<パレスチナ> 反占領・平和レポート(新) No.6
<Palestine> Anti-Occupation Pro-Peace Report (new version) No.6
パレスチナ人収監者の大規模ハンガーストライキと
パレスチナの“ネルソン・マンデラ”
Large-scale Hunger Strike by Palestinian Prisoners
And “Nelson Mandela” of Palestine

 イスラエルで5月8日、現政権が最大野党と大連立を組むことになったと報じられました。昨夏から生活苦に耐えきれなくなった大衆による大規模な抗議行動が続き、苦境に陥っていたネタニヤフ政権は、対イラン攻撃を繰り返しちらつかせながら、反動的な大連立によって巻き返そうとしています。しかし中東地域の今の状況は、EU諸国と米国による介入で一時勢いが抑え込まれていた「アラブの春」が、再び活性化し復活しはじめているという流れの中にあり、それを押しとどめようとする勢力との間でせめぎあいが激化しています。そのような状況の中でパレスチナで新たな闘いが始まっています。

In Israel on May 8, the news was reported that the current Netanyahu government would form a big-coalition with the largest opposition party. Since last summer the wave of mass protests continued by the people who couldn't endure their hard lives. The Netanyahu government, which has been in difficulties, is trying to regain its losses by the reactionary big-coalition, while repeatedly showing the posture to attack Iran. However now in the Middle East, "the Arab Spring" is re-activating and reviving, which has been suppressed because of the intervention of the countries of EU and the U.S. temporarily though. The conflict between them is intensifying now. At the moment of such a situation, a new notable struggle is beginning in Palestine as well.

2000人の大規模ハンガーストライキ
2000 Prisoners' Hunger Strike

 2月末から散発的に始まっていたイスラエル刑務所内のパレスチナ人収監者によるハンガーストライキが、4月半ばから一挙に2000人もの大規模なものになりました。いちはやくストライキに入った人は70日を超え、生命が危険にさらされる状況にまでなりました。これまでも収監者に対するイスラエル当局の非人道的扱いは憤激と抗議の対象で、散発的な抗議のストライキはたびたび起こっていました。今回はパレスチナ人収監者たちの文字通り生死をかけた抗議でした。その主な要求は、1)独房に閉じこめて孤立させるやりかたをやめること、2)行政拘束による収監をやめること、3)収監者家族の訪問の権利の回復、4)収監者による文書類へのアクセスを制限する法律の廃止、5)恣意的な脱衣検査、深夜の呼集、集団懲罰などの系統的な屈辱的扱いをやめること、などです。

 パレスチナ現地ではファタハとハマスの対立を超えて、ハンガーストライキで闘っている人々に連帯する統一的な大衆的抗議行動がはじまりました。一斉の大規模ハンガーストライキが開始されて1ヶ月になる5月17日には、全世界のイスラエル大使館前での連帯抗議行動が呼びかけられました。それを前にして、イスラエル政府はパレスチナ人収監者たちと合意を取り交わさざるを得なくなりました。

第3次インティファーダの呼びかけ
Call for the Third Intifada

 このような新たな闘いと軌を一にして、イスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人活動家で、新世代の指導者として内外の多くの人々に信頼されているマルワン・バルグーティ氏が、3月末の「土地の日」に合わせてパレスチナの人々に新たな闘い「第3次インティファーダ」を呼びかけました。それが多方面で取り上げられ紹介されています。イスラエル刑務所内での大規模ハンガーストライキは、この新たな「インティファーダ(民衆蜂起)」の第1弾として位置づけることができます。

 イスラエル国内でパレスチナに連帯し、反占領・平和の闘いを精力的におこなっている団体「グーシュ・シャローム」の代表ウリ・アヴネリ氏もバルグーティ氏の呼びかけを紹介しています。アヴネリ氏は、この新たな呼びかけが「パレスチナ解放闘争の新たな綱領となるかもしれない」と評価しています。

