[報告]福島原発で起こっていること〜山内知也さんのお話

 山内知也さんは神戸大学で放射線計測学を専門にしており、その立場から実地の調査を踏まえた具体的でわかりやすいお話をしていただきました。

 6月7日、山内さんは東京の江東区のグラウンドから高い放射線量が測定されたことを記者会見で発表し、そのことは女性週刊誌でも紹介されました。そのグラウンドはスラッジプラント(下水処理場から出る汚泥を濃縮し、建築資材に再利用する施設)のすぐ近くにあります。地表に降った放射性物質は雨によって下水に流れ、そして処理場に集まります。そして、スラッジプラントから生成された砂はセメントやコンクリートの材料に使用されていくのです。
 また、文科省が学校再開の基準について示した年間20ミリシーベルトの問題についても何度も申し入れをし、その危険性について訴えてこられました。

 今回のお話では、ウランの発見から今日の事故に至る人間による核利用の歴史から始まり、国の「原子力防災」や「安全審査」の発想の根本的な誤りを指摘し、また原子や原子核、放射能、崩壊熱についてわかりやすいたとえを使った話がありました。
 国の「防災」対策の考え方で最も間違っているのは、海外での重大事故に対し、日本ではそのような重大事故は起こらないのだという前提で、せいぜい8〜10kmの範囲の避難しか考えていなかったこと、そして、仮に事故が起こった場合でも漏れ出てくるのはヨウ素のような半減期の短い希ガスのみであるとしか考えていなかったという点です。したがって、半減期が30年と長いセシウムに関しては、それが漏れ出た場合の対策についてはまったく考慮されていませんでした。しかし、今日の、まさにセシウムによる汚染が深刻なものとなっているのです。
 また、放射能の「特異性」と「非特異性」というお話しも興味深いものでした。耳慣れない用語ですが、まず、「特異性」というのは、同じ熱量であっても、放射能の場合は人体に対して致死的な害をもたらすということです。体重60kgの人が57℃のお茶50ccを飲むと、それで70ジュール/kgの熱量を人体にもたらします。これは70シーベルトの放射線のエネルギーに相当します。お茶ならばこの程度の熱量で死ぬことはもちろんありません。ところが、放射線による70シーベルトは致死量をはるかに超えてしまいます。
 「非特異性」というのは、放射線によってもたらされる人体の影響が、ガンや白血病に限らず、ありとあらゆる病気の増加につながるということです。なぜなら、放射線によって免疫機能が破壊されるからです。だからどんな病気でも放射線の影響による可能性がありますが、一方で訴訟などで放射線の影響によるのかどうかの因果関係を証明することの困難性をもたらしています。
 時間の関係で割愛した内容もありましたが、質疑応答も活発になされ、たいへん有意義な会だったと思います。

リブインピース・ブログより)
2011年6月26日
リブ・イン・ピース☆9+25 鈴

アンケート     児童・生徒の被ばく限度についての申入書


アンケート

○タイムリーな企画でよかったです。
 気になっていることは、がれき処理の件:全国の自治体で受け入れる話がおこっています。放射性物質の拡散ではないでしょうか。尼崎も手を挙げているとのことです。

○山内さんは内部ヒバクについてもっと詳しく話してほしかった。
 気になっていることは、内部ヒバク。

○東京の汚染状況の一端を知り、事故の影響の大きさを改め感じました。人間のコントロールできない放射能を生み出す原発は、絶対に廃止しなければならないと思います。
 気になっていること:放射能汚染が懸念される被災地の復興活動&支援をどう考えるべきか。田中優氏は「南風の吹く夏、若者のボランティア(宮城・三陸をふくめて)はすすめられない」と言っておられるが・・・。

○放射線の問題が、広島・長崎の被爆者の健康調査から基準値がつくられているのが分かった。反核兵器と反原発の問題が結びついていることが分かった。
 気になることなど:尼崎の反原発の活動を共に出来れば良いと思います。今「さいなら原発尼崎住民の会」として活動を始めています。

○放射能のこわさをあらためて思い知らされました。お茶の話など。
 気になっていることは、福島の子どもの健康状態。

○タイムリーに正しい情報を伝えて下さって、どうもありがとうございました。日本のメディアは、いまだ大本営発表!メディア・リテラシーの大切さを各々自覚する必要がある。
 他・・・(継続勉強会があって、時間が合えば・・・)小出先生の話し。(私達に出来るコト、してはいけないコト)

○放射能汚染が広範囲に広がり、深刻化していることが理解できました。
 気になっていること:福島で住むことが難しいなら、早く移住して補償して、それに向けての政策をつくる必要があるのでは?

