防空識別圏進入は台湾への脅威? 10月1日から4日に約150機の中国軍機が「台湾の防空識別圏に進入」したと新聞各紙やメディアは大きく報じました。過去最大、台湾への脅し、はては台湾への武力侵攻が近いかのように論じたのです。台湾当局も「無駄な挑発行為はやめよ」と述べ、国防相は「中国は25年には中国は完全な台湾進攻能力を得る。軍備増強が必要だ」と騒ぎ立てました。米国政府のサキ報道官も「中国は台湾に脅威を与えることをやめよ」とコメントしました。しかし、これは米や台湾政府、メディアが一緒になって作り上げた完全な虚像、おどろおどろしい嘘物語です。 まず、第1に「台湾の防空識別圏」が問題です。これは台湾当局が一方的に設定したもので、図のようにその中には中国本土の2つの省が含まれます。しかも中国側は台湾に対しては防空識別圏を設定していません。中国本土の台湾に近い地域では上空(中国領空)を飛行しても識別圏侵入扱いにできるのです。さらに中国側が海上を飛行すればそのまま防空識別圏侵入とみなされます。今回発表された飛行経路は台湾とフィリピンの間のバシー海峡に向かう公海の中央付近を往復する進路のものにすぎません。確かに軍事行動ではありますが、台湾進攻を狙って威圧しているとは到底言えません。 第2に、何よりも重要なことは中国側が台湾を意識して軍用機を飛ばしているのではないこと、本当の牽制相手についてメディアがわざと書かないことです。中国軍機の対象は台湾ではなく、台湾の南方、バシー海峡の東方で活動する6か国の空母、合同艦隊の大演習に向けられていたのです。大演習と中国軍機の行動を関連付けて報じたのは日経新聞だけでした(10日になってようやくサンケイも認めました)。だから報道としては一方的な、とてもひどい内容でした。原因と結果を切り離し、原因を隠して、中国側の脅威だけをあおる典型的なデマ手法を日本のメディアのほとんどが行ったのです。あきれるほかありません。
執拗な軍事演習と中国への軍事的威嚇 中国軍機が牽制の対象とした大演習は10月2~3日に、沖縄南方からフィリピン海にかけて行われました。米、英、日、オランダ、カナダ、ニュージーランドの6か国海軍が参加し、米空母ロナルド・レーガン、カール・ビンソン、英空母クイーン・エリザベス、日本のヘリ空母いせ等空母4隻と17隻の軍艦が参加した、対中国では最大級のかつてない大規模な軍事演習でした。演習は沖縄南方海上から始まって、台湾東方、フィリピン海へと移動しながら行われました。日本からはヘリ空母いせとイージス艦など2隻が参加しました。4日に米空母ビンソンと英空母エリザベスはそのままバシー海峡を通って南シナ海に入りました。英空母エリザベスと自衛艦しらぬい他6か国10隻の軍艦はそのまま共同演習を続けながら9日まで演習を続けました。南シナ海でも中国を向いて威嚇し続けたわけです。米空母ビンソンは別行動でやはり対中威嚇を続けました。 この一連の軍事演習と執拗な対中軍事威嚇こそ、米国が対中国に矛先を向けて、欧州からも帝国主義軍事力を総結集して対決姿勢を鮮明にし、自分が指揮者であることを示そうとしたものです。そんな姿はどの新聞、メディアも描き出しませんでした。 軍事活動、挑発活動はこの期間にとどまるものではありませんでした。空母レーガンは9月24日にインド洋から南シナ海に入って活動し27日にフィリピン海にでました。同日英海軍の駆逐艦リッチモンドは「台湾海峡通過」を行っています。また米駆逐艦バリーも「台湾海峡通過」を行って挑発し、米駆逐艦ベンフォードは南シナ海ミスチーフ付近で領海侵犯である「航行の自由作戦」を行いました。9月中には延べ62機の米偵察機が南シナ海を飛行しています。 空母ビンソンも9月5日から15日にわたって南シナ海で軍事行動をおこなってからフィリピン海に移動しました。9月18日から10月1日までビンソンの艦隊は日本の4隻の自衛艦と沖縄南方で共同演習を繰り返しています。一方、英空母クイーン・エリザベス艦隊は8月25日から9月9日まで日英米蘭共同訓練PACIFIC CROWNで沖縄南方から東シナ海、四国沖、関東沖の太平洋で断続的に海上自衛隊、航空自衛隊との共同演習を行いました。その後、クイーン・エリザベス艦隊は横須賀からグアムを経由して10月初めに沖縄南西海域で、ビンソン、レーガンなど6か国の艦隊に合流しました。要するにそこらじゅうで対中挑発活動を続けていたのです。中国側が警戒するのも当たり前です。 中国軍機数が最大になった10月4日は、ビンソンとクイーン・エリザベス両艦隊がバシー海峡を突き切って南シナ海に侵入した時であり、中国軍機の行動は米英艦隊に対する牽制と対抗であったのです。台湾に対する威嚇とは何の関係もありません。10月2日に衝突事故を起こした原潜コネティカットはビンソンに先行して南シナ海に入り偵察・警戒活動をしていたのです。これらの軍事行動をまったく取り上げず、中国軍機の行動だけをあげつらい脅威をあおる新聞やメディアのやり方は悪意に満ちているとしか言いようがありません。 2021年10月10日 |
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