 バルグーティ氏が発した呼びかけはアラビア語の原文しか見当たりませんので、アヴネリ氏の論説を抄訳する形で紹介します。

(註:「土地の日」とは、1976年にイスラエル政府が北部ガリラヤ地方を中心に大規模にアラブ人の所有地を接収したことに抗議した闘いの記念日で、毎年3月31日を中心に世界的な抗議行動がおこなわれている。なお、ハンガーストライキとその要求項目については「グーシュ・シャローム」からの配信メールおよび「Occupation Magazine」による。)

2012年5月31日
リブ・イン・ピース☆9+25


[抄訳] 新たなマンデラ
by ウリ・アヴネリ 2012.3.31
The New Mandela

http://zope.gush-shalom.org/home/en/channels/avnery/1333109556/

 長い沈黙の後に、マルワン・バルグーティが刑務所からメッセージを発した。このメッセージは、イスラエル人にとっては面白くないものだが、パレスチナ人にとって、また総じてアラブ人にとっては、大きな意味のあるものだ。これは、パレスチナ解放闘争の新たな綱領となるかもしれない。

 私が最初に彼に会ったのは、オスロ合意後の楽観ムードが広がっていた時だった。彼は、第1次インティファーダの中で成長した生え抜きの若いパレスチナ人活動家の新世代リーダーとして現れつつあった。当時彼はすでにファタハの青年グループ「タンジーム」のリーダーだった。

(訳註:オスロ合意は、1993年、米国の仲介でイスラエル首相イツハク・ラビンとパレスチナ解放機構(PLO)議長ヤセル・アラファトとの間で、PLOによるイスラエル国家承認とパレスチナ暫定自治政府の発足が合意されたものである。1967年の第3次中東戦争前の国境線に基づいて二国家共存の解決を目指すとされた。この背景には、一方で1987年にはじまるパレスチナ人民の抵抗闘争「インティファーダ」(非武装の全人民的抵抗闘争で「石の革命」とも呼ばれた)があり、他方で冷戦終結後の米国の介入強化があった。しかしイスラエルでは1995年にラビン首相が暗殺され、パレスチナ全土を併合しようとする勢力が優勢となった。マルワン・バルグーティは、2000年秋に始まる第2次インティファーダを主導した指導者の一人で、2002年3〜4月のイスラエル軍による西岸地区への大侵攻「防御の盾」作戦の時に逮捕され投獄された。)

 イツハク・ラビンとヤセル・アラファトの暗殺・殺害でオスロ合意が死滅して後、マルワンと彼の率いる組織が標的となった。イスラエル政府の一連のリーダーたちは二国家解決を葬り去ろうとした。残忍な「防御の盾」作戦で、パレスチナ自治政府が攻撃され、多くの活動家が逮捕された。

 マルワンは、タンジームのリーダーとして裁判にかけられ、イスラエルへのテロ攻撃の責任で5度の終身刑を言い渡された。手錠をかけられた両手を高く挙げた彼の写真は、パレスチナ人民全体の象徴的な敬愛の対象となった。

 刑務所でもマルワンは、すぐにファタハの収監者のリーダーとなり、ハマスの活動家たちにも同様に尊敬された。収監されているファタハとハマスのリーダーたちは、パレスチナの統一と和解を求める声明を何度も発した。今日マルワンは、マフムード・アッバス後のファタハのリーダーおよびパレスチナ自治政府の大統領候補として突出している。

ハマスが捕えたイスラエル軍兵士ギラード・シャリットと、収監されているパレスチナ人活動家との捕虜交換の際に、ハマスはライバル組織ファタハのリーダーであるマルワンをリストのトップにおいた。イスラエル政府はそれを拒否した。彼は、イスラエル政府に、数百人のハマスの「テロリスト」よりも危険だとみなされたのである。

 なぜか。それは、彼が和平を求め、二国家解決にこだわり、その目的のためにパレスチナ人を統一することができるからである。それは、ネタニヤフにとって彼を刑務所に押し込めておくに十分な理由なのである。

 ところで、今週マルワンはパレスチナ人民に何を語りかけたのだろうか。彼は「第3次インティファーダ」を呼びかけた。「アラブの春」の精神にもとづく非暴力の大衆蜂起として。