○つっこんだ内容で面白かった。
 ただ、内容が難しく気温も高かったので、もう1〜2回休憩をはさんだ方がいいように思います。

○東京(関東)での汚染の状況、特に下水処理場スラッジの問題の深刻さが良くわかりました。現実に環境中に出た放射能を、現実にある姿であきらかにすること、具体的な形で軽減のための対策を要求すること、この分野ではまだ本当に手がついていないことが非常によくわかりました。

○質問に ていねいに答えてくれるのが良かったと思います。質問もたくさんの人から出ました。

○東京で高汚染地域がたくさんあることにおどろきました。
 気になっていること:海洋汚染や労働者のヒバクも心配です。

○少し難しい言葉などがあり難しかったがすごく勉強になりました。
 気になっていること:再処理問題、六ヶ所村の話

○全体を通して、内容は難しく感じた。
 *パワーポイントの資料も配布してほしかった。
 気になっていること:若狭の原発で、福島と同様の事故が起きた場合のこと。

○原発と放射能の基礎知識をきっちり学べて良かったです。
 気になっていること:今日の話しの続きとして、やはり放射線と生命の基礎知識について学べればと思います。

○ 山内さんの放射線の専門的知見を聞けてよかった。マスコミも「安全か、そうでないか」的なものではなく、放射線とはどういうものなのかをもっと突っ込んで知りたいと思う。

○ 私の周辺では署名にたくさん協力してはいただいているのですが、まだまだ行動には至っていません。行動する前に、ていねいに説明してもらえる今日の様な学習会に来てくれるよう、もうひとがんばりします。
 気になっていること:関西でも加古川など、0.6マイクロSv/hrとなっているホットスポットがあります。関西での放射線量等、判る範囲で教えていただきたい。

○ 科学的な内容で、ずい分難しく理解できない所もありましたが、実際には放射能汚染を各地で調査して細かく対策をとり、汚染から子ども達を守ること、具体的でよくわかりました。日本が一番情報をかくされて、知らされていないのではと思います。
 福島原発がまだまだ危険な状態で被爆対策が不十分な各地を心配して見守る毎日です。
 原発を止めること、電力不足キャンペーンに反撃すること、少しずつでも参加していきたいです。

○ 福島原発で起こっていることが、マスコミから真実が伝わってこない今、今日の講演を聞いて、今の現状とこれからの問題にするところがよくわかった。国はごまかすばかりで被爆が蓄積させられていっている件で、危機感を持って問題視していく必要があると思いました。

○ 話はとても良かったです。ありがとうございました。特にスラッチプラントや放射能の特異性と非特異性など聞けて良かったです。

○ 「今後一番問題になってくるのは地下水」ということが聞けてよかった。私もそれをとても心配している。

○ 話が上手で、面白かった。実際に計測した話しが聞けるのが特によかった。

○ 放射線を測定する器械を持ってきてくれてよかった。

○ 1ミリシーベルトのヒバクでも安全というわけではなく、微量でも身体に悪い影響があるというしきい値なしの考え方をアメリカの科学アカデミーやICRPまでもが持っていることを説明され再確認。1ミリシーベルトというヒバクでも危険か?という質問に、悩みながら・・・福島の20ミリシーベルト基準を撤回させるために、日本の法令で定められている1ミリシーベルトを適用するよう言っていったという現実的な答えにジーンときた。そして、「1ミリシーベルトが基準になったら、東京でも人が住めなくなる」と正直に答える山内さんの言葉に原発事故がもたらす深刻な現実が自分の中に突き刺さってきた。これからどうすればいいのか?一人一人が自分で考えて選択できるよう、その選択を支援できるような支援体制を整えるにはどうしたらいいのか?考えさせられる。ただそういう選択をするために考える時間もヒバクするのかとも思う。ならばまず国が疎開や避難を指示すべきで、それから選択を考えるのが健康・いのちを大事にする政策なのではないかと思った。そして全電源喪失の対策が不十分な今、現在稼働している原発もすぐ止めてほしいと思った。


2011年5月11日

児童・生徒の被ばく限度についての申入書(4)

