた「大イスラエル構想」=巨大植民地帝国を追求しています。ガザを壊滅させ、民族浄化を行う、西岸は暴力的に併合する。平和とパレスチナ人との共存ではなく、ガザと西岸の完全な植民地化と直接軍事支配を狙っているのです。野望はさらにゴラン併合からシリア領土略奪、レバノン領土略奪へと進みます。「大イスラエル構想」を作れば抵抗する者はいなくなり、イスラエルは安全になるという妄想の世界を追求しているのです。シオニズムは「自衛」という名前で常に周辺民族を隷属させ、領土を略奪することをやめません。やめることができないのです。この本質が変わらない限り周辺諸民族との共存は不可能です。もちろんイスラエルと周辺のアラブ諸国を協力させて中東全体を支配するという米国の考えも決して実現することはありません。
 トランプ大統領の再就任でイスラエルと中東をめぐる問題は新しい局面を迎えました。就任後わずか5日でトランプは本性をむき出しました。「ガザを一掃する」とガザの人々をヨルダンとエジプトに追い出し、民族浄化してイスラエルに併合することを表明したのです。ヨルダンとエジプトに受け入れを迫りました。これはガザの人々を人間と思わず、殺しまくって追い出そうとするイスラエルの極右と全く同じ考えです。戦争開始直後に民族浄化計画を立てたネタニヤフ政権とも一致しています。西側のメディアはイスラエルとハマスの停戦が「トランプの圧力のおかげ」と持ち上げていますが、真実は全く違います。イスラエルのいかなる残虐行為も容認し、中東の軍事的支配のために米国が全力で支援して来たことが今日の怪物=戦争国家イスラエルを作り出しました。占領下のパレスチナ人を爆撃し、殺害し、餓えさせ、さらに強制的に他国に追い出そうというのはどれも国際法や人道法を公然と踏みにじる行為です。ナチスがユダヤ人に対してやったのと同じ事を、ネタニヤフとトランプがやっていることを厳しく糾弾しなければなりません。

(8)民族解放闘争、反米反帝闘争の復活は不可避
 アサド政権を転覆され、パレスチナと連帯する「抵抗の枢軸」は重大な打撃を受け、シリアでは一時的な後退を余儀なくされました。しかし、米国一極支配に対する抵抗闘争、民族解放闘争は必ず再びわき起こり、今回の後退をを押し返すにちがいありません。他民族支配、植民地支配、力づくでの支配は抵抗を一時的、局所的には抑え込めても、長期にわたって維持し続けることはできません。下からの民衆の力が覆さずにはおかないのです。
 歴史を見ればそのことは明らかです。米国が傀儡政権を作って支配したアフガニスタンでは、再びタリバンに権力を奪い返され、米軍は逃げ出さざるを得ませんでした。イラクでもフセイン政権は倒しましたが、その後に作られた政府は米軍のイラクからの完全撤退を要求しています。レバノンでも大規模な空爆と暗殺攻撃でヒズボラに打撃を与えても、南部でヒズボラが復活するので侵略部隊を撤退することもできなくなっています。リビアやスーダンでは権力打倒で混乱と内乱、国家分裂と経済崩壊を引き起こしただけでした。卓越した軍事力で、あるいは代理戦争で政権を打倒できても、親米政権を作り長期にわたって維持し、そこから超過利潤を吸い上げたり、自分の手先としてふるまわせることはもはや不可能です。
 何よりも背後の国際的力関係が大きく変わっています。中国の台頭、BRICSの前進、グローバルサウスの前進。BRICSとG7のGDPでの逆転、中東での中国・イラン関係強化とサウジアラビア・イラン和解など。米国の一極支配を許さない構造ができ始めています。一極支配はますます困難になっているのです。
 シリアのアサド政権の崩壊はパレスチナ抵抗勢力と「抵抗の枢軸」にとっては大きな打撃です。しかし一時的な逆流があったといしても、それでも大きな歴史的な流れは進みます。民族解放闘争の力は押しとどめることはできません。私たちはそう確信しています。

2025年1月31日
リブ・イン・ピース☆9+25