 彼のマニフェストは、マフムード・アッバスの方針の明確な拒否である。アッバスは、限定されたものではあるがイスラエルの占領への重要な協力を依然として維持している。マルワンは、イスラエル政府とのあらゆる形態の協力を全面的に絶つことを要求している。イスラエル政府とパレスチナ自治政府との協力の中心・焦点は、米国によって訓練されたパレスチナ治安組織とイスラエル占領軍との日常的な協力体制である。それは、実際上、西岸地区の増大しつつあるイスラエル入植地の安全を保障している。

 マルワンはまた、イスラエルに対する、イスラエルの諸機関・諸組織に対する、イスラエル製品に対する、全面的なボイコットを求めている。同時に、「和平交渉」と呼ばれている戯れ事に、正式に終止符を打つことを求めている。

彼は、和平交渉など存在していないということを公的に認めることを求めているのである。「和平プロセスの復活」についての国際的なおしゃべりも、トニー・ブレアのようなバカバカしい人々のまわりに群がることも、ヒラリー・クリントンによる虚ろな言明も、「カルテット」の空虚な宣言も、もうたくさんだということである。イスラエル政府が二国家解決を明確に放棄しているのだから、その見せかけを維持することはパレスチナの闘いを害するだけであると。

 この偽善の代わりに、マルワンは国連での新たな闘いを求めている。安全保障理事会に再度、パレスチナ国家の国連への加盟承認を求めること、米国に対して、全世界に背を向けて拒否権を行使するかどうか突きつけること、米国の拒否権行使の後に、総会による決定を求めること。総会決定は拘束力を持たないけれども、全世界の圧倒的な支持によってイスラエルの(そして米国の)孤立を明瞭に示すことができる。

 このような呼びかけと同時に、マルワンはパレスチナの統一を強く主張している。ファタハとハマスの双方に、彼の道徳的な影響力を行使することによって。

 以上を要約すると、マルワン・バルグーティの主張は、イスラエルと協力することを通じてパレスチナの解放を達成するという望みを完全に絶てということである。このような主張は新しいものではない。しかしそれが、パレスチナ人受刑者のナンバーワンでマフムード・アッバスの後継の第一人者、パレスチナ大衆のヒーローから発せられると、いっそう戦闘的な方向への転換という意味をもつ。その実質においてもトーンにおいても。

 マルワンは、和平の達成という方向性を堅持している。彼は、裁判で姿を現したときにも、二国家解決を支持し続けるとイスラエルのジャーナリストたちに明言した。彼はまた、非暴力の大衆行動に依拠することを堅持している。

 彼は、パレスチナ自治政府が徐々にその意思にかかわりなく、第二次大戦時にナチスに協力したフランスのヴィシー政府のようなものになっていくことを、そしてそのもとでイスラエルの「入植計画」が妨げられずに進行することを、阻止したいと考えている。

 マルワンが「土地の日」を前にして彼のマニフェストを発表したのは偶然ではない。「土地の日」は、占領に反対する世界的な抗議行動の日である。1976年に、イスラエル政府が北部ガリラヤ地方を中心に大規模にアラブ人の所有地を接収したことに抗議した闘いの記念日である。イスラエル軍と警察は抗議者たちに発砲し、6人が殺された。

 「土地の日」は、イスラエル国内に居住するアラブ人市民にとって、ひとつの転換点となった。そしてのちには、アラブ世界のあらゆるところでシンボル的なものとなった。

 ここしばらく、世界はパレスチナへの関心を失っていた。すべては平穏のように見える。ネタニヤフは、世界の関心をパレスチナからイランへそらすことに成功してきた。しかし、この国では何事も安定したためしはない。何事も起こっていないかのように見えていた間に、入植地は絶え間なく増え続けてきた。それを眼前で目撃してきたパレスチナ人民の憤激は深まり続けてきた。

 マルワン・バルグーティのマニフェストは、西岸その他のパレスチナ人民のほぼ一致した感情を表現している。アパルトヘイトの南アフリカにおけるネルソン・マンデラのように、刑務所に収監されている人物が、外にいるリーダーたちよりも大きな影響力をもつかもしれない。

(You Tube) Who is Marwan Barghouti? (約5分)