山内知也 神戸大学大学院海事科学研究科 教授

 大学で放射線を教授している者として申し入れます。

 セシウムによる被ばく影響についてその実例としてはチェルノブイリ原発事故があります。国際放射線防護委員会ICRPは2007年に新しい勧告(ICRP Publication 103)を出していますが、そこには同原発事故に関する記述が見当たりませんでした。国連のUNSCEAR2000等の報告書では子供の甲状腺がんについては事故との因果関係を認めていますが、ガンや他の疾患については放射線被ばくとの関係はないとしていました。

 ところが2004年には次のような論文が公表されています:

[1] A. E. Okeanov, E. Y. Sosnovskaya, O. P. Priatkina,
“A national cancer registry to assess trend after the Chernobyi accident
”, SWISS MED WKLY, 134, 645-649. (2004)
[2] Martin Tondel, Peter Hjalmarsson, Lennart Hardell, Goersn Carlsson, Olav Axelon,
“Increase of regional total cancer incidence in north Sweden due to the Chernobyl accident? Journal of Epidemiology & Community Health, 58, pp. 1011-1016. (2004)

 論文[1]は、ベラルーシのガン登録について記述しており、1976年から1986年までのがん発症率と事故後の1990年から2000年までのそれが比較されています。ブレスト33%増、ビテプスク38%増、ゴメリ52%増、グロードゥノ44%増、ミンスク49%増、モギリョフ32%増、ミンスク市18%増、そして、全ベラルーシ40%増となっており、ガンは確実に増えています。

 論文[2]は、スウェーデン北部における疫学調査で、数100 mの区画という高精度のセシウム-137の汚染マップと同国ならではと言える詳細な国民の生活記録に基づいています。調査は1988年から1996年までの期間ですが、汚染レベルとガンの発症率との間に有意な相関が出ており、100 kBq/m2の汚染地帯に暮らす発がんのリスクは11%増という結果です。この汚染レベルで年間に受けるセシウム-137からの外部被ばくは3.4 mSv程度です。これは極めて高いリスクであって、ICRPのリスク係数0.05 /Svでは全く説明できません。

 365日休みなく放射線被ばくを受けつづける場合については、原爆や医療被ばくのような一回の外部被ばくとは異なる健康影響が表れているという事実に国際的な機関が目をつぶっている可能性があります。

 まずは、子供に対しては法令のいう年間1 mSvの基準を厳格に下回るように対処することを申し入れます。そして避難計画の一からの見直しを申し入れます。今回に震災の復興を担うのは若い世代です。そのような世代の健康を第一に考えるのは最も優先すべき課題かと存じます。

以上


2011年5月7日

児童・生徒の被ばく限度についての申入書 (3)

山内知也 神戸大学大学院海事科学研究科 教授

 大学で放射線を教授している者として申し入れます。

 先に2011年4月21日付け及び5月5日付けで申入書を提出いたしましたように、福島県内の児童と生徒の被ばく限度とされている年間20ミリシーベルトの基準は、子供が浴びる線量としては不当に高いものです。撤回して年1ミリシーベルトの基準を児童と生徒にはまず適用してください。
 日本国憲法は、その第13条において、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めています。また、第14条では、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とし、第25条では、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定しています。

 すなわち、福島県の児童と生徒には他の都道府県の子供らと等しく、社会福祉と公衆衛生のサービスを受ける権利があります。

 放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律は、その第一条によれば「放射性同位元素の使用、販売、賃貸、廃棄その他の取扱い、放射線発生装置の使用及び放射性同位元素によって汚染された物の廃棄その他の取扱いを規制することにより、これらによる放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを目的」としてつくられています。この法律の中で、放射線同位元素の取扱の制限を定めた第三十一条によれば、「何人も、次の各号のいずれかに該当する者に放射性同位元素又は放射性同位元素によって汚染された物の取扱いをさせてはならない。一  十八歳未満の者」と定めています。

 福島県の多くの学校を含む土壌汚染の高さは、この法律が定める「放射性同位元素によって汚染された物」に達しています。

 可及的速やかに避難計画や除染計画を立案・実施し、児童や生徒の被ばく量が年1ミリシーベルトを超えない措置をとって下さい。

以上


2011年5月5日

児童・生徒の被ばく限度についての申入書 (2)

山内知也 神戸大学大学院海事科学研究科 教授

 大学で放射線を教授している者として申し入れます。

 先に2011年4月21日付けで申入書を提出いたしましたように、福島県内の児童と生徒の被ばく限度とされている年間20ミリシーベルトの基準は、子供が浴びる線量としては不当に高いものです。撤回して年1ミリシーベルトの基準を児童と生徒にはまず適用してください。

