全米の大学で、イスラエルのガザ攻撃とラファ侵攻に反対し、パレスチナ人との連帯を表明する学生たちの闘いが急速に拡大し、バイデン政権を政治的に大きく揺さぶっています。 コロンビア大学で学生を大量逮捕 4月17日にコロンビア大学のシャフィク学長が米国議会で「学生たちの動きはキャンパス内での反ユダヤ主義だ」と発言しました。そして学生の要求は反ユダヤ主義だと宣言しました。反発したコロンビア大学の学生たちはキャンパスで「ガザに連帯する野営(キャンプ)」を始めました。これに対して大学側は翌日(18日)に大量の警察部隊を導入し、有無を言わさず108人もの学生を逮捕させ、力づくでキャンプを排除しました。抗議の意思表明さえ許さない、米国の民主主義、言論の自由がどんなものであるのかを示す象徴的な事件でした。 このニュースが報じられるや、大学と警察の暴力的で強引なやり方、パレスチナ連帯を力づくで黙らせるやり方に怒りが巻き起こり、多くの大学で学生たちが野営運動や校舎占拠、デモや集会などに立ち上がりました。その数は2週間で60校を超えました。 虐殺止めろ、恒久停戦と共に大学にイスラエル投資引き上げを要求 学生たちの要求は、イスラエルのジェノサイド批判、ラファ攻撃を止めろ、恒久停戦を受け入れろという点で共通しています。イスラエルのやっている市民虐殺は認められないとの立場です。さらに、各大学ではイスラエルに加担しているそれぞれの大学の姿勢を問題にして大学を追及しています。発端になったコロンビア大学ではイスラエルの占領、アパルトヘイト、ジェノサイドから利益を得る企業からの投資引き上げを要求しています。イェール大学ではイスラエルに武器を供給している兵器産業への投資中止、プリンストン大学ではイスラエル企業への投資引上げと、ジェノサイドでのイスラエル非難、恒久停戦の要求、そして南カリフォルニア大学(USC)ではイスラエルとの学術協力停止、ハーバード大学は対イスラエル投資の停止と、パレスチナ地区への学術、社会、文化への資源と投資の投入などを要求しています。行動でイスラエル非難を世論に訴えるだけでなく、自分たちの関係する大学との関りでイスラエルの戦争への加担を拒否し、反対しているのです。 「反ユダヤ主義だ」と言論の自由を暴力で封殺 バイデン政権、各大学、警察当局の対応は、「反ユダヤ主義」というレッテルを振りかざし、言論の自由や権利など無視する乱暴極まりない強硬姿勢です。バイデン大統領は平和的な抗議活動はよいが、暴力的な抗議活動は保護対象ではない」「あからさまな反ユダヤ主義が大学に入り込む余地はない」と発言しました。とんでもない発言です。学生たちが暴力的で「反ユダヤ主義」であるかのように非難しますが、事実は全く異なります。 まず、「反ユダヤ主義」、つまりユダヤ人に対する偏見や人権侵害を煽るものではありません。それは運動を暴力的に弾圧することを正当化するためのプロパガンダで、何の根拠もありません。学生たちの批判の対象はパレスチナ人を多量に殺しているイスラエル政府に向けられています。パレスチナ人を守るために声を上げているのです。さらに、行動している学生の中には数多くのユダヤ人が参加しています。ユダヤ人であるからイスラエルの虐殺を指示しているわけではないのです。学生の要求も行動も許しがたい人権侵害=ユダヤ人ヘイトとは全く違います。 国家権力による暴力を振りかざして学生を弾圧 暴力を振りかざして抗議の意思表示さえさせず、言論を封じているのは政府と大学の側です。普段着で非暴力主義で抗議する学生たちに、重武装の暴徒鎮圧装備の警官に襲い掛からせています。学生を守るべき他大学当局が、警察を導入し、46大学で2400人以上を逮捕(AP4日)させました。野営している学生を停学処分にし、学内に入る資格がないと逮捕させました。進級、卒業資格を与えず、寮から追い出すなど、とんでもない人権侵害です。さらには騎馬警官を突入させて学生を蹴散らしたり、あろうことか校舎の屋上に狙撃警官を配備したりしました(インディアナ大学やオハイオ大学)。多くの大学では教職員も学生に加わったり、学生を守ろうと行動したが、警察は教職員さえ有無を言わさず暴行して逮捕し、骨折させられて入院を余儀なくされた教職員も出ています。 大学当局の姿勢がかつてなく強硬な背景には、大学に寄付、投資しているユダヤ系財閥からの「反ユダヤ主義学生を排除しろ」という露骨な圧力があります。デモや集会、声明などに参加した学生の就職を拒否する報復がこれまでも行われてきました。 バイデン政権よりも悪質な共和党 共和党の姿勢も信じられないほど悪いです。コロンビア大学に現れた共和党のマイク・ジョンソン下院議長は「速やかに抑え込まなければ、州兵を出動すべきだ」と叫び、反ユダヤ主義の蔓延を許している大学当局の「弱腰」を非難し、学長の辞職を要求しました。かつてベトナム戦争の時には学生の反戦運動に対して州兵を動員して弾圧し、4人の学生を射殺して大問題になった。