4月5日、大阪の第七芸術劇場で『沈黙を破る』(土井敏邦監督)特別先行上映&トークショーに行ってきました。この映画は5月から各地で上映が始まります。 2002年4月、イスラエル軍は西岸地区に大侵攻しました。とりわけナブルス郊外のバラータ難民キャンプとジェニン難民キャンプの攻撃では、すさまじいばかりの破壊と殺戮を行いました。この映画はその有様を克明に取材・記録しています。 そして、この映画がこれまでのパレスチナ問題を描いた映画と最も異なるところは、イスラエル兵士が自ら残虐行為に手を染めたことを告白する「沈黙を破る」という運動を紹介している点です。 私がこの映画で特に印象に残ったのは、イスラエル兵士の証言を周囲の人々がどう捉えているのかということでした。これは、なぜ今回のガザ侵攻においてもイスラエルがあれほどの残虐行為を行うことができるのかを究明する鍵になると思います。 兵士達が国会の委員会の場で、パレスチナ人の家に押し入って子どもたちに恐怖を味わわせてしまったと証言すると、政府関係者の女性が「でも、それはテロリストをかくまっていた家なのでしょう。」「アラブ人の子どものことよりも恐怖に震えるユダヤ人の子どものことをどうして先に考えないのですか。」とひどく感情的になって言葉をたたきつけていました。 また、息子の「沈黙を破る」という活動に同意できないという両親へのインタビューでは、父親は自分の兵役の経験から、息子の活動に反対していました。一方、母親は小学校の教師で、一見理解ある風を装いながら、「息子の活動は心理療法士のようなもの」と述べていました。つまり、占領地で残虐なことをしてしまった兵士の心の傷をいやす仕事なのだと。 息子は両親のインタビューの映像を見て「父と母は反対のことを言っているように見えるが実は同じ事を言っている」と述べました。つまり、「心理療法士」ということは、占領地で残虐な行為をしてしまっても、その罪の意識を浄化させ、また同じ事を平気でできるようにするという意味合いがあると私は受け止め、実におぞましいことだと思いました。 映画の後、土井監督と岡真理さんがトークショーを行いました。土井監督は、自分がなぜ日本人であるにもかかわらずパレスチナ問題にかかわるのか、そこには普遍的な問題があり、特に日本軍が戦地で犯した残虐行為と共通のものがあるからだと、パレスチナ問題に日本の軍国主義が合わせ鏡のように見えてくると述べました。 岡真理さんはこれに続けて、過去の侵略だけでなく、現在の日本もまた今のイスラエルに重なるところがある。イスラエルはアメリカを後ろ盾に圧倒的な武力を持っているにもかかわらず、自分たちがまるで丸腰であるかのようにパレスチナのロケット弾や自爆攻撃に恐怖を抱いている。日本もまた在日米軍基地が多数あり、そこには核弾頭があるかもしれないのに、そのことは見ずに、北朝鮮のロケットに恐怖を抱いている。という話をされました。実にタイムリーな指摘だとつくづく感心しました。 2009年4月7日 ■東京・ポレポレ東中野にて5月2日(土)より(5月23日(土)より、全4作『届かぬ声――パレスチナ・占領と生きる人びと』も同時公開 ■大阪・第七芸術劇場にて5月9日(土)より ■京都・京都シネマにて 5月23日(土)より |