 既に環境汚染の主体になっているのはセシウム-137であって、この核種の半減期は30年です。土壌に付着する性質が強いので取り除かれない限りその場に留まって放射線を出し続けます。
 1年目が20ミリシーベルトであったと仮定します。次年度に同様な過ごし方をさせますと、ほとんど同じ被ばくを受けることになります。相当の作業と努力がなければ同様な被ばくが2年目以降も続きます。

 小学1年生は卒業までに113ミリシーベルト、中学卒業までに164ミリシーベルトを被ばくすることになります。例え半分でも、それぞれ、57ミリシーベルトと82ミリシーベルトです。
   年当りの被ばく量
 1年目 20.0ミリシーベルト
 2年目 19.5ミリシーベルト
 3年目 19.1ミリシーベルト
 4年目 18.6ミリシーベルト
 5年目 18.2ミリシーベルト
 6年目 17.8ミリシーベルト

 7年目 17.4ミリシーベルト
 8年目 16.6ミリシーベルト
 9年目 16.2ミリシーベルト

10年目 15.9ミリシーベルト
累積被ばく量
20.0ミリシーベルト
39.5ミリシーベルト
58.6ミリシーベルト
77.3ミリシーベルト
95.5ミリシーベルト
113.4ミリシーベルト:小学校卒業

130.8ミリシーベルト
147.8ミリシーベルト
164.4ミリシーベルト:中学校卒業 

180.6ミリシーベルト

 原子力安全委員会が平成19年に改訂した原子力防災指針『原子力施設等の防災対策について』は、セシウムが原子炉からは出てこないという大前提で書かれております。希ガスとヨウ素だけが念頭におかれています。今は応用問題を解くことが必要です。子供と住民の避難計画を一刻も早く立案し実行して下さい。

以上


2011年4月21日

児童・生徒の被ばく限度についての申入書(1)

文部科学省学校健康教育科 電話 03‐6734‐2695
                  FAX03‐6734‐3794
原子力安全委員会事務局 電話 03‐3581‐9948
                  FAX03‐3581‐9837

山内知也 神戸大学大学院海事科学研究科 教授

 大学で放射線を教授している者として申し入れます。

 福島第一原発事故への対応に関して、福島県内の児童と生徒の被ばく限度を年間20ミリシーベルトにされておりますが、子供が浴びる線量としては不当に高いものです。撤回して年1 ミリシーベルトの基準を児童と生徒には適用してください。既に半減期が30年であるセシウム-137が全体の被ばく線量を支配する段階にはいっており、これからは被ばく線量は数年の単位ではほとんど低下しなくなります。
 したがって年20 ミリシーベルト相当の被ばくが何年も継続することになります。

 ICRPが過去にまとめた報告類でも(ICRP-publiction36)、生徒の被ばくを禁じており、18歳未満の生徒については放射線を使った実験を意図的に行う場合でも年間の被ばく限度を公衆の被ばく限度の10分の1にするように勧告しています。それは子供の放射線感受性が大人よりも高く、被ばくの影響が出る期間も長いからです。

 ICRPが3月21日に公表した見解(ICRP ref: 487-5603-4313)でも放射線源が制御下におかれた時には汚染された地域が残るだろう。その地域を捨てるのではなくて、そこに住み続けることを人々に許可するために必要となるあらゆる防護手段を提供することが場合によっては出てくるだろう。この場合について委員会は、参考レベルとして、長期的な目標としての参考レベルは一年あたり1 mSvに低減させるとしながらも、年間1 mSvから20 mSvの範囲の中から選択することを勧告する(ICRP 2009b 48から50節)。
 When the radiation source is under control contaminated areas may remain. Authorities will often implement all necessary protective measures to allow people to continue to live there rather than abandoning these areas. In this case the Commission continues to recommend choosing reference levels in the band of 1 to 20 mSv per year, with the long-term goal of reducing reference levels to 1 mSv per year (ICRP 2009b, paragraphs 48-50).
とあります。

 子供の被ばく限度を20ミリシーベルトでよいとはしていません。ここではあくまで1 ミリシーベルトを目標としています。1から20までの範囲であれば、子供に対しては1 ミリシーベルトを選択すべきです。早急に見直して下さい。

 このままで疫学調査に出てくるような実際の被害が福島の子どもたちの間に生じます。

以上