同じことを繰り返せというのです。トランプ元大統領は、「デモ隊は狂人でありハマスの同調者だ」「警察の学生弾圧はすばらしい」と異常なヘイトを繰り返しています。 全米の大学、世界の大学が呼応して立ち上がり始める 全米の大学で学生の運動が大規模に活性化したのはベトナム反戦運動以来だと言われています。その衝撃は、文字通り全米の学生、若者を刺激し、勇気づけています。コロンビア大学、ニューヨーク大学、イェール大学だけでなく、カリフォルニア大学、マサチューセッツ工科大学など数多くの大学で野営運動や占拠、デモ、集会が行われ、運動はさらに広がっていいます。大量に逮捕されても、再び野営や校舎占拠などで粘り強く抵抗を続け、当局を追求しています。 米国内だけでなく世界の学生が影響を受けて動き出しています。オーストラリア、カナダ、フランス、イギリス、イタリアなどの大学で学生たちが動き始めました。学生たちの運動の直接的な成果も出ています。ブラウン大学では当局がイスラエル企業への投資の見直しを検討するとの回答を勝ち取っています。 学生たちの勇気ある行動は世界中に響き渡り、ガザではラファでイスラエル軍の爆撃にさらされながらパレスチナの学生や市民がテントに感謝の言葉を書いて連帯にこたえています。 学生の運動はバイデンの大統領選挙を根底から揺るがしている 米国内では親イスラエルのメディア、世論が優勢で、政府はイスラエル批判を反ユダヤ主義とレッテルを張って抑え込もうとしますが、若い世代ではイスラエルのあまりの残虐なやり方にパレスチナへの親近感と支持が強まっています。バイデン大統領は半年後にある大統領選挙に向けて選挙戦の最中です。トランプとの差は僅差、あるいは伯仲しています。アラブ系に続いて若者の票が離れることはバイデン政権にとって致命傷になりかねません。学生のベトナム反戦運動に州兵を動員して弾圧し、支持率を急落させて大統領選挙をあきらめざるを得なくなったジョンソン大統領の例が思い起こされます。だから、バイデン政権は「人道主義」の仮面をかぶり続ける必要があるのです。それが、本当はハマス壊滅ではネタニヤフと共通し、それを全力で軍事・資金支援しているのに、市民ごと虐殺・破壊するイスラエルのやり方は「受け入れらない」「人道に反する」と支持しないふりをし、「一時停戦(恒久停戦ではありません)」「市民の避難と人道支援強化」を主張する背景です。しかし、本当にラファ攻撃と市民虐殺に反対なら、イスラエルに対する武器・弾薬供与を止めればいいのです。直ちにイスラエルは戦争を続けられなくなります。イスラエルに戦争を続けさえているのは米国です。 もしネタニヤフが反対を振り切ってラファ攻撃を強行すれば、米国内でも国際的にもさらなる非難が強まり、バイデンに対する支持が低下するでしょう。だからバイデン政権は何とかイスラエルに一時停戦を飲ませ、市民の被害を減らす体裁を取らせようとしています。いま、イスラエルとハマスの停戦協議は、人質交換のための一時停戦ではなく、その後恒久停戦を目指すかどうかに焦点があります。人質を取り戻した上で何の容赦もなくラファ攻撃をしようとするのか、地域に平和と安定を作り出すために話し合いを始めるのか、これが問題になっているのです。そこでネタニヤフはラファを絶対攻撃すると繰り返し、戦争をやめようとしません。そして唯一イスラエルに止めさせることができる米国がこれを止めさせようとしないことが最大の問題なのです。 イスラエル非難の国際的な声を強め、ネタニヤフを包囲しよう しかし、ネタニヤフは国際的には完全に孤立しています。国連事務長はラファ攻撃に反対しています。国連の諸機関、人道支援団体も声をそろえて反対しています。国際刑事裁判所ICCはネタニヤフに戦争犯罪での逮捕状発行を準備していると報道されました。驚いたネタニヤフはそれを阻止するために米国に泣きつきました。仏や英さえもラファ攻撃には反対を表明しています。コロンビアはイスラエルと断交し、エジプトももし攻撃すれば関係を断絶すると言っています。これまで米国と日本を含む西欧諸国が唯一イスラエルの支持者でしたが、今や西欧諸国さえネタニヤフとラファ攻撃を支持しにくくなっています。いまこそ世界中から攻撃と虐殺止めろ、恒久停戦せよの声でイスラエルを包囲しなければなりません。 日本にとっても他人事ではありません。日本政府は3月末の国連安保理の停戦決議を支持しました。しかし、停戦のために何をしたのでしょうか。何もしていません。イスラエルに対して停戦と市民の虐殺をやめるよう要求すべきです。イスラエル支持をやめ、協力をやめるべきです。日本政府はイスラエルからの武器・ドローン購入をやめ、軍事協力をやめるべきです。パレスチナ人の虐殺を止め、恒久停戦を押し付けるためにイスラエルへの制裁を行うべきです。私たちはそのことを日本政府に要求します。 2024年5月5日 |
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